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女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」

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Part7
118 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:36:27 ID:dox
リン「なるほど。まあ、難しくはなさそうだ」
女「じゃあ、やってみよう」
リン「少し待ってろ」
リンがリュックから、黒い塊を取り出した。
女「…なに、それ?」
リン「エレクトキューブ」
あ、何か聞いたことあるかも。たしか
リン「この箱の中に電気を溜め込んで、機器と接続する。持ち運べるコンセントみたいなやつだな」
女「へー、便利だね」
リン「待ってろ。繋ぐから」
カチ
女「…どう?」
リンが指先でマイクをつつく。 トッ、とくぐもった音が辺りにこだました。
女「すごい。使えるようになってる!」
リン「お前のいた場所で充電させてもらったからな」
女「何時の間に…。あ、何て放送しようか」
リン「そうだな。…玄関口のイベントやるホール、あるだろ。あそこがいい」
女「じゃあ、そこに来てくださいって放送するね」
リン「…お前が?」
女「え、やりたい。やってみたい」ワクワク
リン「…」
女「もしかして、リンもやりた」
リン「お前でいい、さっさとやれ」

120 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:42:14 ID:dox
女「…」
深呼吸をして、マイクに口を寄せる。
女「あ」
あ、あ…。 私の声が、がらんどうとなったモールに響く。
女「…ただいまマイクのテスト中」
リン「余計なことするな」
女「はーい。ええと、…ごほん」
余所行きの声を、そっとマイクに吹き込んだ。
女「…ええと、私の名前は女。リンという少年と旅をしています。今日から」
女「生存者を探してここまで来ました。だれか、いませんか?」
女「もしいたら、一階のイベントホールまで来てください。ショーとかやる、舞台とイスが設置された所です」
リン「…」
女「で、いいかな?」
リン「まあ要点は伝えられただろ。切るぞ」
リンがキューブを抜き、放送機材は再び物言わぬガラクタと化した。
女「来るかな」
リン「さあ。人が来るか、青い幽霊が来るか。それとも、何も来ないか」
女「私の声、変じゃなかった?」
リン「普通だ」
そう言うリンの声は、冷たく透き通っていた。

121 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:48:14 ID:dox
人を待つ間、ホールで夕食をとることにした。なんだかんだで、もう夜だ。
リンが取ってきた冷凍食品を、キューブを使って電子レンジで温める。
女「冷凍食品のチャーハンってさ、美味しいよね」
リン「そうか?」
女「うん。お店と同じ味する」
せっせとスプーンでご飯粒を口に運ぶ私を、冷めた目で見つめるリン。
彼の選んだ食事は、うどんだった。
リン「…」
つるつると機械的に摂取していく。
女「ね、ちょっと交換しない」
リン「行儀が悪い。しない」
女「ケチ」
リン「ガサツ」
…会って2日だが、なんとなくリンの呼吸が分かってきた気がする。
彼は冷たく、どこか事務的だけど、賢い男の子だ。
賢いから、話しやすい。徹底した感情排斥が、逆に心地よく作用しているみたいだ。

123 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:53:54 ID:dox
食後、コーヒーショップから拝借してきたココアの粉とコーヒー豆で一服した。
女「ミルクがあるともっといいんだけどな」
熱いココアを拭いていると、明らかにリンは私を見下した目をした。
リン「コーヒー飲めないのか」
女「だって、苦いじゃん」
リン「18歳なのに?」
女「焦げたトーストみたいな味するんだもん。酸っぱいし」
リン「苦味をうまみと感じられないのか。貧相な舌だな」
女「…ココアのほうが美味しいもん」
何気ない会話を重ねているが、なんとなく気づきはじめたことがある。
女(…来ないな)
リンもそれを分かっているのだろう。コーヒーを飲む手が、止まりがちだ。
女「…遅いね」
リン「もう少し待とう」
女「…」ズズ
私は膝を抱え、さっき書店で取ってきた雑誌を読むことにした。
リンは、ランプの明かりでなにか書き物をしている。
リン「…」
手帳を閉じ、ふいに立ち上がった。

