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出会う感情の名は、
[8] -25 -50 

1: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


2: 名無しさん@読者の声:2011/10/16(日) 19:21:06 ID:ipJaufw0BE
2げと
3:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:21:12 ID:f4A63ChN1o
初SSです。

スローペースな更新になるかもしれませんが、最後まで頑張るので見守ってやって下さると嬉しいです。
4: 名無しさん@読者の声:2011/10/16(日) 19:22:27 ID:YjnNasUwp2
>>2
おめでとうございます!


男「伯母さーん、居ないの?おーい」

男「…応答なし、か」

人気のない路地に無機質なインターホンの音だけが響く。五度程繰り返されて、その音は止んだ。

男「帰ろう…多分帰ろうとしてたんだろうし」

男「ボケるにはまだ早すぎるだろうに、自分が何をしようとしてたか全く思い出せん。どうしたものか……ん?」

暫く歩いて男の足は止まった。

男(――人…?)
5:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:24:39 ID:f4A63ChN1o
少し先に人影が見えた。

ボサボサな黒い髪に白いシャツ、黒いズボン。電柱に寄りかかり、うなだれるような姿勢で座り込んでいる。

一見男性の様な装いのその人物は、近づくにつれて小さく子供のように見えた。

男(こ、これはまさか…!)

男(ショタっ子というやつか!!)

新境地へ足を踏み入れようとする青年の足取りは軽いものだった。
その軽快なステップはすぐ先に居る人物の耳へと容易く届いた。

?「…?」

男「あ、れ?…おにゃのこ?」

?「!!」
6:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:25:56 ID:YjnNasUwp2
少年だと思っていたその人物は、男の子と呼ぶには愛らしく、何処か丸みをおびていた。

少女は顔を上げて青年の顔を見るなり目を見開いて驚愕した。目元まで伸びた前髪がはらりと乱れ、大きな黒目がちの瞳がゆらゆらと揺れる。

少女「なん、で…」

男「へ?」

やがてその表情はくしゃりと歪み、悲しみに濡れた。

男「あ、あのー…?」

少女「……」

男「どうかしました?俺の顔に何かついてます?」

少女「…っ……いや、何でもない、…ですよ」

男(もしかしてフラグが立ったか?しかもよく見たら可愛えええええ!)

男(危うく秘密の花園…いや、秘密の菊門に足を踏み入れかけたなんて口が裂けても言えん!)
7:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:30:26 ID:YjnNasUwp2
青年は自分の邪念を振り払うように首を左右に振ると、コホンと咳払いをしてみせた。

男「こんなところで何をしてるんですか?何かあったんですか?」

腰を屈めて少女の顔を覗き込みながら首を傾げた。それが、青年の精一杯の紳士たる態度であった。

少女「……人を、」

男「ん?」

少女「…人を待ってる、ですよ」

言い終えると少女は青年から視線を外した。

男「人って、友達か何かかな。だったら携帯で連絡取ってみたらどうですか?」

男「ほら、雨降ってるし、あなたびしょ濡れですよ?」

少女「……」

男「風邪、引きますよ」

少女「……」

男「えっと…」

少女「……」

男「あの〜…聞いてます…?」

少女「……」

男(会話が続かん…!ヘルプ!誰かヘルプ!)

二人の間に沈黙が流れる。人気のない路地には雨の音だけ。
8:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:42:23 ID:f4A63ChN1o
青年はその場を立ち去ろうとしたが、足が動かなかった。少女が気に掛かって仕方なかったのだ。

初めて会ったばかりのこの少女が何となく気になった。単なる好奇心からか、少女を哀れんでなのかは分からないが、放っては行けなかった。

雨に濡れたシャツが肌色を映していても不思議と昂ぶるものは感じていない。青年にそういう趣味がない、というのではなく、ただ傍に居てやりたいような気分だった。

青年には“これ”が何なのか、全く検討もつかなかった。
9: ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:43:56 ID:f4A63ChN1o
今日の更新は此処までとさせて頂きます。

初SS、頑張るぞー!
10: 名無しさん@読者の声:2011/10/16(日) 19:56:43 ID:.yw9LayCwY
頑張れ!
紫煙
11:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/17(月) 14:17:37 ID:TSKjRXSWvs
>>10
支援ありがとうございます!
嬉しいです(´;ω;`)
12: 名無しさん@読者の声:2011/10/17(月) 16:50:58 ID:rPlSdEWnTI
支援だ!
支援だ支援だ!
13:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/17(月) 17:51:47 ID:/e/5EDbjfE
>>12
うわあああありがとうございます(´;ω;`)


男「あー、その人、いつ来るんですか?待ち合わせ?」

少女「……」

男「お友達とか?」

少女「違う!…ます」

少女は顔を上げたが、またすぐに下を向いた。膝を抱えて俯く少女の頬は僅かに紅潮しているように見えた。

少女「大切…大切な…人」

男「大切な人?」

少女「うん。」

慌てて「はい」と言い直す少女を見て、青年は思わず口元が緩んだ。喉をクックッと鳴らしながら少女に言った。

男「苦手なら使わなくていいですよ、敬語」

ありがとう、と小さな声で言った少女の頬は紅潮していた。青年は満足気に「いいえ」と返して少女の頭をくしゃりと撫でた。
14:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/17(月) 18:01:58 ID:/e/5EDbjfE
五階建てのワンルームマンションの一室に二人は居た。エレベーターも付いておらず外観こそ所々にひび割れが生じて古いものの、部屋の内装は綺麗なものだ。

六畳程のそう広くはない部屋に家具というものは殆どない。テレビの代わりにデスクトップのパソコンが一台と小さなテーブル、ぽつんと寂しくベッドが置かれていた。

少女「ただいま」

男「それを言うなら“おじゃまします”でしょうに。クレ●ンし●ちゃんもビックリだよ」

少女「クレ…何?」

男「おい、おい、マジかよ、おい!」
15:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/17(月) 18:04:08 ID:2I5OaXgH26
男「とりあえず、ちょっと待ってて下さいね」

