清掃員:天使
Part681:名無しさん:10/11/15 04:34 ID:5KqIGw5982
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ヒキコモリこと、宮部羅望(みやべらもう)の家は
学校のベランダから見えるくらいの大きな高層マンションだった。
「でかいな」
「ねー、でかいね。」
此処まで来る間、沢登由衣は先生から聞いた話を説明してくれた。
話によると、
宮部羅望は一人でこのマンションの最上階に暮らしているらしい。
俺達はマンションの入り口に入るが、
入り口はオートロックが掛かっていた。
「入れない」
「なんで?」
「…見りゃ分かるだろ。鍵が無きゃ開かないんだよ」
「……ёЮФヴΓ【鍵】のkAi錠」
「は?」
突然、沢登由衣は何かを呟いた。
いや、何かを『唱えた』というべきか。
すると、正面の自動扉は何事もなく開いた。
「なにをした?」
「『鍵を開けた』だけだよ?」
82:名無しさん:10/11/15 21:33 ID:5KqIGw5982
広々としたエレベーターに入り、最上階である35階へのボタンを押す。
「頭が引き伸ばされそうだね」
沢登由衣は大袈裟に頭を抱えて呟いた。
「……」
俺は考えていた。
鍵を使わずにただ扉の前で『何かを唱えた』だけで
なぜ扉が開いたのだろう。
だが答えを見つけるには、このエレベーターは速過ぎた。
チンと音が鳴ると、滑らかに扉が開く。
目的の宮部羅望に会うのはもうすぐだった。
83:名無しさん:10/11/15 21:48 ID:j4f.n2aktg
「お邪魔しまーす」
沢登由衣は扉を開け、姿無き住人に声を掛ける。
宮部の部屋には鍵が掛かっていなかったのか、すんなりと扉が開いた。
まさか、また……
「ちょっ!また何か『唱えた』のか!?」
「えっ!?違う違う!今回のは鍵掛かって無かったよ?」
本当だろうか。
俺達は靴を脱ぎ、部屋の奥へと進む。
部屋の中は男の一人暮らしにしてはかなり広く、綺麗にされていた。
そして居間には――
「宮部……」
「久しぶりだねぇ。佐伯創クン。それと――」
「あっ、はじめまして。私は」
「沢登由衣クンでしょ??」
84:名無しさん:10/11/15 21:49 ID:uXIFugrlws
「うわ!凄っ!なんで知ってるのー?」
「調べたからね」
「どうやって?」
「簡単だよ。演劇部の後輩に調べさせたんだ」
「わぁ!すごーい!」
「ただキミは不思議だな。これまでの転入生だったら、来るまでに何らかの『予兆』が在るんだけどね。何の予兆も無く、やって来たのは初めてだ」
愉しげに宮部は語る。
「学校が嫌で来ないワケじゃあ無いのか」
俺は宮部に聞く。
「佐伯クン。世の中の引き篭もりが総て苛められてて、学校に来ないワケじゃあ無いのよ」
「じゃあなんで」
ふぅ、と宮部は息をつきながら着ていたシャツのボタンを一つ外す。
「簡単な理由。小説のネタが浮かばないんだ」
85:名無しさん:10/11/15 21:52 ID:uXIFugrlws
「小説?」
「今年の年末にね、大きな賞があるんだ」
「そのためだけに学校を?」
「それが何か?」
宮部は笑う。
いつからコイツは人を見下ろすような態度を取るようになったんだろう。
「それで、今日は何を――」
「芝居やるから脚本書いて欲しいなぁ、って!」
沢登由衣は答える。
「却下だね、そんなの」
「お前っ」
「さっきも言ったろ?忙しいんだ。もう帰ってくれるかな」
コイツはもう駄目だ。
俺達を寄せ付けないつもりだ。
「……分かった。帰るよ」
俺は踵を返し、宮部に背を向ける。
「佐伯くん!」
沢登由衣が後ろから呼び止める。
「帰るぞ」
俺は沢登由衣の居る方を振り向いた。
そこには先ほどまで目の下にクマを作って居たはずの宮部が
ぐったりと頭を机に突っ伏した姿があった。
「…………マジかよ」
86:名無しさん:10/11/15 21:54 ID:4sfdgTgOT2
「おまえ、人を殺し――」
これがいわゆる『ついカッとなって』って奴なのか……!
