女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
Part11
189 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:05:28 ID:WLA
リン「ここから離れた方がいい」
リンが静かに言った。私は壊れたおもちゃのようにガクガクと何度も頷いた。
リン「立てるか。ほら」
差し伸べられたリンの手を取ろうと、力を振り絞って起き上がる。
「ひゅーひゅー」
その視界のはじに、なにかが。
リン「…」
「お姉ちゃんたち、らぶらぶー」
女「ひ、…」
白い霞のような少年が、街灯の上で足をぶらぶらさせていた。
女「リ、リィイイイイン!!!」
またしても私はリンに抱きつく。細い腰に手を回し、顔をうずめた。
リン「…」
一方、リンは瞳孔さえ開いているものの、鋼の理性を取り戻したようで。
リン「…誰だ、お前」
霞む少年を睨みつけ、言った。
「あはは」
「らぶらぶ。ひゅー」
リン「…クリアか?」
「さあどうでしょう。そのお姉ちゃんとチューしてくれたら教えてあげる」
リン「殺すぞ」
重い一言だった。 およそ子どもにかけているとは思えない、ドスの効いた声。
190 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:13:29 ID:WLA
「あはは、こわーい」
少年は街灯の上に立つと、くすくす笑った。
リン「降りて来い!屋敷で不愉快な演出してたのもお前だな」
リンが吠える。しかし少年は愉快そうに笑うだけだった。
「怒ってる怒ってるぅ」
女「…ち、ちょっと」
ようやく回復した私も、リンの加勢をすることにした。
女「あなた、…誰なの?ねえ、降りてきてよ」
「んふふ」
少年は首を傾けてこちらを見た。 …愛らしい少年だった。
年は、10歳前後か。ぼんやりと透けて、白い。
正確には、露出した肌の部分が白い。 身に着けているセーラータイプのシャツなどには、滲んだ青色が確認できる。
「降りてきてよぅ」
少年はウェーブのかかった髪を揺らしながら、歌うように言った。
私をまねして、からかってる。
女「ちょ…」
「知りたかったら、捕まえてごらんよ」
ふわ、とバレエダンサーのような見事な一回転をすると
「きゃははっ」
少年は煙のように消えた。
女「…」
リン「…」
しばし、呆然。
191 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:18:49 ID:WLA
女「…今の、何」
リン「分からん」
女「見たこと、ある?」
リン「無い。クリアにしても異常すぎる。ほぼ人間の形をしているし、発声も滑らかだし、意識もある」
リン「第一。…質感だ。クリアだと流動性のある液体質な体をしているが、あいつは違う。煙のようだ」
女「ま、まさかさ、幽霊…なんじゃ」
リン「…」
リンはさっきまで少年のいた街灯を睨み、喉を振るわせた。
リン「…俺はそういう、非科学的なものは信じない」
女「でも、…でもあれ」
リン「とにかく、捕まえるぞ。あいつが何者であれ、一発食らわせないと気がすまない」
女「え!?」
主旨がズレている気がする。
リン「ほら、グズグズするな!行くぞ」
リンは腰を捻って私を振り払い、駆け出した。
女「ちょ、待ってよお!」
まだ少し震える足をいなして、私も彼の揺れる後ろ髪を追いかけた。
192 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:25:04 ID:WLA
…ああ。
特筆すべきだろうか。この半日を。
私達は、あの忌々しい少年(?)を探して、日が沈むまで遊園地を駆け回った。
しかし。
リン「…」
女「…」
夕暮れ時。オレンジ色の日が山の間に沈もうとしている、今。
リン「…疲れた」
女「ね…」
私達は、満身創痍でベンチに伸びている。
リン「くそ、…あいつ。一体何処に」
女「分かんないよ…」
あの少年は、二度と私達の前に姿を現さなかった。
全エリアを駆け回った私達が、今彼を見つけたとしても、…また逃げられるだけだろう。
女「足が痛い…」
リン「だから言っただろ。…そんな歩きづらそうな靴」
女「機能的なほうだってば」
リン「…」