青年は小走りに部屋の奥に入って行くと、再び少女の元に戻った。その手には青年の物と思われる部屋着が握られている。

男「そのままじゃ風邪引きますから。俺のだから大きいかもしれないけど着替えです。あっちが風呂場なんで寒かったらシャワー浴びて下さい」

少女「ありがと」

少女がドアの向こうに消えて青年はふと我に帰った。

男「……ちょっと待て。これ何てエロゲ?セクロスフラグびんびんじゃねぇか!」

そうは思えどやはり昂ぶるものはなく、折角の機会をと小さな自分自身に小さく舌打ちをした。

男(さて、連れて来たはいいものの…名前も分からないしなぁ…)
16:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/17(月) 18:11:17 ID:2I5OaXgH26
誰を待っているかという質問にも、貴方は誰かという質問にも少女は答えなかった。このご時世に携帯電話も持っておらず、待ち人の連絡先も知らないのだと少女は言った。

いつから待っていたのかという質問にも、首を傾げるだけ。ただ、一つの質問にははっきりと答えた。


男『その人、貴方が待ってる事は知ってるんですか?』

少女『……』

男『はぁ…本当に来るんですか、その人は』

少女『来るよ!今はまだ気付いていないかもしれないけれど、必ず来る』

男『気付いていない…?』

少女『……』
17:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/17(月) 18:14:38 ID:/e/5EDbjfE
このままでは埒が空かないと、青年は雨が止むまで家に来ないかと提案した。
幸い青年の住むマンションは二人の居る場所の目と鼻の先。ベランダからは丁度この場所を見る事が出来た。

少女は迷う素振りを見せたが、苛立ちを覚えた青年は少女の手を取り歩き出した。
18:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/17(月) 18:18:59 ID:/e/5EDbjfE
男『いつ来るかも分からない奴の為に風邪引くんですか、あんたは!』

男『俺は男と言います。これでもう知らない奴じゃないでしょう?』

男『大体こんな所で女の子1人でずっと待たせるなんてその人は何やってんだか!』

男『連絡先も教えずに待たせるなんて!』

信じられない、などとぶつぶつと言いながら歩く青年に手を引かれながら、呆気にとられていた少女も目を細めて笑った。

少女『……おせっかい』

少女の擦れた声は、青年の耳には届いていなかった。
19:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/17(月) 18:20:30 ID:2I5OaXgH26
短いですが一先ず此処までの更新とさせて頂きます。

支援して下さった方、本当に感謝感謝です(´;ω;`)
20:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/18(火) 01:17:56 ID:2I5OaXgH26
男「遅い!」

胡坐をかいている青年の眉間には深々と皺が刻まれている。シャワーを浴びればいいと提案したものの、一向に少女が風呂場から出て来ないのだ。

よく女性は風呂が長いとは聞くが、これ程までとは予想だにしていなかった。

男「あの〜…」

ドアの向こうに居るであろう少女に声を掛けてみる。返事はない。

男「な、何かありました?」

やはり返事はない。耳を澄ましてみても、シャワーの音どころか物音一つ聞こえない。
21:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/18(火) 01:29:06 ID:/e/5EDbjfE
男「まさか、風呂場で倒れてたり……だだだだ大丈夫です、くぁっ!?」

勢いよく開けた先、脱衣場に少女の姿はあった。青年が渡した部屋着の袖部分に頭を突っ込んで藻掻いている。

青年は慌てて少女に背を向け、脱衣場を後にした。

男「ごめんあさいでしたあくぁwせdrftgyふじこlp」

少女「男、男、」

男「は!?はひひいいぃい!」

少女「タスケテ」

男「フヒ?」

少女「頭、出せない」

男「……」

青年は無言で振り返った。袖に頭を通そうと藻掻く少女の姿は何とも滑稽で、色気というものは皆無だった。
22:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/18(火) 01:39:01 ID:2I5OaXgH26
青年は本来出すべき場所に少女のそれをあてがってやった。すぐにスポン!と少女の顔は現れた。

少女「ぷふぅ〜…。あ、そうだ。苦手なら、」

男「はい?」

少女「苦手なら使わなくていいですよ、敬語」

サイズの合わない服を着ているからか、悪たれた笑顔で青年の真似をして見せた少女はとても幼く見える。

やっと見れた少女の笑顔の愛らしさと羞恥心が相まって、青年の頬は紅く染まった。

男「…ありがとう」

頭を掻きながら俯く青年に向かって「いいえ」と満足気に返した。
23:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/18(火) 18:15:58 ID:TUIybGqP9g
男「ブッフォ…!!ちょ、何やってんの!やめ…や、止めなさい!」

青年の顔に水しぶきが飛んでくる。少女は青年の制止も聞かず、頭を左右に振り回している。
最後に体を小刻みに震わせると、自分の手の甲をペロペロと舐めてみせた。

男(まるで猫だな…“めぐ”みたいだ)


青年は“めぐ”を思い出していた。

めぐと青年もまた、あの路地で出会った。雨の中、静かに佇んで青年を見つめていた黒猫、それが“めぐ”だった。

首輪もされていない黒猫は野良猫と呼ぶには汚れておらず、何処か凛としているように見えた。

ただ真っ直ぐに、青年を見つめていた。

男『迷子か?早くお家に帰らないと風邪引くぞ』

青年がその場を去っても黒猫は其処に居た。ベランダから路地を覗いてみても、まるで此方を見ているようだった。
24:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/18(火) 18:25:20 ID:TUIybGqP9g
男『……マジか。まだ居るぞあいつ』

明朝、ベランダから路地を覗いた青年は、思わずそう呟いた。

雨の中、相も変わらず黒猫は其処に居た。微動だにせず、じっと青年を見つめていた。

男『ずっと居たのか…?なんか、こっち見てるような…』

まさか、と首を左右に振る。自分はあの猫を知らない。ましてや、猫を飼った事もない。

男『……』

暫くベランダ越しに黒猫を見ていた青年だったが、一つ息を吐くと上着を手に、マンションを後にした。
25:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/18(火) 18:34:49 ID:YT6kaGM87g
男『おーい。お前、迷子か?』

青年は黒猫の前に屈んだ。
自分の傘に黒猫を入れてやると、そっと撫でてみせた。
黒猫はゴロゴロと音を鳴らして気持ち良さそうに目を細めている。

男『誰か待ってんのか?』

黒猫は何も言わず、じっと青年を見つめている。

男『……お前、家に来るか。この電柱に貼り紙しといてやるから、飼い主さんもきっと現れるよ』

青年の声に応えるように、黒猫は一言だけ鳴いた。

男『我ながらアレだな。
知ってるか?こういうの、“おせっかい”って言うんだ』
26: 名無しさん@読者の声:2011/10/18(火) 18:43:39 ID:0xGhRsTZCU
鳥肌たったCCCC
27:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/19(水) 19:33:03 ID:2cyvJuLH8k
>>26
こんな稚拙な文章で鳥肌なんて嬉しくて涙がちょちょ切れです。
支援ありがとうございます!