「違う違う!気絶だよ?気絶。ね?」
沢登由衣の右手にはどこから持って来たのか、
モデルガンが握られていた。
あれで殴ったのか?
「……流石にそれは引くわ」
「えっ、でもなんかヤバそうな人だったし……」
この状況でよくも他人の事をヤバそうなんて言えるな。
「でもどーすんだ?また転校するか?」
「それは勘弁願いたいよ!せっかく演劇やるのに!」
そこかよ
「……なんか良い方法は?」
「うーん……。手出してくれるかな」
「手?」
87:名無しさん:10/11/15 21:56 ID:iNRJRKk/Ts
一体何考えてるんだ?
俺は恐る恐る手を差し出す。
「はい。あくしゅ」
そう言うと、沢登由衣は俺の手を握る。
「うわ!」
柔らかい。
女の手ってこんなに柔らかなものなのか。
「?」
沢登由衣は俺の反応に疑問を浮かべる。
「宮部くんもあくしゅー」
今度は机に突っ伏した宮部の手を握る。
「何の真似だ」
「まあまあ、飛び込むよ」
「飛び込む?」
「対象者は『宮部羅望』。同行者は『佐……s……xa疫e佐yi伯Фそ創始め創』ヴヴヴ1mdajg……」
突然、沢登由衣がワケの解らないことを始めた。
さっきの扉を開けた時と似た、何かを『唱えて』いるようだ。
眩い光、室内に響く轟音。
これは――
88:名無しさん:10/11/15 21:57 ID:iNRJRKk/Ts
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気が付くと、見知らぬ部屋に居た。
六畳一間の古臭い部屋だ。
「はい、到着でーす」
俺の隣には沢登由衣が居た。
「……ここは?」
「彼の。宮部羅望の精神世界って感じかな」
「は?」
「……まあまあ。話せば長くなる」
そう言うと、沢登由衣は玄関の扉を開ける。
「おい待てよ!」
慌てて俺も後を追う。
だが玄関に差し掛かる辺りで沢登由衣が駆け足で戻って来た。
「ヤバいヤバい!部屋戻って!」
「は?なんなんだよ?おま――」
「伏せて!!」
沢登由衣が俺を押し倒した瞬間、何かがアパートに直撃した。
89:名無しさん:10/11/15 21:58 ID:DqEWF02yyY
倒された勢いと、何かがアパートに直撃した衝撃で頭がクラクラした。
「今のは……何だ?」
「戦車……だね。型は3号戦車」
「……型?何言ってんだ?」
「……静かに。誰か来るよ」
俺の口元に手をあて、静かにするように制する。
すると、何者かがこちらに近づいて来たのがわかった。
「……!……!!」
すぐそばで何かを喋っている。
恐らく俺達の居る場所を見つけたのだろう。
90:名無しさん:10/11/15 22:00 ID:pzT5R6geCY
何者かは、靴音を鳴らしながら此方へと近づいてくる。
そして、俺達の部屋の前で靴音は止んだ。
間違いない。もうここに居ることが分かっている。
扉を蹴破り、そいつは大声を挙げて笑う。
第二次大戦中のドイツ兵の格好をした男の手には機関銃が握られていた。
終わりだ――
「待てぃ!悪党め!」
突如、扉を蹴破った男とは別の男が現れた。
手には剣を携え、男に切りかかる。
「ていっ、やああっ」
芝居がかった掛け声を発しながら剣を振る。
ドイツ兵は切られると、パタリと倒れ込んだ。
91:名無しさん:10/11/15 22:01 ID:irZwQUuv.6
面白いw
92:名無しさん:10/11/15 22:01 ID:SgTN3iRB0U
異常に気づいたのだろうか。
後続のドイツ兵達が此方に向かってくる音がした。
「少し待ちたまえ」
そう言うと、男はドイツ兵達に剣一つで突っ込んだ。
相変わらず「てい、やあ」などと芝居がかった声を掛けていた。
ドイツ兵達は切られる度に先ほどと同じようにパタリと倒れ込む。
残された戦車は男に向けて機銃を撃つも、何故か一発も当たらない。
そして、お返しと言わんばかりに男は呪文のようなものを唱え、戦車を爆発させる。
戦車は一見大破したかの様に見えたが、中から無傷の兵士が這い出て降伏をしていた。
「もう大丈夫さ。出ておいで」
紳士的な口調で俺達に呼びかける
93:名無しさん:10/11/15 22:04 ID:kIHfKLixAs
「あんたは一体……」
俺達はその男に歩み寄り、声を掛けた。
さわやかな風貌に、眩いほどに輝く剣。
「僕の名はカイン。この剣はラグナロクというんだ。ラグナロクは……」
突如どうでもいい話を語り出す男、カイン。
「いや、それより」
「僕は幼い頃に両親を亡くし、孤児院で暮らしていた。
そんなある日、父が生きているという噂を聞きつけて旅に出ることにしたんだ。
旅の途中、両親の過去を僕は知った。父は伝説の騎士で、
母は天界でヴァルキリーと呼ばれる戦乙女だったんだ」
………はぁ?
