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堕女神「私を、『淫魔』にしてください」

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Part9
194 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:34:54.93 ID:5XcExnPco
隣女王「……?」
勇者「…こほん。それはそうとして、今日帰ってしまうのか?」
隣女王「ええ……お昼前には。残念です…もっと、皆さんとお話したかったのですが」
勇者「…また、いつでも遊びに来てくれ。サキュバスBも会いたがってる」
隣女王「………っ」
勇者「?」
隣女王「す、すみません…! 何だか、急に……何故でしょう……?」
勇者「…もしそちらの国に行くとしたら、Bも連れて行く。約束するよ」
隣女王「…………はい」
勇者「さ、そろそろ朝食が来る。今日は何かな」
メイド「……暗い室内で間違って女性を襲ってしまうと気まずいですよね」
側近A「私達は『どちらにも』なれますが、なんとなくガッカリはしますね。もう口とお腹の中が『精液』用にできあがってしまってて」
側近B「ええ。手探りで相手の股間に触ると膨らみがなくて、『え!?』となりますね」
側近C「ほんとビックリするよね~……あるある」
メイド「あ、それと……窓が無い時って、どこから侵入するか悩みます。普通に扉を開けて入るのは、何か違う気が」
側近C「やっぱり、お月様をバックに窓開けてカーテンがふわふわ~ってなってないと、雰囲気がね~」
勇者「『淫魔あるある』はもういい!」

195 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:36:03.98 ID:5XcExnPco
前日の晩餐に引き続き、賑やかな朝食を終え、少し経った頃に隣の国からの客人達は帰って行った。
見送りには小さな女王に一時の歓談を楽しませたサキュバスの姿もあった。
彼女もどこか名残惜しそうな表情を見せて別れを惜しんだものの、再会の約束を交わした後は、
澄み渡るような微笑みとともに、去っていく馬車に手を振り、その姿を見送った。
彼女を含めた使用人達は仕事に戻り、勇者と堕女神はその場で今日の予定を確認する。
堕女神「本日は、城下町の視察に赴いていただきます」
勇者「……そういえば、城下町をきちんと見た事は無かったな」
堕女神「馬車をご用意いたしました」
勇者「…………馬車?」
堕女神「…何か?」
勇者「自分の足で歩きたいな」
堕女神「……しかし…」
勇者「歩いて、町の活気や空気を感じたい。……言っておくが、これは命令じゃないよ」
堕女神「……かしこまりました」
勇者「ありがとう」
堕女神「それでは、しばしお休みになってください。ご出発の際にお呼びいたします」

196 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:37:47.25 ID:5XcExnPco
寝室で一時の休息を取り、シャツの上から薄い外套を羽織り、エントランスを出て馬蹄形の階段を下りる。
彼の希望通り、そこに馬車はなく――代わりに、堕女神が立っていた。
堕女神「……陛下? もうよろしいのですか?」
黒鳥の羽色のドレスの上に同色のショールを纏う姿は、勇者でも、息を呑むほどに美しかった。
陽光の下で見ると、そのドレスには若干の青みを帯びている。
今朝に見たものとは細部が異なり、両側のスリットは浅く、膝上の十センチほどから切れ込んでいた。
胸元の開きも少なく、代わりに形の浮いたバストの上に載せられるように黒百合のコサージュが輝く。
長い黒髪は後ろで結い上げられ、すっきりとした首から顎のラインと、横顔の物憂げな美しさを強調していた。
勇者「着替えた?」
堕女神「ええ。畏れ多くも陛下と共に行くのですから、普段着という訳には……」
勇者「……あれで普段着?」
堕女神「無頓着すぎるでしょうか……申し訳ありません。明日からは注意いたします」
勇者「い、いや……いい。というか、一緒に来るの?」
堕女神「自ら歩きたいとの事でしたので。あまり物々しく衛兵を連れ歩くのはお嫌かと思い、私一人で」
勇者「ありがとう。………似合うよ。綺麗だ」
堕女神「……畏れ入ります、陛下」

