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清掃員:天使

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Part5

67:名無しさん:10/11/14 21:40 ID:5KqIGw5982
「ヒキコモリ?」
「どこにも行かずに家に篭もることだよ」
「なんで学校に行かないの?」
「…行きたくないからだろ」
「どうして?」
「なんだよ。気になるか?」
「うん」

禅問答か何かか?

「つまんないから、じゃね?」
「……そっか」

そんなに引きこもりが珍しいのだろうか。
今時引きこもりなんてクラスに一人は居るだろ。
沢登由衣は物凄く寂しい表情を見せる。


「……ゴメン。先に教室行くわ。ちょっと気分悪りぃ」

ガラッと席を立ち、沢登由衣を見下ろした。


「ちょっ、佐伯くん、まだご飯食べ終わって無いよ?」
「やるよ。唐揚げは手ぇ付けてねぇから」
「……じゃあいただきます」


はっ、と一笑し、俺は席を離れた。

68:名無しさん:10/11/14 22:48 ID:j4f.n2aktg
「あれ?お前だけ戻って来たのかよ…」
「残念だな」

俺一人だけが教室に戻って来たことに不思議がる面々。
そんなに気になるか?お前たちは。




放課後

「佐伯くん」
「はい?」

俺を呼び止めたのは先生だった。

「沢登さんと仲良くできた?」
「……別に。フツーだよ」
「そっかそっか。」

そう言うと先生は上着のポケットから紙を取り出した。

「…悪いんだけど、ここに書いてある教室を沢登さんに案内してくれるかな」

紙には普段俺達が使う移動教室の一覧が書かれていた。

「俺が?」
「ええ、そうよ。不満?」
「……別に」
「なら決まり。沢登さんなら玄関口の靴箱の所で待たせてるから、宜しくね」


ふふっと笑みを浮かべながら先生は教室を立ち去った。

69:名無しさん:10/11/14 22:49 ID:mO2SeSxT6s
玄関

「……おい」
「わっ!佐伯くんかぁ!」
「誰が来るのか聞いてなかったのか?」
「うん、てっきり委員長辺りが来ると思ってた!」
「……そうか」


あの先生は人に連絡する、という事を知らないのか。


「……まあいい。で、どこから行く?理科室か?」

俺は沢登由衣に先生から預かった移動教室一覧表を見せながら聞いた。
この光景はまるで遊園地の地図を見ているカップルみたいだな、と思った。

「うーん……。任せますっ」
「……じゃあ理科室に行くか」

70:名無しさん:10/11/14 22:50 ID:J5jW5NMxFA
かくして俺達は理科室に向かった。
まだ夕方の4時だというのに、放課後の理科室は薄暗くて不気味な印象があった。


「……どこの理科室も不気味なもんだよねえ」

人体模型をまじまじと眺めながら沢登由衣は呟く

「まぁ明るく楽しい雰囲気は無いわな」

「そんなひねくれた言い方しなくて……ねぇ!あれは?」

「ん?」
「あれだよ、あれ!」

沢登由衣が指差したのは窓の方だった。
そこから見えたのは、中庭で学園祭に向けて芝居の練習をする生徒達だった。


「あぁ、練習だよ。学園祭の」
「芝居の練習?」
「だな」
「ふーん……」


沢登由衣は中庭をジッと見つめていた。
こいつにとって、学校にあるあらゆる物事が興味の対象なんだろうか。

71:名無しさん:10/11/14 22:52 ID:7j/sPOVAuo
「芝居って、みんなでやるの?」
「あぁ、クラスの皆でやるな」
「……面白そう」

まさかうちのクラスでもやろう、なんて考えていないだろうな。

「うちのクラス向きじゃあ無いな」
「そんな事ないよ、きっと楽しいって」

やっぱり。やっぱりコイツ、やりたいんだ。

「あのなあ、あそこで練習してるクラスは演劇部に所属しているのが殆どだぞ?だから楽しそうに見えるんだよ」

「むー……」

本当に芝居をやりたいという事がひしひしと伝わった。

「そろそろ行くぞ、あと3つあるからな」


これ以上芝居の練習を見せ続けるのは危険だな、と感じた俺は
半ば強引に理科室を抜け出した。

72:名無しさん:10/11/14 22:53 ID:J5jW5NMxFA
家庭科室

「ねぇねぇ」
「なんだよ」
「しーばーいー」
「無理無理」


体育館

「しーばーいー」
「おい、あれ見ろ。組体操やってる。すげぇ」



図書室


(芝)
(うちの学校のグラウンドは天然芝だけど)
「違うっ!」
(ばか、静かにしろ)
(むむ……)

73:名無しさん:10/11/14 22:54 ID:NUK7FuhQGQ



「すっかり陽が暮れたな」
「芝居」
「……はぁ、まだ言うか」
「演劇部の人はうちには居ないの?」
「居ねーよ」

ん?
待てよ。確かあいつが


「そっかぁ」

そうだ、あいつが居たわ。


「……さっきの話、覚えてるか」
「え?佐伯くんが未だにキス経験が無い事?」
「ちげーよ!!昼休みに話したろ!ていうか何故知ってる!?」
「あ、ヒキコモリの事?」
「そうだよ。……そいつ、確か演劇部に居たぞ」


74:名無しさん:10/11/14 22:57 ID:SgTN3iRB0U
「えっ!ヒキコモリ担当の人、演劇部なの?」
「担当って何だよ」
「ヒキコモリなのに?」

