女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
Part15
245 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)16:21:47 ID:1mE
女「…」
私は、しばらくその場にたたずんでいた。
ただ、コマリの消えた助手席を見ていた。
リン「おい」
リンが肩を叩く。
女「…ん?」
リン「これ」
リンが、どこで摘んできたのか黄色い花を私に差し出してきた。
女「…コマリに?」
リン「ああ」
可愛らしい花弁を風揺らす花を、2本。
私とリンの手が助手席に置いた。
さようなら、コマリ。
私とリンは、日が昇りきるまで、リンの消えたあとを見つめていた。
そして
車に戻って少しだけ仮眠を取り、私達は遊園地をあとにした。
246 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)16:22:45 ID:1mE
>>245
リンの消えたあとじゃない…コマリだ…
247 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)16:23:23 ID:1mE
とにかく遊園地編終了です。お付き合いどうも。
248 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)16:25:47 ID:hJm
乙
結末がどうなるのか楽しみ
249 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)16:56:31 ID:irI
お疲れさま
250 : :2015/09/14(月)21:55:30 ID:MWg
アニメ化決定
251 :名無しさん@おーぷん :2015/09/15(火)21:43:02 ID:3YH
マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆
252 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)02:29:53 ID:SiT
期待
253 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)14:01:26 ID:FZE
「ハローハロー。続きはまだですか?どうぞ」
255 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:13:23 ID:ePK
女「…」
リン「…」
私達は、無言で山道を走った。
何も言えなかった。
悲しい、とか、寂しいとか、…この感情につく名前が思いつかない。
リンは、どう思っているのだろうか。
彼は今、何を考えて運転をしているのだろうか。
女「…」
その横顔は、いつもより白く見えた。
リン「なあ」
女「あ、…なに?」
リン「お前今、何考えてる」
女「…」
リン「どう思った」
女「分かんない。…悲しい。けど、…良かったなって思う」
リン「良かった?」
女「だってコマリは、もう一人ぼっちじゃないでしょ」
256 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:23:07 ID:ePK
リン「そうだな」
女「…リンは?」
リン「概ねお前と一緒だな」
リン「それより一つ、気になったことがある」
出たよ。
感傷に浸るということを知らないのか、この男の子は。
リン「あいつの遺体についてだ」
女「ああ。…綺麗だったね」
リン「損傷が全く無かった。俺たちが来る1秒前に死んだといわれても驚かない程度に」
女「確かに」
そうだ。コマリ、って呼んだら、あの可愛い声で「はあい」って返事して起きそうなほど。
リン「…首の痣。あれは潜伏感染の証だ」
女「そうだね」
リン「俺は、…それが何か関係してるんじゃないかって思ってる」
女「でも、感染しちゃったら頭が破裂するんじゃないの?」
リン「潜伏感染の例を見たことがあるか?」
女「ない…」
リン「なら、わかんないだろ。ああやって死体が綺麗なまま残るのかもしれない」
女「死体はまあ、百歩譲って分かるとしてさぁ。あの煙みたいな霊体…みたいなのは?」
リン「知らん。分からん」
女「っていうか、こんな話すべきじゃないよね?もっとこう、じーんとすべきじゃない?」
リン「はあ?…いや、もういいだろ」
