男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
167: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/11(金) 20:19:54 ID:VCHgmReH86
少女は風にはためくカーテンに目をやった。
雨の音は殆ど聞こえない。少女は終わりが近付いている事を悟った。
少女「彼女は全てを忘れて“誰か”になるよりも、“めぐ”のまま消滅する事を選んだ。君と過ごした時間をなかった事にはしたくなかったんだろうね」
男「しょう、めつ?待てよ、なんで…意味分かんねぇよ!!」
少女「私達は死者になる事も許されない、罪人なんだよ。罪を償わなければ消滅するのは当然でしょう」
168: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/11(金) 20:45:56 ID:VCHgmReH86
青年の脳裏に焼き付いた、めぐの姿。思い出の中のめぐは罪人などではない、無垢な少女だった。
雨の中、誰かを待ち続けていた少女。雨に濡れる事も厭わず、悲しみに歪んだ表情で青年を見つめた。
「此処に居る」と泣いていた。
めぐと呼ぶと嬉しそうに笑った。
公園で無邪気にはしゃいでいた。
時折寂しそうな表情をして、手放したくないと言ってくれた。
一緒に居たいと、泣いてくれた。
この腕の中に飛び込んで来たのは、この腕が受け止めたのは、
存在しない空っぽの何かではなく、めぐという一人の少女だった。
169: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/11(金) 21:12:13 ID:gdsRLqBUn.
男「…消滅なんかされてたまるかよ」
共に過ごした確かな存在、それを否定する事など青年には出来なかった。
青年の中にふつふつと沸き上がる感情は、今にも弾けそうだった。
男「霊子さん、霊子さん達が償いから解放される方法はないの?」
少女はピクリと眉を動かして得意気に答えた。
少女「あるよ」
170: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/11(金) 21:38:13 ID:VCHgmReH86
少女「私達は過去に罪を犯し、その中で大切な何かを失ったんだ」
男「大切な、何か…」
少女「失くしたものを見付けるまで償いは続く」
男「見付かったら…?」
少女の口元が弧を描く。
その表情はまるでサンタのプレゼントを待つ子供のように、キラキラとしていた。
少女「他の死者と同じように、再び人として生きられる。もう一度やり直せるんだ」
171: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/11(金) 21:58:48 ID:gdsRLqBUn.
『生まれ変わるんだよ、私達は。やり直せるんだ』
夢の中の少女が青年に語り掛けてくる。
『私は失くしたものを見付ける。自分の罪も』
夢の中の少女は、はっきりとそう言った。
男「…そっか、あの声は霊子さんだったんだな」
少女「何がだい」
男「いや、こっちの話」
少女の今までの行動は全て、めぐを助ける為のものだったのだろう。
自分にも、自分にも何か出来るのであれば――。
172: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/11(金) 22:17:11 ID:VCHgmReH86
男「めぐが消えるなんて俺は嫌だ」
少女「そうかい」
男「でも、どうすれば…」
頭を捻る青年を余所に、少女は嘲笑するように小さく笑った。
その目は諦めの色を帯びている。
少女「役目を果たせばいいだけだよ。なのに彼女はそれを拒絶した」
男「役目を、果たす…」
173: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/11(金) 22:40:59 ID:gdsRLqBUn.
少女が語った罪人としての役割、その言葉の意味を青年は考えていた。
『死期が訪れた人を送り届ける』
雨の中、めぐは誰かを待ち続けた。その“誰か”を送り届ければ、あるいは――。
男「ちょっと待てよ……送り届けられるのは、誰だ…?」
少女「…私は彼女ではないから、それを君に教える義務はないよ」
でも、と付け足して少女は真っ直ぐに青年を見つめた。
少女の黒い瞳の奥は、今にも青年を吸い込んでしまいそうな程に暗闇が広がっていた。
少女「本当は、気付いているんでしょう?」
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