清掃員:天使
Part797:名無しさん:10/11/15 23:50 ID:iNRJRKk/Ts
「それで、何をしにここへ?」
宮部は俺達に訪ねる。
正直、俺が聞きたいくらいだと思った。
「『毒』の処分に来たよ、と言えば分かるかな?」
毒?なんだそりゃ
「ははっ、本当か。処分ねぇ」
宮部は笑う。
叶わぬ夢を語る人を嘲笑うかのように。
「そいつを処分すれば、今のスランプも抜け出せるんじゃない?」
「……なるほど。スランプを脱した僕に脚本を書いて貰おう、って事か?」
「話が早いね」
沢登由衣はさっきから何を言って居るんだろうか。
「……それで、『毒』はどこに?」
「ここに来るまでに会ったろう?」
「まさに僕に相応しい『毒』だよ。アイツは」
「マンネリ化の象徴『カイン』こそが『毒』さ」
98:名無しさん:10/11/15 23:50 ID:iNRJRKk/Ts
カイン?
さっきのファンタジー物の主人公みたいな奴か。
「奴の闘いを見て、気付かなかったか?何もかもが主人公だよ、アイツは」
ピンチの時に都合よく現れ、敵の攻撃を一切受け付けない。
「アイツは新しいアイデアが浮かんでも、平気で切り捨てて台無しにする。アイツさえ消えれば、な」
「……なるほど。最善は尽くすよ」
沢登由衣はスッと立ち上がった。
「どこへ行く気だ」
俺は聞いた。
「カインを止めるよ」
99:名無しさん:10/11/15 23:51 ID:7j/sPOVAuo
・
・
・
・
俺達はカインが待つ交差点に向かった。
「これはこれは。君たち、もうミヤベとは話し終わったのかい?」
「うん、まあね」
「彼、僕の事で何か言ってたかい?」
カインは俺達に質問をする。
「……消えて欲しい、と」
沢登由衣はポツリと告げる。
「ははっ、冗談を」
「あんたの存在は彼のアイデアの妨げだ」
「僕は彼が9歳の時に生まれたキャラクターだぞ?その僕が妨げだなんて」
「事実、彼はうんざりしているよ?」
「はははは、有り得ない有り得ない有り得ない。だってだってだって、僕俺私我は英雄だぞぞぞ主人公なんだよ。」
「もう限界なんだよ、貴方の存在は」
沢登由衣は存在の否定を続ける。
100:名無しさん:10/11/16 15:29 ID:DqEWF02yyY
「……くくっクソガキが!アイツを辛辛い現実から救ったのはこのぼぼぼ僕だろおオががが」
カインは次第に崩壊していく。
「貴方の役目は終わったんだよ」
「てめえらららがあのガキに余計な口を挟んだだだなッ!ゆゆ許ざね゛ぇ!!!」
まるで壊れた玩具だ。そんな事を思った。
「終わりだッ!てめえららおしまいだぞぞぞ!」
そこには最早、主人公カインの姿は無かった。
目は血走り、ギリギリと音を立てながら歯軋りをしていた。
彼にとってここは世界の中心なのだろう。
それを否定され、怒りに満ち溢れているようだ。
101:名無しさん:10/11/16 15:30 ID:27r9DO/Y4s
ダンッと地面を蹴り上げ、カインは数十メートル程宙に舞う。
「退屈な現実の檻にいるてめえらが俺を止められる訳ねえだろおオがァッ!!!!」
カインは左手を空に掲げた。
左手に光のようなものが集まっていく。
「消えろ!モブ共がっ!!!!」
光の弾をこちらに向け、射出した。
「なっ」
「佐伯くん!伏せて!」
弾は俺達の数メートル手前の地面に直撃した。
その衝撃は凄まじく、俺達二人は吹き飛ばされた。
「あっ、がっ」
呼吸の方法が一瞬理解出来なくなった。
土煙が立ちこめ、沢登由衣の場所が分からない。
とにかくここから逃げなければ。
102:名無しさん:10/11/16 15:31 ID:o7qPMe4Rpo
土煙のせいでどこに向かえばいいか分からなかった。
「沢登!沢登っ!」
声を掛けるが返事は無かった。
だが時間が経つに連れ、土煙が薄らいでいく。
これなら探すことも出来るだろう。
俺は周囲を見渡す。
すると、どうだろうか。十メートルほど離れた所に沢登由衣の横たわる姿が見えた。
「さ」
声を掛けようとしたが、声を出す事は出来なかった。
横たわる沢登由衣の傍にはカインが剣を持ったまま立って居たのだ。
103:名無しさん:10/11/16 15:32 ID:iNRJRKk/Ts
「終わりだ。クソガキが」
カインは剣を両手で持ち直し、横たわる沢登由衣に目掛けて振り下ろす。
だが
パンッと乾いた音が鳴る。
その音が鳴ったと同時にカインは何かを避けるかのように、後方へと下がる。
その音の正体は拳銃だった。
沢登由衣は身体をゆっくりと起こしながら、カインに向けて発砲する。
カインは後方へと地面を蹴り上げ、跳躍して逃げていった。
104:名無しさん:10/11/16 15:34 ID:uXIFugrlws
「沢登!」
俺は沢登由衣のもとへ駆け寄る。
「大丈夫か!」
「危うくやられる所でした」
所々土煙のせいで服が汚れていたが、怪我は無いようだった。
カインは何処かへと退いたようだった。
「なんなんだ、アイツ」
「恐らく宮部くんが言ってたように、『典型的な創作物の主人公』なんだよ。だから超人的な能力を持つんだね」
「奴を倒せるのか?」
「やると言った以上、やらなきゃならないよ。人々の救済が私の仕事だし」
「仕事?」
「あぁ説明してなかったね。私、天使なんだよ」
・
・
・
・
・
・
こいつもファンタジーな頭してるのか?
