男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
510: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/7(土) 15:48:40 ID:GLdkpQmdpQ
弟「それって、姉ちゃんの事?」
どうして、とノエルの瞳は大きく揺れた。何かを悟ったような弟の表情は、先程までの幼さは感じられない。
弟「夢で見たんだ。ノエルが姉ちゃんを連れて行く夢……ノエルは一体、何なの?姉ちゃんを何処へ連れて行くの?」
弟の瞳に悲しみの色が宿る。ああ、もう駄目だとノエルの眉が下がった。
やはり、関わってはいけなかったのだ。幼い少年を巻き込むには、あまりに酷な話だ。何故、彼と出会ってしまったのだろう。
──何故、こんなにも胸が苦しいのだろう。
ノエル「…もう、君に隠す必要はないね」
511: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/7(土) 16:04:45 ID:GLdkpQmdpQ
震える喉を堪えながら、ノエルは重い口を開いた。自分というものの在り方、その存在の意味。
まだ子供の弟に理解が出来るとは到底思えなかったが、それでもノエルは語り続けた。
めぐのように、誰かの心に刻み込む事ができるのなら。
それが許されるのならば、私は──
弟はもう、以前のように笑い掛けてはくれないのだろう。それでも、ノエルに立ち止まる事は許されない。
胸の内を吐き出す度に、支えていた何かが軽くなるのを感じた。喪失感にも似たそれは、ノエルの心を軽くすると共に大きな風穴を開けてゆく。
512: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/7(土) 16:36:05 ID:2BGOPg1qkI
ノエル「──これで分かったろう。私達は関わるべきでは、なかったんだ」
今更嘆いても、もう遅い。頭を垂らすノエルの鈴が、チリリと小さく音を鳴らした。
ノエル「君と共に在りたいだなんて、願ってはいけなかった。私は君とは違う。それなのに…」
ノエルが背負った罪は、こんなにも重くて辛い。解放される事を望んでも、救いの手は未だ差し伸べられる事はなかった。
513: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/7(土) 16:53:24 ID:2BGOPg1qkI
ひとしきり黙って話を聞いていた弟が口を開いた。
弟「何だかノエル、天使みたいだね。それとも死神?僕、そういうの見た事ないんだけど、浮いたりしないんだね」
無邪気に笑いながら言う弟に、ノエルは呆気にとられた。
いや、これが普通の反応なのかもしれない。こんな馬鹿げた与太話のようなものを、理解出来たとて信じる方がどうかしている。
しかし、弟のその笑顔はノエルの胸をきつくきつく締め付けた。
514: CCC:2012/1/7(土) 16:56:31 ID:Au6HIlLMLw
リアルタイム遭遇記念!
スルーしていいからねm(_ _)m
大好きです(;∀;)
515: ⊃C⊂ムギュッ ◆b.qRGRPvDc:2012/1/7(土) 17:12:07 ID:GLdkpQmdpQ
ノエル「信じられないかもしれないけれど、私はもう、君に嘘は吐きたくないんだ……」
そう言ったきり黙り込んだノエルの手を、再び弟の両手が優しく包み込んだ。
弟「信じるよ…。僕、学校の帰りに見たんだ。血だらけの猫の死体と、それに話し掛けるノエル。誰にも見えてないみたいだったけど、猫が光ってた」
弟の手の中で、ノエルの右手がピクリと動く。囁くように自分の名を呼ぶ声に顔を上げると、弟は柔らかく微笑んでいた。
そして、またノエルに言う。抱き締めるような優しい声で、信じてるよ、と。
516: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/7(土) 17:47:38 ID:GLdkpQmdpQ
ノエル「……連れて行くなと言わないんだね、お姉さんの事を」
そう言ったノエルに向かって、弟は思いがけず首を傾げた。
弟「どうして?姉ちゃんが死ぬのは病気の所為じゃないか。ノエルが姉ちゃんを殺すわけじゃないでしょ?それに──」
しかし、その表情は瞬く間に崩れ落ち、悲しみに濡れた。力をなくした両手はいとも容易くノエルを手放して、ぶらりとだらしなく垂れ下がった。
弟「それに……そうしなきゃ、ノエルは消えちゃうんでしょ…?」
517: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2012/1/7(土) 18:18:57 ID:GLdkpQmdpQ
ノエルは息を呑んで弟を見つめた。
──泣いている。
大声で泣き喚くわけでも、声を殺して啜り泣くわけでもなく、弟の瞳からは、ただただ涙が溢れ出ていた。
弟「言えないよ……姉ちゃんもノエルも、僕の大切な人なんだ。二人共大好きだよ。これ以上、何を言えばいいの…!」
キラキラと、硝子玉のように透明に輝く雫に、吸い寄せられるように手を伸ばす。
初めて見る、自分に向けて流される涙の美しさ。これ程までに暖かく、眩しい輝きをノエルは知らない。
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