ぐったり。このオノマトペが今世界で一番似合うのは、きっと私達だ。
193 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:29:06 ID:WLA
女「もう、…どうする?リン」
リン「これ以上の活動は危険だ」
リンは額に腕を乗せ、溜息混じりに言った。
女「車まで帰る?」
リン「そうしよう。今のところクリアは確認できていないが、夜に出るかもしれない」
女「…そだね」
よっこらせ、と立ち上がる。
リンは彼らしくなく背を少し丸め、遊園地の階段を下りていった。
女「…明日、どうする?」
リン「探す」
女「だよねえ…」
ゾンビのようなスピードで駐車場に入り、車の座席へと体を投げ出す。
女「あー…」
このまま、永遠に眠れそうな気がした。
リン「…計画を練ろう。このままじゃジリ貧だ」
女「はー、い」
明日の寝坊は、多分確実。
194 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:35:59 ID:WLA
月が昇り、私達は昼と同じようにカップ麺で夕食を済ませた。
お風呂に入りたかったが、生憎こんな所にシャワーなど無く。
女性としての威厳を全て奪われたような気分で、私は駐車場で伸びをした。
リン「はい」
リンが蒸しタオルを投げて寄越す。
リン「これで我慢しろ。風呂は、今日は無理」
女「はーい…」
抵抗する気力も無く、車を挟んで見えないように体を拭いた。
リンがくれた無香の消臭剤だけ、体に降りかける。
女「…ええと、大丈夫?」
リン「なにが」
女「におい」
リン「どうでもいい」
女「あ、そう…」
トイレの水道で髪をがしゃがしゃ洗ってきたリンは、不思議と何の匂いもしなかった。
男の子特有の、あの、汗の匂いもない。
女「…ねむ」
リン「だな」
195 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:40:37 ID:WLA
計画をたてよう、と提案したリンだが、彼の目の下にはクマが浮き出ていた。
女「…もうさ、休まない?」
リン「…そうだな」
その言葉を待っていたというように、リンは座席に身を投げ出した。
リン「…寝る。おやすみ」
毛布にすっぽりと覆われ、私に背を向ける。
女「おやすみ、リン」
私も毛布を抱え、目を閉じた。
眠りは、一瞬で私の体を飲み込んだ。
目の前が、暗くなる。
「ふふ」
「やっぱりなー」
声が聞こえる。
いたずらっこのような、可愛らしい声が。
「ねえねえ、おねえちゃーん。おーきて」
頬に何かが触れた。 棒のようなもの。 私の頬を、つんつん突付く。
女「…ん、ぅ」
「おーきーてーってば」
女「…!?」ガバッ
「おはよお」
目の前に、あの煙の少年がいた。
196 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:45:53 ID:WLA
女「ひ、…」
「おっと、ちょっと待って。しーだよ。しー」
悲鳴をあげようとした私の口を、温度の無い手が覆う。
「…あの人寝てるから。起こさないでよね」
女「ー、…っ」
「そんなに怖がらないで。ね、大丈夫。なーんにもしなよ」
少年はふわふわした髪を揺らし、にこりと笑った。
女「…な、んで。…ここに?」
「えへへ。…しー。ね、外に出てくれない?」
女「…嫌だ」
「えー。…じゃあ、イタズラするよ」
零れそうな大きな目が、きゅっと細められた。
女「…」
嫌な予感がする。
「いいのかなー?」
女「だ、…駄目。分かった、だから落ち着いて」
「うん。じゃあ、僕の言うこと聞いてくれるよね?」
女「…」コクコク
「静かに車から出て」
女「…」
身長にドアを開け、なるべく静かに閉めた。
197 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:50:42 ID:WLA
悲しいかな、リンは死人のように身を堅くし、泥のような眠りを貪っている。
女(気づけよぅ…)
「はい、よくできました」
少年は嬉しそうに私の腕に絡み付いてきた。
女「…あなた、本当に…。何なの?」
「ふふ」
少年が一歩先へ踏み出し、手招きする。
「ついておいで。一緒に来れたら、教えてあげる」
女「…」
向かう先は、遊園地。
どうしよう。…リンを置いて、一人で?
