男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
549: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 19:39:47 ID:TxKS0SpfWQ
女「この子の名前、もう決めてあるの。愛と書いて、めぐみ。沢山の愛に囲まれて、この子は生きていくのよ」
素敵でしょう。そう言って笑う姉は、昔も今も変わらず“夢見る乙女”の顔をしていた。
弟「……いい名前だとは思うけど、男が産まれたらどうすんの」
女「その心配は無用よ、弟くん!この子は女の子って、ほぼ確定してるんだから。知ってる?最近のエコー写真って凄いのよ」
胸を反らした姉が、ちっちっ、と偉そうに指を振った。
550: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 19:50:57 ID:TxKS0SpfWQ
男「女の子は男の子と違って判断が難しいって言ってるのに、女ちゃん全然聞いてくれないんだよ」
苦笑しながら、荷物を持った男が部屋に入る。その手に持たれた荷物に、弟の視線は釘付けになった。布を被せられた、四角いもの。厚みからすると、昔から絵を描く事を趣味としている、姉が描いた絵なのだろうか。
何故だか胸がざわざわと騒ぎだす。廊下から助けを呼ぶ友の声が聞こえるのも構わず、弟の心はその布の向こう側への興味で一杯だった。
551: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 20:10:29 ID:p0f38hIIa.
ふと、何処からか流れるメロディが室内に居る弟達の耳を突いた。随分と聞き慣れたメロディは、弟の胸を強く鷲掴む。どうしてだか、今日は泣きたくなる程に切なく感じた。
男「大変だ、急がないと夜になる!弟くん、手伝って貰っている身で悪いけど荷物だけでも急いで中に入れよう」
バタバタと慌ただしく、男の足音が遠ざかってゆく。弟は生返事をして、壁に立て掛けられた四角いものを凝視した。
552: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 20:30:15 ID:TxKS0SpfWQ
女「これが気になるの?」
弟の様子に気が付いた姉が、重たそうにお腹を抱えながら横に立った。返事のない弟に首を傾げながら、結び目を解いて布に手を掛ける。
女「入院中に描いたものなんだけど、実はよく覚えてないし不思議なのよね。描いてた事自体は覚えてるのに、誰がモデルなのかも分からないし…」
するする、と布が擦れる音と共に、キャンバスに描かれた絵が露になった。
其処へ描かれた人物を目にして、弟の心臓は激しく脈打ち、戦慄した。
553: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 20:52:06 ID:p0f38hIIa.
キャンバスに描かれていたのは、一人の少女だった。青みがかった紫色の花畑の中、ワンピースを着たロングヘアーの少女の姿。
さらさらと流れるような黒髪と黒目がちな瞳は、まるで其処に居るかのように輝きを放ち、弟に語り掛けているようだった。
女「男くんも知らないって言うの。誰かにあげる気にもなれなくてさ……弟くん、何か知らない?」
弟は暫く絵の中の少女を見つめ、小さく首を横に振った。
弟「……知らない。入院中は姉ちゃん、こそこそ描いてたしね」
554: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 21:12:16 ID:TxKS0SpfWQ
女「だ、だって、弟くん怒るんだもん。毎日叱られてたら、こそこそしたくもなるっていうか…」
ゴニョゴニョと姉がぼやく声を聞き流しながら、弟はキャンバスから視線を外す事が出来ないでいた。
見覚えのない少女の筈なのに、何処かで会った事があるような気がする。胸を締め付けられるような、痛みにも似た感覚。
何処かで感じた事がある。何かを忘れている。
──この少女は一体、誰なのだろう。
555: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 21:38:12 ID:p0f38hIIa.
ふと、少女の足元に広がる青紫色の花に目を奪われた。美しい青みがかった紫が、少女を包み込むようにキャンバスに敷き詰められている。
弟「姉ちゃん、この花は何?」
女「ああ、この花なら分かるわよ。とても切ない花なの」
姉が得意げに腕組みをして、ふふん、と鼻を鳴らしてみせた。
女「この花はね、勿忘草って言うのよ。花言葉が三つあるの」
へえ、と頷きながら、吸い寄せられるようにキャンバスに手を伸ばす。その瞬間、弟の頬を暖かい風が優しく掠めた。
ふわり、ふわり、と風に乗せられ、何処からか声が聞こえた気がする。
556: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 21:41:38 ID:p0f38hIIa.
「この花の花言葉はね、」
──私に関わらない方がいい。
「“真実の友情”、」
──ともだち…?
「“誠の愛”、」
──私も君が好きだ。
「それから……」
557: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 21:42:33 ID:TxKS0SpfWQ
──どうか君だけは、
君だけは私を──‥
「“私を忘れないで”」
‐番外編 fin.‐
558: ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 21:49:39 ID:TxKS0SpfWQ
>>538
最後の支援ありがとうございます!505さーん(´;ω;`)
安価の後も支援を下さり、本当にありがとうございました。505さんや皆さんが導いて下さらなければ、また違った終わり方になっていたのかもしれません。
本当に本当に、感謝です…!
>>539
最後の支援ありがとうございます!ご名答でございます。終わりました。終わってしまいました。
登場人物全員でも十分嬉しいというのに、私の幸せまで(´;ω;`)
ありがとうございます!私は今、とても幸せです!
>>540
最後の支援ありがとうございます!
ちょw泣いちゃうwwやめww
540さんのように好きだと言って頂ける物語になった事を、本当に嬉しく思います。長かったけれど、書いてよかったと心の底から思えます。本当に、本っっっ当にありがとうございました!
