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魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
Part19


619 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/18(日) 23:38:07.86 ID:iqMuIW78o
必死で前に出ようとする体を、引き留める。
魔法使いは、恐らく致命傷。現状の戦線復帰は不可能。
だがこちらには、僧侶がいる。
即死で無い限りは、彼女が治せる。
それでも、冷静さを取り戻すのは至難。
勇者「……戦士!」
戦士「分かっている!」
勇者が号令を飛ばすより早く、地を蹴って戦士が走る。
兜のフェイスガードを下ろし、盾を前面に構え、大きく引いた剣を横薙ぎにする姿勢に。
五つの眼球が、ぎょろりとこちらを向く。
射竦めるような『魔王』の邪眼を向けられ、恐れを知らぬ『戦士』でさえ、悪寒に襲われた。
―――殺される。
その一念が、戦士の心を支配した。
方向転換を許さない勢いで駆け出してしまった今、迎撃を避ける事は不可能。
だからこそ、今更……逃げる手立ては無い。
恐怖を覚悟で塗り潰し、その瞬間を待つ。
―――戦士は、仲間の為に死ぬのが役目だ。
酒場で仲間に聞いた言葉を木霊させながら、更に深く、加速していく。

620 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/18(日) 23:39:47.35 ID:iqMuIW78o
無拍子で生成され、放たれた氷塊が連続で飛来する。
盾で頭と胴を守りながら、兜の装飾を毟り取られながら、脚甲を変形させながら。
業物の盾でさえ、魔王の呪文の前では紙のようだ。
左手に衝撃を感じ、その度に、骨が軋むのを感じた。
盾を下げてしまった拍子に、左側頭を拳大の氷塊が直撃する。
角飾りがへし折れ、視界が一瞬暗転し、足元がぐら付いた。
まだ、倒れる訳にいかない。
視界が、再び鮮明さを取り戻す。
くずおれようとした脚に再び力を注ぎ、踏み出す。
左腕に、もはや感覚は無い。
盾は変形し、外縁部は欠け、もはや防御力は期待できそうになかった。
だが、それは歩みを止める理由にならない。
未だ、自分は剣を握っているからだ。
勇者が声を張り上げているのが聞こえた。
あの男の事だ。きっと、『無茶をするな』だとか『一度退け』だのと言っているのだろう。
それでも、前を見据え、魔王の眼を睨み返す。
変形したフェイスガードの隙間から、魔王が二本の左手を振りかぶるのが見えた。
避けられない。
握りつぶされるのか、それとも吹き飛ばされるのか。あるいは、甲冑ごと引きちぎられるのか。
未来は、そんなところだろう。
瞬間、一陣の風が吹く。

621 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/18(日) 23:41:10.65 ID:iqMuIW78o
僧侶の詠唱が終わり、魔力が解き放たれた。
真空の刃を無数に生み出す呪文。
彼女が唱えられる中で、最も高威力なものだ。
見えない刃が魔王の体躯を撫で、いくつもの切創を生み出す。
多くが漆黒の体液が僅かに滲む程度で、ぱっくりと開く傷が二つか三つ。
ダメージは、与えられている。
だが、それ以上に魔王の生命力が、高すぎるのだ。
真空の刃に付随した強風が、ほんの一瞬のみ、魔王の体を押しとどめて動きを止めた。
その一瞬は、『戦士』にとっては『永遠』と同義だった。
本来なら、疾風の如き剣技で気を引き、勇者に魔法使いを救出させる時間を稼ぐはずだった。
ダメージを期待してではなく、単なる繋ぎとして。
だが今なら、当てられる。
魔神の如き威力を生み出す、渾身の斬撃。
避けられれば死ぬしかない、命ごと浴びせる文字通り”必殺”の技を。
裂帛の気迫が、戦士を覆う。。
剣が重くなり、同時に体が軽く感じる。
超圧縮された闘気が全身へ漲り、全身の血液が沸騰しそうなほどに熱く滾る。
全身に鈍色に輝く地獄の鎧を纏い、手にした剣が重力の塊へ化けたように思えた。
剣先が届く寸前、魔王の胸中にある言葉が去来した。
―――『魔神』と。

