男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
84: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/30(日) 21:28:50 ID:GF3XScfD5.
男「おわっ!?」
少女「…っ…ちょっと!」
青年の声に弾かれるようにして、めぐは地面を蹴った。青年の腕を掴み、まるで逃げるように駆け出す。
状況が掴めないまま、もたつく足で青年も走った。
少女「もう時間がないんだよ?本当は自分でも気付いているんでしょう!?」
走り去る二人に向けて少女は叫んだ。段々と小さくなっていく二人の後ろ姿を見ながら小さく舌打ちをする。
少女「…馬鹿だね、本当に」
少女は降り続ける雨に掌をかざして灰色の空を仰いだ。
少女「君達が見ている世界はこんなにも寂しいのに…」
85: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/30(日) 21:45:11 ID:GF3XScfD5.
――‐‥
男「…っちょ、めぐっ!どうしたんだよ…!!」
青年はめぐに引かれるままに走っていた。めぐの足は青年のマンションへと真っ直ぐに向かい、階段を上りはじめる。
五階建てと言えど階段を駆け上がるのは存外辛いもので、青年はすぐにヒィヒィと息を切らせた。
男「め、めぐちゃ…お兄ちゃん疲れちゃっ……うぉお!?」
玄関のドアを開けてすぐに青年の視界は反転した。
めぐの体重で胸が圧迫されている。首の後ろに手を回して、ギュッと青年にしがみ付いた。
男(どうしよう…息苦しすぎてオェッて言っちゃいそうだなんて言えないんだぜ…)
86: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/30(日) 21:59:28 ID:m.R0NSndc6
男「おーい、何とか言ってくれよぉー…」
どのくらいこうしているのだろうか。依然として二人は同じ体制のままでいた。青年の呼吸はもう十分整っている。
何も言わずにただしがみ付くだけのめぐに、青年は逐一質問を投げ掛けた。
あの少女は誰か、あの少女とめぐの関係は何か、何故あの少女はめぐの名前を知っていたのか、少女の言葉の意味は、何故逃げたのか、何を隠しているのか―。
そのどれもにめぐは答える事はなく、固く口を結んで青年の首元に顔を埋めていた。
困り果てた青年はただめぐの頭をポンポンと叩きながら彼女の反応を待つのみだった。
87: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/31(月) 20:52:20 ID:KtFJ47OitU
男「―‥という訳で俺の初恋は終了したわけだ。甘酸っぱいよなー…って、あれ?」
独り言のように思い出話をしていた青年は、めぐの息遣いの変化に気付いた。
先程までとは違って随分と深く呼吸をしている。首元に回された腕の力も弱まっているように思えた。
男「………寝てやがる!聞いてよ俺の初恋話!」
凡そ一定のリズムを保ってめぐの肩が上下する。
青年が体を起こすと、めぐはずるずると滑り落ちた。
88: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/31(月) 21:05:19 ID:7TQFjl8JpQ
男「大した事してないのに汗掻いた…」
めぐに布団を掛けて青年は呟いた。額にはじんわりと汗が滲んでいる。
いくら雨具とはいえ、寝ている間に着ているものを脱がせるという行為は青年にとっては苦悶する事だった。
後ろめたい気持ちを振り払うように、青年は自分の頭にシャワーを浴びせた。
89: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/31(月) 21:27:33 ID:7TQFjl8JpQ
男「ふぃー、気持ち良かった」
暖まった青年の頬は赤みを帯びている。満足気に顔を綻ばせながらその頬を両手で二度叩いた。
ベットに目をやると昨夜のように寝息を立てているめぐの姿があった。その寝顔を見つめる青年の目は慈愛に満ちているようだった。
青年の手がめぐの髪にそっと触れた時、めぐの唇が微かに動いた。
めぐ「……ぃ……で…」
男「ん…?」
90: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/31(月) 22:01:08 ID:KtFJ47OitU
めぐ「ごめ…なさ……居なくならないで…」
男「めぐ…?」
めぐの頬には涙が伝い、擦れた声で何度も同じ言葉を繰り返している。
青年の指先がめぐの涙に触れる。
親指を滑らせて涙を拭ってやると、めぐはまた寝息を立て始めた。
241.54 KBytes
[4]最25 [5]最50 [6]最75
[*]前20 [0]戻る [#]次20
【うpろだ】
【スレ機能】【顔文字】