女「リンって、…切り替え早いよね。あ、悪い意味でだよ」
257 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:27:49 ID:ePK
私が精一杯の毒をこめた言葉に、リンが片頬を歪ませた。
リン「俺はあいつが嫌いだったからな」
女「…そうなの?」
リン「ああいう甘ったれは、苦手だ。いなくなって清々してる」
女「…ふうん」
そういうことにしておこう。
彼がコマリを抱いた時の、あの優しげな声や表情とか。
彼がコマリに手向けた、あの花の美しさとか。
…言ったら、怒るんだろうな。彼は。
リン「何笑ってる」
女「ううん。…リンってさあ、いい人だよね」
リン「はあ?」
女「何でもない」
じろりとこちらを睨んできたリンの視線をかいくぐるように、窓の外に目を向けた。
コマリの今際の言葉どおり、リンは山を下り、海に向かっている。
258 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:32:38 ID:ePK
女「ねえ、リン」
リン「ん」
女「…コマリと何を話してたの?」
リン「は?」
女「いや、いきなりコマリに協力しだしたり、別れ際だって何かこしょこしょ話してたじゃない」
リン「…」
リンがサイドミラーに目を向けた。
リン「たいしたことじゃない」
女「…彼って?」
リン「知らない」
リンがハンドルを切る。私の体は慣性に従い、ゆるく揺れた。
女「生存者?」
リン「…多分」
女「歯切れ悪くない?ねえ、何か秘密にしてるでしょ」
リン「本当に知らない。ただあいつは、生きた人間が海に向かったと言っていたんだ」
女「それが条件だったの」
リン「ああ」
…本当かなあ。
かなり、怪しい気がする。
女(なーんか)
リンは私に、何か隠している気がするのだ。
でも、追求しすぎるのはいけない気がした。
女(ま、…会って一週間も経ってない人に、軽々しく何でも言えない、か)
少し、…いや、なんでもない。
259 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:37:29 ID:ePK
少し停まろう。
正午の少し前、リンが呟いた。
女「ん、どうかした?」
リン「少し休みたい」
確かに。リンの一日は、ほぼ外を走り回るか、運転するかだ。
女「ごめんね、運転ばっかりさせて」
リン「しょうがない。お前にハンドル任せたら生命の危険だからな」
女「返す言葉もないけど…」
リン「涼しくなってきたな」
リンがついに、道路わきに車を停めた。
狭い道だが、対向車などあるはずもないので気にしなくていい。
リン「…なあ、川だぞ」
リンが私の座る助手席の窓を、顎で示した。
女「えっ」
身を乗り出すと、さらさらと音を立てる木の葉の隙間から、清い流れが見えた。
女「ほんとだ!!」
リン「よし、降りよう」
リンが珍しく、瞳に輝きを湛えている。
女「うんっ」
260 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:43:19 ID:ePK
女「つめたーーー!」
ばしゃばしゃと音を立てて浅瀬に入る。
飛び散った水の冷たさは、成る程、もう秋だ。
リン「転ぶなよ」
リンが裾をまくりながら言った。 失礼にもほどがある。
女「大丈夫ですからー。…リンも、ほらっ」
お返しに手を引っ張ると、リンはつんのめりながら川に入った。
リン「うわっ」
女「冷たいでしょ」
リン「いきなり引っ張るな。転ぶだろ」
リンはぎこちなく腰を曲げ、水を掬った。
美しい透明さだった。清水は光を屈折させ、リンの手のひらを爽やかに潤す。
リン「綺麗な川だな」
女「ここ、近くにキャンプ場とかもあったんだよね。もっと上流に行けば、滝もあるよ」
へえ、と呟いたリンに、そろそろと近づく。
冷たい水を掬って、そーっと
リン「おい」
女「げ」
振り返ったリンが、じとりと私を睨んだ。
女「えへへ」
リン「小学生みたいなことをするな」
261 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:48:12 ID:ePK
女「いやー、水っていいよね」
ぱしゃぱしゃと子どものようにはしゃいで跳ね上げる私。
リン「…寒い。もういい」
体を冷やすだけ冷やすと、さっさとタオルで足を拭くリン。
女「水着とかあればなー」
リン「風邪引くだろ、この冷たさじゃ」