それから幾日も時が過ぎた。
青年は黒猫を“めぐ”と名付け、その首には鈴の着いた赤い首輪をつけてやった。

青年には両親が居ない。幼い頃に両親は離婚。母親と暮らしていたが、病気で呆気なく逝ってしまった。
近所に住む伯母が度々面倒を見に来てくれているが、伯母にも家庭があるので甘えるのも気が引ける。

他人に気を遣い甘える事知らない。気が付けば青年は孤独であった。
テレビもないこの家で、パソコンに向かっている時だけは誰にも気も遣わず時間が経つのも忘れられた。
28:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/19(水) 19:35:43 ID:2cyvJuLH8k
そんな青年もめぐが現れた事で随分と変わった。毎日自分を出迎えてくれる鈴の音。話し掛ける相手がいるだけでこんなにも自分が明るくなれる事に青年自身も驚いていた。

月日はあっという間に流れ、電柱に貼られた迷い猫の貼り紙も随分と色褪せていた。
29:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/19(水) 19:56:49 ID:2cyvJuLH8k

――‐‥

??『君って馬鹿なの?ルール違反でしょ、それ』

?『でも、あの人がボクを見付けたんだ。傍に居るだけで何も話してないし…』

誰かの話し声がする。
女の子の高い声。

??『そんなの言い訳にならないよ。消えたいの?』

?『……』

夢でも見ているのだろうか。
それにしてはやけに鮮明な夢だ。

??『失くしたものを見付けて、送り届けるのが私達の使命じゃないの。呆れるね、まったく』

?『…本当に、送り届けなきゃいけないのかな』

??『は?君さっきから何言ってんの。毒されてるんじゃないの。』

何の話をしているのだろうか。
全く話が読めない。
30:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/19(水) 20:04:24 ID:Q7VdjOx2wM
??『生まれ変わるんだよ、私達は。やり直せるんだ』

?『…そう、だね』

??『私は失くしたものを見付ける。自分の罪も、きっと』

?『……うん』

失くしたもの?罪?
すぐ其処で誰かが話しているのに、目が重くて開かない。

??『傍に居てはいけないよ。このままじゃ君も消える事になる。共倒れだね』

?『消える…傍に居たら、消えちゃうの…?』

??『忠告はしといてあげたよ。…めぐ、か。良い名前を貰ったね』

――めぐ…?

男『め、ぐ…?』
31: 名無しさん@読者の声:2011/10/21(金) 10:37:27 ID:p80KbTGG36
更新まだかな支援
32: 名無しさん@読者の声:2011/10/21(金) 18:20:01 ID:yCl96nADP2
うわあ面白い!
本当にこれからが楽しみな構成…期待ですw
つC
33:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/21(金) 23:28:18 ID:KRJJSQkUy.
>>31
遅くなってしまってすみません…!支援ありがとうございます!
これから少しですが投下したいと思います(`・ω・´)

>>32
あああ嬉しすぎる(´;ω;`)
ラストだけはもう出来上がっているので、それに向けて突っ走るのみです。

本当にありがとうございます!期待に応えられるように頑張ります!


男「支援だってさ!」

少女「しえん…?」

男「えーと…つまり、頑張ってねーって」

少女「…?頑張ってね〜」

男「俺達が言うんじゃなくて…まぁいいや…」
34:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/21(金) 23:31:24 ID:PfVrPL84Ws
男「――そうだ、あの時、俺…」

少女「?」

少女は手の甲をペロリと舐めて首を傾げた。青年は何かを思い出した素振りで眉間に手を当てて目を閉じている。

男「あ、いや。俺、気付いたらあの路地で立ってたんだ。自分が何をしようとしていたか思い出せなくて」

少女「……」
35:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/21(金) 23:37:53 ID:PfVrPL84Ws
男「寝ている時に誰かの話し声がした気がして、目が覚めて、誰も居なかったんだけど、いや、あれは夢だったんだから当たり前か。

じゃなくて、めぐが…めぐって、俺が飼ってたというか拾って保護してたんだけど…」

少女の瞳がゆらゆらと揺れる。何かを言いたげに揺れる瞳を伏せると、グッと唇を噛み締めた。
36:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/21(金) 23:56:52 ID:PfVrPL84Ws
青年の脳裏に過る光景。
月明かりにほんのりと照らされた黒猫の姿と、鈴の音。

男「…めぐがベランダから飛び降りたんだ。それで、急いで下に降りたんだけどめぐは居なくて、それで」

少女「……」

男「あの路地に、首輪が落ちてた。あの日も今日みたいに雨が降っていて」

少女はギュッと目を閉じ、顔を伏せた。その体は小刻みに震えている。
青年は、はっと目を開けて、
37:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 00:10:36 ID:KRJJSQkUy.
男「……どうしたんだっけ?あれ?」

少女がきょとんとした顔で青年を見た。青年もまた、少女と同じ表情で少女を見ていた。

男「めぐ、何処に行ったんだろう…」

少女「此処に居るよ。めぐは、此処に居る」

ゆらゆらと揺れる少女の瞳からはポロポロと涙が溢れだしていた。
涙で濡れた顔を上げて、真っ直ぐに青年を見つめた。

少女「めぐは、此処に居るよ」
38:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 00:13:37 ID:PfVrPL84Ws
書き溜めが尽きてしまいそうなので今回は此処までとさせて頂きます。

