女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
Part9
157 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:05:40 ID:WLA
女「…なるほど」
リン「目新しい情報はあったか」
女「かなり」
リン「まあ、よく分からないというのがほとんどだ。情報源もなにもないしな」
女「すごいね、リン。よくまとめられてる」
なんというか、この少年の大物さ加減がよく分かる。
同時に、偏屈さも。
リン「…」
女「いや、でも久々に長文読んで頭痛くなっちゃったよ」
リン「待て、二枚目の資料は読んだか?」
女「…まだあんの」
リン「それが大事だ。短いから目を通せ」
「潜伏感染」について
タッセルクリアには、潜伏期間が長い場合もある。
そういった患者には、首元に赤いアザが現れる。
これは既に政府も発表した情報だ。 潜伏期間など、詳しいことは不明だが。
思うに、あのパンデミックから生き残ったとしても、油断はできないのではないだろうか。
病気は発現する機会をうかがっているだけかもしれない。
首もとの確認は、決して怠らないこと。
もし、アザが確認できた場合
女「…続きが、ない」
158 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:08:34 ID:WLA
リン「なあ」
女「ん?」
リン「お前は、どうする。首にアザができたら」
女「…うーん」
リン「自殺でもするか?」
女「分かんない」
リン「…だよな」
リン「誰にも、分からないんだ。だから、そこの行は空けてある」
リン「…多分」
女「対処法とか、治療法はないってことね」
リン「あったら怯えず暮らせるんだけどな」
女「そっか…」
私の首に、いきなり、薔薇を思わせる毒々しい色をしたアザが現れたら。
どうしようか。
女「…」
答えは
女(やっぱり、分からない)
159 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:12:50 ID:WLA
女「ありがとう、リン。かなり参考になったよ」
リン「戻しておけよ」
女「はーい」
リン「理解できたか?」
女「勿論。…なんでわざわざ確認すんのよ」
リン「たまにいるからな。目を通しただけで頭に入ってないやつ」
女「ひどい!ちゃんと覚えたもん」
リン「どうだか」
女「ちょっ…」
車は、いつの間にか市街地を抜けていた。
窓から見える景色に、明らかに緑が多くなる。
女「…うわ」
人間がいなくなった世界でも、植物はたくましく生きている。
リン「窓、開けるか。換気するぞ」カチ
女「ひゃー!マイナスイオン」
爽やかな空気は、瑞々しい「生」を感じさせた。
160 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:19:53 ID:WLA
車は走る。
木々の木漏れ日の間を抜け、切り立った崖を背にし、鉄橋を越えて。
私はリンに命じられ、窓の外に目を凝らし続けた。
流れる木々の間に、人の痕跡は見受けられない。
…やがて、小さなパーキングエリアに車は停まった。
バタン
女「…うー!」ノビー
リン「…」コキ
女「なんか、ごめんね。リンにばっかり運転させて。大変だよね」
リン「別に」
女「…私も教えてもらえば、できるようになるかも」
リン「…」
リンの顔に、陰が差す。
リン「駄目だ」
女「何で?」
リン「お前に運転を任せると、…車が無事で済みそうにない。いい、必要ない」
女「ひどくない!?」
リン「…俺がいるから、いいんだ。運転なんて、俺がする。それでいい」
噛んで含めるように彼は言った。
私に、じゃなく、自分にも言い聞かせるようだった。
161 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:24:55 ID:WLA
女「よ、っと」トン
リン「済んだか」
女「あはは、ごめん。お待たせしました」
トイレがあるって、文明的じゃないかな?