女「でもこんな綺麗な川、泳がなきゃ損じゃん」
リン「…川遊びがしたいなら、もっと他に適役なのがあるぞ」
え、と振り向く。
玉石が転がる川瀬に腰を下ろしていたリンが、にやっと笑った。
リン「というわけで、今日の晩飯を取れ」
手渡されたのは、釣竿と網。
女「…こんなのあったんだ」
リン「勿論だ。たまには出来合いの食品以外のものをとらないとな」
女「でも私、釣りしたことない」
リン「知るか。とにかく自分が釣った分だけが食える、というルールの下やる」
暴君かこいつは。
女「と…取れなかったら、分けてく」
リン「やだね」
女「嘘ぉ」
262 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:57:24 ID:ePK
身の丈ほどの釣竿と、網を持ったまま呆然とする。
リンはさっさと場所を吟味しにかかった。
女「ちょ、っとー」
リン「なんだ」
女「やり方がわからないんだけど」
現代っ子め、とでも言いたげな目でリンはこちらを見た。
やれやれとこちらに近づいてくる。
リン「本当にやったことないのか?」
女「うん。全然分かんない」
リンは溜息をつき、釣竿を手に取った。
リン「餌をつける。針で指切るなよ。あと、返しが付いてるから服につけるな」
リン「…で、投げる。糸を張って、魚がかかるまで待つ」
女「魚がかかったら、どうするの?」
リン「引っ張る。終わり」
女「えー?」
リン「えー、じゃない。ほら、さっさと振れ」
女「ま、待ってよ。まだポイント決めてない」
リン「あっそ」
女「…絶対リンよりいっぱい取ってやる」
リン「ふうん」
264 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)21:00:25 ID:ePK
砂利の上を歩き、魚のいそうなポイントを探す。
上流なので川の流れはそこそこに速い。
女(…いんのかな、魚)
やがて目視じゃ何も確認できないと知った私は、川の中央にある大きな石まで移動した。
女「よ、っと」
ぬるぬるした苔を踏まないよう、慎重に足場を決める。
リン「そこでいいのか」
女「リン、こっちは私のテリトリーだから来ないでよね」
リン「はいはい」
びゅ、と軽い音がして、リンが竿を振った。
女(負けるか)
みようみまねで、私も川の流れに糸を垂らした。
女「…」
糸は流され流され、ぴんと張って止まった。
女(かかるかな)
少しの不安と、大きな期待を胸に、竿を握り締めた。
30分後。
女「…」
1時間後。
女「…」
遠くで静かな水音がした。
振り返ると、リンが何の感動も無く竿を上げ、大きなニジマスをバケツに移していた。
265 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)21:04:58 ID:ePK
女「…」
唖然としてその様子を見つめる。
リン「…」
リンはもう一度竿に餌をつけ、…そしてちら、とこっちを見た。
女「!」
笑っていた。
目を細め、顎を上げ、どうだといわんばかりに。
女「く、…っ」
悔しい。本気で悔しい。
女(なんでいつもいつも、リンのほうが優秀なのよ)
もう見ない。急いで竿に視線を戻し、その振動に集中する。
しばらくして、また後ろで水音がした。
またまたしばらくして、後ろで水音がした。
またまたまたしばらくして、…
女「やめた!!」
2時間半が経った時、わたしは遂に高らかに宣言した。
266 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)21:12:37 ID:ePK
岩の上を下り、足音荒く砂利道を歩く。
リン「あれ、やめるのか」
竿を繰りながら、リンが言った。
女「…」
彼の傍らにあるバケツには、瑞々しい色の魚が4匹。
女「私に釣りは向いてないのかも」
リン「だろうな。集中力、根気がいるからな」
女「…っ」
くそう。くそう、くそう。
リン「どうすんだ?このままじゃ晩飯ナシだぞ」
女「黙ってて。あのね、考えはあるんだから」
そう、ある。
女「リンは今4匹ね。…すぐ倍にするから、いいもん」
リン「そんなに取っても食いきれないだろ」
冷静に竿を見つめながら返すリンに、精一杯の抵抗として舌を見せた後、私は服に手をかけた。
上着に着ていたパーカーを脱ぎ、半そでのTシャツだけになる。
リン「…」
靴を脱いで、太ももまでを覆っていたハイソックスを地面に放る。
リン「何する気だ」
リンが静かに聞いた。
女「魚のつかみ取り」