毎度毎度、少ない投下ですみません…orz
39:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 17:16:39 ID:VxWkJSWhZ2
男「……は、」

二人の間に流れた暫くの沈黙。それを破ったのは青年だった。

男「はは、何言ってんの。めぐは猫だぞ、猫!からかわないでくれよー」

青年は脱衣場からバスタオルを取ると、その涙を隠すように少女の頭を覆った。
わしゃわしゃとまだ水の滴る少女の髪を拭いてやりながら笑った。

確かに出会った状況も似ている。
あの路地で雨の中、誰かを待っていた黒猫と少女。青年が連れて帰って、こうしてバスタオルで拭いてやった。めぐは大層嫌がったものである。

少女「う〜!」

男「あ、こら!暴れるな!」

少女「うぅ〜!!」

そうだ、めぐの奴も風呂が嫌いだった。バスタオルで拭く時は決まって腕をすり抜けて逃げていた。

そんな事を青年が思っていた時だった。
40:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/22(土) 17:24:26 ID:VxWkJSWhZ2
少女「う…うにゃーっ!!」

男「あ、おいこら待て!めぐ!…っ!」

重なった状況と思い出に浸っていた所為で、思わず口から出た名前。
青年自身も驚いて、慌てて口元を押さえた。

男「ごめん、つい…猫と同じ扱いをしてしまった」

少女「どうして?ボクはめぐだよ」

少女はそんな青年の素振りを気にも止めず、頭を左右に振り回した。

男「いや、だからね…」

少女「男がそう呼ぶならボクはめぐ。それに、」

男「え?」

少女「あんたと呼ばれるよりはいいと思うんだ」

バツの悪い顔をして「ごめん…」と言う青年に対して、少女は満足気にニンマリと笑った。

少女は“めぐ”になった。
41:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/23(日) 23:44:41 ID:XoCiYgLVhw
青年は頬を紅潮させながらコホンと一つ咳払いをして、

男「では、改めましてめぐさん。とりあえず、髪乾かしておいで。びしょびしょだ」

めぐ「乾かす…?」

男「ドライヤーだよ、ドライヤー」

青年の口から発された単語にめぐは怪訝な目で見つめた。その表情を見て青年もまた、怪訝な目でめぐを見つめる。

青年は一人納得したように頷くとめぐの手を引いて洗面台の前に立たせた。
42:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/23(日) 23:57:46 ID:jDEa9QqT6g
男「今回は特別に俺がやってあげますよ、お客様」

めぐ「おきゃくさま?」

男「そ。お持て成しって事で」

「安いお持て成しだけど」と苦笑いする青年を余所にめぐは存外嬉しそうに笑みを浮かべた。

めぐ「おきゃくさま。おもてなし。おきゃくさ、みゃっ!?」

青年がドライヤーのスイッチを入れると、めぐの表情は一変し毛を逆立てて飛び跳ねた。何か恐ろしいものを見るような目でじりじりと後退して行く。
43:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:03:45 ID:jDEa9QqT6g
男「どうした?」

めぐ「それ、いらない…」

男「ん?それって、これ?」

青年がドライヤーを傾けてめぐに向ける。温風を直に受けて、めぐは叫び声を上げてベッドの上へと飛び乗った。

ふうふうと息を荒げ、肩を上げて凄んでみせたが青年は動じない。
そればかりか、青年の表情はどこか楽しげであった。
44:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:07:05 ID:XoCiYgLVhw
男「フフン…猫の“めぐ”もよくそうやって抗ったものよ」

めぐ「いらないったらいらない!」

男「ええい!黙れお客様!無料サービスでございますーっ!」

めぐ「ぎにゃああぁあああぁぁ!!」

めぐの断末魔のような叫びと青年の笑い声がワンルームに谺する。

それから数分間の格闘の末、青年の前にはぐったりとしためぐの姿があった。
45:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:14:11 ID:jDEa9QqT6g
男「サラサラふわふわの仕上がり。完璧!」

めぐ「うぅ…ボク、おきゃくさま嫌いだ…」

男「そうかそうか」

青年はベッドに突っ伏して頬を膨らませるめぐを横目に、まだほんのりと暖かいその髪を指で梳くように撫でてやった。

暫く唸っていためぐだったが、次第に瞼が重くなっていくのを感じていた。温かくて優しい手の感触を感じながら、やがてめぐの視界は真っ暗になった。
46:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:22:37 ID:jDEa9QqT6g
男「…寝ちゃったよ。しかも見ず知らずの俺のベッドで、勝手に。誰も泊まってけなんて言ってないのに」

溜息を吐いた青年の口元は、その言葉に反して弧を描いていた。

すやすやと寝息を立てて眠るめぐは、あどけない少女の顔をしている。その寝顔を見ながら、そっと布団を掛けてやった。


男「……君は誰なの?何処から来たの?あの場所で、誰を待っていたの?」

男「もしかして、本当に“めぐ”だったりして…?」

一息吐いて、青年はクスリと笑った。音を立てないように静かに立ち上がると、電気のスイッチに手を掛けて「なんて、そんなわけないな」と呟いた。

男「おやすみ、めぐ」

青年の声と同時に、部屋の灯りは消えた。
47:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/24(月) 00:25:25 ID:XoCiYgLVhw
今回の更新は此処までです。
用事があるので明日は更新出来ないかもしれません(´・ω・`)

自己満足すぎて読んでくれている方が居るか分かりませんが…
48: 名無しさん@読者の声:2011/10/24(月) 00:29:44 ID:yKtndiNjVY
読んでますよ!
っCCC
49: 名無しさん@読者の声:2011/10/24(月) 20:29:53 ID:ymANbHLWcQ
ここにも読者がっCCC
50: 名無しさん@読者の声:2011/10/24(月) 20:46:10 ID:F4BvMARXc6
つC
51:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:08:47 ID:nL.3mzOnnk
>>48-50
ふおおぉ…ありがとうございます(´;ω;`)
あれ、嬉しすぎて目から汁が…



男「めぐ、支援だぞ!」

めぐ「しえん…?」

男「見てますよーって」

男(どうせまた復唱だろうな)

めぐ「…ストーカーか?」

男「何処で覚えたのそんな言葉!!」


男「練習したのやるぞ?せーの!」

男&めぐ「ありがとー!」
52:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:11:54 ID:iUqifnsgnc
男「…何だこの状態は」

目を覚ました青年は開口一番に言った。

ベッドを占領している筈のめぐは床で寝ている青年の大きく開かれた両足の間に居た。上半身を青年の下腹部に預け、気持ち良さそうにすやすやと寝息を立てている。

男(くっ…!可愛い寝顔しやがって…ほっぺたに噛みつきたい!!)