622 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/18(日) 23:43:06.87 ID:iqMuIW78o
会心の斬撃が、魔王の左腕に食い込む。
二本の左腕が、まるで呆気なく根元から両断され、宙を舞った。
主を失った腕は空中で黒煙と化して蒸発する。
戦士はその勢いのまま、僧侶の眼前に滑り込む。
満身創痍の有様で、盾も兜も、使い物にはならない。
僧侶はすぐに、回復の呪文を唱える。
勇者は、間隙を逃がさず倒れた魔法使いの下へ駆ける。
さしもの魔王も腕を失えば、その痛みは抑えられないようだ。
絶叫が広間に響き渡る、その間に――無茶苦茶に振り回される右腕の間を縫い、辿り着いた。
勇者「おい、魔法使い!…しっかりしろ!」
反応は、返ってこない。
死んではいないが、すぐには意識は戻りそうに無い。
勇者「……くそっ!」
意を決し、左肩に彼女を担いで、僧侶のもとへ走る。
動かしてよい状態かは分からないが、治せるのは僧侶だけだ。
勇者の肉体には、彼女の体は軽く感じる。
こんなにも細くか弱い体に、魔王の豪腕が襲い掛かったのだ。
死んでいないのが奇跡としか思えなかった。

623 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/18(日) 23:44:30.90 ID:iqMuIW78o
回復を受けている戦士の傍らに彼女を寝かせ、魔王へと視線を向けた。
左腕をまとめて失った痛みは、未だ響いているようだ。
戦士が命を賭して稼いでくれた時間を、無駄にはできない。
勇者「頼んだぞ、僧侶。…今度は、俺が時間を稼ぐ」
僧侶「そんな!無茶です!あの魔王を相手に、お一人でなんて!」
勇者「魔王が回復を待ってくれる訳が無い。……危険だというなら、急いでくれ。いつまでもつか分からん」
僧侶「……はい、どうか……死なないでください」
背に僧侶の懇願を浴びながら、剣を抜いて魔王へ向かう。
ゆっくりと歩み寄る足取りは徐々に加速していき、攻撃が手薄になると思われる左手側から斬りつける。
狙いは、脇腹。
魔力で強化された刀身が、紫色の体表へ吸い込まれていく。
勇者「っうあぁぁ!」
硬い。
勇者の剣に、強化呪文を乗せても、なお魔王の身体は硬い。
今身を持って知っただけに、先ほどの戦士の攻撃が、いかに強力だったかを思い知る。
勇者は皮膚を浅く薙いだだけ。
それなのに、戦士は――こんな魔王の腕を、二本もまとめて切り落としたのだ。
勇者「……クソっ……それなら!!」
柄をぎゅっと握り直し、呼吸を整える。
途中に襲ってきた魔王の右腕の一つを掻い潜り、再び距離を取る。

624 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/18(日) 23:48:17.57 ID:iqMuIW78o
旅の途中、鋼鉄のような皮膚を持つ魔物に出会った。
その硬さは、今目の前の魔王と同じ、いやそれ以上。
戦士と勇者は、それを倒す為にある技を思いついた。
呼吸を整え、一撃に全てを込め、鋼鉄をも切り裂く剣技。
幾度も失敗し、幾度も逃げられ、ようやく身につける事ができた秘剣。
それならば、魔王の皮膚すらも切り裂けるかも知れない。
試す価値は、十分にある。
呼吸を深く、長く取る。
極限まで集中しなければ、鋼鉄の魔物を斬る事はできないからだ。
静寂が心を満たす。
魔王の殺気の流れが、手に取るように分かった。
今しがた味わった皮膚の感覚が手に残り、切り裂く様子を克明に思い描く。
僧侶は今、戦士の治療を終え、魔法使いに回復を施している。
今少し稼げば、体勢は整えられる。
勇者「………!」
正眼に構え、こちらに視線を向けた魔王を正面に捉える。
痛みから回復した魔王は、口元に魔力を溜めていた。
勇者は、一気に距離を詰める。
まるで地が歪み、縮まったかのように瞬時に懐へ潜り込む。
この歩法もまた、鋼鉄の魔物を、離脱されるより素早く斬るための鍛錬の賜物だ。
――再び斬り上げられた剣は、更に深く、初撃で刻んだ傷をなぞり、血飛沫を上げた。