短く返すと、私は川の中に勇ましく入っていった。
女「…」
私は、しばらくその場にたたずんでいた。
ただ、コマリの消えた助手席を見ていた。
リン「おい」
リンが肩を叩く。
女「…ん?」
リン「これ」
リンが、どこで摘んできたのか黄色い花を私に差し出してきた。
女「…コマリに?」
リン「ああ」
可愛らしい花弁を風揺らす花を、2本。
私とリンの手が助手席に置いた。
さようなら、コマリ。
私とリンは、日が昇りきるまで、リンの消えたあとを見つめていた。
そして
車に戻って少しだけ仮眠を取り、私達は遊園地をあとにした。
246 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)16:22:45 ID:1mE
>>245
リンの消えたあとじゃない…コマリだ…
247 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)16:23:23 ID:1mE
とにかく遊園地編終了です。お付き合いどうも。
248 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)16:25:47 ID:hJm
乙
結末がどうなるのか楽しみ
249 :名無しさん@おーぷん :2015/09/14(月)16:56:31 ID:irI
お疲れさま
アニメ化決定
251 :名無しさん@おーぷん :2015/09/15(火)21:43:02 ID:3YH
マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆
252 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)02:29:53 ID:SiT
期待
253 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)14:01:26 ID:FZE
「ハローハロー。続きはまだですか?どうぞ」
255 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:13:23 ID:ePK
女「…」
リン「…」
私達は、無言で山道を走った。
何も言えなかった。
悲しい、とか、寂しいとか、…この感情につく名前が思いつかない。
リンは、どう思っているのだろうか。
彼は今、何を考えて運転をしているのだろうか。
女「…」
その横顔は、いつもより白く見えた。
リン「なあ」
女「あ、…なに?」
リン「お前今、何考えてる」
女「…」
リン「どう思った」
女「分かんない。…悲しい。けど、…良かったなって思う」
リン「良かった?」
女「だってコマリは、もう一人ぼっちじゃないでしょ」
256 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:23:07 ID:ePK
リン「そうだな」
女「…リンは?」
リン「概ねお前と一緒だな」
リン「それより一つ、気になったことがある」
出たよ。
感傷に浸るということを知らないのか、この男の子は。
リン「あいつの遺体についてだ」
女「ああ。…綺麗だったね」
リン「損傷が全く無かった。俺たちが来る1秒前に死んだといわれても驚かない程度に」
女「確かに」
そうだ。コマリ、って呼んだら、あの可愛い声で「はあい」って返事して起きそうなほど。
リン「…首の痣。あれは潜伏感染の証だ」
女「そうだね」
リン「俺は、…それが何か関係してるんじゃないかって思ってる」
女「でも、感染しちゃったら頭が破裂するんじゃないの?」
リン「潜伏感染の例を見たことがあるか?」
女「ない…」
リン「なら、わかんないだろ。ああやって死体が綺麗なまま残るのかもしれない」
女「死体はまあ、百歩譲って分かるとしてさぁ。あの煙みたいな霊体…みたいなのは?」
リン「知らん。分からん」
女「っていうか、こんな話すべきじゃないよね?もっとこう、じーんとすべきじゃない?」
リン「はあ?…いや、もういいだろ」
女「リンって、…切り替え早いよね。あ、悪い意味でだよ」
257 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:27:49 ID:ePK
私が精一杯の毒をこめた言葉に、リンが片頬を歪ませた。
リン「俺はあいつが嫌いだったからな」
女「…そうなの?」
