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魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」

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Part15
130 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/09(金) 01:32:28.35 ID:BRe9u+qMo
耳元で状況を説明され、あまりの恥ずかしさに俯き、黙り込む。
垂れた前髪で、サキュバスAはもちろん、正面から彼女に欲望を叩きつけている勇者でさえも表情が見えない。
サキュバスA「……せっかくだし、私もいじめちゃおうかしら」
脚を強引に開かせていた腕を閃かせ、両方の乳房を後ろから鷲掴みにする。
ぎゅうっと強めに掴んだ為に、サキュバスBの顔が歪み、痛みを露わにした。
サキュバスB「痛っ……痛い、よ……」
サキュバスA「あら?……痛くされるの、好きじゃないの?」
サキュバスB「それっ……は……Aちゃん……じゃ……」
サキュバスA「聞こえないわね」
わざとらしく話を切り、乳房の先端、痛々しいほどに硬く張った乳首を同時に抓り上げる。
乳首が千切れてしまいそうなほどに潰れて形を変え、それでも相反しない痛みと快感に、声すら出せずに酔い痴れる。
勇者「くぅっ……!急に……締め……」
サキュバスA「あら、ごめんなさい。……ですが、陛下。我慢は体に毒ですわよ」

131 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/09(金) 02:10:53.59 ID:BRe9u+qMo
子供じみたやり取りの間にも、手の中で、乳房が形を変える。
下から持ち上げるように揉んだり、乳首を強く摘まんだり、押し潰すように力を加えたり。
その度に切なげな声が聞こえ、犯されている膣内の締まりが強まる。
サキュバスB「……お願……い…も…う……」
サキュバスA「うーん、遊びすぎちゃったかしら?……いい感じに溶けちゃってるわねぇ」
サキュバスB「イき…たいぃ……イきたい…の…」
勇者「ああ。…俺も限界だ」
ストロークが強まり、濡れた肌のぶつかり合う、間の抜けた音が響く。
乳房への、サキュバスの手管による愛撫。
太ましく膨張した怒張による、容赦ないピストン。
乗算のように強まり、その快楽は留まる所を知らない。
サキュバスB「っ…だめ……!もう……イ…く……!」
びりびりと全身に広がる、快楽の波紋。
呑み込まれながら、彼女の体は何度も何度も跳ね狂う。
ぎくぎくと痙攣する膣の締めに、勇者も遂には耐えられなくなった。
勇者「うっ……俺、も……!」

133 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/09(金) 02:35:54.49 ID:BRe9u+qMo
奥深くまで叩きつけて、直後、身を折りながら彼女の中に吐き出す。
腰が砕けるような快感と、痙攣した膣肉が蠕動するかのように震え、男根全体をマッサージするかのように吸い取る。
何度めかの発射だが、やはりこの国は、「淫魔」の国だ。
いや、世界自体が「淫魔の世界」と言ってもいい。
未通であったはずの隣女王も、二人のサキュバスも、堕ちた女神も、例外なく、それでいて違う種類の「名器」である。
淫魔の具合を100とするなら、人間は全て0だとも言えてしまいそうだ。
射精が終わらない。
陰嚢が虚脱してしまいそうなほど、干からびてしまいそうなほどに吸い込まれていく。
サキュバスB「きっ……ぃ……っ」
達した直後で敏感になっていた膣穴に、情け容赦なく大量の精液を叩きつけられ、一層強く全身が跳ね上がる。
食い縛られた歯の隙間から、涎が溢れてくる。
びくん、びくんと豊かな乳房を揺らしながら、背を反らして――『イキ狂う』。
そして、少しずつ……静かに、なっていった。
サキュバスA「……B?大丈夫かしら?」
返事は、返ってこない。
半開きのまま蕩けた目から、涙が溢れている。
サキュバスA「…虐めすぎですわね。失神してしまったようですわ。全く、陛下ったら」
勇者「っふぅ……ふぅ……。俺…のせいか?」