124 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:59:04 ID:dox
リン「なあ」
女「ん?」
リン「…ソレイユって店、知ってるか」
女「ソレイユ?」
女「…ええと、あれか。生パスタが有名なイタリアンのお店だ」
リン「ここにあるよな?」
女「うん。あー、懐かしい!3時間待ちの行列とかできてたんだよ」
リン「ふうん」
リンの目が、レストランの並ぶフードエリアに向けられた。
女「どうしてそんなこと、聞くの?」
リン「なんとなく」
女「今はもう、ピザもパスタも食べられないよ」クス
リン「…そうだな。けど」
リン「どこら辺にあった?」
女「…えと、東がわのフードエリアの、おすし屋さんの横。…だから、何で?」
いや、ちょっとな。リンは珍しく目を伏せ、口の中でもみ消すように相槌を打った。
女(…なんでだろ?)


125 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:03:51 ID:dox
リン「…」
リンはしばらく何か考えるように顔を伏せていた。
リン「トイレ」
女「え」
リン「行ってくるから、ここで待ってろ。すぐ戻る」
言うだけ言うと、リンはさっさと立ち上がった。警棒を手にし、懐中電灯のスイッチを入れる。
女「ちょっと、一人にしないでよ」
リン「お前までここを離れたら都合が悪いだろ」
女「そうだけど」
リン「すぐ戻る」
早口で言うと、リンは歩き出した。 東側のトイレへとはや歩きで向かう。
ゆらゆら揺れていた牡丹と、懐中電灯の明かりが、闇に吸い込まれていった。
女「…もう」
女(一人だと、やっぱ不安だな)
女「…」
気を紛らわすため、再び雑誌に目を通した。

126 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:08:56 ID:dox
中高生に爆発的人気を誇っていたバンドのボーカルが、白い歯を向けて笑っている。
女(今思えば、そんなに恰好よくないな)
学校で友達と話し合ったもんだ。ボーカルの何々君が一番カッコイイ。
いや、ギターのだれだれ君だよ。 分かってないな、ドラムのなんとか君だよ。
…今思えば、懐かしい、どうでもいい話だ。
女(…来ないかな)
目を閉じて、妄想する。
私はギターを弾くあの人が一番気に入ってた。ふわふわした茶髪の、イヌっぽい童顔の人だ。
そのイヌみたいなギターが、暗闇の中ひょっこり現れて。
それで、やっぱりいた!って、レトリバーを彷彿とさせる笑顔で言う。
嬉しそうに駆け寄って、私の手をとって…
ピシャ
女「!」
女(…いま、…なにか)
聞こえた。
水音だ。

127 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:13:34 ID:dox
反射的に、警棒に手を伸ばしていた。
ボタンを押し、凶悪な固い素材を露出させる。
女「…」
耳を澄ます。
水音は聞こえない。自分の呼吸の音、痛いくらいに鳴り響く鼓動。
それだけしか、私の耳に
ピシャン
女「…っ」
いる。
確実に、いる。
女(…どう、しよう。リンに、連絡…)
でも、まだ音が遠い。話し声で気づかれたらどうしよう。
女(ラ、ランプ…。消さなきゃ)パチ
怖い。 リンがいないと、こんなにも不安だ。
女(なにやってるの、もうっ…)
そういえばトイレに経ってから15分は経ってるんじゃないか。
いくらなんでも遅すぎる。
ピシャ
パチャ
音が、近づく。

128 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:26:09 ID:dox
ベンチの下に身を隠した。息をひそめ、音を立てないよう身を固くする。
女(お願い、通り過ぎて)
ピタ ピチャ
ピタ ピチャ
…一匹じゃ、ない?
女(…音が違う。2匹以上、いるんじゃ)
女(…っ)ギュ
リン、お願い。早く。離れるなって言ったの、そっちのくせに。
ピチャ
「…あ」
5,6歩先に、はだしの青い足が見えた。
ふら、ふら、ふら、と。踊るようにこちらへ、一直線に近づいて
女(や、ば)
気づかれた?逃げなきゃ でも、でも
女(…逃げなきゃ!)
私は勢いよくベンチから飛び出した。足で巻こう。トイレまで行って、リンを呼んで
「…あぁ」
女「きゃ、っ!!?」
嘘。
ステージの上には、もう一匹のトウメイがいた。
頭部に空いた穴が、目のように、じ、っとこちらを見つめている。
ピシャ ピシャ
後ろから迫る足音と、のそりと動き出した目の前の敵。
女(…あ)
動けなかった。

