男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」
住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。
辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。
灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。
男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」
散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。
427: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/17(土) 00:26:57 ID:cpVFSsODrA
その日から、二人は度々公園で会うようになった。ノエルはいつも、弟の暮らす街の景色を展望台から眺めて待っていた。
弟の姿を見付けると展望台から小さく手を振るノエル。揺れる黒髪を遠目で確認する度に、坂道を駆け上がる弟の足も早まった。
ノエルはあまり語らない。弟が何かを訊ねても曖昧に受け流す事が殆どだった。それでも弟は構わなかった。口数が少なくとも、彼女の流れる黒髪と、語り掛けてくるような瞳を見るだけで心が落ち着かなくなる。
弟にとって、ノエルと過ごす時間は特別楽しいものだった。
428: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/17(土) 00:58:19 ID:5TAj.DeLPQ
だからこそ、時間が過ぎるのが早く感じた。何処からか流れるメロディが弟に帰宅を促し、二人を簡単に引き離してしまう。
弟「このまま時間が止まっちゃえばいいのにね」
すっかりオレンジ色に染まった太陽を見ながら、弟が頬杖を突いてぼやいた。
そうすれば、姉を失うかもしれない心配も不安も必要ないし、ノエルともずっとこうして居られるのに、と。
ぷくっ、と膨れる弟の柔らかな頬を見ながら、ノエルは微笑んだ。
429: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/17(土) 01:18:26 ID:5TAj.DeLPQ
ノエル「それはいけないよ。無理な話だ」
弟「分かってるよ、そんな事…」
でも、と付け足して、弟の顔がノエルに真っ直ぐ向けられた。
弟「ノエルはそう思ってくれないの?」
弟の問い掛けに、ノエルの唇は動かない。ノエルは胸の内で何度も首を縦に振り、思っているよ、と繰り返した。
不安げな表情で自分を伺う弟に、答える代わりに微笑んでみせる。弟はその答えに納得していないようだった。
430: 番外編 ◆b.qRGRPvDc:2011/12/17(土) 01:41:06 ID:cpVFSsODrA
友達になろうと声を掛けたのは弟の方だった。ノエルは何も答えなかったが、何度も顔を合わせる内にいつもの仏頂面は随分と和らいだ。今のように笑うようにもなった。それは、自分を友達だと認めてくれた事であり、特別な存在だという事なのだと思っていたのだ。
ずっと一緒に居られればいい。きっと、ノエルも同じ気持ちでいてくれていると思っていた。
ノエル「……何だい、情けない顔だね」
弟「別に。元からこんな顔だよ」
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