清掃員:天使
Part220:名無しさん:10/11/3 16:19 ID:27r9DO/Y4s
その日の夜
携帯にメールが受信された。
沢登由衣からだった。
『今日は久しぶりに会えてビックリしたよ!イマムラくんには
面白い友達が居るんだね!また近い内に飲みに行きましょうね』
携帯を見つめながらニヤけたのは言うまでもなかった。
だが『面白い友達』がカウボーイということに引っ掛かるが。
21:名無しさん:10/11/3 16:20 ID:o7qPMe4Rpo
それから一週間が経った。
あの日以来、僕は久しぶりに学校に行った。
ようやく納得の出来る就職先を見つけ、その事を学校に連絡する為だ。
校内に入り、教室の脇を通りかかろうとした時、
教室の扉から女性が力無くよろよろと出て来た。
「……イマムラ、くん?」
その女性は、一週間前に会った沢登由衣だった。
苦しそうなのは間違いないが、
風邪にしては様子がおかしい。
「だ、大丈夫?」
見ていれば大丈夫じゃないことくらい分かっている。
それ以外に言葉が浮かばなかったのだ。
22:名無しさん:10/11/3 16:21 ID:SgTN3iRB0U
「うん……。風邪、なのかな……。最近ちょっとずつ体調が悪くなってて……」
「とにかく、早く家に帰っ」
僕が話を終える間もなく、沢登由衣は足元から崩れるように倒れかかった。
「沢登さん!」
僕はとっさに支えるように彼女を抱えた。
身体が熱く、息も絶え絶えになっている。
「ぁ……、あ……」
僕は震える彼女の小さな身体を抱え、医務室に向かう。
23:名無しさん:10/11/3 16:26 ID:SgTN3iRB0U
彼女を医務室のベッドに運び、職員の人達に彼女を任せることにした。
部屋を出て、僕は駐輪場に向かう。
駐輪場に向かうまでの数十メートル程度の距離が何千、何万キロメートルのように感じられた。
彼女の事が心配で胸が苦しくなっていた。
自分の存在なんて、彼女にしてみては大したことは無いだろうとは思うけれど、
それでも彼女の弱っている姿を一目見ただけで
この胸の苦しみは深く根付いていた。
駐輪場に着くと、誰かが僕のバイクが停めてある近くに立っているのか見えた。
砂埃で汚れたテンガロンハット、膝上まで覆われたポンチョ、年期の入ったブーツ。
間違いなくそれは一週間前に出会った男だった。
24:名無しさん:10/11/3 16:31 ID:uXIFugrlws
「風邪じゃあないんだよな、これが」
カウボーイは一週間前に会った時と変わらず、飄々とした態度で語る。
なぜ彼がここに居る?
だが彼から出た話が、先ほどの出来事を指していることは分かる。
「……沢登さんのことですか」
「あぁ、当たり」
どういうことだ?
このカウボーイが何を知っているというんだ?
「『毒』が蓄積されていった、という所かな。
彼女の身体を徐々に蝕んでいったんだよ」
「毒?風邪か何かの病気じゃないんですか?」
ワケが分からない。毒?蝕む?一体彼女に何があったんだ?
25:名無しさん:10/11/4 12:51 ID:o7qPMe4Rpo
「彼女は医務室に居るんだろう?今すぐ行こうか」
「何をするつもりですか」
「救済、さ」
「え?」
「それが俺の仕事だからな」
「は、はい?」
「俺は人々を救うことを目的とした存在。君らで云うところの――天使さ」
こいつは今、何を言っているんだ?