どんなに荒廃した世界でも、人間の尊厳だけは保って生きて行きたい。
リン「じゃ、乗れ」
女「はーい」
日は高く、そろそろお昼だ。腹時計がそう告げている。
リン「ほら」
車内で、カップラーメンを手渡してくれた。何時の間にお湯を注いだのか。
女「ここで食べていいの?」
リン「零すなよ」
女「うん」
そのまま二人で並んで、長期保存のラーメンを啜る。
残った食べかすを、リンは丁寧にビニールに入れて、パーキングのゴミ箱に捨てた。
私は彼の、そういう…なんというか、文明的なところに安心する。
女(捨てたって、誰も回収しに来ないのにな)
それでも、依然そうしたように、する。
リン「行くぞ」
リンは、まだ人間の社会性を捨ててはいない。
162 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:31:03 ID:WLA
女「…あれ」
ふと、気づいた。
女「ねえ、リン」クイ
リン「運転中に触るな」
女「ごめん。…あのさ、もしかしてだけどさ」
リン「ああ」
リンが通るこの山道。ところどころに点在するパーキングエリア。
それに、見覚えがあるのだ。
そう、この道は。
女「…ドリーミィランドの道だ」
リン「ふうん。驚いた」
リンが軽く眼を見張った。一瞬こちらに顔を向け、片頬で笑う。
リン「そうだ。いまからそこに行く」
女「マ、マジか」
ドリーミィランド。 県内では知らない人のいない、大型の遊園地だ。
女「ええと、それはまた、なんで?」
リン「大型の施設はとりあえず調査する。それに、そろそろ車も停めて今夜の寝床を確保したいしな」
女「遊園地、かあ」
そんなところに人なんているのかな
リン「行ってみなきゃ、分からないだろ?」
女「…な、何も言ってないけど」
リン「完全に顔が、“そんなところに生存者はいません”ってかんじだった」
女「え、…嘘」
163 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:34:58 ID:WLA
リン「お前、本当に分かりやすいよな」
女「い、いや!思ってないし」
リン「嘘つけ。疑わしそうな顔してた」
女「あ、あのねえ」
そのとき。
女「…あっ」
風を入れるため半分にあけていた窓の外に、赤い何かが見えた。
女「…観覧車だ!」
そうだ。観覧車。
リン「本当だ」
リンも目を細める。 大きな赤い円が、腕を広げるように空を占拠していた。
遊園地が、近い。
女「なんか、わくわくしてきた!」
リン「モールでも言ってたよな、それ?」
女「だって、遊園地だよ!懐かしいなあ」
リン「子どもだな」
女「リンだってちょっと嬉しそうだよ」
リン「俺は別に」
女「うそだー。だって笑ってる」
リン「この笑みは、お前を馬鹿にしてるから来るんだ」
女「リン!?」
164 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:40:57 ID:WLA
そして、数分後。
バム
女「とうちゃーく!」
リン「うるさい」
私達は、遊園地の駐車場にいた。
錆びたゲートをくぐり、2,3台の車がぽつんと停まる駐車場にたどり着く。
女「やっぱ、車少ないね」
リン「避難警報が出されているのに遊園地に来る馬鹿はいないだろ」
女「誰のかな」
リン「ここのスタッフとかだろ」
女「あ、そっか」
覗き込んでみたが、空っぽ。
葉っぱと土ぼこりが被った車は、恐らくもう動かない。キーだってないし。
女「…よしっ」
荷物を整え、リンと並んで観覧車を見上げる。
リン「行くぞ」
リンが軽く、私の背中を押した。
かつての賑わいが消え去った、恐ろしいほどしんとした遊園地。
それでも、同心に帰った私のはわくわくと上気していた。
二人は、はげたペンキで「welcome」と書かれたゲートをくぐった。
165 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:41:47 ID:WLA
遊園地編、スタートです。
また昼から再開します。
おやすみなさい
166 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:44:53 ID:F8b
>>165
おつおつ
楽しみにしてるよ!