134 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/09(金) 02:54:26.48 ID:BRe9u+qMo
サキュバスA「ふふふ……。さて。私にはお情けをいただけないのですか?」
勇者「お、い……もう一戦、か?」
サキュバスA「…陛下なら、きっと大丈夫ですわ。……とりあえず、お清めいたしますね」
言うが早いか、サキュバスBの秘所から引き抜かれ、凶暴さが形を潜めた逸物へ口を寄せる。
ベッドに脚を投げ出すようにして座っている勇者に、四つん這いになるようにして。
半ばまで、一気に咥えられる。
そして、こびりついた精液を丹念に舐め取っていく。
手は使わず、口だけで。
彼女の髪が太ももにさわさわと当たり、妙にくすぐったい。
時間にして、30秒ほどか。
根元に帯びた愛液、先端から僅かに染み出た精液の残滓までを清め終わり、一度口内に溜める。
最後に、口の中でそれらをまとめ、味わってから――飲み下す。
目を閉じ、喉を艶めかしく鳴らして、引っかかりを気にするように何度も、喉の奥に追いやる。
サキュバスA「…ふふ、ご馳走様でした」
目尻に涙を浮かべながら、微笑を勇者に向ける。
収まったとはいえ、根元まで咥え込んだのだから、反射で涙腺が緩むのも無理はない。
彼女の、そんな顔を見て。
何故か――興奮ではなく、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

260 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/11(日) 00:06:40.64 ID:YO3ZD/yXo
>>134から
サキュバスA「陛下、どうしました?」
勇者「………話したい、事があったんだ」
サキュバスA「彼女が醒めていませんが」
横目に失神したままのサキュバスBを見る。
よほど深く達したのか、未だ反応はない。
もしかすると、眠ってしまったのか。
勇者「頼む、聞いてほしい」
サキュバスA「……何でしょうか」
勇者「言っても……まるで、信じがたいだろうな」
サキュバスA「構いませんわ。仰ってください」
勇者「……俺、は……」
サキュバスA「はい」
勇者「………」
サキュバスA「……『王』ではない?」
勇者「!?」

261 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/11(日) 00:19:13.23 ID:YO3ZD/yXo
サキュバスA「あの朝から、態度があまりに違いますもの。薄々と気付いていましたわ」
勇者「……そうか」
サキュバスA「あの夜伽、女王への態度、その他全て。違いすぎます、平素とは」
勇者「どこで、確信した?」
サキュバスA「……たった今ですわ」
勇者「何だと?」
サキュバスA「状況証拠の推論を口にしただけですのに、否定しませんでした。……詳しくお聞きしても?」
勇者「…敵わないな。……俺は……魔王と……」
彼は全てを語った。
魔王城へと辿り着き、最後の戦いの前に魔王が条件を提示した事。
提示された条件に、卑しい欲望を滾らせて迷った事。
見透かされたように、七日間の体験を提案された事。
そして――乗った事。
後は彼女も知っての通り、と。

263 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/11(日) 00:31:24.50 ID:YO3ZD/yXo
勇者「……信じられるか?」
説明を終え、一区切りついたところで問いかける。
荒唐無稽な説明に、さしもの彼女も戸惑っているようだ。
間の重さを誤魔化すように、勇者はベッドサイドのランプを点ける。
サキュバスA「…信じますわ。今更、疑う事などいたしません」
勇者「…そうか、信じてくれるのか」
サキュバスA「堕女神さんには?」
勇者「………まだ、言ってない。今日の昼餉からすると、気付いているのかもしれないけど」
サキュバスA「恐らく、彼女は気付いていますよ。『あなた』の変化に一番影響を受けたのは彼女ですから」
胸が、痛んだ。
彼女は今、『陛下』と呼ばなかった。
そう仕向け、話したのは確かに自分なのに、それだけで、言い知れない虚無感が心臓に燻る。