197 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:39:56.18 ID:5XcExnPco
城を正門から出て少し歩くと、大きな通りに出た。
行き交う民は様々な姿の淫魔ばかりで、その誰もが、見目麗しい美女の姿をしていた。
青肌のサキュバスから、何本ものふさふさした尾を生やした見慣れぬ衣服の半獣の淫魔、
舞い躍る羽衣で乳房や秘所を最低限に隠した、堕女神にも似た印象を受ける、どこか神々しい者まで。
彼女らには、人種どころか、「種族」という概念すらも無いように見えた。
サキュバスも、半獣の淫魔も、果ては大人の手のひらほどしかない妖精のような姿の種族も、皆が屈託なく笑って過ごしていた。
勇者「あんまり騒がれないな。国王が歩いてるってのに」
堕女神「一昨日の内に根回し致しました。視察の折は、不要に騒ぎ立てぬようにと」
勇者「好都合だけど……なんだか、それはそれで寂しい」
堕女神「……差し出がましい事をいたしました」
勇者「いや、謝らなくて……って、あれは?」
??店主「はい、見てってねー! 新作が入荷したわよー! 安いよー!」
「サキュバス」の店主が、店先に立って呼び込みをしていた。
肌の色は青ではなく人間に近い白色で、角と翼、そして長い尾が、かろうじて淫魔の面影を保たせている。
最も目を引くのは、その身に纏った――革と金属の鋲であつらえた面積の小さな、下着のような衣類。
堕女神「ああ、淫具店ですね。夜伽用のマジックアイテムを豊富に取り揃えております」
勇者「へー、淫具…………ってこんな表通りで!?」
堕女神「淫魔の国ですので」
勇者「…そうだった」

198 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:40:59.24 ID:5XcExnPco
堕女神「確か、ここは四代続く由緒ある店です。入られますか?」
勇者「入ってみようか」
淫具店主「…あら、噂の国王陛下。それに堕女神様まで。いらっしゃいませ」
勇者「ちょっと視察でね。……見ても?」
淫具店主「ええ、勿論。何でしたら、お試しなさいますか? 私で」
勇者「……いい」
石造りの大きな建物内へ、店主に導かれるままに扉をくぐる。
内部は淫具店と聞いて想像するような、暗く濁った様子ではない。
近い例を探すのなら、勇者が旅の最中に訪れた、錬金術師の薬店に似ていた。
しかしそれよりも店内は広く、何より開け放たれた窓から差し込む陽気のおかげで、空気が澱んでいなかった。
勇者「……これは何だ? 何に使えるんだ」
入ってすぐの棚に置かれた、不格好な木の人形を眺めながら訊ねる。
大きさは手に収まる程度で、全体に、魔力の紋様が刻まれているようだ。
淫具店主「さすが陛下、お目が高い! その『人形』は人間界でも大好評ですよ!」
勇者「……人間界で取引を?」
淫具店主「はい。大っぴらにはやれませんが……ある魔術師と取引して、彼の店に特別に卸しているのです」
勇者「で、これはどう使うんだ」


199 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:42:01.48 ID:5XcExnPco
淫具店主「使い方は簡単。ただ口づけするだけで、想いのままの姿に変化! そして、その後は……ふふっ」
勇者「把握した」
淫具店主「思うようなシチュエーションを楽しめますよ。奉仕させて良し、本気で抵抗するのをねじ伏せ犯すも良し、犯されて良し、俺に良しお前に良しみんなに良し」
勇者「……売れてるの?」
淫具店主「大ヒットセラーです」
勇者「…………」
淫具店主「お一ついかがですか? 何でしたら、満足いただけないようでしたらお代はお返しいたしますよ?」
勇者「遠慮しとくよ。………これは?」
人形を置いて、次に向かったのは、木箱に収められた、何の変哲もない真っ白な手袋。
肩近くまで届く、一見してどこにでもありそうな品だ。
淫具店主「それは『搾取の手袋』ですね。その手袋をはめると、まさに歴戦の淫魔の如き指業が身に付きます」
勇者「何に使うんだよ」
淫具店主「使い方は無限です。自慰してよし、パートナーへ手淫してよし、小さな淫魔の手コキの練習にもよし」
勇者「…ちなみにこれ、人間界で売るとしたらどれぐらいになる?」
淫具店主「以前、一足だけ競売に掛けましたが……金貨200枚で落札されました」
勇者「すご!」