167 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:47:58 ID:1sG
おつです
楽しみだ
168 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)02:46:06 ID:lP5
人類滅亡後の遊園地……、どんな一悶着が待ってるコトやら……。
ワクワクして待っとりますよ。
169 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:21:13 ID:WLA
ガシャン
女「…おお」
リン「…中々のものだな」
私達を待ち構えていたのは、想像以上に寂しい景色だった。
お客さんも、スタッフも、可愛い着ぐるみも、音楽もない。
ただ、忘れ去られたアトラクションたちが錆びに身を犯され、立っている。
女「動くかな」
リン「動いたとしても乗りたくは無いな」
女「確かに」
リン「お前、ここに来たことは…ある、んだよな。勿論」
女「うん!最後に来たのは、事件のおきる2ヶ月前だよ」
そうそう。親戚の男の子が遊びに来たんで、一緒に行ったんだ。
あのやんちゃ坊主、可愛かったなあ。
今、…どうしてるのかな
リン「おい?」
女「あ。…何でもない。ええと、何処行く?」
リン「そうだな。…とりあえず、マップの順路に従いながら覗いて行くか」
170 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:26:03 ID:WLA
コツ コツ
女「…あっちー」
リン「暑いな」
9月とはいえ、昼の日差しはまだまだ強烈だ。
しかし。
女「あ、メリーゴーラウンドだー!」タッ
リン「おい」
女「見てみて、リン!あっちには空中ブランコもあるんだよー」キャイキャイ
リン「…」
遊べる物じゃないとわかっていても、心は浮き立つのだ。
リン「人がいた痕跡を探せ。遊ぶんじゃなくて」
女「分かってるってばー」
白馬に跨り笑い声をあげる私を、心底鬱陶しそうな目で見るリン。
女「リンはさー」
リン「何だ」
女「遊園地、嫌いなの?」
リン「嫌いとか、好きとか。…そういう特別な感情は、ない」
女「来たこと、あるよね?」
リン「ああ。でも別に、普通だ」
相変わらずリンは乾ききっている。
171 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:38:59 ID:WLA
メリーゴーラウンドや小さなジェットコースターなど、子供向けのアトラクションが並ぶエリアを30分程度で見終わった。
女「…何も無かったね」
リン「ああ」
女「じゃあ、次はこっちのエリア行ってみない?お化け屋敷とか、ミラーハウスとか、ハウス系のやつが多いよ」
リン「屋内、か。誰かいる可能性はあるな」
移動する最中にも、リンは周りへの警戒を怠らない。
一方私は、倒れたポップコーンのワゴンを覗いてみたり、噴水の溜まった水を蹴り上げてみたりと、自由だ。
リン「…ここか?」
女「うん。うわ、本当懐かしい」
カラフルな小屋が立ち並ぶエリア。お化け屋敷なんか、人気すぎて2時間待ちだったこともあるのだ。
リン「とりあえず手前の小屋から順に入っていく。着いて来い」
女「はあい」
リンがまず、“ドッキリハウス”とかかれた小屋に足を踏み入れる。
リン「なんだここ。お化け屋敷か?」
女「ううん。壁とか床に仕掛けがしてあって、音が聞こえたりするんだ。迷路だよ」
リン「ふうん」
女「私ね、ここに入るといつもビビるからあんまり好きじゃなかった」
リン「へえ?」
女「ここの壁とか、ふと手をつくと音が鳴ってさー」ポン
リン「…」
ピンク色のうち壁に、そっと手を触れた瞬間。リンの体が、少し揺れて、…そして
リン「わっ」
女「きゃあああああああああああああああああああ!!?」ビクッ
リン「うるさ」
女「なな、何、何するの!」
172 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:45:10 ID:WLA
驚いてふりむくと、眼を細めたリンが口元に手を当てていた。
女「リ、リン?」
リン「本当に肝が小さいんだな」
もしかして、今、イタズラされたんだろうか。
女「…な、」
あのリンが?