めぐ「う、ん…」

男「っ!?!?」

頭をもぞもぞと動かしながら鼻から三回程息を吸い込むと再び寝息を立て始めた。
その口元はニンマリと弧を描き、何かを食べているかのようにモグモグと動いている。

青年はめぐの髪をさらりと指で梳くと、起こさないようになるべくゆっくりと下敷きになっている体をずらした。
53:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:21:11 ID:iUqifnsgnc
男「…相も変わらずの天の御恵みだこと」

カーテンを開けた先の空模様を見て、青年は苦笑した。
灰色の空からは“相も変わらずの天の御恵み”が降り続いていた。

路地に視線を落としてみるが誰の姿も見当たらない。どうやら、待ち人は来ていないらしい。

男「……?あれ?ホッとしてないか、俺」

めぐ「んぅー…おと、こぉ?」

男「あ、ごめん。起こした?」

めぐ「ん、だいじょぶ」

クァ、と一つ欠伸をすると眠い目を擦りながら体を起こした。
54:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:33:12 ID:nL.3mzOnnk
***


男「到着、と」

二人は丘の上にある公園に居た。
散歩と称して外出をしたものの、特に行くあてもなかったのだ。

男(しかし、まあ…元気なこった)

陽気に駆け回るめぐには雨具が着させられている。傘を持たせてもすぐに放り投げ、傘の意味は皆無に等しかった。
55:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:36:02 ID:iUqifnsgnc
めぐ「男、これ何?」

男「ん?ああ、望遠鏡だよ。覗いてみるか?」

丘の上の公園には展望台が設けられている。
まだ幼い頃、母に連れられてこの公園に来た時の青年の反応もめぐと同じものだった。

めぐ「男!家見付けた!男の家見付けたよ!」

幼かった自分がめぐと重なって見える。

男「あんまりはしゃいだら台から落ちるぞー」

――母もこんな気持ちだったのだろうか。

男「めぐ、楽しいか?」

めぐ「うん!!」

幼い少年と母親の影が二人と重なってぼんやりと消えていった。
56:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:44:28 ID:iUqifnsgnc
男「めぐ、危ないから止めなさいって!落ちたらどうすんだ!」

青年の制止も聞かず、めぐはせっせと木に登っていた。慣れた手つきで頭上の枝を掴んでは上へ上へと登って行く。

青年はその姿をおろおろとしながら見ているだけだった。

男「危ないって!めーぐ!」

めぐ「男もおいでよ。ぼーえんきょで見るよりずっといいよ」

男「無理!絶っっっ対無理!」

めぐ「木登り怖いの?」

男「怖いよ!雨降ってんだぞ!うっかり滑って落ちちゃったりするかもしれないだろ!危ない!」

めぐは枝の上に立つと青年を見下ろして笑顔で「大丈夫だよ」と言った。
その笑みはどこか自嘲じみていたが、下から見上げる青年にはその表情までは見えなかった。
57:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 21:11:52 ID:iUqifnsgnc
男「うぅ…何故こんな事に」

木の枝に手を掛けながら青年はぼやく。ミシミシと枝の音聞こえる度に「ヒィ…!」や「アカーン!」などと情けない悲鳴をあげている。

その様を見て、めぐは楽しそうにクスクスと笑った。

めぐ「男、楽しいか?」

めぐの一言で青年の顔がみるみると赤く染まっていく。めぐの言動が先程の自分のそれを真似たものだとすぐに気付いたからだ。

小刻みに震わせた手をめぐの足元にある枝に掛けると、力任せに体を持ち上げた。

男「…っ楽しいわけ!ある、かーっ!!」
58:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 22:03:10 ID:nL.3mzOnnk
やっとのことで辿り着いためぐの隣で、青年はゼイゼイと息を切らせた。

無数に重なる木の葉の隙間から滴る雫がぽつりぽつりと二人に落ちる。その度にめぐが頭を左右に振るので、青年はバランスを崩さないように木の幹をしっかりと抱き締めて離さなかった。

男(あああぁ…俺高い所苦手なのにあばばばばば)

めぐ「ねぇねぇ、ほら見て!ずーっと向こうまで見えるね!」

男「ふぇ〜?……おお!!」

めぐの指差す先に目をやると、展望台から見る景色よりも随分と綺麗に思えた。

男「これが達成感というやつですね…!」

めぐ「たっせーかんというやつですね〜」

男「繰り返さなくていいから」
59:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 22:31:48 ID:nL.3mzOnnk
今回は此処までとさせて頂きます。支援して下さった方、本当にありがとうございます愛してます(´;ω;`)

二人の物語も後半戦に突入です。と言ってもそんなに長くはならないと思いますが…
もう少しお付き合い頂けると嬉しいです!
60: 名無しさん@読者の声:2011/10/27(木) 12:51:16 ID:PhXpzQBaE2
なんだか切なくなるよ〜CCCC
その内イラスト描いてもいいですか?
61:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/27(木) 23:24:57 ID:JR4yEITmE.
>>60
支援ありがとうございます!
ちゃんとハッピーエンド(私の中では)で終わる予定なので温かく見守ってやって下さい。

描いて頂けるなら喜んで!嬉しすぎて踊り狂います(*´・ω・`*)
62:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/27(木) 23:32:47 ID:VxWkJSWhZ2
男(しかしまぁ…随分とはしゃいじゃって。昨日とはえらい違いだな)

漠然と広がる景色を見ながら、昨日のめぐを思い出す。

男「何だか濃い一日だった…」

めぐ「?」

男「ああ、いや。ただの独り言」
63:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/27(木) 23:34:06 ID:VxWkJSWhZ2
暫く両足をぶらつかせながらはしゃいでいためぐだったが、一点を見つめるとその動きをピタリと止めた。