265 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/11(日) 00:47:08.58 ID:YO3ZD/yXo
勇者「……彼女が作ってくれた料理。すごく、美味かったんだ」
サキュバスA「?」
勇者「…残さず食ったよ。そして、賞賛した。……それを、『違和感』だと彼女は言った」
サキュバスA「…………」
勇者「…彼女と夜を明かし、口付けを交わした。夜が明けるまで、二人きりで肌を重ねた。……それもか?」
サキュバスA「…それは……」
勇者「……全部、違和感だったってのかよ」
サキュバスA「……………」
沈黙が、勇者にとっては『親切な返答』だった。
時として、沈黙は100の言葉に勝る説得力を得る。
それは、残酷なほどに。
揺れる火が、室内をぼうっと照らし出す。
未だ眠るサキュバスB。
ベッドの上で、脚を投げ出して天蓋を見上げる勇者。
そして、俯き、何も言えないサキュバスA。

266 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/11(日) 01:12:43.19 ID:YO3ZD/yXo
勇者「……参るな、これは」
長く息をつき、誰に言うでもなく呟く。
消化された虚無感が、脱力感へと化け始めた。
彼女へ施した全てが、違和感だったと知らされて、倦怠感さえ指先から侵蝕する勢いに。
サキュバスA「…差し出がましいですが、一つだけ」
勇者「…何だ?」
サキュバスA「……『あなた』には比べる事はできないでしょうが、彼女も、『あなた』が来てから変わりました」
勇者「え?」
サキュバスA「彼女が、『あなた』の為に健気な言葉とともに厨房に立つのを。……あれは、『あなた』の為なんですよ?」
勇者「………」
サキュバスA「…彼女は、笑っていました。私がからかうような言葉を投げかけると、頬を染めて言葉に窮していました」
勇者「…想像がつくよ」
サキュバスA「……そうでしょう。以前なら、この私にも想像できませんでしたわ」

268 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/11(日) 01:43:53.28 ID:YO3ZD/yXo
サキュバスA「隣国の女王。……彼女も、あなたのおかげで国難を乗り越えられましたね」
勇者「単なる偽善さ。『勇者』に疲れて、それでも『勇者』を止められない男の」
サキュバスA「『勇者』が重いのですか?」
勇者「……重すぎて、引きずるしかないんだよ。手を離す事もできやしない」
サキュバスA「………」
勇者「ともかく。……そういう訳で、明日が終われば、お別れだ」
サキュバスA「寂しくなりますわね」
勇者「…心が篭ってないな」
サキュバスA「泣きながら引き留めるのは、私の役目ではありませんし、柄でもありません」
勇者「違いないな」
サキュバスA「……明日は、堕女神さんとお過ごしなさいな」

269 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/11(日) 02:09:13.09 ID:YO3ZD/yXo
勇者「……言われなくても、そのつもりさ」
サキュバスA「………残念、ですわ」
勇者「今度は何だ?」
サキュバスA「あなたがこの国にいる最後の日、夜を共に出来ない事が」
勇者「……済まない」
サキュバスA「この子も。……もし聞いていたら、今頃、泣いて大変でしたでしょうね」
静かに寝息を立てる彼女の頬を優しく撫で、乱れて顔に垂れた髪をどけ、整える。
その寝顔は、安らかそうで。
この先にある離別を知らず、ただ穏やかに眠っていた。
サキュバスA「……この子には、言わない事にしましょう」
勇者「………それでいい、のか?」
サキュバスA「良くはありません。……ただ、『いつも通り』になるだけです」

271 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/11(日) 02:37:56.90 ID:YO3ZD/yXo
勇者「………」
サキュバスA「…分かってはいます。告げて別れた方が、誠実だという事を」
勇者「それなら、何故だ」
サキュバスA「…………残酷すぎるのです。『陛下』が別人で。彼女は『それ』に恋していた、なんて」
勇者「……すまない………」
サキュバスA「責めてはおりませんわ。……真実を告げるのは『正しい』けれども、優しくはありません」
勇者「…………」
サキュバスA「……このまま、眠りましょう。”明日”を、少しでも長くするために」
勇者「……ああ」