女「…駄目。危ないよ。知ってるでしょ、透明なアレが出るの」
「お姉ちゃんなら、大丈夫でしょう?」
女「!」
くすくす、くすくす。イタズラっぽい目で笑う少年。
「ほら、置いていっちゃうよ」
女「…」
武器なら、いつでもポケットに忍ばせている。言いつけどおり。
女「…分かった」
私は少年に手をひかれるまま、夜の遊園地へと足を向けた。
198 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:55:22 ID:WLA
「ええと、改めてこんばんは」
少年は遊園地のオブジェの前で、ぺこりと礼をした。
「僕の名前はコマリ。お姉ちゃんは?」
女「…女」
コマリ「ふうん。あの怖い顔したお兄ちゃんは?」
女「彼はリン。一緒に旅をしてるの」
コマリ「へええ」
コマリ、という少年の目がまたきらりと輝いた。
コマリ「かれし?」
女「断じて違います」
コマリ「えー、でもさあ。抱き合ったり一緒に寝たりしてたじゃん。そういうの、コイビトっていうんだよ」
女「…違うの。あれは不可抗力というか、しかたなく」
コマリ「なんだ。つまんないのー」
女(…とんだおませさんだな)
コマリ「ね、女たちって、人間だよね?生きてるの?」
女「そ、そうだよ。当たり前じゃん」
コマリ「…ふうーん。そうなんだー。やっぱりか」
199 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:01:55 ID:WLA
コマリはふわふわと宙を漂い、私を観察した。
コマリ「あの病気に、かからなかったんだね」
女「…うん」
コマリ「そっかー。ラッキーだね」
女「そうかな」
私の髪をなでたり、足を触ったり、無邪気ながらに接してくるコマリ。
彼は、一体。
女「ねえ、コマリ。…あなたは、人間?」
コマリ「えー」
コマリはくすくすと笑った。
コマリ「人間。そうだね、前はそうだったよ」
女「今は、…違うの?」
コマリ「うん。だって僕、死んだもん」
女「…」
じゃあ、じゃあ。やっぱり彼は。
コマリ「僕、…ユウレイってやつなのかも」
女「そ、…う」
コマリ「怖い?」
女「ううん」
コマリの笑みは、太陽に似ていた。最初は戦いたものの、今ではただの子どもに見える。
コマリ「…じゃあ、女。僕の話、聞いてくれない?」
女「話?」
コマリ「うん。ずっとずっと、誰かに言いたかったけど言えなかったことがあるんだ」
200 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:06:56 ID:WLA
女「…いいよ」
コマリ「ほんと?やったあ」
コマリは私の手を取ると、ベンチに座らせた。
コマリ「ええとね、長くなるけどいい?」
女「うん」
コマリ「…えーとね、僕、ママと一緒にここにいたんだ」
コマリの目が伏せられた。そのまま、無邪気さを孕んだ声で語りだす。
コマリの、記憶。
彼にまだ、実体があったころの話だ。
201 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:12:11 ID:WLA
僕ね、あの日ママとここにいたんだ。
ママは、ここのせきにんしゃ、だったんだよ。
だからあの日も、避難するより早くここの「せきゅりてぃー」を、…ええと
…うーん。難しいから、よく分かんない。けど、とにかくお仕事でここにいたの。
え?そうだよ。僕も一緒にいた。
遊園地のてんけん?が終わったら、お爺ちゃん家に避難することになってたの。
お昼なのに、お客さんいなくてね。
社長さんと、ママと、僕と、あと従業員の人が2人くらいしかいなかった。
僕はスタッフルーム、っていうところで、お菓子を食べながらママのお仕事が終わるの待ってたんだ。
あ、鍵、かかってた?
…そっか。
うーん、分かんない。鍵、どこかな?
