清掃員:天使
Part8115:名無しさん:10/11/16 22:35 ID:o7qPMe4Rpo
「佐伯くん」
「なっなっ何だよ」
「私に大事なモノ、捧げられる?」
大事なモノ?
「た、例えば?」
「目玉とか、足、肝臓とか」
「極道かよ!!」
「冗談だよ?」
冗談には聞こえなかった。
『そういう選択肢もある』ようにしか聞こえなかった。
「唇、とか」
「はい?」
「キスはまだだったよね?」
「あ、あぁ」
まさかこいつ――!
116:名無しさん:10/11/16 22:37 ID:4sfdgTgOT2
「準備はいい?」
「あ、ああぅ、うん」
「あははっ!緊張しないでよ!」
なんでこいつにリードされなきゃならないんだ!
あ、そうか。こいつは3000年分生きてるから年上みたいなもんか。
ん?初キスはババアとかよ!
「何考えてた?」
「いや、別に」
「一応、言っとくけど。天使は性別の概念を超越した存在なんだよ?」
「つまり俺は人外の両性具有と初キスかよ……」
「『天使と口づけを交わした人間』だなんて神秘的じゃない?そう思いなよ」
モノは言いようだな、と思った。
117:名無しさん:10/11/16 22:38 ID:7j/sPOVAuo
「行くよ。目をつぶって」
俺はゴクリと息を呑む。
目を閉じて、数秒後。
暖かなモノが唇に触れる。
柔らかく暖かで、甘い。
これがキス――
まさか燃え盛る戦場で初キスを迎えるとは。
「代償は『唇』。変換する力は『空を舞う』ニハФッキЦツゐヲΓbiガ」
沢登由衣は唱える。
すると、沢登由衣の身体が眩い光を放ち始めた。
背中からはカインのそれとは違う、美しい羽根が広がった。
「羽根を広げるのは久しぶりだよ」
バサッと翼を動かし、宙を浮かぶ。
沢登由衣は紛れもない天使だった。
118:名無しさん:10/11/16 23:43 ID:iNRJRKk/Ts
「佐伯くんはカインを引き付けて」
「……あぁ」
「怖い?」
「……まあな」
「やばくなったら逃げて」
「……あぁ」
「三秒数えたら、ここを飛び出る。いいね?」
「3」
震え出す脚が覚えていた。
あの怪物の力を。
「2」
だが迷いは無かった。
このふざけた世界を抜け出すには迷う暇は無かった。
「1」
終わらせてやる。
119:名無しさん:10/11/16 23:44 ID:iNRJRKk/Ts
「走って!」
沢登由衣の掛け声がスタートの合図だった。
俺は戦車から一気に広場へ駆け出した。
倒れたドイツ兵の機関銃を拾い、カインを見上げる。
「おい、俺はまだ生きてるぞ!クソ野郎!」
カインは俺の元へ文字通り飛び出した。
「ほうっ!生きてたか、能無しの虫けらめ」
腰だめで機関銃を撃つ。
反動を抑えるので精一杯だった。
「クソッ!クソッ!」
やはり銃では効果は無かった。
撃ってもカインは怯む様子を見せ無かった。
カインは俺の首を片手で掴み、地面に押し倒す。
「があぁっ」
首を掴んだ手は次第に強まる。
肺から酸素が総て吐き出されたかのように苦しくなった。
120:名無しさん:10/11/16 23:45 ID:4sfdgTgOT2
「貴様如きが」
歯をギリギリと軋ませる。
「貴様如きが、現実世界の無能な住人が、俺に勝てると思うか?」
「あっ、あがっ、ぐっ」
「貴様を殺し、ミヤベに再び世界を『再構築』させる」
再構築?なんだそれは?