めぐの瞳がゆらゆらと揺れる。
青年がめぐの視線を辿ると、その先にはあの路地が見えた。

男「………」

訊きたい事は沢山ある。しかし、知ってしまうと別れが訪れるような気がして何も訊ねる事ができなかった。

青年は木の幹から手を離すと、その手でめぐの頭をポンポンと叩いた。
64:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/27(木) 23:45:21 ID:VxWkJSWhZ2
めぐ「お、男…あの、ね」

男「あー、えーっと…そうだ、」
青年がめぐの言葉を遮る。
あまりにも白々しいその態度に、出鼻をくじかれためぐは首を傾げた。

男「あのさ、前に話しただろ?猫のめぐ。あいつと出会った時も、こんな風に雨降ってたんだよな」

めぐ「…うん」

男「あいつも雨の中ずっとあそこに居てさ。なんか、放っておけなくて連れて帰っちゃってさ」

めぐ「……」

男「あいつと出会ったのも、めぐと同じ場所だったんだ」
65:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/27(木) 23:56:13 ID:JR4yEITmE.
二人の視線は静かに路地に流れた。

灰色の空の下、降り続ける雨に濡れる景色の中には未だに人の気配は感じられない。
肉眼で確認する事は出来ないが、あの路地にも人は居ないのだろう。

男「……何もしてやれなかったけど、めぐは幸せだったのかな」

ぽつりと呟く青年の肩にめぐは頭を預けた。少し強ばった青年の体は、風に揺れるめぐの髪に触れる度にその姿勢を崩していく。

やがて青年の表情から緊張の色が消えて、上目遣いのめぐと視線がぶつかった。
66:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 00:09:50 ID:JR4yEITmE.
めぐ「しあわせ…だったよ。めぐは、幸せだった」

男「…うん、そうだといいな」

めぐ「…だけど、そうじゃないかもしれない」

男「え?」

めぐ「とても暖かかったから。男の手が、とても暖かかったから。手放したくないと思ってしまった」

男「……」

青年は不思議な気持ちだった。
隣に座っている少女と共に過ごした黒猫は全く異なる存在である事は分かっているのに、まるで“めぐ”がそう言ってくれているようだった。
67:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 00:12:57 ID:VxWkJSWhZ2
二人の間に緩やかな沈黙が流れる。初めて会った時のような緊張感はなく、静かに寄り添っていた。

男「よし、帰るか!」

めぐ「うん」

青年は木の幹に手を掛けると、ゆっくりと下に向けて体をずらして動きを止めた。

男「……めぐちゃん」

めぐ「うん?」

男「コワイタスケテシンジャウ」

めぐ「……」
68:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 00:17:25 ID:VxWkJSWhZ2
今回の投下はこれにて終了です。

書き溜めが…底を突いた…orz
頑張ります。おやすみなさい。
69: 名無しさん@読者の声:2011/10/28(金) 01:03:45 ID:f79T6dgeUQ
支援だ
70: 60:2011/10/28(金) 01:43:37 ID:eKKdJuU0ww
許可してくださり有難うございます!!イラストスレに投稿しました!!
そしてつC
71:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 14:54:38 ID:H0rKvEN9d2
>>69
支援ありがとうございます!

男「ありがtごじゃmやべー咬んだ」

少女「日本語もまともに話せないなら喋らない方がいいと思うよ」
めぐ「激しく同意する」キリッ

男「」



>>70
拝見させて頂きました!そしてめぐの可愛さに興奮…!!
めぐがあんなに可愛い奴だとは…(*´д`*)ハァハァ

皆さんにも是非>>70さんの絵を見て頂きたいです!


男「……めぐたん」ゴクリ

少女「止めろ変態」

めぐ「」ビクビク

男「めぐたんhshs」ハァハァ

少女「もう駄目だこいつ」
72:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 22:21:10 ID:H0rKvEN9d2

***


男「〜♪」

鼻歌混じりに青年は歩き、そのテンポに合わせてめぐが歩いた。
時折くるくると回ってみせ、その度にパシャリと水の音が立つ。

物寂しい路地に二人のメロディーだけが響いていた。


めぐ「…っ」

二人が出会った場所、あの電柱の前で、ふと、めぐが足を止めた。

男「?めぐ?どうした?」

めぐ「……」

男「めぐ…?」

青年が前方に目をやると、電柱の陰に黒いワンピースを着た少女が一人、此方を見て立っていた。

その目はめぐに向けられており、憤慨しているように見える。

少女「…本当に懲りないね、君」
73:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 22:30:23 ID:aaFLsViIeI
少女の黒目がちなその瞳はどこかめぐに似ている。年はめぐと同じくらいだろうか。

幼い少女の眉間には皺が寄っていた。

男「な、なんか怒ってるけど…知り合い?」

青年がめぐに耳打ちをすると、少女は目を見開いて青年を見つめた。

少女「……驚いた、私まで分かるんだね。これは例外…いや、今の状態ならあり得ない事ではない?」

「いや、でも私は…」顔を顰めてぶつぶつと呟く少女を見て、青年は思わず笑った。
74:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 22:44:21 ID:H0rKvEN9d2
男「驚いたって、幽霊じゃあるまいし」

クスクスと笑う青年を目の前に、少女の表情は変わらない。

腕を組んでフンと鼻を鳴らすと、半ば投げ遣りな態度で青年に言った。

少女「そう見えるなら幽霊とでも呼ぶといいよ。名前なんて私は貰っていないからね」

男「え?どういう意味…」

少女は先程と同じ目をめぐに向ける。めぐはピクリと体を揺らすと、口を結んで俯いた。

青年はそんな二人を怪訝な目で交互に見る。めぐと少女の関係は分からないが、二人の間に流れる空気の重圧は感じていた。
75:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 22:57:37 ID:H0rKvEN9d2
男「あのー…二人はお友達?もしかして、めぐの待ち人って…」

少女「その質問に関してはどちらに対しても答えはNOだね」

少女は横目で青年を見やると溜め息を吐いた。

少女「…骨折り損のくたびれ儲けどころじゃないね。何の為にこれと一緒に居るんだい、めぐ?」

男「こ、これ!?これ呼ばわり!?」
76:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 23:06:20 ID:aaFLsViIeI
少女の問い掛けにめぐは口を結んだまま答えないでいた。俯いためぐの髪からは雫が滴り、雨具のフードで隠れてその表情は伺えない。

ただ、少女がその態度に苛立ちを覚えている事だけは青年にも明白だった。

少女「ねぇ、そこの君」

男「は、はい…?」

少女「君は本当に何も聞かされていないの?」

男「何もって、何が……」

チラリとめぐに目をやる。
俯いためぐの拳は固く握り締められ、小刻みに震えていた。
77:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 23:17:35 ID:aaFLsViIeI
少しですが今日はこれで投下終了です。支援して下さった方ありがとうございます!