まあ、いいから聞いて。
それでね
202 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:17:44 ID:WLA
ママが皆とお仕事して、お昼の1時くらいには終わったみたいで。
「コマリー、お待たせ。行こう」
ってママが言ったの。
社長さんが来てね、僕の頭なでて、
「また会おうな、コマリ。落ち着いたら、また皆で焼肉食べに行こう」
って言ってくれた。
社長さんね、うふふ。ママのこと、好きなんだよ。
パパとママがりこんしたときも、ママのこと慰めてくれたの。
僕ね、前のパパ嫌いだったよ。すぐ怒るもん。けど、社長さんがパパだったら、…嬉しいかも。
ええと、それでね。
社長さんと一緒に、駐車場まで行ったの。
車に乗ったんだけど、そこでママが「あ!」って言った。
社長さんとごにょごにょ話してね、それで、僕に
「コマリ、ちょっと忘れ物をしたの。社長さんととりに行くから、待ってて」
僕、うんって返事した。
ママは社長さんと走って、遊園地に戻っていった。
でね、夕方になっても戻ってこなかったの。
リン「ここから離れた方がいい」
リンが静かに言った。私は壊れたおもちゃのようにガクガクと何度も頷いた。
リン「立てるか。ほら」
差し伸べられたリンの手を取ろうと、力を振り絞って起き上がる。
「ひゅーひゅー」
その視界のはじに、なにかが。
リン「…」
「お姉ちゃんたち、らぶらぶー」
女「ひ、…」
白い霞のような少年が、街灯の上で足をぶらぶらさせていた。
女「リ、リィイイイイン!!!」
またしても私はリンに抱きつく。細い腰に手を回し、顔をうずめた。
リン「…」
一方、リンは瞳孔さえ開いているものの、鋼の理性を取り戻したようで。
リン「…誰だ、お前」
霞む少年を睨みつけ、言った。
「あはは」
「らぶらぶ。ひゅー」
リン「…クリアか?」
「さあどうでしょう。そのお姉ちゃんとチューしてくれたら教えてあげる」
リン「殺すぞ」
重い一言だった。 およそ子どもにかけているとは思えない、ドスの効いた声。
190 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:13:29 ID:WLA
「あはは、こわーい」
少年は街灯の上に立つと、くすくす笑った。
リン「降りて来い!屋敷で不愉快な演出してたのもお前だな」
リンが吠える。しかし少年は愉快そうに笑うだけだった。
「怒ってる怒ってるぅ」
女「…ち、ちょっと」
ようやく回復した私も、リンの加勢をすることにした。
女「あなた、…誰なの?ねえ、降りてきてよ」
「んふふ」
少年は首を傾けてこちらを見た。 …愛らしい少年だった。
年は、10歳前後か。ぼんやりと透けて、白い。
正確には、露出した肌の部分が白い。 身に着けているセーラータイプのシャツなどには、滲んだ青色が確認できる。
「降りてきてよぅ」
少年はウェーブのかかった髪を揺らしながら、歌うように言った。
私をまねして、からかってる。
女「ちょ…」
「知りたかったら、捕まえてごらんよ」
ふわ、とバレエダンサーのような見事な一回転をすると
「きゃははっ」
少年は煙のように消えた。
女「…」
リン「…」
しばし、呆然。
191 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:18:49 ID:WLA
女「…今の、何」
リン「分からん」
女「見たこと、ある?」
リン「無い。クリアにしても異常すぎる。ほぼ人間の形をしているし、発声も滑らかだし、意識もある」
リン「第一。…質感だ。クリアだと流動性のある液体質な体をしているが、あいつは違う。煙のようだ」
女「ま、まさかさ、幽霊…なんじゃ」
リン「…」
リンはさっきまで少年のいた街灯を睨み、喉を振るわせた。
リン「…俺はそういう、非科学的なものは信じない」
女「でも、…でもあれ」
リン「とにかく、捕まえるぞ。あいつが何者であれ、一発食らわせないと気がすまない」
女「え!?」
主旨がズレている気がする。
リン「ほら、グズグズするな!行くぞ」
リンは腰を捻って私を振り払い、駆け出した。
女「ちょ、待ってよお!」
まだ少し震える足をいなして、私も彼の揺れる後ろ髪を追いかけた。
192 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:25:04 ID:WLA
…ああ。
特筆すべきだろうか。この半日を。
私達は、あの忌々しい少年(?)を探して、日が沈むまで遊園地を駆け回った。
しかし。
リン「…」
女「…」
夕暮れ時。オレンジ色の日が山の間に沈もうとしている、今。