273 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/11(日) 03:11:02.16 ID:YO3ZD/yXo
促されるまま、ランプを消して二人のサキュバスを両脇に侍らせた姿で横になる。
このまま目を閉じれば、すぐにでも眠れてしまいそうだ。
そして、朝を迎えて最後の一日が始まる。
二人のサキュバスの寝顔も、温もりも、もう二度と味わうことは無い。
魅了するかのように見つめてくるアメジストのような瞳も。
あどけなく輝かせて見つめてくる金色の瞳も。
二度と、『勇者』を見つめる事は無い。
最後に、何か言おうと、サキュバスAの方に顔だけを向ける。
しかし、声が紡がれる事は無かった。
彼女は、もう眠ってしまっていた。
規則正しく立てる寝息が、耳に心地良い。
疲れていたのか。
それとも、眠る事でしか振り払えない念があったのだろうか。
もう、それを聞くことすらできない。
聞いても、どうする事も自分にはできない。
だから。
――せめても、と。
勇者は、両側の淫魔を抱き寄せ、自らもまた、眠りの世界へと落ちていった。

329 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/12(月) 03:21:24.98 ID:UzZKBwkmo
最後の日
目が覚める。
両側に寝ていたはずの淫魔は、いなかった。
僅かに残る温もりは、彼が起きるよりも少し前に寝床を発った事を示していた。
七度目の朝。
いつもと変わらず、鳥が歌う。
暖かい日差しが窓から注ぎ、細胞へと活力を与えるようだ。
どんな運命の朝も、いつもと同じだった。
変わらず日が昇り、変わらず寝床で目覚め、変わらず腹が減った。
普段というか、これまでなら彼女らが先に寝床を出る事は無かった。
それが、何故か無性に悲しい。
恐らくは、サキュバスAが気を利かせたのだろう。
Bを何と言いくるめたのかは分からない。
二つ、規則正しくノックの音が聞こえる。
音で分かる。
『彼女』だ。

330 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/12(月) 03:43:27.38 ID:UzZKBwkmo
堕女神「陛下、お目覚めですか?」
いつもと変わらない、彼女の声。
身にまとう雰囲気とは裏腹な、妙に暖かみのある声。
それも今日が、最後だ。
勇者「ああ、入れ」
堕女神「失礼します」
きぃ、と扉を開けて入ってくる。
黒く艶やかな髪は、相変わらず美しい。
黒鳥のようなドレスを隙無く着こなし、その所作も完全に身についている。
堕女神「朝食の準備が出来ております。……陛下?」
勇者「え?」
彼女が見つめてくるので、気付く事ができた。
自分の目から、涙が一筋零れていた。
熱くは無い。
すぅ、と流れるように一筋だけ。

331 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/12(月) 04:01:29.52 ID:UzZKBwkmo
堕女神「……まだ、お体の具合が悪いのですか?」
昨夜、浴場で倒れた事を思い出す。
彼女が、身を案じて食事を運んできてくれた事も。
そして、サキュバスAの言葉が思い出される。
勇者「…大丈夫だ」
涙を拭い、服を着る。
上質な白い絹のシャツを羽織り、ズボンを穿き、ブーツに足を突っ込む。
最後に剣を腰に帯びて、立ち上がる。
堕女神「本日は、特に予定は入っておりません。たっぷりと、休養なさって下さい」
勇者「ああ。……それより、早く朝食にしよう」
最後の日。
最後の朝。
それでも、腹は減る。
どんなに哀しくても、辛くても、腹は減るのだ。
それもまた、勇者が旅の中で得た経験値の一つ。