リン「ほら、行くぞ」
しかし彼の目の和やかさは、数秒で消えた。またいつものリンに戻り、すたすたと先を急ぐ。
女(いや、…意外だった)
動悸は冷めないまま、ハウスを出る。 外の眩しい日差しを浴びた瞬間、私の驚きは怒りに変換された。
女「…」
目の前にいるリンを見る。
油断、…している。体重を片足に乗せ、マップに見入っている。
女「…」ソロ
ゆっくり一歩踏み出して、お返しをしてやろうと、口を開け
「…きゃははっ」
女「…え」
リン「ん」
リンが髪を揺らしながら振り向いた。明らかに背中を押そうとしていた私を見て、眉根を寄せる。
リン「何だ」
一歩前に出ながら、訝しげに聞くリン。
女「い、いや。今何か聞こえなかった?」
リン「いや?」
女「…なるほど」
リン「目新しい情報はあったか」
女「かなり」
リン「まあ、よく分からないというのがほとんどだ。情報源もなにもないしな」
女「すごいね、リン。よくまとめられてる」
なんというか、この少年の大物さ加減がよく分かる。
同時に、偏屈さも。
リン「…」
女「いや、でも久々に長文読んで頭痛くなっちゃったよ」
リン「待て、二枚目の資料は読んだか?」
女「…まだあんの」
リン「それが大事だ。短いから目を通せ」
「潜伏感染」について
タッセルクリアには、潜伏期間が長い場合もある。
そういった患者には、首元に赤いアザが現れる。
これは既に政府も発表した情報だ。 潜伏期間など、詳しいことは不明だが。
思うに、あのパンデミックから生き残ったとしても、油断はできないのではないだろうか。
病気は発現する機会をうかがっているだけかもしれない。
首もとの確認は、決して怠らないこと。
もし、アザが確認できた場合
女「…続きが、ない」
158 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:08:34 ID:WLA
リン「なあ」
女「ん?」
リン「お前は、どうする。首にアザができたら」
女「…うーん」
リン「自殺でもするか?」
女「分かんない」
リン「…だよな」
リン「誰にも、分からないんだ。だから、そこの行は空けてある」
リン「…多分」
女「対処法とか、治療法はないってことね」
リン「あったら怯えず暮らせるんだけどな」
女「そっか…」
私の首に、いきなり、薔薇を思わせる毒々しい色をしたアザが現れたら。
どうしようか。
女「…」
答えは
女(やっぱり、分からない)
159 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:12:50 ID:WLA
女「ありがとう、リン。かなり参考になったよ」
リン「戻しておけよ」
女「はーい」
リン「理解できたか?」
女「勿論。…なんでわざわざ確認すんのよ」
リン「たまにいるからな。目を通しただけで頭に入ってないやつ」
女「ひどい!ちゃんと覚えたもん」
リン「どうだか」
女「ちょっ…」
車は、いつの間にか市街地を抜けていた。
窓から見える景色に、明らかに緑が多くなる。
女「…うわ」
人間がいなくなった世界でも、植物はたくましく生きている。
リン「窓、開けるか。換気するぞ」カチ
女「ひゃー!マイナスイオン」
爽やかな空気は、瑞々しい「生」を感じさせた。
160 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:19:53 ID:WLA
車は走る。
木々の木漏れ日の間を抜け、切り立った崖を背にし、鉄橋を越えて。
私はリンに命じられ、窓の外に目を凝らし続けた。
流れる木々の間に、人の痕跡は見受けられない。
…やがて、小さなパーキングエリアに車は停まった。
バタン
女「…うー!」ノビー
リン「…」コキ
女「なんか、ごめんね。リンにばっかり運転させて。大変だよね」
リン「別に」
女「…私も教えてもらえば、できるようになるかも」
リン「…」
リンの顔に、陰が差す。
リン「駄目だ」
女「何で?」
リン「お前に運転を任せると、…車が無事で済みそうにない。いい、必要ない」
女「ひどくない!?」
リン「…俺がいるから、いいんだ。運転なんて、俺がする。それでいい」
噛んで含めるように彼は言った。
私に、じゃなく、自分にも言い聞かせるようだった。
161 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:24:55 ID:WLA
女「よ、っと」トン
リン「済んだか」
女「あはは、ごめん。お待たせしました」
トイレがあるって、文明的じゃないかな?
