男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
199: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 20:18:39 ID:XtSlSMN0tE
青年が何を思っているのかなど、少女には容易に予想出来た。
少女「……行くのかい?」
男「なんか、霊子さんには頼りっぱなしだったな」
少女「…馬鹿二人じゃ少しも話が先に進まないからね」
少女はフンと鳴らして口元を緩ませた。伏し目がちになりそうなのを堪えて、出来るだけ悪たれてみせた。
青年が笑みを零す。その吐息が合図だったかのように、少女の瞳はゆらゆらと揺れた。
200: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 20:41:06 ID:XtSlSMN0tE
男「霊子さん…?」
少女の手がギュッと強く青年の手を握り締める。
青年の手を握りながら、少女は言った。
少女「すまない…」
男「え?」
少女「すまない…!君は、君は私達とは違う。救いがあるから…」
青年は二度程瞬きをしてクスクスと笑った。
少女はきょとんと首を傾げたが、青年の喉はクックッと震えている。
201: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 21:09:44 ID:XtSlSMN0tE
青年はコホンと咳払いをして踏ん反り返ってみせた。
眉を寄せて少女を見下ろすと、少女はますます首を傾げた。
男「君さっきから何言ってんの。毒されてるんじゃないの」
少女の眉がピクリと動く。
男「どうやら君は俺に絆されてしまったみたいだね」
フンと鼻を鳴らして笑みを浮かべる青年を前に、ポカンと口を開けていた少女にも笑みが零れる。
少女「君みたいな鈍い子に諭されるとはね。どうやらその通りらしい」
202: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 21:34:45 ID:XtSlSMN0tE
頭に何かの重みを感じて、少女の体が強ばった。青年の手の平が少女の頭に乗っている。
ポン、ポン、と凡そ一定のリズムで青年の手が少女の頭を優しく叩いた。
少女「………」
少女は体の力を抜くとゆっくりと目を閉じた。
胸の辺りがじわりと暖かくなるのを感じる。これが人の温もりなのだろうか。
男「ありがとう」
青年の手が頭から離れると、少女は目を開いた。青年の姿は何処にもなく、ワンルームはシンと静まり返っていた。
203: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/15(火) 22:31:50 ID:XtSlSMN0tE
少女「…ありがとう、男くん」
ワンルームに一人佇む少女がポツリと呟いた。青年からの返事がある筈もなく、虚無感に苛まれる。
ごそごそとワンピースのポケットを漁って、手の平を見つめた。
少女「返しそびれちゃったね…」
チリン、と鈴の音が鳴った。
赤い首輪を握り締めると、少女はワンルームから姿を消した。
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