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女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」

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Part9
157 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:05:40 ID:WLA
女「…なるほど」
リン「目新しい情報はあったか」
女「かなり」
リン「まあ、よく分からないというのがほとんどだ。情報源もなにもないしな」
女「すごいね、リン。よくまとめられてる」
なんというか、この少年の大物さ加減がよく分かる。
同時に、偏屈さも。
リン「…」
女「いや、でも久々に長文読んで頭痛くなっちゃったよ」
リン「待て、二枚目の資料は読んだか?」
女「…まだあんの」
リン「それが大事だ。短いから目を通せ」
「潜伏感染」について
タッセルクリアには、潜伏期間が長い場合もある。
そういった患者には、首元に赤いアザが現れる。
これは既に政府も発表した情報だ。 潜伏期間など、詳しいことは不明だが。
思うに、あのパンデミックから生き残ったとしても、油断はできないのではないだろうか。
病気は発現する機会をうかがっているだけかもしれない。
首もとの確認は、決して怠らないこと。
もし、アザが確認できた場合
女「…続きが、ない」

158 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:08:34 ID:WLA
リン「なあ」
女「ん?」
リン「お前は、どうする。首にアザができたら」
女「…うーん」
リン「自殺でもするか?」
女「分かんない」
リン「…だよな」
リン「誰にも、分からないんだ。だから、そこの行は空けてある」
リン「…多分」
女「対処法とか、治療法はないってことね」
リン「あったら怯えず暮らせるんだけどな」
女「そっか…」
私の首に、いきなり、薔薇を思わせる毒々しい色をしたアザが現れたら。
どうしようか。
女「…」
答えは
女(やっぱり、分からない)

159 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:12:50 ID:WLA
女「ありがとう、リン。かなり参考になったよ」
リン「戻しておけよ」
女「はーい」
リン「理解できたか?」
女「勿論。…なんでわざわざ確認すんのよ」
リン「たまにいるからな。目を通しただけで頭に入ってないやつ」
女「ひどい!ちゃんと覚えたもん」
リン「どうだか」
女「ちょっ…」
車は、いつの間にか市街地を抜けていた。
窓から見える景色に、明らかに緑が多くなる。
女「…うわ」
人間がいなくなった世界でも、植物はたくましく生きている。
リン「窓、開けるか。換気するぞ」カチ
女「ひゃー!マイナスイオン」
爽やかな空気は、瑞々しい「生」を感じさせた。

160 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:19:53 ID:WLA
車は走る。
木々の木漏れ日の間を抜け、切り立った崖を背にし、鉄橋を越えて。
私はリンに命じられ、窓の外に目を凝らし続けた。
流れる木々の間に、人の痕跡は見受けられない。
…やがて、小さなパーキングエリアに車は停まった。
バタン
女「…うー!」ノビー
リン「…」コキ
女「なんか、ごめんね。リンにばっかり運転させて。大変だよね」
リン「別に」
女「…私も教えてもらえば、できるようになるかも」
リン「…」
リンの顔に、陰が差す。
リン「駄目だ」
女「何で?」
リン「お前に運転を任せると、…車が無事で済みそうにない。いい、必要ない」
女「ひどくない!?」
リン「…俺がいるから、いいんだ。運転なんて、俺がする。それでいい」
噛んで含めるように彼は言った。
私に、じゃなく、自分にも言い聞かせるようだった。

161 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:24:55 ID:WLA
女「よ、っと」トン
リン「済んだか」
女「あはは、ごめん。お待たせしました」
トイレがあるって、文明的じゃないかな?
どんなに荒廃した世界でも、人間の尊厳だけは保って生きて行きたい。
リン「じゃ、乗れ」
女「はーい」
日は高く、そろそろお昼だ。腹時計がそう告げている。
リン「ほら」
車内で、カップラーメンを手渡してくれた。何時の間にお湯を注いだのか。
女「ここで食べていいの?」
リン「零すなよ」
女「うん」
そのまま二人で並んで、長期保存のラーメンを啜る。
残った食べかすを、リンは丁寧にビニールに入れて、パーキングのゴミ箱に捨てた。
私は彼の、そういう…なんというか、文明的なところに安心する。
女(捨てたって、誰も回収しに来ないのにな)
それでも、依然そうしたように、する。
リン「行くぞ」
リンは、まだ人間の社会性を捨ててはいない。