リン「…疲れた」
女「ね…」
私達は、満身創痍でベンチに伸びている。
リン「くそ、…あいつ。一体何処に」
女「分かんないよ…」
あの少年は、二度と私達の前に姿を現さなかった。
全エリアを駆け回った私達が、今彼を見つけたとしても、…また逃げられるだけだろう。
女「足が痛い…」
リン「だから言っただろ。…そんな歩きづらそうな靴」
女「機能的なほうだってば」
リン「…」
ぐったり。このオノマトペが今世界で一番似合うのは、きっと私達だ。
193 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:29:06 ID:WLA
女「もう、…どうする?リン」
リン「これ以上の活動は危険だ」
リンは額に腕を乗せ、溜息混じりに言った。
女「車まで帰る?」
リン「そうしよう。今のところクリアは確認できていないが、夜に出るかもしれない」
女「…そだね」
よっこらせ、と立ち上がる。
リンは彼らしくなく背を少し丸め、遊園地の階段を下りていった。
女「…明日、どうする?」
リン「探す」
女「だよねえ…」
ゾンビのようなスピードで駐車場に入り、車の座席へと体を投げ出す。
女「あー…」
このまま、永遠に眠れそうな気がした。
リン「…計画を練ろう。このままじゃジリ貧だ」
女「はー、い」
明日の寝坊は、多分確実。
月が昇り、私達は昼と同じようにカップ麺で夕食を済ませた。
お風呂に入りたかったが、生憎こんな所にシャワーなど無く。
女性としての威厳を全て奪われたような気分で、私は駐車場で伸びをした。
リン「はい」
リンが蒸しタオルを投げて寄越す。
リン「これで我慢しろ。風呂は、今日は無理」
女「はーい…」
抵抗する気力も無く、車を挟んで見えないように体を拭いた。
リンがくれた無香の消臭剤だけ、体に降りかける。
女「…ええと、大丈夫?」
リン「なにが」
女「におい」
リン「どうでもいい」
女「あ、そう…」
トイレの水道で髪をがしゃがしゃ洗ってきたリンは、不思議と何の匂いもしなかった。
男の子特有の、あの、汗の匂いもない。
女「…ねむ」
リン「だな」
195 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:40:37 ID:WLA
計画をたてよう、と提案したリンだが、彼の目の下にはクマが浮き出ていた。
女「…もうさ、休まない?」
リン「…そうだな」
その言葉を待っていたというように、リンは座席に身を投げ出した。
リン「…寝る。おやすみ」
毛布にすっぽりと覆われ、私に背を向ける。
女「おやすみ、リン」
私も毛布を抱え、目を閉じた。
眠りは、一瞬で私の体を飲み込んだ。
目の前が、暗くなる。
「ふふ」
「やっぱりなー」
声が聞こえる。
いたずらっこのような、可愛らしい声が。
「ねえねえ、おねえちゃーん。おーきて」
頬に何かが触れた。 棒のようなもの。 私の頬を、つんつん突付く。
女「…ん、ぅ」
「おーきーてーってば」
女「…!?」ガバッ
「おはよお」
目の前に、あの煙の少年がいた。
196 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:45:53 ID:WLA
女「ひ、…」
「おっと、ちょっと待って。しーだよ。しー」
悲鳴をあげようとした私の口を、温度の無い手が覆う。
「…あの人寝てるから。起こさないでよね」
女「ー、…っ」
「そんなに怖がらないで。ね、大丈夫。なーんにもしなよ」
少年はふわふわした髪を揺らし、にこりと笑った。
女「…な、んで。…ここに?」
「えへへ。…しー。ね、外に出てくれない?」
女「…嫌だ」
「えー。…じゃあ、イタズラするよ」
零れそうな大きな目が、きゅっと細められた。
女「…」
嫌な予感がする。
「いいのかなー?」
女「だ、…駄目。分かった、だから落ち着いて」
「うん。じゃあ、僕の言うこと聞いてくれるよね?」
女「…」コクコク
「静かに車から出て」
女「…」
身長にドアを開け、なるべく静かに閉めた。
197 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:50:42 ID:WLA
悲しいかな、リンは死人のように身を堅くし、泥のような眠りを貪っている。
女(気づけよぅ…)
「はい、よくできました」
少年は嬉しそうに私の腕に絡み付いてきた。
女「…あなた、本当に…。何なの?」
「ふふ」
少年が一歩先へ踏み出し、手招きする。
「ついておいで。一緒に来れたら、教えてあげる」
女「…」
向かう先は、遊園地。
どうしよう。…リンを置いて、一人で?