625 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/18(日) 23:50:00.10 ID:iqMuIW78o
魔王の嘶きが聞こえた。
左腕に加え、脇腹の深手。
いける。
心の中でそう呟き、左手側に離脱して、反転して身を縮める。
今なら、更にもう一太刀加えられる。
小人めいた計算の下、勇者はその場から真上に飛ぶ。
自由落下の勢いのまま、直上から兜割りに斬りつける算段。
狙いは、頭。
その時、痛みに狂乱していたはずの魔王が、突如真上の、勇者を見た。
勇者「なっ……!?」
魔王「……『魔王』ヲ侮ルナ」
がちゃがちゃと牙を打ち鳴らしながら、魔王はぐるりと半回転する。
空中で無防備となった勇者の左側から、巨木のような尻尾が襲って来た。
僧侶は戦士の回復を終えて、魔法使いへと回復呪文を唱えていた。
―――酷い。
肋骨が四本。内臓をひどく傷めて、脊椎にもダメージがある。
頭を含めた全身を強く打っているため、戦闘中に意識が戻るかどうかも怪しい。
最上級の回復呪文を唱えて、細胞を活性化させて傷を塞ぐ。
僧侶の魔力が彼女の細胞へ溶け込み、エネルギーと化して超高速で新陳代謝を促進していく。
代償として、僧侶は魔力ががくんと削られていく、激しい疲労感と倦怠感を覚える。
使いつけない攻撃呪文に加え、回復呪文の連唱。
魔力が、底をついてしまいそうだ。

626 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/18(日) 23:51:12.23 ID:iqMuIW78o
集中していた僧侶の耳に、不吉な音が飛び込んできた。
何かがひしゃげ、直後、壁に激突する大音響。
ぞくり、と死神の鎌で背を撫でられるような悪寒。
発作的に顔を上げる。
勇者が、いなかった。
魔王がこちらを向いて、歯を剥いていた。
―――勇者は、空中でまともに尾の一撃を受けた。
寸前で防御はしたが、大質量に遠心力の加護を受けた一撃は重すぎる。
どこかの骨がみしみしと軋み、加重に耐え切れず、ゴキっ、とへし折れる音を勇者は聴いた。
その勢いのまま飛ばされ、玉座側の壁へと吹き飛ばされ、叩き付けられた。
最悪な事に、現状を整理すると……僧侶が、二人へ回復を施し、魔力が尽きかけている。
魔王はそちらへ意識を向けている。
勇者は直撃を受けて吹っ飛び、僧侶と魔王を挟んで遥か向こう側に。
地響きとともに、魔王が近寄ってくる。
消耗した体で、何とか立ち上がり、杖を構え、横たわる二人の前に、庇うように立ち塞がる。
魔力の消耗で弱った体。
加え、目の前には人界最凶の存在が、絶望的な威容を以て迫っている。
脚が、止め処なく震える。
根源的、そして不可避の恐怖がすぐ身近に迫り、涙が滲む。
怖い。
死にたくない。
――でも、ここを……どくわけには、いかない。

627 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/19(月) 00:15:07.91 ID:IpKcrNbbo
勇者は、魔王の向こう側の壁に叩き付けられた。
戦闘能力のある二人は、戦士はともかく魔法使いは未だ昏倒している。
――逃げる?
いや、ダメだ。
皆を見捨て、逃げる訳にはいかない。
仲間達を置いて、一人だけ逃げるなど論外だ。
十分に、それは理解している。
なのに、何故か……頭から、食いついたようにその言葉は離れてくれない。
魔王「……ソレモイイ。ダガ、知ッテイルノダロウ。……『魔王カラハ、逃ゲラレナイ』」
逃げようと背を向ければ、その瞬間、背から引き裂かれる。
炎の呪文で、骨まで灰にされる。恐ろしい歯で、生きながらに食い殺される。
それとも――魔物の群れに放り込まれ、神職として最も恥ずべき、恐ろしい結末を迎えるのか。
魔王「…シカシ。我ノ恐ロシサヲ知ラシメル、証人ガ必要ダ」
僧侶「え……?」
魔王「逃ゲルガイイ。見逃シテヤロウトイウノダ。……アワレナ仲間達ハ、置イテ行ッテモラウガナ」