105:名無しさん:10/11/16 20:03 ID:7j/sPOVAuo
・
・
・
沢登由衣が言うには、何千年もこうやって人の心に『飛び込み』、
中に潜む『毒』を退治し続けているというのだ。
『沢登由衣』という名前も、過去の人間から拝借した名前だという。
正直言って、信じられはしなかった。
だがこの状況に身をおきながら、信じるも何も無いだろうと思った。
「それで、どうやって倒す?」
「おぉ!手伝ってくれるのかい?」
「そりゃな、クラスメートが困って居るんだ」
「かっこいいー!」
「茶化すな」
そんなやり取りをしていると、後ろから物音がする。
近くの倒壊したビルの物陰からドイツ兵の小隊がぞろぞろと現れた。
「こいつらまだ狙ってたのか!?」
「……いや、違うみたいだよ」
小隊の中の隊長と思しき男が此方へと歩み寄る。
106:名無しさん:10/11/16 20:08 ID:4sfdgTgOT2
「Sind Sie ein Freund des Volkes?」
「あ?」
「カインの仲間か、って聞いてるんだよ」
「違うって教えてやれ」
「Nein.」
「Wir kampfen.」
「今度は何だって?」
「私達も戦おうって」
「俺達も手伝おう」
今度は別の方から声がする。
振り向くと、侍の一団が俺達の元へと集まって来た。
「こいつらは……」
「ここにいるみんなは、宮部くんが想像したキャラクターたちだよ」
「みんな?」
「うん。だけどカインが彼らをやっつけてしまって、創作の妨げをしているんだよ」
「ある時は国の王、またある時は主人公の宿敵。とにかく、自分以外の物語を破綻させてしまうの」
次第に俺達を中心にありとあらゆるキャラクターたちが集まって来た。
未来から来たロボット、侍、元特殊部隊の隊員。
ヘリコプターや戦車、軍馬など、様々な時代の様々な兵器が集う。
107:名無しさん:10/11/16 20:12 ID:uXIFugrlws
集まったのは総勢100余名の『キャラクター』たち。
次のカインの襲来に備え、陣地を築いていた。
俺達は陣地の一角からカインを待ち受けていた。
「カインは恐らく、ここの世界の住人達の攻撃を受け付けない」
「えっ、こいつらの攻撃は無駄なのか?」
「無いよりはマシだけど……ね。でも、私の銃撃には避けるような仕草をしていた」
確かに。
ドイツ兵との戦いの時には銃撃に一切怯んだ様子は見せていなかった。
だが沢登由衣から銃撃を受けた時、本気で避けているようだった。
つまり、沢登由衣の攻撃を無効化する事は出来ないのだ。
「じゃあ勝てるんだよな?」
俺の質問に対し、沢登由衣は無言で懐からピストルをゆっくりと引き抜いた。
「これを見て」
弾倉を外し、中にある残弾を俺に見せる。
「残された弾は一つなんだよ」
108:名無しさん:10/11/16 22:25 ID:5KqIGw5982
夜
廃虚と化した市街地は陽が落ちて更に不気味な雰囲気を持っていた。
ドイツ軍のテントに設置された無線機が鳴る。
『こちらリーベイズ。現在、陣地から北西15km離れた地点を偵察中。異常なし』
アメリカ軍のヘリコプターからだった。
『こちら月輪。現在地上部隊で陣地から南西20kmの地点を偵察中。異常なし』
旧日本軍の部隊からの連絡も来ていた。
どうやら彼ら『キャラクター』達は共通の言語があるようだ。
『こちらトーコミー。異常なしだ』
巨大ロボットのパイロットからも無線が入る。
『しかし、本当に現れるのか?さっさと倒したいんだがな』
巨大ロボットのパイロットは語る。
自分たちの攻撃が無効だとは知らず。
『こちらリーベイズ。未確認の飛行体が陣地方向へ移動中。対応求む』
「こちら本陣。リーベイズ、追跡を頼む」
『了解。追跡を行なう。……なんだ、あの光は』
109:名無しさん:10/11/16 22:26 ID:GjgUYEXgk2
「リーベイズ、どうした」
『こちらリーベイズ!未確認飛行体から光の弾が射出!こちらに向かっている!』
無線機からヘリコプターのアラート音が聞こえる。
その後、何かがぶつかった音を最期に、ヘリコプターとの交信は途絶えた。
「くそっ、来たか!」
通信士がマイクを叩きつける。
「奴か」
「うん、間違いない。カインだよ」
あの時、俺達に向けた光の弾。
あれを喰らえば一溜まりも無いことは分かっていたが、