女「…駄目。危ないよ。知ってるでしょ、透明なアレが出るの」
「お姉ちゃんなら、大丈夫でしょう?」
女「!」
くすくす、くすくす。イタズラっぽい目で笑う少年。
「ほら、置いていっちゃうよ」
女「…」
武器なら、いつでもポケットに忍ばせている。言いつけどおり。
女「…分かった」
私は少年に手をひかれるまま、夜の遊園地へと足を向けた。
198 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)10:55:22 ID:WLA
「ええと、改めてこんばんは」
少年は遊園地のオブジェの前で、ぺこりと礼をした。
「僕の名前はコマリ。お姉ちゃんは?」
女「…女」
コマリ「ふうん。あの怖い顔したお兄ちゃんは?」
女「彼はリン。一緒に旅をしてるの」
コマリ「へええ」
コマリ、という少年の目がまたきらりと輝いた。
コマリ「かれし?」
女「断じて違います」
コマリ「えー、でもさあ。抱き合ったり一緒に寝たりしてたじゃん。そういうの、コイビトっていうんだよ」
女「…違うの。あれは不可抗力というか、しかたなく」
コマリ「なんだ。つまんないのー」
女(…とんだおませさんだな)
コマリ「ね、女たちって、人間だよね?生きてるの?」
女「そ、そうだよ。当たり前じゃん」
コマリ「…ふうーん。そうなんだー。やっぱりか」
199 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:01:55 ID:WLA
コマリはふわふわと宙を漂い、私を観察した。
コマリ「あの病気に、かからなかったんだね」
女「…うん」
コマリ「そっかー。ラッキーだね」
女「そうかな」
私の髪をなでたり、足を触ったり、無邪気ながらに接してくるコマリ。
彼は、一体。
女「ねえ、コマリ。…あなたは、人間?」
コマリ「えー」
コマリはくすくすと笑った。
コマリ「人間。そうだね、前はそうだったよ」
女「今は、…違うの?」
コマリ「うん。だって僕、死んだもん」
女「…」
じゃあ、じゃあ。やっぱり彼は。
コマリ「僕、…ユウレイってやつなのかも」
女「そ、…う」
コマリ「怖い?」
女「ううん」
コマリの笑みは、太陽に似ていた。最初は戦いたものの、今ではただの子どもに見える。
コマリ「…じゃあ、女。僕の話、聞いてくれない?」
女「話?」
コマリ「うん。ずっとずっと、誰かに言いたかったけど言えなかったことがあるんだ」
200 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:06:56 ID:WLA
女「…いいよ」
コマリ「ほんと?やったあ」
コマリは私の手を取ると、ベンチに座らせた。
コマリ「ええとね、長くなるけどいい?」
女「うん」
コマリ「…えーとね、僕、ママと一緒にここにいたんだ」
コマリの目が伏せられた。そのまま、無邪気さを孕んだ声で語りだす。
コマリの、記憶。
彼にまだ、実体があったころの話だ。
201 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:12:11 ID:WLA
僕ね、あの日ママとここにいたんだ。
ママは、ここのせきにんしゃ、だったんだよ。
だからあの日も、避難するより早くここの「せきゅりてぃー」を、…ええと
…うーん。難しいから、よく分かんない。けど、とにかくお仕事でここにいたの。
え?そうだよ。僕も一緒にいた。
遊園地のてんけん?が終わったら、お爺ちゃん家に避難することになってたの。
お昼なのに、お客さんいなくてね。
社長さんと、ママと、僕と、あと従業員の人が2人くらいしかいなかった。
僕はスタッフルーム、っていうところで、お菓子を食べながらママのお仕事が終わるの待ってたんだ。
あ、鍵、かかってた?
…そっか。
うーん、分かんない。鍵、どこかな?
まあ、いいから聞いて。
それでね
202 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)11:17:44 ID:WLA
ママが皆とお仕事して、お昼の1時くらいには終わったみたいで。
「コマリー、お待たせ。行こう」
ってママが言ったの。
社長さんが来てね、僕の頭なでて、
「また会おうな、コマリ。落ち着いたら、また皆で焼肉食べに行こう」
って言ってくれた。
社長さんね、うふふ。ママのこと、好きなんだよ。
パパとママがりこんしたときも、ママのこと慰めてくれたの。
僕ね、前のパパ嫌いだったよ。すぐ怒るもん。けど、社長さんがパパだったら、…嬉しいかも。
ええと、それでね。
社長さんと一緒に、駐車場まで行ったの。
車に乗ったんだけど、そこでママが「あ!」って言った。
社長さんとごにょごにょ話してね、それで、僕に
「コマリ、ちょっと忘れ物をしたの。社長さんととりに行くから、待ってて」
僕、うんって返事した。
ママは社長さんと走って、遊園地に戻っていった。
でね、夕方になっても戻ってこなかったの。
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
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きのこの山「最後通牒だと……?」たけのこの里「……」
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月「で……であ…でぁー…TH…であのて……?」
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彡(゚)(゚)「お、居酒屋やんけ。入ったろ」
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魔法使い「メラしか使えない」
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