559: ◆b.qRGRPvDc:2012/1/13(金) 22:18:45 ID:TxKS0SpfWQ
はい、終わりです。
三ヶ月間、ずっとこのSSの事ばかりを考えていました。皆さんが他のスレで話題にして下さって、一人で飛び跳ねる程喜んでいました。絵スレでめぐ達を描いて頂いて、直ぐ様保存しては携帯画面を見てニヤニヤしていました。(現在進行形)ランキングに入る事が出来て、ぶっちゃけちょっと泣きました。
本当に思い出が沢山詰まったスレになりました。過去話や番外編まで書かせて頂き、もう何も思い残す事はありません。
沢山支援レスも頂きました。皆さんからのレスがなければ、過去話や番外編を書く事はなかったと思います。皆さんからのご支援でこの物語は出来たのだと、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
思い残す事はないと言いつつ寂しいのが本音ですが、これで終わりにしたいと思います。読んで下さった皆さん、支援して下さった皆さん、投票して下さった皆さん、絵を描いて下さった皆さん、話題に出して下さった皆さん、全てに最大級のありがとうを!
ひーん(´;ω;`)
560: 名無しさん@読者の声:2012/1/13(金) 22:23:29 ID:soDP2i/fRs
ブラヴォーーー!!!!!
涙で画面が見えないぜ(´;ω;`)
1さんもめぐもノエルも元祖男も弟も姉ちゃんも男も母も友も皆大好き愛してる!!
私からも最大級のありがとうを!!!!
561: 名無しさん@読者の声:2012/1/13(金) 22:29:32 ID:xhhM9QiWvs
完結祝いに絵スレにぅpしたのでよかったら見て下さい(`;д;´)
562: 505:2012/1/13(金) 23:05:58 ID:2sJHKm0DGg
(;Д;)>>1乙!!泣かせてくれるじゃないか…これは俺からの最後の皆へのプレゼントだ!!>>1も含め受け取ってくれ!!
っ感謝
っこの上ない幸せ
563: 名無しさん@読者の声:2012/1/14(土) 08:32:36 ID:R/pXqWMDcs
乙でした!
感動がヤバい。。
大好きでした(;∇;)/~~
564: ◆b.qRGRPvDc:2012/1/14(土) 18:03:44 ID:mTdLBohn9A
>>560
わーん、ありがとうございます嬉しいです(´;ω;`)
全員に愛を下さってありがとうございます!こうして見ると、意外と人数居たんですね。私も560さん大好き愛してます。
最大級のありがとうを560さんに!
>>561
見ました保存しました可愛い可愛いぺろぺろちゅっちゅっ
絵スレの方で改めてお礼を言わせて頂きますね。此処までお付き合い下さって本当にありがとうございました!
>>562
505さん…(´;ω;`)
505さんからの書き込みはとても励みになりました。勿論、支援レスを下さった皆さんの書き込みも嬉しかったのですが。本当に最後まで見守って下さってありがとうございました。
最後のプレゼント、確と受け取らせて頂きました。私からも505さんにプレゼントです…!
っ最大級の感謝
っ木綿のハンカチーフ
>>563
ありがとうございました!ありがとうございました!(´;ω;`)
感動して頂けてよかった…!大好きと思って頂けてよかった…!
幸せです。あれ、電車の中なのに目から変な汁出てくる(笑)
保管庫依頼はちゃんとしますので、もう少しお待ち下さい。
565: ◆b.qRGRPvDc:2012/1/14(土) 20:28:16 ID:LDvZZ1bmmI
*本編まとめ
>>4-8 >>13-18 >>20-25 >>27-30
>>34-46 >>52-58 >>62-67 >>72-76
>>80-81 >>84-90 >>94-100
>>106-111 >>118 >>120
>>122-125 >>129-137 >>142-147
>>152-159 >>163-165 >>167-173
>>179-184 >>191-195 >>199-203
>>208-211 >>215-218 >>220-226
>>230-233 >>238-250
*昔語り(※鬱展開です)
>>261-263 >>268-277
*番外編まとめ
>>287-297 >>303-305 >>308-316
>>323-334 >>341-344 >>350-355
>>360-366 >>372-378 >>384-387
>>390-403 >>407-414 >>419-423
>>427-430 >>435-443 >>447-456
>>461-472 >>476-484 >>489-493
>>497-502 >>510-517 >>522-528
>>532-536 >>541-557
566: ◆b.qRGRPvDc:2012/1/14(土) 20:32:04 ID:LDvZZ1bmmI
皆さんに描いて頂いた当SSのキャラクター達です(*´・ω・`*)
*めぐ
http://g2.upup.be/JO8C6EgzQx
*ノエル
http://g2.upup.be/MPGI8XS6ZZ
*コラボ
http://g2.upup.be/1I0Qqfw3DF
ありがとうございました!
567: 名無しさん@読者の声:2012/1/15(日) 07:54:06 ID:shbbaigoeE
乙!!素敵な物語をありがとう
また>>1さんのssが読める日を楽しみにしてるよ!!
568: ◆b.qRGRPvDc:2012/1/15(日) 18:08:31 ID:EvSMlPAsZI
>>567
長々とお付き合い下さってありがとうございました(*´・ω・`*)
また書く機会がありましたら567さんに読んで頂ける事を願って、一先ずさようならです。
本当に本当に感謝です!
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