630 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/19(月) 00:39:22.50 ID:IpKcrNbbo
逃がして、くれると。
魔王は、そう言っている。
僧侶「…………」
―――神よ、お許しください。
胸中にその言葉を唱えながら、後ずさる。
その所作に、魔王は……顔を歪め、嗤った。
しかし、嗤い顔が続いたのは、ほんの一瞬。
風が吹きぬけ、体表に傷とも呼べぬ傷が刻まれた。
浅く、皮を切り裂くだけのひ弱な呪文で。
―――神よ、お許しください。
―――私は、迷ってしまいました。
それが、密かな懺悔の続き。
僧侶「……魔王…から、は…逃……げ…ない」
今の呪文で、魔力は全て使い果たした。
これで、本当に”空”だ。
魔王「…勇者トイイ、貴様ラハ……救イガタイ。セメテ、終ワラセテヤル」
魔力が揺れ、魔王の喉の奥へと集まっていく。
逃げる事は、もう敵わない。

632 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/19(月) 00:46:58.37 ID:yXV7GACyo
一体どうなるんだ…?ゴクリ

633 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/19(月) 01:11:12.96 ID:IpKcrNbbo
勝手に足が動き、進み出た。
大砲の筒先のように感じる、魔王の眼前に。
せめてもの気休めに、戦士と魔法使いを庇うかのように手を広げ、盾となろうとして。
僧侶「ごめんなさい。……私達、世界を……救えませんでした」
涙が頬を伝う。
今わの際、彼女の心へ降って沸いたのは、謝罪の念。
あんなに、旅をしたのに。
魔王の城まで、勇者とともにやってきたのに。
魔王を、倒せなかった。
倒せずに、ここで死んでしまう。
思い出されたのは、神父の微笑み。
教会にやってくる子供達の、魔王への恐怖からの不安に駆られ、それでも笑おうとしていた痛々しい姿。
あの子達を救い、未来への道を開いてあげたかったのに。
全てが、無駄だったのだろうか。
そして――暗黒の炎が、吐息と化して放たれる。
黒炎が視界を埋め尽くす中、僧侶は、黙って目を閉じ、運命を受け入れた。

634 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/19(月) 01:37:22.44 ID:IpKcrNbbo
―――おかしい。
―――いつまで経っても、身を焼かれない。
眼を、ゆっくりと開ける。
赤く輝く魔力の殻が、放たれた吐息を散らしていた。
ちりちりと僅かな熱は感じるものの、殺傷性はほぼ完璧に殻に奪われていた。
僧侶「これ、は……?」
魔法使い「…ゲフッ……あんた、ね……怪我人、働かすんじゃ……ないわよ」
彼女は、いつの間にか立ち上がっていた。
前かがみの姿勢で脇腹を押さえながらという有様ではあるが、彼女は、回復していた。
口元から血を垂らしながら防御結界を維持する彼女は、怨めしげに僧侶を睨みつける。
戦士「…しかし、マズい。……俺も、立つのがやっとだ」
次いで、戦士もよろよろと立ち上がる。
壊れた盾は捨て、視界を塞ぐだけの兜も脱ぎ捨てる。
顔を横断する刀傷が特徴的な、精悍な顔が現れる。
言葉とは裏腹に……彼は、悲観的な表情をしてはいなかった。
魔王「……小癪ナ」
黒炎の吐息を吐き終え、魔王が更に近寄る。
魔力の殻は、物理攻撃に弱い。
あの豪腕で殴りつけられれば、たちまち崩れてしまう。

635 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/19(月) 02:08:11.12 ID:IpKcrNbbo
魔王の姿が、強烈な閃光に打たれて浮かび上がった。
ほぼ同時に、聞き覚えのある轟音が響き渡る。
耳をつんざき、腹まで痺れさせるような、強烈な衝撃波。
更に、閃光と轟音は続き、魔力の殻の向こうで、何度も魔王が身をよじる。
肉の焼ける匂いが漂い、それは――魔王の体を、雷撃が灼いている証。
魔法使い「まさか………」
僧侶「……雷撃の、最強呪文です。本来、集団に向けて放つものを……魔王に集中させているようです」
戦士「生きて、やがるのか」
その間にも、絶え間なく雷撃が魔王の体を打つ。
一発ごとに魔王が悶え、唾液を散らしながら絶叫する。
数にして凡そ20の、極大の雷撃が収まったとき、魔王は全身に焼け焦げを作り、
煙を上げ、残った腕で体を支えている有様だった。
魔王「キサマ……!!」
勇者「寂しいだろ。……俺を無視するなよ、『魔王』」
幾らか頼りない足取りで、『勇者』が魔王の後ろから近づいていく。
左腕はあらぬ方向にねじれ、ぶらぶらと力なく垂れ下がっていた。
頭からは夥しい血が流れ、左目はずっと瞑られたまま。
歩き方から見て、恐らく足の骨も折れたか、ヒビが入っているはずだ。
肺をやられたか、咳き込む拍子に、血反吐が出る。
勇者「……もう、限界だ。『お前を倒す程度』の力しか、残ってない」