救済?天使?さっきからどんどん分からない言葉が彼の口から出て来る。
26:名無しさん:10/11/5 02:42 ID:uXIFugrlws
「ちょっと、いい加減にして下さいよ。彼女は少し具合が悪いだけでしょう」
僕は頭にきていた。
なぜこんな時にふざけているのだろう、と感じたからだ。
「彼女は実家暮らしか」
僕の話には一切耳を貸さずに話を進めていく。
「……一人暮らしだと思いますけど」
「彼女には恋人や結婚を誓った相手は近くに居ないのか?」
「そんな事知らないですよ」
その答えに対してカウボーイは
しばらく黙って考えた後、なるほど、とだけ呟いた。
「そうなると、やっぱり君しか居ないな」
27:名無しさん:10/11/5 02:47 ID:DqEWF02yyY
・
・
・
沢登由衣が居る医務室へと再びやって来た僕とカウボーイ。
受付で職員に止められたが、カウボーイが何かを呟いた途端に職員の態度が急変し、寝室の方へと案内された。
「…何をしたんです」
「『心』を一時的に乗っとったのさ。凄いだろ」
「……」
まるで特技を披露した子供のような顔でこちらを向く。
もはや何を信じていいのか分からなかった。
カーテンで仕切られた一番奥のベッドに彼女は居た。
ここに連れてきた時よりも息が荒く、
体調は益々悪くなっているように見えた。
確かにただの風邪にしては様子がおかしいのかも知れない。
28:名無しさん:10/11/5 02:52 ID:4sfdgTgOT2
「まだ風邪と思ってる?」
僕の心を読み取ったかのような質問をしてきた。
「……」
それに対して僕は答えられなかった。
「よし、じゃあ今から3秒間目を瞑るんだ。答えに近づけるよ」
「目を?何でですか?」
「まぁまぁ、いいからやってみなよ」
「……」
僕はしばらく間を置き、目を瞑る。
「そのまま色をイメージして。そうだな、『悪い』色をイメージしてくれるかな」
目を瞑っている分、カウボーイの言葉の一つ一つが耳の奥深くに届く。
僕はカウボーイに言われた通り、『悪い』色をイメージした。
イメージした『悪い』色は紫――
29:名無しさん:10/11/5 21:38 ID:kIHfKLixAs
瞼の裏に紫が滲み、広がっていく。
紫、むらさき、ムラサキ―――
「目を開けてごらん」
カウボーイに促され、ゆっくりと目を開く。
「えっ」
なんだこれは。
煙というのだろうか。
先ほどまで何も無かったはずの医務室に、紫色の煙のようなものが立ちこめていた。
そしてその『煙のようなもの』は、沢登由衣の身体を中心に発せられていたのだ。
「これは……」
目の前の光景に理解が出来なかった。
「『毒』さ」
「これが…『毒』?」
さっき駐輪場でカウボーイが言っていた『毒』がこの煙の事なのか。
でも何故彼女が『毒』に蝕まれているんだ?
「彼女は他人の悩みを聞いてくれるらしいね」
確かに、ゼミで一年間一緒に居たが、
その間にも飲み会や合宿先で、
彼女が色んな人からの悩みを聞いている姿があった。
「同期や後輩からの悩み、愚痴。ひょっとして彼女は、ありとあらゆる場所で、
そういう役目を負っていたんじゃないかな」
「人の悩みや愚痴の中身は多種多様だけど、共通しているのは
怒りと悲しみの二つの感情があるということ」
「つまりそれが『毒』。そしてそれを『相談に乗る』
という形で蓄積されていってしまった……って感じ?」
「彼女は元々感受性のある人だったんだろうね。
そういった所から、『毒』の許容量をこの若さで超えてしまったんだろう」
そんな馬鹿な。
馬鹿馬鹿しい、で一蹴してしまいたかった。
だけど目の前で苦しむ彼女を見ていて、そんな事を言う気は失せていた。
30:名無しさん:10/11/5 21:48 ID:4sfdgTgOT2
「どうすれば助かるんです…?」
僕は彼に訊いた。
「その問いを待っていたよ」
カウボーイは答える。
「君が彼女を救うカギだ」
「カギ?」
「時間もあまり無い。じゃあ始めるよ」
「えっ。ちょ」
カウボーイは僕の手を握り、もう一方の手で彼女の手を握った。
「行くよ。」
「どこへ!?あ……」
「対象者は『沢登由衣』。……同行者は『イ間ムlayu宇ji』…ひラkc………」
段々とカウボーイの言っている事が聞き取れなくなっている。
チューニングを間違えたラジオのようなノイズが響き渡る。
それはまるで自分自身が『現実世界』との周波数を少しずつ離されていくような感覚だった。
その瞬間
強烈な光が辺りを点滅させ、轟音が部屋中に響いた。
何故こんなに騒がしくしているのに誰もここへ来ないんだろうか。
これは幻覚?僕の夢?