少女「書き溜めがまた尽きたらしいよ」

男「変な所で止めやがって…気まずい事この上ないわ!」

少女「気まずいのは君じゃなくてめぐじゃない?」

めぐ「……ッチ」

男&少女「え…?」

めぐ「早く書けや>>1!!」

男&少女(キャラ違くね!?)



頑張ります。頑張りますとも(´;ω;`)
78: 名無しさん@読者の声:2011/10/29(土) 01:17:34 ID:sRkUVeeHaQ
続きが気になる…支援支援!!

質問なんですがめぐだけ名前があるのには何か意味があるのだろうか?
79:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/29(土) 18:39:22 ID:Xski3LoVrI
>>78
着眼点が鋭いですね(`・ω・´;)物語も終盤なのでお答えします!

実は、男の名前は何でもよかったので考えませんでしたが“めぐ”という名前を男がつけたというところに意味があります。

最終的にはお話の中で説明するつもりなんですが、はたして上手く伝わるのか…
無事に完結した際に少し後書き的な感じで言い訳をするかもしれませんw


支援して下さって本当にありがとうございます!夜に少しだけ投下します
80:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/29(土) 20:03:31 ID:unZ8/kGbD.
少女「どうやら彼女は君に絆されてしまったみたいだね」

男「さっきから何を言って…」

少女はやれやれと首を振ると青年越しにめぐを覗いて、

少女「説明、してやらないのかい?」

めぐ「……」

微かに揺れためぐからは動揺の色が伺えた。

重い空気の中、雨は降り続ける。その音が酷く耳障りで醜悪なものに聞こえるのは恐らく全員であると、それぞれの表情から読み取れた。
81:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/29(土) 20:12:02 ID:Xski3LoVrI
少女「…傍に居てはいけない」

男(あれ、この台詞何処かで…?)

少女「このままじゃ君も消える事になる」

青年の脳裏に走馬灯のような映像が浮かぶ。それは酷くノイズが入っており、正確なものではない。
ズキンズキンと青年の頭が痛む。


――思い出せるのは、月明かりにほんのりと照らされた黒猫の姿と、鈴の音。


男「め、ぐ…?」
82: 名無しさん@読者の声:2011/10/29(土) 23:10:03 ID:sRkUVeeHaQ
つC

ハッピーエンドなんだよな…?めぐにはどうか幸せになってほしい!
83:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/30(日) 21:20:37 ID:GF3XScfD5.
>>82
めぐ「しえんありがとー!」

男「ちゃんとお礼が言えるようになりましたよ!」ドヤ

少女「なに当り前の事でドヤ顔してんの。消えたいの?」

男&めぐ「」



めぐにとっての幸せは「現状のまま」男と過ごす事なので、幸せという点ではどうなんでしょう。私にも分からないのです(´・ω・`)

すみません、あまり喋りすぎるのもよくないですねwハッピーエンドのつもりなので見守ってやって下さい!
84:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/30(日) 21:28:50 ID:GF3XScfD5.
男「おわっ!?」

少女「…っ…ちょっと!」

青年の声に弾かれるようにして、めぐは地面を蹴った。青年の腕を掴み、まるで逃げるように駆け出す。

状況が掴めないまま、もたつく足で青年も走った。

少女「もう時間がないんだよ?本当は自分でも気付いているんでしょう!?」

走り去る二人に向けて少女は叫んだ。段々と小さくなっていく二人の後ろ姿を見ながら小さく舌打ちをする。

少女「…馬鹿だね、本当に」

少女は降り続ける雨に掌をかざして灰色の空を仰いだ。

少女「君達が見ている世界はこんなにも寂しいのに…」
85:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/30(日) 21:45:11 ID:GF3XScfD5.

――‐‥


男「…っちょ、めぐっ!どうしたんだよ…!!」

青年はめぐに引かれるままに走っていた。めぐの足は青年のマンションへと真っ直ぐに向かい、階段を上りはじめる。

五階建てと言えど階段を駆け上がるのは存外辛いもので、青年はすぐにヒィヒィと息を切らせた。

男「め、めぐちゃ…お兄ちゃん疲れちゃっ……うぉお!?」

玄関のドアを開けてすぐに青年の視界は反転した。
めぐの体重で胸が圧迫されている。首の後ろに手を回して、ギュッと青年にしがみ付いた。

男(どうしよう…息苦しすぎてオェッて言っちゃいそうだなんて言えないんだぜ…)
86:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/30(日) 21:59:28 ID:m.R0NSndc6
男「おーい、何とか言ってくれよぉー…」

どのくらいこうしているのだろうか。依然として二人は同じ体制のままでいた。青年の呼吸はもう十分整っている。

何も言わずにただしがみ付くだけのめぐに、青年は逐一質問を投げ掛けた。

あの少女は誰か、あの少女とめぐの関係は何か、何故あの少女はめぐの名前を知っていたのか、少女の言葉の意味は、何故逃げたのか、何を隠しているのか―。

そのどれもにめぐは答える事はなく、固く口を結んで青年の首元に顔を埋めていた。
困り果てた青年はただめぐの頭をポンポンと叩きながら彼女の反応を待つのみだった。
87:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/31(月) 20:52:20 ID:KtFJ47OitU
男「―‥という訳で俺の初恋は終了したわけだ。甘酸っぱいよなー…って、あれ?」

