男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
142: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/7(月) 21:06:02 ID:mqN6SPO.86
深く呼吸を繰り返す音が暗闇の中、一つ聞こえる。もう一人はどうやら眠っていないらしい。
布が擦れる音がして、小さな人影が起き上がった。
めぐ「……」
体を起こしためぐは黙って青年を見つめていた。視界がぼやけて青年の顔がよく見えない。
めぐは涙を流していた。
143: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/7(月) 21:22:28 ID:mqN6SPO.86
青年の髪に、瞼に、頬にと触れる。どれも暖かく、めぐにとって心地好いものだった。
めぐ「…っく、うぅ……」
静かにしなければ青年が目を覚ましてしまう、そう思ってはいるものの、溢れるものが止まらない。
しゃくり上げそうになるのを堪えて青年の頬をそっと撫でた。
めぐ「ご、めんね、ごめっ…男には、居なくならないでほしいから…」
144: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/7(月) 21:43:04 ID:mqN6SPO.86
めぐの両手が青年の頬を包み込む。小さな人影がゆっくりと動き、重なって行く。
めぐの唇がそっと青年の唇に触れた。
それは、とても短い口付けだった。
めぐ「…さようなら、男」
窓を開けて振り返る。青年は今だにすやすやと寝息を立てていた。
小さな人影がパタパタとはためくカーテンの向こう側に消える。外の雨はもう、小雨になっていた。
145: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/7(月) 22:12:35 ID:mqN6SPO.86
男「……はぁ…」
青年は一人、身を捩った。寝返りを打とうとした際に意識がはっきりとしてしまった。
目を閉じていても瞼からオレンジ色が映る。もう朝なのだろうか。どれくらい自分が眠っていたのかも分からないでいた。
夢を見た気がする。内容は覚えてはいないけれど、何だか寂しい気分になるのはその所為かもしれない。
目を開けなくても、青年には分かった。
男「なんでまた居なくなるんだよ、めぐ…」
146: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/7(月) 22:40:42 ID:e5rqslqDyc
手の甲を瞼に押しあてる。自然と口からは溜め息が洩れた。
『傍に居てはいけない』
『このままじゃ君も消える事になる』
少女の声が青年の脳内で谺する。黒目がちな瞳が青年を捕えた。
男「…っ!」
走馬灯のような映像が流れる。あの時のように青年の頭がズキン、ズキンと痛んだ。
147: ◆b.qRGRPvDc:2011/11/7(月) 23:01:04 ID:e5rqslqDyc
砂嵐のようなものに交ざって人影が二つ、動いている。
『…本当に、送り届けないといけないのかな』
『傍に居たら、消えちゃうの…?』
ノイズ交じりに女の子の声が聞こえる。やがて砂嵐は無くなり、女の子の顔がはっきりと浮かんだ。
『…さようなら、男』
月明かりに浮かぶ黒猫と重なって見えた、一人の少女の姿。
それは紛れもなく、
男「……めぐ…なんで………」
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