332 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/12(月) 04:52:05.64 ID:UzZKBwkmo
長い廊下を歩いていると、様々な使用人とすれ違う。
初日と同じく、様々な姿の淫魔が働いていた。
中には、隣国の淫魔と思しき種族もいる。
翼のサイズや、肌の色、そして幼すぎる外見で判別できた。
途中、中庭が見えた。
良く整えられた庭園に、勇者の姿をした銅像が建っている。
その正体に確信を得た今では、既に違和感は無い。
勇者「なぁ」
堕女神「はい」
勇者「……この国は、美しいな」
堕女神「…はい」
心から漏れ出すような言葉に、彼女は驚きもせず、同調でもなく、同意した。
傍から見ればその表情は変わらないが、勇者には、柔和な微笑を浮かべているように見えた。
時間を噛み締めながら歩いていくと、大食堂に辿り着く。
金糸を織り込んだ赤の絨毯が敷かれた豪華な内装が目を引く、大きく天井が高い部屋だ。
既にふわりと朝食の香りが立ち込め、鼻腔をくすぐり、胃袋を期待で既に満たされるかのようだ。

333 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/12(月) 05:43:09.33 ID:UzZKBwkmo
前日の件を考慮してか、消化に優しく、それでいて確かな風味と滋養のあるメニューだった。
最初に出されたスープは、口に運ぶと上品な香りと風味が広がる。
どれだけ煮込んだものか。
恐らく、勇者が倒れてからずっとか。
夜を徹して灰汁を掬い、具材の栄養が無駄なく溶け込み、それでいて、くどくはなく、優しく染み込み、胃を労わるような。
そんな難題を、彼女は一晩中、追求していたのかもしれない。
その後も、勇者の身を第一に考えたメニューが続く。
既に体力は回復していたのだが、一口ごとに体力が更に増すような。
とにかく彼の体力を回復させようと、考え抜かれた皿ばかり。
勇者は、舌鼓を打ちながら、ずっと脳裏から離れない『事実』をも同時に噛み締めていた。
二度と、この国の朝を味わう事はできない。
彼女が起こしてくれる事は無い。
素晴らしい朝食も、穏やかで静謐な空気も、全てだ。
勇者「……美味いよ。いつも通りね」
堕女神「勿体無きお言葉です」
褒められ慣れたか、慌てる事も、赤面する事も無い。
だがそれでも、彼女の口元には綻びが見える。

334 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/12(月) 06:23:01.63 ID:UzZKBwkmo
勇者「…ご馳走様。俺は、少し中庭で過ごすよ」
堕女神「はい。……後ほど、お茶をお持ちします」
勇者「頼む」
食卓から離れ、伸びをしてから、中庭へと足を進める。
今日は、良い天気だ。
真っ赤に照り付けている訳でもなく、適度に雲がかかった、素晴らしい表情の空だ。
こんな日は、風を感じ、空気や緑の匂いに包まれて過ごしたくなる。
何より――命の危険が、ない。
午睡するのもいいかもしれない。
この世界にいる時間は減ってしまうが、きっと気持ちよく眠れるだろう。
等と考えを巡らせていると、すぐに中庭に到着した。
以前と同じテラスを目指し、白いテーブルにつく。
風が気持ちよく、暖かい。
ふわりと舞った花びらが、勇者の視界を横切り、整えられた庭園を飾る。
勇者「……美しい、な」

356 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/13(火) 04:45:05.64 ID:3MnLayldo
高く青い空の下、勇者は思う。
これが、自分の人生で最後に許された『平穏』の時なのだと。
血生臭く危険と波乱に満ちた、旅のような人生の中での一時の休息なのだと。
夜に向けて、日が落ちていく。
この青空を見ていられるのも、残り数時間。
何をするでもなく、ただ、空を含めて風景を見やる。
30分もそうしていたら、誰かが茶器を銀製の盆に載せてやって来た。
堕女神「…失礼いたします。お茶をお持ちしました」
彼女はそう言って、眼にも正しい動作で紅茶を淹れる。
湯気が立ち上り、ふわっと芳しい香りが、まるで霧が広がるように勇者の鼻へと届く。
勇者「………」
椅子に背をもたれさせながら、彼女の手元をずっと見ていた。
美しいのもそうだが、彼女の手は、とても優しいのだ。
母親の手のように暖かく、柔らかく、そして、どう表現もしようがない程に、優しい。
堕女神「…いかがなさいました?」
勇者「……綺麗だな、って」
堕女神「?」

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