129 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:32:35 ID:dox
触れれば、倒せるだろうか。
でも、全てのトウメイには通じないかもしれない。
なら、殴って殺そうか。
女(うごけ、ない)
心臓の音がうるさくて、眩暈がして、足に力が入らない。
「う、ー」
両方が、あと1歩踏み出せば触れられるんじゃないかという距離に、近づいて
動けない。
「…女っ!!」
凛とした少年の怒号と同時に、穴の開いた頭部が弾けた。
ナイフが弧を描いて飛んできたんだ。理解するのに、数秒を要した。
リン「伏せろ!」
言われなくても、伏せていた。足がついに体重を支えることを放棄したのだ。
力強い走りで、床を微かに揺らしながら、リンは敵にむかっていった。
牡丹の花が暗いモールに散るように、見えた。
「ぁあああああああ!」
パン。
軽い音がして、その後にぼたぼたと青い水が床に広がった。
リン「…」
顔をあげると、案の定、彼がいた。
リン「立てるか」
答えを聞く前に、私を引っ張りあげてくれた。

130 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:38:33 ID:dox
女「ごめ、ん」
リン「何で謝る」
女「動けなかった、の。…助けてくれて、ありがとう」
リン「…」
広がった水をブーツの底で踏みしめ、リンはこちらに一歩近づいた。
リン「いや、お前を置き去りにした俺が悪かった」
頬に冷たいものが触れた。
彼の、指だ。
私の顔についた青い死骸を、少し乱暴に拭う。
リン「俺のミスだ」
女「…」フルフル
リン「…出るか。やっぱり、逆効果だったようだな」
女「ここ、…やっぱり、いない?」
リン「ああ。これだけ待っても、来たのはこいつらだけだしな」
釣られたのだろうか。
私たちに助けを求めて、モールをさ迷う彼らが
放送を聞いて、胸を躍らせて。
リン「行こう。今日はもう、車の中に泊まるべきだな」
てきぱきと片づけをはじめるリンの背中をぼうっと眺めた。
全ての荷物を纏め終わると、リンは手帳を拾い上げて
リン「…」
彼のペンを握る手が、小さく動き、手帳にバツを書き入れた。

131 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:42:01 ID:dox
ショッピング・モール編終了です。

134 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:48:12 ID:dox
今日はここまでにしときます。おやすみー

135 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:48:29 ID:aFX
おつ

136 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:51:50 ID:dox
ショッピングモールの雰囲気を味わいたい方は「ピエリ守山」で検索してね

137 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)22:52:29 ID:czH
乙です
明日も楽しみにしてます!

138 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)23:04:25 ID:kSa
乙!おもしろかった!

142 :名無しさん@おーぷん :2015/09/13(日)22:27:15 ID:uAT
ねえ、お母さーん
…避難、するの?
「当たり前じゃない。お婆ちゃん家に行くって言ったでしょ」
ふうん
「準備したの?」
まだ
「いい加減にしなさい。教材も荷詰めしなさいって言ったでしょ」
…うん
「あのね、…学校でも教えられたでしょ?本当に危険なのよ」
分かってるよ
「お父さんだって途中で迎えに行かないといけないのよ」
うん
「友達とは、また落ち着いてからいくらでも連絡とれるでしょ。いい加減にしなさい」

「女?」
…だって、…怖いんだもん
「…何言ってるの」
「大丈夫よ。だから早く避難するんじゃない。ほら、泣かないの」
「もう、お姉ちゃんでしょ!大丈夫!しっかりしてごらん」
…う、うん
「じゃあ、はい。早く荷物」
…お母さん?
「何?」
おかあさん、
頭、が

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