リン「ああいう甘ったれは、苦手だ。いなくなって清々してる」
女「…ふうん」
そういうことにしておこう。
彼がコマリを抱いた時の、あの優しげな声や表情とか。
彼がコマリに手向けた、あの花の美しさとか。
…言ったら、怒るんだろうな。彼は。
リン「何笑ってる」
女「ううん。…リンってさあ、いい人だよね」
リン「はあ?」
女「何でもない」
じろりとこちらを睨んできたリンの視線をかいくぐるように、窓の外に目を向けた。
コマリの今際の言葉どおり、リンは山を下り、海に向かっている。
258 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:32:38 ID:ePK
女「ねえ、リン」
リン「ん」
女「…コマリと何を話してたの?」
リン「は?」
女「いや、いきなりコマリに協力しだしたり、別れ際だって何かこしょこしょ話してたじゃない」
リン「…」
リンがサイドミラーに目を向けた。
リン「たいしたことじゃない」
女「…彼って?」
リン「知らない」
リンがハンドルを切る。私の体は慣性に従い、ゆるく揺れた。
女「生存者?」
リン「…多分」
女「歯切れ悪くない?ねえ、何か秘密にしてるでしょ」
リン「本当に知らない。ただあいつは、生きた人間が海に向かったと言っていたんだ」
女「それが条件だったの」
リン「ああ」
…本当かなあ。
かなり、怪しい気がする。
女(なーんか)
リンは私に、何か隠している気がするのだ。
でも、追求しすぎるのはいけない気がした。
女(ま、…会って一週間も経ってない人に、軽々しく何でも言えない、か)
少し、…いや、なんでもない。
259 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:37:29 ID:ePK
少し停まろう。
正午の少し前、リンが呟いた。
女「ん、どうかした?」
リン「少し休みたい」
確かに。リンの一日は、ほぼ外を走り回るか、運転するかだ。
女「ごめんね、運転ばっかりさせて」
リン「しょうがない。お前にハンドル任せたら生命の危険だからな」
女「返す言葉もないけど…」
リン「涼しくなってきたな」
リンがついに、道路わきに車を停めた。
狭い道だが、対向車などあるはずもないので気にしなくていい。
リン「…なあ、川だぞ」
リンが私の座る助手席の窓を、顎で示した。
女「えっ」
身を乗り出すと、さらさらと音を立てる木の葉の隙間から、清い流れが見えた。
女「ほんとだ!!」
リン「よし、降りよう」
リンが珍しく、瞳に輝きを湛えている。
女「うんっ」
260 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:43:19 ID:ePK
女「つめたーーー!」
ばしゃばしゃと音を立てて浅瀬に入る。
飛び散った水の冷たさは、成る程、もう秋だ。
リン「転ぶなよ」
リンが裾をまくりながら言った。 失礼にもほどがある。
女「大丈夫ですからー。…リンも、ほらっ」
お返しに手を引っ張ると、リンはつんのめりながら川に入った。
リン「うわっ」
女「冷たいでしょ」
リン「いきなり引っ張るな。転ぶだろ」
リンはぎこちなく腰を曲げ、水を掬った。
美しい透明さだった。清水は光を屈折させ、リンの手のひらを爽やかに潤す。
リン「綺麗な川だな」
女「ここ、近くにキャンプ場とかもあったんだよね。もっと上流に行けば、滝もあるよ」
へえ、と呟いたリンに、そろそろと近づく。
冷たい水を掬って、そーっと
リン「おい」
女「げ」
振り返ったリンが、じとりと私を睨んだ。
女「えへへ」
リン「小学生みたいなことをするな」
261 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:48:12 ID:ePK
女「いやー、水っていいよね」
ぱしゃぱしゃと子どものようにはしゃいで跳ね上げる私。
リン「…寒い。もういい」
体を冷やすだけ冷やすと、さっさとタオルで足を拭くリン。
女「水着とかあればなー」
リン「風邪引くだろ、この冷たさじゃ」
女「でもこんな綺麗な川、泳がなきゃ損じゃん」
リン「…川遊びがしたいなら、もっと他に適役なのがあるぞ」
え、と振り向く。
玉石が転がる川瀬に腰を下ろしていたリンが、にやっと笑った。
リン「というわけで、今日の晩飯を取れ」
手渡されたのは、釣竿と網。
女「…こんなのあったんだ」
リン「勿論だ。たまには出来合いの食品以外のものをとらないとな」
女「でも私、釣りしたことない」