一応、「ヒキコモリ」の意味は理解してるようだ。


「別にあいつは元から引きこもってた訳じゃない」


あいつは今年の夏休み明けから突然来なくなった。
誰かが苛めていたという事は一切無く、
寧ろ社交的で友人が多かった。
演劇部での活躍も又聞きではあるが、
彼の書いた小説が高校生部門で賞を得たらしい。


「……ところが夏休みを境に突然学校に来なくなった、という訳よ」
「なんでかな」
「知らねーよ。知ってたら誰かが助けるだろ?」

思わず『誰かが助ける』なんて言ってしまった。
何となくその言葉が無責任に聞こえて嫌だった。


「うーん」
「ま、転校して間もないんだから、あまり余所のとこに首突っ込むなよ」
「でも何だか可哀想だよ」
「……」

俺には理解が出来なかった。
転校して初日から、引き篭もりの心配なんて出来るものだろうか。




学校から最寄りの駅に着き、
俺は沢登由衣に聞く。

「俺はこっからは電車で帰るけど、お前は?」
「ん、歩いて帰るよ」
「そっか。またな」
「うん、またね」


明日も会うのは確実だから、
「また」会えるのは分かっていた。
だが沢登由衣の場合は、それ以上の説得力があった。


この女は何者なんだろうか

75:名無しさん:10/11/14 23:14 ID:o7qPMe4Rpo
次の日

いつもの時間に教室に入る。
沢登由衣は既に学校に来ていた。

「よっ」
「おはよー!」

なにやら古臭い本を読んでいた。

「なんだそりゃ」
「見て分かんないかな。本だよ」
「おちょくってんのか」
「『ハムレット』だよ」
「あぁ……家に何故かあるわ」
「面白いよ?あとで貸そうか?」

読んでいた本のページをこちらに向ける。
本に書かれた文章は英語だった。

「……俺はパスするわ」

日本語以外読める訳が無いから。

「せっかく初版本持って来たのに」

「初版?えっ、初版って」

たしかシェイクスピアって400年くらい前の人物じゃなかったか?

「おい、初版ってどういう」

「おはよー、ショートホームルーム始めるよー」

間が悪く先生が入る。

「静かにしなよ。先生来たんだよ?」

意地悪っぽく沢登由衣は俺に注意する。

「……」

俺の聞き間違いだったか?

76:名無しさん:10/11/14 23:29 ID:uXIFugrlws
「今日はみんなに話し合って貰いたい事があるの」

教壇の前に立ち、先生は告げる。
この時点で何となく分かっていた。


「もうじき学園祭の出し物を決めなきゃならないの。だから今日は午後の授業は全部出し物を決める時間にしましょう」


やはりな。
まぁ、俺が意見しなくても誰か言ってくれるだろ。


……隣の転入生が目を輝かせているのが気懸かりだが。

77:名無しさん:10/11/15 04:28 ID:uXIFugrlws
午後





昼休みに入って、飯を食べてからしばらく机に突っ伏したまま眠っていた。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
目を覚ますと、教室内がやけに賑やかだった。
ぼんやりとしたまま黒板に目を遣ると、信じられない事が書いてあった。




出し物:芝居

作品名『ロミオとジュリエット』

ロミオ…………佐伯創
ジュリエット…沢登由衣



ガラッと椅子を引き、立ち上がる。
「お」

「おおおおおおぉい!!!!!!」

俺の叫びは教室内に響き渡った

78:名無しさん:10/11/15 04:30 ID:27r9DO/Y4s
「なっ、なんだよこれ!いつの間にッ!」
「私が入れたんだよ」

右の席に座る沢登由衣は言う。

「お、お前が」
「うん、芝居を提案したら決まったんだよ」
「そんな……」
「良かったじゃねぇか!羨ましいよ!本当にな!」

俺の肩をバシバシ叩く男性陣。
後で聞いたら、彼らは進んでロミオ役を立候補したらしい。
だが沢登由衣が彼らの自薦を拒否し、ロミオ役を俺に抜擢したというのだ。

79:名無しさん:10/11/15 04:31 ID:o7qPMe4Rpo
放課後


「じゃあな『ロミオ』」
「またな『ロミオ』」
「明日から練習頼んだぞ『ロミオ』」


皮肉たっぷりの別れを告げるパリス、ロレンス、ジョンの役になった男性陣。

不覚にも今日から俺の名はロミオ・モンタギューとなったのである。


「じゃあ帰ろっか!ロミオ!」

出し物が芝居に決まって嬉しそうなジュリエット・キャピュレットこと沢登由衣が声をかける。

80:名無しさん:10/11/15 04:33 ID:SgTN3iRB0U
「あとは練習だけだね~」
「演劇部居ないのに、練習なんてままならないだろ……」


演劇のノウハウもない俺達に何が出来るというのだ。
グダグダになって恥かくのがオチだ


「えっ?居るじゃん」
「どこに居るんだよ」
「ほら、昨日の」
「まさか……」
「今から行こうよ。ヒキコモリの家に」
「場所を知らんぞ、俺は」
「大丈夫っ!先生に理由を言ったら地図を貰いました!」

見せて貰った紙にはインターネットで検索したと思われる地図が書かれていた。


「……隣町か」
「ヒキコモリに頼んで、演劇の練習しよっ!ね?」
「……はぁ」


こいつの行動力に神懸かったモノを感じた。
だがこうなった以上、いい芝居をやって、恥なんかかかずに済ませてやらねば

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