独り言のように思い出話をしていた青年は、めぐの息遣いの変化に気付いた。
先程までとは違って随分と深く呼吸をしている。首元に回された腕の力も弱まっているように思えた。

男「………寝てやがる!聞いてよ俺の初恋話!」

凡そ一定のリズムを保ってめぐの肩が上下する。
青年が体を起こすと、めぐはずるずると滑り落ちた。
88:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/31(月) 21:05:19 ID:7TQFjl8JpQ
男「大した事してないのに汗掻いた…」

めぐに布団を掛けて青年は呟いた。額にはじんわりと汗が滲んでいる。

いくら雨具とはいえ、寝ている間に着ているものを脱がせるという行為は青年にとっては苦悶する事だった。

後ろめたい気持ちを振り払うように、青年は自分の頭にシャワーを浴びせた。
89:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/31(月) 21:27:33 ID:7TQFjl8JpQ
男「ふぃー、気持ち良かった」

暖まった青年の頬は赤みを帯びている。満足気に顔を綻ばせながらその頬を両手で二度叩いた。

ベットに目をやると昨夜のように寝息を立てているめぐの姿があった。その寝顔を見つめる青年の目は慈愛に満ちているようだった。

青年の手がめぐの髪にそっと触れた時、めぐの唇が微かに動いた。

めぐ「……ぃ……で…」

男「ん…?」
90:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/31(月) 22:01:08 ID:KtFJ47OitU
めぐ「ごめ…なさ……居なくならないで…」

男「めぐ…?」

めぐの頬には涙が伝い、擦れた声で何度も同じ言葉を繰り返している。

青年の指先がめぐの涙に触れる。
親指を滑らせて涙を拭ってやると、めぐはまた寝息を立て始めた。
91: 名無しさん@読者の声:2011/10/31(月) 23:40:32 ID:JO97BXhrO.
めぐ…(´;ω;)っCCC
92: 名無しさん@読者の声:2011/11/1(火) 02:01:27 ID:DupF7GDfog
めぐぅう…(ρ_;)
全力で支援!
93:
◆b.qRGRPvDc:2011/11/1(火) 21:10:53 ID:IYtf.Fifp2
>>91-92
支援ありがとうございます。
あー嬉しい(´;ω;`)


めぐ「しえんありがとー!」

少女「馬鹿の一つ覚えだね」フン

めぐ「むー。じゃあお手本見せて!」

少女「…初めまして、今晩は。この度はこのような稚拙な物語にご支援下さってありがとうございます。登場人物を代表して心よりお礼を申し上げry」←早口

めぐ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」アワアワ
94:
◆b.qRGRPvDc:2011/11/1(火) 21:19:46 ID:IYtf.Fifp2
男「……」

青年の指がめぐの頬を滑る。めぐはきっと背後のカーテンの向こう側、あの路地に現れるであろう人物を思っているのだろう。

もしも、待ち人が現れたら。

男「居なくなる…のか」

青年はベッドの脇に手を掛けて体を持ち上げる。ギシリと軋んだ音がやけに耳についた。
95:
◆b.qRGRPvDc:2011/11/1(火) 21:30:13 ID:IYtf.Fifp2
男「ん?」

立ち上がろうとした青年の服が何かに引っ掛かったように引き付けられた。

そちらに目線をやると、青年の服を掴むめぐの手があった。

男「電気消すだけだよ。って、あれは俺に言ってるわけじゃないわな」

青年は苦笑しながらそっとめぐの手を掴んだ。服から離そうと引っ張ってみるとめぐの手にグッと力が込められた。
96: もうすぐ100だ!
◆b.qRGRPvDc:2011/11/1(火) 21:51:24 ID:CE5FKk9tr6
めぐ「おと、こ…」

男「え?はい?俺?」

一度だけ、めぐは確かに青年の名を呼んだ。

それに続く言葉はいくら待っても発される事はなかったが、青年は服を握り締めるめぐの手を離す事が出来なかった。
97:
◆b.qRGRPvDc:2011/11/1(火) 22:02:06 ID:CE5FKk9tr6
男「……めぐ、俺は―」

何かを言い掛けた青年だったが、続ける言葉が見当たらない。口に出してはいけないような気がして、それ以上は何も言えなかった。

そのままベッドの横に腰を下ろして、めぐの手に自身の手を重ねた。

男「おやすみ、めぐ」

めぐの寝息を子守唄に、青年も眠りに就いた。
98:
◆b.qRGRPvDc:2011/11/1(火) 22:33:59 ID:IYtf.Fifp2
男「――めぐ!」

青年の声がワンルームに響き渡る。めぐからの返事はない。

青年が目を覚ますとその肩には昨晩、自分が掛けてやった布団が掛かっていた。重ねた筈の手は解かれ、其処にめぐの姿はない。

開け放たれたベランダから入り込む風がカーテンを揺らしている。

男「まさか、な…」

青年の喉がゴクリと波打つ。震える手でカーテンを握り締めると、勢い良く開け放った。
99:
◆b.qRGRPvDc:2011/11/1(火) 22:59:50 ID:CE5FKk9tr6
男「……なんだ、居ないじゃん」

カーテンの向こう側に広がる景色を見て、青年は安堵の息を洩らした。

ベランダから見える景色は相変わらず灰色の空と、降りしきる雨のみだった。昨日見た景色と何も変わっていない。当然、あの路地にも人は見当たらなかった。

男(何処行ったんだよ、あいつ)
100: 祝!100レス目!
◆b.qRGRPvDc:2011/11/1(火) 23:19:45 ID:CE5FKk9tr6
思考を巡らせても、めぐの行き先の検討がつかない。青年の中にあるめぐの情報は、どれも行き先を示すものではなかった。

男「……俺、めぐの事何も知らないじゃん」

はあ、と溜息一つ、頭を抱えて項垂れた。しんと静まり返る部屋の中、喪失感に苛まれる。

男「様子、おかしかったもんな…昨日……昨日?」

青年ははっと顔を上げると立ち上がった。

男「そうだ!昨日のあの子なら!」
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名前:
sage:


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