162 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:31:03 ID:WLA
女「…あれ」
ふと、気づいた。
女「ねえ、リン」クイ
リン「運転中に触るな」
女「ごめん。…あのさ、もしかしてだけどさ」
リン「ああ」
リンが通るこの山道。ところどころに点在するパーキングエリア。
それに、見覚えがあるのだ。
そう、この道は。
女「…ドリーミィランドの道だ」
リン「ふうん。驚いた」
リンが軽く眼を見張った。一瞬こちらに顔を向け、片頬で笑う。
リン「そうだ。いまからそこに行く」
女「マ、マジか」
ドリーミィランド。 県内では知らない人のいない、大型の遊園地だ。
女「ええと、それはまた、なんで?」
リン「大型の施設はとりあえず調査する。それに、そろそろ車も停めて今夜の寝床を確保したいしな」
女「遊園地、かあ」
そんなところに人なんているのかな
リン「行ってみなきゃ、分からないだろ?」
女「…な、何も言ってないけど」
リン「完全に顔が、“そんなところに生存者はいません”ってかんじだった」
女「え、…嘘」

163 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:34:58 ID:WLA
リン「お前、本当に分かりやすいよな」
女「い、いや!思ってないし」
リン「嘘つけ。疑わしそうな顔してた」
女「あ、あのねえ」
そのとき。
女「…あっ」
風を入れるため半分にあけていた窓の外に、赤い何かが見えた。
女「…観覧車だ!」
そうだ。観覧車。
リン「本当だ」
リンも目を細める。 大きな赤い円が、腕を広げるように空を占拠していた。
遊園地が、近い。
女「なんか、わくわくしてきた!」
リン「モールでも言ってたよな、それ?」
女「だって、遊園地だよ!懐かしいなあ」
リン「子どもだな」
女「リンだってちょっと嬉しそうだよ」
リン「俺は別に」
女「うそだー。だって笑ってる」
リン「この笑みは、お前を馬鹿にしてるから来るんだ」
女「リン!?」

164 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:40:57 ID:WLA
そして、数分後。
バム
女「とうちゃーく!」
リン「うるさい」
私達は、遊園地の駐車場にいた。
錆びたゲートをくぐり、2,3台の車がぽつんと停まる駐車場にたどり着く。
女「やっぱ、車少ないね」
リン「避難警報が出されているのに遊園地に来る馬鹿はいないだろ」
女「誰のかな」
リン「ここのスタッフとかだろ」
女「あ、そっか」
覗き込んでみたが、空っぽ。
葉っぱと土ぼこりが被った車は、恐らくもう動かない。キーだってないし。
女「…よしっ」
荷物を整え、リンと並んで観覧車を見上げる。
リン「行くぞ」
リンが軽く、私の背中を押した。
かつての賑わいが消え去った、恐ろしいほどしんとした遊園地。
それでも、同心に帰った私のはわくわくと上気していた。
二人は、はげたペンキで「welcome」と書かれたゲートをくぐった。

165 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:41:47 ID:WLA
遊園地編、スタートです。
また昼から再開します。
おやすみなさい

166 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:44:53 ID:F8b
>>165
おつおつ
楽しみにしてるよ!

167 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)00:47:58 ID:1sG
おつです
楽しみだ

168 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)02:46:06 ID:lP5
人類滅亡後の遊園地……、どんな一悶着が待ってるコトやら……。
ワクワクして待っとりますよ。

169 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:21:13 ID:WLA
ガシャン
女「…おお」
リン「…中々のものだな」
私達を待ち構えていたのは、想像以上に寂しい景色だった。
お客さんも、スタッフも、可愛い着ぐるみも、音楽もない。
ただ、忘れ去られたアトラクションたちが錆びに身を犯され、立っている。
女「動くかな」
リン「動いたとしても乗りたくは無いな」
女「確かに」
リン「お前、ここに来たことは…ある、んだよな。勿論」
女「うん!最後に来たのは、事件のおきる2ヶ月前だよ」
そうそう。親戚の男の子が遊びに来たんで、一緒に行ったんだ。
あのやんちゃ坊主、可愛かったなあ。
今、…どうしてるのかな
リン「おい?」
女「あ。…何でもない。ええと、何処行く?」
リン「そうだな。…とりあえず、マップの順路に従いながら覗いて行くか」