「美しい城に悪の巣喰う城。そして選ばれし勇者――そこに残れるのは俺だけだ!俺が!勇者なんだよ!!」
「……そんなの、勇者じゃねぇ。ただの思い……上がり、じゃねーか……」
グッと首を絞める強さが増す。
カインは懐から短刀を取り出した。
「貴様に時間を割いていられん。終わりだ――」
121:名無しさん:10/11/16 23:46 ID:DqEWF02yyY
「待ちな、作り物が」
短刀を握ったまま、カインは声のする方を振り向いた。
俺も同じように、カインの向いた方を見る。
「あ」
天使が、沢登由衣が此方に向かって飛んできた。
そのままカインを抱き上げ、空に向かって一気に上昇して行った。
「貴様、何の真似だ!」
「こっちの台詞だよ」
カチリと撃鉄を起こす。
「ヒーローごっこは終わりだ。作り物」
122:名無しさん:10/11/16 23:47 ID:DqEWF02yyY
一発の銃声が鳴った。
至近距離からの発砲だった。
後ろから抱き上げた為、ピストルを背中にぴたりとくっつけた状態での発砲であった。
ぐたりとなったカインを、沢登由衣は高さ50メートル程の高さから放した。
力無くカインは地面にぐしゃりと落ちる。
遅れて沢登由衣は地上に降り立った。
「……出て来るのおせーよ」
「絶好のタイミングじゃなかった?」
「……ったく、終わったんだよな?」
「……ばっちり!」
123:名無しさん:10/11/16 23:48 ID:DqEWF02yyY
・
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俺達は再び山田ベーカリーに向かう。
そこには相変わらずお子様姿の宮部羅望が居た。
「…終わったか」
「うん、ばっちり!」
「……犠牲は大きいがな」
ドイツ兵達の惨たらしい姿が頭を過ぎる。
「なぁに。またネタを作ればいいさ。創作活動には、頭を空っぽにするのも必要な事だ」
宮部はあっけらかんと答える。
これで帰れるのだ。
124:名無しさん:10/11/16 23:48 ID:DqEWF02yyY
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目を覚ますと、俺は床に倒れていた。
右手に暖かな感触がある。
見ると沢登由衣が眠っていた。
どれほど時間が経過したのだろうか。
たしかここに来たときは午後4時くらいだった筈だ。
俺は左腕につけた時計を見る。
4:35とデジタル時計は表示していた。
たった数十分しか経っていないのか……?
「時間の概念が曖昧なんだよ。向こうは」
パチリと目を開け、沢登由衣は答えた。
「起きてたか」
「……まぁね」
「宮部は?」
「……まだ寝てるみたい。私たちは帰ろっか」
「いいのか?」
色々不味くないか?
殴って気絶させたりとか。
「大丈夫。彼なら明日から学校に来てくれるよ」
「……だと良いんだがな」
俺達は宮部を起こさぬよう、そっと部屋を抜け出した。
頼むぞ、宮部。
125:名無しさん:10/11/16 23:51 ID:DqEWF02yyY
次の日
「おぉロミオ、あなたは何故ロミオなの?」
「お、おぉ、ジュリエット。えーと……」
「カットだ!舐めてるのか!佐伯ぃ!」
宮部羅望は学校にやって来た。
台本を見た宮部は脚本だけでなく、監督まで兼任をした。
「すまん……」
「いいよいいよ!由衣にゃん!かわいい!」
謝る俺とは対照的に、沢登由衣は男性陣から絶賛の評判だった。
「佐伯くんっ!頑張ろっ!」
沢登由衣は笑顔を向ける。
その笑顔に皆がうっとりした。
俺にはその理由がわかる。
何故なら――
「……あぁ。もっかい今のシーン頼むぞ、沢登」
「うんっ!」
何故なら俺は、『天使と口づけをした人間』だから――
終わり
126:名無しさん:10/11/16 23:55 ID:SgTN3iRB0U
終わりです!
長々とありがとうございました。
楽しめたでしょうか?
今回初めてSS書きましたが、
設定をなかなか生かしきれませんでした……
改めて書くという難しさを知りました。
今後書く機会が有りましたらまた会いましょう!
127:名無しさん:10/11/17 23:05 ID:Ys95BYJrH.
すごくよかったですよ!
お疲れさまでした!!
128:名無しさん:10/11/18 18:13 ID:27r9DO/Y4s
ありがとうございます。
誰も読んでいなかったら…、と不安になりながらでしたので、
そう言って頂けると助かります
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