リン「知るか。とにかく自分が釣った分だけが食える、というルールの下やる」
暴君かこいつは。
女「と…取れなかったら、分けてく」
リン「やだね」
女「嘘ぉ」
262 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)20:57:24 ID:ePK
身の丈ほどの釣竿と、網を持ったまま呆然とする。
リンはさっさと場所を吟味しにかかった。
女「ちょ、っとー」
リン「なんだ」
女「やり方がわからないんだけど」
現代っ子め、とでも言いたげな目でリンはこちらを見た。
やれやれとこちらに近づいてくる。
リン「本当にやったことないのか?」
女「うん。全然分かんない」
リンは溜息をつき、釣竿を手に取った。
リン「餌をつける。針で指切るなよ。あと、返しが付いてるから服につけるな」
リン「…で、投げる。糸を張って、魚がかかるまで待つ」
女「魚がかかったら、どうするの?」
リン「引っ張る。終わり」
女「えー?」
リン「えー、じゃない。ほら、さっさと振れ」
女「ま、待ってよ。まだポイント決めてない」
リン「あっそ」
女「…絶対リンよりいっぱい取ってやる」
リン「ふうん」
264 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)21:00:25 ID:ePK
砂利の上を歩き、魚のいそうなポイントを探す。
上流なので川の流れはそこそこに速い。
女(…いんのかな、魚)
やがて目視じゃ何も確認できないと知った私は、川の中央にある大きな石まで移動した。
女「よ、っと」
ぬるぬるした苔を踏まないよう、慎重に足場を決める。
リン「そこでいいのか」
女「リン、こっちは私のテリトリーだから来ないでよね」
リン「はいはい」
びゅ、と軽い音がして、リンが竿を振った。
女(負けるか)
みようみまねで、私も川の流れに糸を垂らした。
女「…」
糸は流され流され、ぴんと張って止まった。
女(かかるかな)
少しの不安と、大きな期待を胸に、竿を握り締めた。
30分後。
女「…」
1時間後。
女「…」
遠くで静かな水音がした。
振り返ると、リンが何の感動も無く竿を上げ、大きなニジマスをバケツに移していた。
265 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)21:04:58 ID:ePK
女「…」
唖然としてその様子を見つめる。
リン「…」
リンはもう一度竿に餌をつけ、…そしてちら、とこっちを見た。
女「!」
笑っていた。
目を細め、顎を上げ、どうだといわんばかりに。
女「く、…っ」
悔しい。本気で悔しい。
女(なんでいつもいつも、リンのほうが優秀なのよ)
もう見ない。急いで竿に視線を戻し、その振動に集中する。
しばらくして、また後ろで水音がした。
またまたしばらくして、後ろで水音がした。
またまたまたしばらくして、…
女「やめた!!」
2時間半が経った時、わたしは遂に高らかに宣言した。
266 :名無しさん@おーぷん :2015/09/16(水)21:12:37 ID:ePK
岩の上を下り、足音荒く砂利道を歩く。
リン「あれ、やめるのか」
竿を繰りながら、リンが言った。
女「…」
彼の傍らにあるバケツには、瑞々しい色の魚が4匹。
女「私に釣りは向いてないのかも」
リン「だろうな。集中力、根気がいるからな」
女「…っ」
くそう。くそう、くそう。
リン「どうすんだ?このままじゃ晩飯ナシだぞ」
女「黙ってて。あのね、考えはあるんだから」
そう、ある。
女「リンは今4匹ね。…すぐ倍にするから、いいもん」
リン「そんなに取っても食いきれないだろ」
冷静に竿を見つめながら返すリンに、精一杯の抵抗として舌を見せた後、私は服に手をかけた。
上着に着ていたパーカーを脱ぎ、半そでのTシャツだけになる。
リン「…」
靴を脱いで、太ももまでを覆っていたハイソックスを地面に放る。
リン「何する気だ」
リンが静かに聞いた。
女「魚のつかみ取り」
短く返すと、私は川の中に勇ましく入っていった。
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
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魔法使い「メラしか使えない」
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