170 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:26:03 ID:WLA
コツ コツ
女「…あっちー」
リン「暑いな」
9月とはいえ、昼の日差しはまだまだ強烈だ。
しかし。
女「あ、メリーゴーラウンドだー!」タッ
リン「おい」
女「見てみて、リン!あっちには空中ブランコもあるんだよー」キャイキャイ
リン「…」
遊べる物じゃないとわかっていても、心は浮き立つのだ。
リン「人がいた痕跡を探せ。遊ぶんじゃなくて」
女「分かってるってばー」
白馬に跨り笑い声をあげる私を、心底鬱陶しそうな目で見るリン。
女「リンはさー」
リン「何だ」
女「遊園地、嫌いなの?」
リン「嫌いとか、好きとか。…そういう特別な感情は、ない」
女「来たこと、あるよね?」
リン「ああ。でも別に、普通だ」
相変わらずリンは乾ききっている。

171 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:38:59 ID:WLA
メリーゴーラウンドや小さなジェットコースターなど、子供向けのアトラクションが並ぶエリアを30分程度で見終わった。
女「…何も無かったね」
リン「ああ」
女「じゃあ、次はこっちのエリア行ってみない?お化け屋敷とか、ミラーハウスとか、ハウス系のやつが多いよ」
リン「屋内、か。誰かいる可能性はあるな」
移動する最中にも、リンは周りへの警戒を怠らない。
一方私は、倒れたポップコーンのワゴンを覗いてみたり、噴水の溜まった水を蹴り上げてみたりと、自由だ。
リン「…ここか?」
女「うん。うわ、本当懐かしい」
カラフルな小屋が立ち並ぶエリア。お化け屋敷なんか、人気すぎて2時間待ちだったこともあるのだ。
リン「とりあえず手前の小屋から順に入っていく。着いて来い」
女「はあい」
リンがまず、“ドッキリハウス”とかかれた小屋に足を踏み入れる。
リン「なんだここ。お化け屋敷か?」
女「ううん。壁とか床に仕掛けがしてあって、音が聞こえたりするんだ。迷路だよ」
リン「ふうん」
女「私ね、ここに入るといつもビビるからあんまり好きじゃなかった」
リン「へえ?」
女「ここの壁とか、ふと手をつくと音が鳴ってさー」ポン
リン「…」
ピンク色のうち壁に、そっと手を触れた瞬間。リンの体が、少し揺れて、…そして
リン「わっ」
女「きゃあああああああああああああああああああ!!?」ビクッ
リン「うるさ」
女「なな、何、何するの!」

172 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)08:45:10 ID:WLA
驚いてふりむくと、眼を細めたリンが口元に手を当てていた。
女「リ、リン?」
リン「本当に肝が小さいんだな」
もしかして、今、イタズラされたんだろうか。
女「…な、」
あのリンが?
リン「ほら、行くぞ」
しかし彼の目の和やかさは、数秒で消えた。またいつものリンに戻り、すたすたと先を急ぐ。
女(いや、…意外だった)
動悸は冷めないまま、ハウスを出る。 外の眩しい日差しを浴びた瞬間、私の驚きは怒りに変換された。
女「…」
目の前にいるリンを見る。
油断、…している。体重を片足に乗せ、マップに見入っている。
女「…」ソロ
ゆっくり一歩踏み出して、お返しをしてやろうと、口を開け
「…きゃははっ」
女「…え」
リン「ん」
リンが髪を揺らしながら振り向いた。明らかに背中を押そうとしていた私を見て、眉根を寄せる。
リン「何だ」
一歩前に出ながら、訝しげに聞くリン。
女「い、いや。今何か聞こえなかった?」
リン「いや?」

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