男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
4: 名無しさん@読者の声:2011/10/16(日) 19:22:27 ID:YjnNasUwp2
>>2
おめでとうございます!
男「伯母さーん、居ないの?おーい」
男「…応答なし、か」
人気のない路地に無機質なインターホンの音だけが響く。五度程繰り返されて、その音は止んだ。
男「帰ろう…多分帰ろうとしてたんだろうし」
男「ボケるにはまだ早すぎるだろうに、自分が何をしようとしてたか全く思い出せん。どうしたものか……ん?」
暫く歩いて男の足は止まった。
男(――人…?)
5: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:24:39 ID:f4A63ChN1o
少し先に人影が見えた。
ボサボサな黒い髪に白いシャツ、黒いズボン。電柱に寄りかかり、うなだれるような姿勢で座り込んでいる。
一見男性の様な装いのその人物は、近づくにつれて小さく子供のように見えた。
男(こ、これはまさか…!)
男(ショタっ子というやつか!!)
新境地へ足を踏み入れようとする青年の足取りは軽いものだった。
その軽快なステップはすぐ先に居る人物の耳へと容易く届いた。
?「…?」
男「あ、れ?…おにゃのこ?」
?「!!」
6: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:25:56 ID:YjnNasUwp2
少年だと思っていたその人物は、男の子と呼ぶには愛らしく、何処か丸みをおびていた。
少女は顔を上げて青年の顔を見るなり目を見開いて驚愕した。目元まで伸びた前髪がはらりと乱れ、大きな黒目がちの瞳がゆらゆらと揺れる。
少女「なん、で…」
男「へ?」
やがてその表情はくしゃりと歪み、悲しみに濡れた。
男「あ、あのー…?」
少女「……」
男「どうかしました?俺の顔に何かついてます?」
少女「…っ……いや、何でもない、…ですよ」
男(もしかしてフラグが立ったか?しかもよく見たら可愛えええええ!)
男(危うく秘密の花園…いや、秘密の菊門に足を踏み入れかけたなんて口が裂けても言えん!)
7: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:30:26 ID:YjnNasUwp2
青年は自分の邪念を振り払うように首を左右に振ると、コホンと咳払いをしてみせた。
男「こんなところで何をしてるんですか?何かあったんですか?」
腰を屈めて少女の顔を覗き込みながら首を傾げた。それが、青年の精一杯の紳士たる態度であった。
少女「……人を、」
男「ん?」
少女「…人を待ってる、ですよ」
言い終えると少女は青年から視線を外した。
男「人って、友達か何かかな。だったら携帯で連絡取ってみたらどうですか?」
男「ほら、雨降ってるし、あなたびしょ濡れですよ?」
少女「……」
男「風邪、引きますよ」
少女「……」
男「えっと…」
少女「……」
男「あの〜…聞いてます…?」
少女「……」
男(会話が続かん…!ヘルプ!誰かヘルプ!)
二人の間に沈黙が流れる。人気のない路地には雨の音だけ。
8: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:42:23 ID:f4A63ChN1o
青年はその場を立ち去ろうとしたが、足が動かなかった。少女が気に掛かって仕方なかったのだ。
初めて会ったばかりのこの少女が何となく気になった。単なる好奇心からか、少女を哀れんでなのかは分からないが、放っては行けなかった。
雨に濡れたシャツが肌色を映していても不思議と昂ぶるものは感じていない。青年にそういう趣味がない、というのではなく、ただ傍に居てやりたいような気分だった。
青年には“これ”が何なのか、全く検討もつかなかった。
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