身体は金縛りにあったかのように緊縛し、
意識が次第に薄らいでいく。
そして最後には目の前が暗闇となっていた。
31:名無しさん:10/11/6 05:40 ID:uXIFugrlws
・
・
・
再び気が付くと見知らぬ部屋に居た。
さっきの医務室ではない。
ここは――
「学校の教室みたいだね、それも中学・高校とかの。」
僕は声のする方に振り向く。
そこにはカウボーイが居た。
「彼女の心に飛び込んだ、と言えば良いのかな」
僕は黙って聞いた。何を言っても、ここでは役に立たないと思ったからだ。
「ここは彼女の人格を形成している場所。ここに『毒』の『集積場』があるはずさ」
32:名無しさん:10/11/6 05:41 ID:4sfdgTgOT2
「よし。それじゃあ集積場を探そうか」
そう言ってカウボーイは教室を出ていく。
「ちょっ、待って」
遅れて僕も彼の後を続いた。
「こういう事に馴れてるんですか?」
廊下を歩きながら僕は前方に居る彼に訊く。
「ん、まあね。仕事だから」
さらりと彼は答える。
彼が以前食堂で話していた仕事とはこういう事だったのか。
「俺は『上』から出された目標をこなすためにやってるのさ」
「『上』?」
「君らで云うところの天国」
「あぁ……」
「目標は一万人の救済。そのために俺は『2007年という年』を何回も巡っているんだ」
「え?」
33:名無しさん:10/11/6 05:42 ID:7j/sPOVAuo
2007年を何回も巡る?
何のことだ?
「なんて言えばいいかな……。つまりループするわけさ」
「ループ?」
「一周目で二千人しか救えなかったら、二周目に入る。
それでもまだ一万人に達しなければ、また三周目の2007年を巡るのさ」
つまりこいつは『2007年を何回も繰り返して居る』ということなのか。
もはや、嘘だとか妄言だとかを言う気力は無かった。
現にこいつは僕をいきなりこんな所へ連れてきたのだから。
「あ。こうやって君を連れてきたのにもちゃんと理由があるんだよ?安心してね」
何を安心すればいいのか分からないが、とりあえず頷いた。
「俺が君ら人間の心に飛び込むには条件があるんだ」
「条件?」
「そう、条件。……そこの階段降りるよ」
僕達は右側にあった階段を降りる。
降りながら再びカウボーイは説明を始めた。
「条件ってのは簡単。飛び込む対象者にとって身近な人を連れて行くこと」
「身近な人……」
「まぁ厳密に言えば人間なら誰でも良いんだけどね。
ただ身近なら身近なほど、『毒』の集積場に近い位置から飛び込めるのさ」
鼻歌混じりにカウボーイは説明する。
34:名無しさん:10/11/6 05:44 ID:DqEWF02yyY
「やった事は無いけど、もし赤の他人と飛び込んだら国一つの中から探すくらいの規模になるんじゃないかな」
「だから君を選んで正解だった。この学校の中から探すだけだからね」
ぴょんと階段の最後の段を跳んで彼は答えた。
喜んでいいのかどうか分からないが、とにかく彼女が直ぐに助かるのなら何でも良かった。
「それで毒の――」
「ここか、な」
僕の質問を遮り、カウボーイは教室の扉の前に立ち止まった。
「ここに集積場がある……はず」
カウボーイが集積場のある場所として目星をつけた教室には
『第二理科室』と札が掲げられていた。
「よし、入ろっか」
カウボーイは集積場がそこにあると分かった上で何の警戒も無く戸を開ける。
「おぉ、あったあった」
カウボーイは探し物を見つけたような口調で『それ』を指差した。
『それ』は室内の天井ギリギリの高さまであり、金属特有の質感のある箱だった。
箱には幾重も鎖が巻かれ、南京錠が幾つも付けられて厳重に封がされていた。
35:名無しさん:10/11/6 05:48 ID:DqEWF02yyY
「これが、『毒』…?」
「そそ。まぁ箱の中に居るのさ」
『居る』という言葉に不自然さを感じていたが、疑問は口に出さなかった。
「こいつを箱から出して――処分するのさ」
「処分……ですか」
でもこんなに大きな箱に入った『毒』をどうやって処分すると言うのだろうか。
「その箱は開けてはなりません。引き返す事を勧めます」
不意に室内の奥から声がした。
「お、彼女の精神体か。やぁ、こんにちは」
カウボーイは手を振りながら挨拶をする。
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