ラグナロク?ヴァルキリー?騎士?
どうやら俺は頭がファイナルなファンタジー野郎に出会ったようだ
94:名無しさん:10/11/15 22:07 ID:pzT5R6geCY
「そして、父は今も悪の化身ダジュバルとの闘いに身を投じていることを知り、ダジュバルの城へと向かって」
「ちょちょちょ、ちょっと待て」
「…ノイダル語しか通じないかい?」
「ごめん。通じてるよ、うん」
「私たち、宮部くんを探しているの」
我慢出来なかったのだろう。
沢登由衣は単刀直入に聞いた。
そもそも俺達は宮部を探しに来たのだろうか?
「ミヤベ……あぁ、偉大なる僧侶ミヤベか!」
「偉大かどうか知らんが、そいつの所へ案内してくれ」
「あぁいいだろう!ついて来てくれ!」
95:名無しさん:10/11/15 23:48 ID:7j/sPOVAuo
着いた先は小さなパン屋だった。
その小さなパン屋はどこか見覚えのある店だった。
「山田ベーカリー……」
「聞いたことあるの?」
「あぁ、高校の近くにあるパン屋だよ。見た目も一緒だ」
「へぇー」
荒廃した市街地の中で、山田ベーカリーだけはまるで別世界から持って来たかのように立っていた。
右の病院は戦車の砲弾で吹き飛ばされたような跡があり、
左の教会も直径5センチ程の穴がミシン目のように空けられていた。
「さっ、中にミヤベが居るはずだ!行くよ!」
カインに案内され、店へと入る。
店内の陳列棚にはパンが並んで居るにも関わらず、
パン屋特有のあの芳ばしい香りは一切無かった。
カインはレジの脇にある、奥へと続く通路に進んで行った。
「ミヤベ!君に会いたいという旅人が居るんだ!会ってくれないか?」
引き戸越しにカインは声を掛ける。
「…………通せ」
返事を聞いたカインは笑みを浮かべ、引き戸をそっと開ける。
そしてカインは俺達に中へと入るように促した。
96:名無しさん:10/11/15 23:48 ID:7j/sPOVAuo
引き戸の先は居間だった。
八畳程の純和風の古めかしい居間だった。
そしてそこには――子供が居た。
「良く来たね、佐伯創クン」
「…………??」
誰だ、この子供は
「かわいー!年齢は7、8歳くらいかなぁ」
沢登由衣はその子供の頭を撫でる。
子供の方はと言えば、物凄く嫌そうな表情を浮かべている。
「誰だこれ」
「フン、誰だとは失礼だな。さっきまで会って居たのに」
さっきまで?
「あっ、ごめん。教えて無かったね。この子は宮部君の精神体なんだよ」
「精神体?見た目子供だけど」
「精神年齢が幼いから子供に見えるんだよ」
「若い感性を持っている、と言って貰いたいものだがね」
子供は斜に構えていた。
その態度と姿のアンバランス加減が滑稽だった。
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