どんなに荒廃した世界でも、人間の尊厳だけは保って生きて行きたい。
リン「じゃ、乗れ」
女「はーい」
日は高く、そろそろお昼だ。腹時計がそう告げている。
リン「ほら」
車内で、カップラーメンを手渡してくれた。何時の間にお湯を注いだのか。
女「ここで食べていいの?」
リン「零すなよ」
女「うん」
そのまま二人で並んで、長期保存のラーメンを啜る。
残った食べかすを、リンは丁寧にビニールに入れて、パーキングのゴミ箱に捨てた。
私は彼の、そういう…なんというか、文明的なところに安心する。
女(捨てたって、誰も回収しに来ないのにな)
それでも、依然そうしたように、する。
リン「行くぞ」
リンは、まだ人間の社会性を捨ててはいない。
女「…あれ」
ふと、気づいた。
女「ねえ、リン」クイ
リン「運転中に触るな」
女「ごめん。…あのさ、もしかしてだけどさ」
リン「ああ」
リンが通るこの山道。ところどころに点在するパーキングエリア。
それに、見覚えがあるのだ。
そう、この道は。
女「…ドリーミィランドの道だ」
リン「ふうん。驚いた」
リンが軽く眼を見張った。一瞬こちらに顔を向け、片頬で笑う。
リン「そうだ。いまからそこに行く」
女「マ、マジか」
ドリーミィランド。 県内では知らない人のいない、大型の遊園地だ。
女「ええと、それはまた、なんで?」
リン「大型の施設はとりあえず調査する。それに、そろそろ車も停めて今夜の寝床を確保したいしな」
女「遊園地、かあ」
そんなところに人なんているのかな
リン「行ってみなきゃ、分からないだろ?」
女「…な、何も言ってないけど」
リン「完全に顔が、“そんなところに生存者はいません”ってかんじだった」
女「え、…嘘」
163 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:34:58 ID:WLA
リン「お前、本当に分かりやすいよな」
女「い、いや!思ってないし」
リン「嘘つけ。疑わしそうな顔してた」
女「あ、あのねえ」
そのとき。
女「…あっ」
風を入れるため半分にあけていた窓の外に、赤い何かが見えた。
女「…観覧車だ!」
そうだ。観覧車。
リン「本当だ」
リンも目を細める。 大きな赤い円が、腕を広げるように空を占拠していた。
遊園地が、近い。
女「なんか、わくわくしてきた!」
リン「モールでも言ってたよな、それ?」
女「だって、遊園地だよ!懐かしいなあ」
リン「子どもだな」
女「リンだってちょっと嬉しそうだよ」
リン「俺は別に」
女「うそだー。だって笑ってる」
リン「この笑みは、お前を馬鹿にしてるから来るんだ」
女「リン!?」
164 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:40:57 ID:WLA
そして、数分後。
バム
女「とうちゃーく!」
リン「うるさい」
私達は、遊園地の駐車場にいた。
錆びたゲートをくぐり、2,3台の車がぽつんと停まる駐車場にたどり着く。
女「やっぱ、車少ないね」
リン「避難警報が出されているのに遊園地に来る馬鹿はいないだろ」
女「誰のかな」
リン「ここのスタッフとかだろ」
女「あ、そっか」
覗き込んでみたが、空っぽ。
葉っぱと土ぼこりが被った車は、恐らくもう動かない。キーだってないし。
女「…よしっ」
荷物を整え、リンと並んで観覧車を見上げる。
リン「行くぞ」
リンが軽く、私の背中を押した。
かつての賑わいが消え去った、恐ろしいほどしんとした遊園地。
それでも、同心に帰った私のはわくわくと上気していた。
二人は、はげたペンキで「welcome」と書かれたゲートをくぐった。
165 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:41:47 ID:WLA
遊園地編、スタートです。
また昼から再開します。
おやすみなさい
166 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:44:53 ID:F8b
>>165
おつおつ
楽しみにしてるよ!
