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出会う感情の名は、
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1: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


308: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/11/30(水) 20:06:12 ID:Eil4THsRhI

弟「もう!心配して言ってやってんの、に……!?」

弟の手が振り払うのが先か、母親の腕が弟を包み込んだ。背中から伝わる母親の熱で抱き締められているのだと気付いた弟は、横目で母親を伺った。
母親の体は小さく震えている。

母「……お姉ちゃん、もう駄目かもしれないって」

弟「え…?」

母親の腕にグッと力が入る。
息苦しくなる程強く抱き締めているのというのに、弟は抵抗する事も忘れて呆然としていた。


309: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/11/30(水) 20:24:00 ID:Eil4THsRhI

母「手術するにも、今のままじゃ体力が保たないんだって」

母親の体の震えが背中から伝わる。背後で肩を揺らす母親の腕に、弟の手が重ねられた。

弟は震える喉を堪え、母親の腕から逃れるように立ち上がった。

弟「何、弱気になってんだよ。姉ちゃんはまだ生きてるよ。あんなに元気なんだ、きっと助かるよ」


310: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/11/30(水) 20:49:01 ID:Eil4THsRhI

母「…そうね、ごめんね」

弟の唇がギュッと噛み締められる。涙が出そうになるのを辛うじて堪えて母親に背を向けた。

姉はきっと助かる─そう信じてはいるものの、弱気になっている母親を見ると一抹の不安が過る。

弟「母さんも無理しないでよね。母さんまで倒れたら困るよ。僕、子供なんだから」


311: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/11/30(水) 21:12:45 ID:Eil4THsRhI

「おやすみ」と足早にリビングを後にする弟の後ろ姿を涙を拭って見送った。

母「…こんな時だけ子供ぶって」

母親の唇が弧を描いた。
鼻を啜りながら洗い終わっている食器に手を伸ばし、片付け始めた。


312: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/11/30(水) 21:21:43 ID:Eil4THsRhI



チリン、チリンと鈴の音が鳴り響いている。辺りを見渡しても真っ暗で何も見えず、自分が何処に居るのかも分からない。

鈴の音は段々と大きくなり、背後からその距離を縮めていた。
音の鳴る方に振り返ると、暗闇の中にぼんやりと人影が浮かんでいるのが見えた。

弟「誰…?」

目を凝らしながら恐る恐る近付いて行くと、それはよく見知った人物だった。


313: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/11/30(水) 21:49:07 ID:1TeB1qx0ZM

弟「……姉ちゃん?」

弟の声にピクリと体を揺らし、その人物はゆっくりと顔を上げる。
ふわりと柔らかく微笑むその人は、まさしく姉であった。

弟「姉ちゃん、こんなとこで何してんの?」

声を掛けながら歩み寄るも、二人の距離は一向に縮まらない。何も答えず、距離も縮めず、ただ其処で優しく微笑んでいる。


314: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/11/30(水) 22:13:46 ID:Eil4THsRhI

ふと、誰かが姉の手を取った。
姉の隣には、弟とそう背丈の変わらない少女の姿があった。

弟「あ!お前…!」

姉の隣に立っているのは、病院で見た黒いワンピースの少女だった。

弟の声に一切反応せず、姉の手を引いて歩き始める。姉はそれに抵抗する素振りはなく、弟に背を向けて少女と共に歩きだした。


315: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/11/30(水) 22:36:42 ID:1TeB1qx0ZM

弟「待てよ!何処行くんだよ!」

弟がどれだけ走っても一向に距離は縮まらず、それどころか二人が歩みを進める度に広がっていくばかりだった。

縋るように伸ばされた腕さえも、姉には届かない。


弟「───姉ちゃんっ!!」


316: 番外編
◆b.qRGRPvDc:2011/11/30(水) 23:00:21 ID:Eil4THsRhI

大きく見開かれた弟の目には、随分と見慣れた景色が広がっていた。
真っ白な天井、カチカチと鳴る時計の音、外からは小鳥の鳴き声が聞こえる。

弟「……夢かよ。何なんだよ、もう」

母「お母さんが言いたいわよ」

弟「!?」

顔を横に向けると、恐らく起こしに来たのであろう母親が腰を抜かした格好で座り込んでいた。

母「夢に見る程シスコンなのは分かったから、さっさと顔洗ってらっしゃい」

弟「………」


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