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出会う感情の名は、
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1: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


62:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/27(木) 23:32:47 ID:VxWkJSWhZ2
男(しかしまぁ…随分とはしゃいじゃって。昨日とはえらい違いだな)

漠然と広がる景色を見ながら、昨日のめぐを思い出す。

男「何だか濃い一日だった…」

めぐ「?」

男「ああ、いや。ただの独り言」
63:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/27(木) 23:34:06 ID:VxWkJSWhZ2
暫く両足をぶらつかせながらはしゃいでいためぐだったが、一点を見つめるとその動きをピタリと止めた。

めぐの瞳がゆらゆらと揺れる。
青年がめぐの視線を辿ると、その先にはあの路地が見えた。

男「………」

訊きたい事は沢山ある。しかし、知ってしまうと別れが訪れるような気がして何も訊ねる事ができなかった。

青年は木の幹から手を離すと、その手でめぐの頭をポンポンと叩いた。
64:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/27(木) 23:45:21 ID:VxWkJSWhZ2
めぐ「お、男…あの、ね」

男「あー、えーっと…そうだ、」
青年がめぐの言葉を遮る。
あまりにも白々しいその態度に、出鼻をくじかれためぐは首を傾げた。

男「あのさ、前に話しただろ?猫のめぐ。あいつと出会った時も、こんな風に雨降ってたんだよな」

めぐ「…うん」

男「あいつも雨の中ずっとあそこに居てさ。なんか、放っておけなくて連れて帰っちゃってさ」

めぐ「……」

男「あいつと出会ったのも、めぐと同じ場所だったんだ」
65:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/27(木) 23:56:13 ID:JR4yEITmE.
二人の視線は静かに路地に流れた。

灰色の空の下、降り続ける雨に濡れる景色の中には未だに人の気配は感じられない。
肉眼で確認する事は出来ないが、あの路地にも人は居ないのだろう。

男「……何もしてやれなかったけど、めぐは幸せだったのかな」

ぽつりと呟く青年の肩にめぐは頭を預けた。少し強ばった青年の体は、風に揺れるめぐの髪に触れる度にその姿勢を崩していく。

やがて青年の表情から緊張の色が消えて、上目遣いのめぐと視線がぶつかった。
66:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 00:09:50 ID:JR4yEITmE.
めぐ「しあわせ…だったよ。めぐは、幸せだった」

男「…うん、そうだといいな」

めぐ「…だけど、そうじゃないかもしれない」

男「え?」

めぐ「とても暖かかったから。男の手が、とても暖かかったから。手放したくないと思ってしまった」

男「……」

青年は不思議な気持ちだった。
隣に座っている少女と共に過ごした黒猫は全く異なる存在である事は分かっているのに、まるで“めぐ”がそう言ってくれているようだった。
67:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/28(金) 00:12:57 ID:VxWkJSWhZ2
二人の間に緩やかな沈黙が流れる。初めて会った時のような緊張感はなく、静かに寄り添っていた。

男「よし、帰るか!」

めぐ「うん」

青年は木の幹に手を掛けると、ゆっくりと下に向けて体をずらして動きを止めた。

男「……めぐちゃん」

めぐ「うん?」

男「コワイタスケテシンジャウ」

めぐ「……」
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