636 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/19(月) 02:36:19.89 ID:IpKcrNbbo
魔王「ヤッテミルガイイ!」
吼えて、魔王は身を翻し、勇者へと駆けていく。
巨体に見合わぬ俊敏さで、踏み出すたびに床を砕き、大きすぎる足跡を残した。
先の雷撃で吹き飛んだ魔力の障壁を再構成し、全身を覆いながら。
この巨体、速度で突進を受ければ、今の勇者は間違いなく即死。
だが、勇者はその場から微動だにしない。
剣を頭上に大きく振り上げ、身をかがめて力を溜める。
刀身の光が、増幅していく。
強く輝いていく光は、脈打つように”大きく”刀身を覆っていく。
錯覚ではない。
実際に光が刀身を覆って、直視できぬほど眩しい、光の刃を構成していく。
光の粒が集まり、刀身と、勇者の周りで踊る。
蛍が舞うが如く集まり、徐々に刃を膨れ上がらせ、最終的に……勇者の身の丈を越す、光の剣となった。
勇者「――――っ!!」
雄々しく叫び、飛び上がり、頭上から光の剣を、魔王へと振り下ろす。
叫ばれたのは、この『剣技』の名前。
勇者にだけ扱える、雷光の剣技。
最高の剣技、そして最高の勇気を持つ者のみが扱えると伝えられる、伝説の剣。
―――そして決戦の場は、眩い光に包まれた。

637 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/19(月) 02:45:17.80 ID:iK1xhESAO
終わりが近づいている・・・

638 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/19(月) 02:51:50.73 ID:aF7gdUQ7o
もう堕女神には会えないのか‥‥‥

639 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/19(月) 02:58:18.37 ID:P864X/BDO
駄目だっ
眠いけど、ここで寝るわけにはいかん

640 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/19(月) 03:01:43.43 ID:IpKcrNbbo
光が止み、三人が視界を取り戻した時。
眼に飛び込んできたのは、予想通りの、そして、精神を昂揚させる光景。
彼らが、世界中の人々が、夢見てやまなかった事。
過酷な旅を続けてきた、最大の理由。
気付けば、眼から涙が溢れていた。
潤んだ瞳が、揺らしながらその光景を映し続ける。
魔王の巨躯は、袈裟懸けに真っ二つにされ、暗黒の体液をだくだくと流していた。
勇者はその屍の上に、堂々と立っていた。
―――『勇者』が、『魔王』を倒したのだ。
神話のような光景が、目の前に広がっている。
誰もが子供の頃に聞いた、勇者のおとぎ話が目の前にあった。
誰もが子供の頃に憧れた、勇者の輝かしい勝利が目の前にあった。
そして、あれは……おとぎ話などでは、なかったのだ。
―――三人の仲間達は勇者へと駆け寄っていく。
勝者を、称えるために。

641 : ◆1UOAiS.xYWtC :2011/12/19(月) 03:15:09.10 ID:IpKcrNbbo
戦士が勇者の体を支え、前から抱きとめる。
だらりと弛緩した体が、重く圧し掛かった。
あまりに酷い怪我だが、驚くべき事に意識がある。
すぐに彼を魔王の屍から下ろし、僧侶が進み出た。
勇者「……あんまり、見えないんだ。……やった、のか?」
戦士「ああ。……倒したぞ!『魔王』を倒した!」
勇者「…そっか。………良かった」
僧侶「…待っててください。今、回復しますから」
勇者「いや、それはいい。……それより……」
魔法使い「…何よ?」
―――ぐらり。
地面が揺れ、足元を危うくさせた。
魔法使いは揺れた拍子に尻餅をつき、悪態を吐く。
勇者「……やっぱりな。……『魔王城』は、『魔王』の魔力でもってたわけか」
戦士「早く出るぞ。…これ以上、留まる意味は無い」