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出会う感情の名は、
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1: 1 ◆b.qRGRPvDc:2011/10/16(日) 19:19:06 ID:f4A63ChN1o
男「あれ?何してたんだっけ?…なんで此処に居たんだっけ?」

住宅街の路地にポツリと立つ青年。見たところ、学生のようだ。

辺りを見渡しても、まるで自分以外の人間が魔法にでも掛けられたかのように姿を見せない。

灰色に染まった空は雨を降らせてパタパタと音を立てながらアスファルトを濡らしていく。

男「うわ!財布の中身散乱してるし!お札が濡れる!」

散乱しているお金を慌てて掻き集め、乱暴に財布に押し込んだ。


52:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:11:54 ID:iUqifnsgnc
男「…何だこの状態は」

目を覚ました青年は開口一番に言った。

ベッドを占領している筈のめぐは床で寝ている青年の大きく開かれた両足の間に居た。上半身を青年の下腹部に預け、気持ち良さそうにすやすやと寝息を立てている。

男(くっ…!可愛い寝顔しやがって…ほっぺたに噛みつきたい!!)

めぐ「う、ん…」

男「っ!?!?」

頭をもぞもぞと動かしながら鼻から三回程息を吸い込むと再び寝息を立て始めた。
その口元はニンマリと弧を描き、何かを食べているかのようにモグモグと動いている。

青年はめぐの髪をさらりと指で梳くと、起こさないようになるべくゆっくりと下敷きになっている体をずらした。
53:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:21:11 ID:iUqifnsgnc
男「…相も変わらずの天の御恵みだこと」

カーテンを開けた先の空模様を見て、青年は苦笑した。
灰色の空からは“相も変わらずの天の御恵み”が降り続いていた。

路地に視線を落としてみるが誰の姿も見当たらない。どうやら、待ち人は来ていないらしい。

男「……?あれ?ホッとしてないか、俺」

めぐ「んぅー…おと、こぉ?」

男「あ、ごめん。起こした?」

めぐ「ん、だいじょぶ」

クァ、と一つ欠伸をすると眠い目を擦りながら体を起こした。
54:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:33:12 ID:nL.3mzOnnk
***


男「到着、と」

二人は丘の上にある公園に居た。
散歩と称して外出をしたものの、特に行くあてもなかったのだ。

男(しかし、まあ…元気なこった)

陽気に駆け回るめぐには雨具が着させられている。傘を持たせてもすぐに放り投げ、傘の意味は皆無に等しかった。
55:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:36:02 ID:iUqifnsgnc
めぐ「男、これ何?」

男「ん?ああ、望遠鏡だよ。覗いてみるか?」

丘の上の公園には展望台が設けられている。
まだ幼い頃、母に連れられてこの公園に来た時の青年の反応もめぐと同じものだった。

めぐ「男!家見付けた!男の家見付けたよ!」

幼かった自分がめぐと重なって見える。

男「あんまりはしゃいだら台から落ちるぞー」

――母もこんな気持ちだったのだろうか。

男「めぐ、楽しいか?」

めぐ「うん!!」

幼い少年と母親の影が二人と重なってぼんやりと消えていった。
56:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 20:44:28 ID:iUqifnsgnc
男「めぐ、危ないから止めなさいって!落ちたらどうすんだ!」

青年の制止も聞かず、めぐはせっせと木に登っていた。慣れた手つきで頭上の枝を掴んでは上へ上へと登って行く。

青年はその姿をおろおろとしながら見ているだけだった。

男「危ないって!めーぐ!」

めぐ「男もおいでよ。ぼーえんきょで見るよりずっといいよ」

男「無理!絶っっっ対無理!」

めぐ「木登り怖いの?」

男「怖いよ!雨降ってんだぞ!うっかり滑って落ちちゃったりするかもしれないだろ!危ない!」

めぐは枝の上に立つと青年を見下ろして笑顔で「大丈夫だよ」と言った。
その笑みはどこか自嘲じみていたが、下から見上げる青年にはその表情までは見えなかった。
57:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 21:11:52 ID:iUqifnsgnc
男「うぅ…何故こんな事に」

木の枝に手を掛けながら青年はぼやく。ミシミシと枝の音聞こえる度に「ヒィ…!」や「アカーン!」などと情けない悲鳴をあげている。

その様を見て、めぐは楽しそうにクスクスと笑った。

めぐ「男、楽しいか?」

めぐの一言で青年の顔がみるみると赤く染まっていく。めぐの言動が先程の自分のそれを真似たものだとすぐに気付いたからだ。

小刻みに震わせた手をめぐの足元にある枝に掛けると、力任せに体を持ち上げた。

男「…っ楽しいわけ!ある、かーっ!!」
58:
◆b.qRGRPvDc:2011/10/26(水) 22:03:10 ID:nL.3mzOnnk
やっとのことで辿り着いためぐの隣で、青年はゼイゼイと息を切らせた。

無数に重なる木の葉の隙間から滴る雫がぽつりぽつりと二人に落ちる。その度にめぐが頭を左右に振るので、青年はバランスを崩さないように木の幹をしっかりと抱き締めて離さなかった。

男(あああぁ…俺高い所苦手なのにあばばばばば)

めぐ「ねぇねぇ、ほら見て!ずーっと向こうまで見えるね!」

男「ふぇ〜?……おお!!」

めぐの指差す先に目をやると、展望台から見る景色よりも随分と綺麗に思えた。

男「これが達成感というやつですね…!」

めぐ「たっせーかんというやつですね〜」

男「繰り返さなくていいから」
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