改めてカインの力に恐怖を覚えた。
110:名無しさん:10/11/16 22:27 ID:o7qPMe4Rpo
「Der Feind! Der Feind kommt!」
陣地がパニックに陥る。
兵士たちは北西の空を見上げる。
それは飛行機やヘリコプターとは違うことが一目で分かった。
禍々しい光を放ちながら、それはやって来た。
「カイン……?」
先ほど会った時の姿とは明らかに違っていた。
背中には身体の何倍もの大きさのある翼が生えていた。
翼は羽の一つ一つが光を放ち、美しく神秘的な様相をしている。
それ――カインは俺達の目の前でふわふわと滞空した。
「これはこれは…。クズ共が揃いも揃って」
111:名無しさん:10/11/16 22:28 ID:pzT5R6geCY
その場にいる誰もが恐怖した。
こいつの襲撃には馴れている筈の兵士達の顔にも恐怖の色が見える。
この恐怖は何だ?
最早いつものカインではない。
ここに居るのは悪鬼、怪物、化け物――
幾らでも例えを挙げることは出来た。
だが何より。何より、どの例えも当てはまらぬ『その姿』に恐怖した。
「て」
「撃てっ撃てっ撃てっ、てぇぇ!!!!!!」
日本兵の合図と共に、銃口が向けられる。
機関銃、ライフル、火砲、機関砲、ミサイル。
ありとあらゆる火器がカインに向けて放たれる。
銃を持たぬ者達は弓を引き、弓を持たぬ者達は石すら投げていた。
112:名無しさん:10/11/16 22:31 ID:mO2SeSxT6s
怒号と銃声が響き渡る。
だが怒号は次第に消え失せた。
カインは急降下し、剣で次々と脅威的ななスピードで兵士を切り裂いていく。
先ほどの砲撃は彼には効かなかったのか。
彼には傷一つついて居なかった。
「はははっ楽しいな、愉しいぞッ虫けらが!!」
地上に降り立ったカインに容赦は無かった。
駆け寄る侍や騎士を薙ぎ払い、戦車をバターのように真一文字に切る。
遠方からの狙撃をも回避し、瞬時に狙撃者を『魔法』で消し飛ばす。
113:名無しさん:10/11/16 22:32 ID:DqEWF02yyY
俺達は燃え盛る戦車の後ろへ回り込んだ。
「なんだあいつ。めちゃくちゃ強いぞ」
「これまで会った中では上位に食い込む『毒』なのは間違いないね」
「銃の弾、一発しか無いんだよな?」
あんなスピードで動き回る的を当てられるのか?
昔、何かの漫画で読んだと思う。
確か拳銃ってのは予想以上に当たらない武器らしい。
拳銃の有効射程圏が数十メートルだとしても、素人が確実に当てられるのは数メートル以内程だとか――
「近づいて撃てば、やれるかもね」
「空飛んでるんだぞ?どうやって……」
そうだ。
そうだよ、こいつ。
「忘れたの?私、天使だよ?」
114:名無しさん:10/11/16 22:33 ID:SgTN3iRB0U
「そっか!天使と言えば翼があるもんだよな!あっはっはー!」
「気付くの遅いよ佐伯くん!もー!」
あはは、と笑う俺達。
「はっはっは……ところで、翼は?」
「はっはっは……そんなもん無いよ」
「うわぁああ終わりじゃんかよおおぉ……」
「大丈夫。佐伯くんが力を貸せば」
俺が?
ショートストーリーの人気記事
神様「神様だっ!」 神使「神力ゼロですが・・・」
神様の秘密とは?神様が叶えたかったこととは?笑いあり、涙ありの神ss。日常系アニメが好きな方におすすめ!
→記事を読む
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
→記事を読む
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」
→記事を読む
魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」
→記事を読む
男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
→記事を読む
同僚女「おーい、おとこ。起きろ、起きろー」
→記事を読む
妹「マニュアルで恋します!」
→記事を読む
きのこの山「最後通牒だと……?」たけのこの里「……」
→記事を読む
月「で……であ…でぁー…TH…であのて……?」
→記事を読む
彡(゚)(゚)「お、居酒屋やんけ。入ったろ」
→記事を読む