167 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:47:58 ID:1sG
おつです
楽しみだ
168 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)02:46:06 ID:lP5
人類滅亡後の遊園地……、どんな一悶着が待ってるコトやら……。
ワクワクして待っとりますよ。
169 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:21:13 ID:WLA
ガシャン
女「…おお」
リン「…中々のものだな」
私達を待ち構えていたのは、想像以上に寂しい景色だった。
お客さんも、スタッフも、可愛い着ぐるみも、音楽もない。
ただ、忘れ去られたアトラクションたちが錆びに身を犯され、立っている。
女「動くかな」
リン「動いたとしても乗りたくは無いな」
女「確かに」
リン「お前、ここに来たことは…ある、んだよな。勿論」
女「うん!最後に来たのは、事件のおきる2ヶ月前だよ」
そうそう。親戚の男の子が遊びに来たんで、一緒に行ったんだ。
あのやんちゃ坊主、可愛かったなあ。
今、…どうしてるのかな
リン「おい?」
女「あ。…何でもない。ええと、何処行く?」
リン「そうだな。…とりあえず、マップの順路に従いながら覗いて行くか」
170 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:26:03 ID:WLA
コツ コツ
女「…あっちー」
リン「暑いな」
9月とはいえ、昼の日差しはまだまだ強烈だ。
しかし。
女「あ、メリーゴーラウンドだー!」タッ
リン「おい」
女「見てみて、リン!あっちには空中ブランコもあるんだよー」キャイキャイ
リン「…」
遊べる物じゃないとわかっていても、心は浮き立つのだ。
リン「人がいた痕跡を探せ。遊ぶんじゃなくて」
女「分かってるってばー」
白馬に跨り笑い声をあげる私を、心底鬱陶しそうな目で見るリン。
女「リンはさー」
リン「何だ」
女「遊園地、嫌いなの?」
リン「嫌いとか、好きとか。…そういう特別な感情は、ない」
女「来たこと、あるよね?」
リン「ああ。でも別に、普通だ」
相変わらずリンは乾ききっている。
171 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:38:59 ID:WLA
メリーゴーラウンドや小さなジェットコースターなど、子供向けのアトラクションが並ぶエリアを30分程度で見終わった。
女「…何も無かったね」
リン「ああ」
女「じゃあ、次はこっちのエリア行ってみない?お化け屋敷とか、ミラーハウスとか、ハウス系のやつが多いよ」
リン「屋内、か。誰かいる可能性はあるな」
移動する最中にも、リンは周りへの警戒を怠らない。
一方私は、倒れたポップコーンのワゴンを覗いてみたり、噴水の溜まった水を蹴り上げてみたりと、自由だ。
リン「…ここか?」
女「うん。うわ、本当懐かしい」
カラフルな小屋が立ち並ぶエリア。お化け屋敷なんか、人気すぎて2時間待ちだったこともあるのだ。
リン「とりあえず手前の小屋から順に入っていく。着いて来い」
女「はあい」
リンがまず、“ドッキリハウス”とかかれた小屋に足を踏み入れる。
リン「なんだここ。お化け屋敷か?」
女「ううん。壁とか床に仕掛けがしてあって、音が聞こえたりするんだ。迷路だよ」
リン「ふうん」
女「私ね、ここに入るといつもビビるからあんまり好きじゃなかった」
リン「へえ?」
女「ここの壁とか、ふと手をつくと音が鳴ってさー」ポン
リン「…」
ピンク色のうち壁に、そっと手を触れた瞬間。リンの体が、少し揺れて、…そして
リン「わっ」
女「きゃあああああああああああああああああああ!!?」ビクッ
リン「うるさ」
女「なな、何、何するの!」
172 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:45:10 ID:WLA
驚いてふりむくと、眼を細めたリンが口元に手を当てていた。
女「リ、リン?」
リン「本当に肝が小さいんだな」
もしかして、今、イタズラされたんだろうか。
女「…な、」
あのリンが?
リン「ほら、行くぞ」
しかし彼の目の和やかさは、数秒で消えた。またいつものリンに戻り、すたすたと先を急ぐ。
女(いや、…意外だった)
動悸は冷めないまま、ハウスを出る。 外の眩しい日差しを浴びた瞬間、私の驚きは怒りに変換された。
女「…」
目の前にいるリンを見る。
油断、…している。体重を片足に乗せ、マップに見入っている。
女「…」ソロ
ゆっくり一歩踏み出して、お返しをしてやろうと、口を開け
「…きゃははっ」
女「…え」
リン「ん」
リンが髪を揺らしながら振り向いた。明らかに背中を押そうとしていた私を見て、眉根を寄せる。
リン「何だ」
一歩前に出ながら、訝しげに聞くリン。
女「い、いや。今何か聞こえなかった?」
リン「いや?」
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
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