201 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:45:04.21 ID:5XcExnPco
淫具店主「落札したのは地方領主の奔放なバカ息子で、その手袋で遊び呆けて最期は女の一人に刺されて死にました」
勇者「……同情しづらい」
淫具店主「これは不味いと思って回収しました。二度と人間界には流さないようにいたします」
勇者「頼むぞ。……しかし堕女神、さっきから静かだな………って、何見てるんだ? それは?」
堕女神「………こんな物、いつ仕入れたのですか?」
視線の先には、頑丈な縄で宙吊りにされた大きなビンの中に、うねうねと蠢く太い肉片がのたくっていた。
瓶の中にさらに小さな瓶が入っており、肉片は、その中に二重に「密封」されている。
外側の瓶には何十枚もの呪符がべたべたと貼られ、そのオブジェは特に、店内でも異質な雰囲気に支配されていた。
淫具店主「とある筋から入手しました。私も最初疑ったのですが、未だに枯れぬ所を見ると……どうやら、本物です」
勇者「…おい、それは何だって訊いてるだろ」
堕女神「……『伝説のローパー』」
勇者「え?」
淫具店主「不死と言われる『伝説のローパー』の触手の欠片です。……軽く二百年は経つのに、未だに、その切断された末端が生きているのです」
勇者「冗談なんだろ?」
堕女神「私も見るのは初めてですが、これは本物です。間違いありません」

202 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:45:58.51 ID:5XcExnPco
勇者「ぶら下げてるからには、これも売り物なのか」
淫具店主「……オススメはしませんがね。以前、これが盗難に遭ったことがあります。犯人は、近所に住む手癖の悪さで評判の『猫又』でした」
勇者「どうなったんだ?」
淫具店主「探して、彼女の家に踏み込んだ時には……精神崩壊寸前までイカされ続け、心臓が止まりかけていました」
勇者「こんな小さな欠片に? 淫魔が?」
淫具店主「彼女の精気を吸って、質量を増大させていました。私が見た時には枝分かれした蚯蚓のような姿でしたよ」
堕女神「それで、どうしたのですか?」
淫具店主「五人がかりで引き離してこの様に二重に密封して。『魔女』の呪符で魔力を吐き出させております。まぁ、休眠するまであと十年は必要かと」
勇者「こんな目立つところにそんな危ない物置くな」
淫具店主「なかなかいい宣伝になるのですよ。……さて、他に気になった品物などは? お試しになりますか? 奥にベッドがございますよ」
勇者「だから、それはいいっつってんだろ!」

203 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:46:51.55 ID:5XcExnPco
淫具店主「……もう。でしたら、『インスタント触手』はいかがですか? お湯を注いで三分で触手が飛び出し、ねっとりと二時間は楽しめますよ」
勇者「いったい何入ってんの?」
淫具店主「秘密です。それならば、こちらの『ローパー化ポーション』はいかがです? 体の末端が枝分かれした触手に変化して媚薬も出せます」
勇者「いや、それ軽く人間やめる薬だよね」
淫具店主「では、この『聖なる極太張り型』は? どんな不感症でもまさしく『昇天』―――」
勇者「枕詞がおかしいわ!」
淫具店主「もう、激しい方ですね」
勇者「……邪魔したな。他にも見て回りたいから、今度ゆっくり来るよ。……行こうか」
堕女神「はい、陛下」
淫具店主「…まだまだ紹介したいオモチャがございますのに。必ず来てくださいね!」

204 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:47:57.02 ID:5XcExnPco
勇者「……まぁ、楽しい店ではあったな」
堕女神「この国でも屈指の大店です。彼女の店で揃わぬものはありません」
勇者「次行こう、次。……あの看板は、書店か?」
堕女神「そうですね。入られますか?」
勇者「ああ、勿論」
次に、軒先に本の形をした金属のプレートをぶら下げた店に入る。
少し軋んだ音を立ててドアが開くと、いささか埃臭さも偲ばせる、「書庫」に独特の香りを吸い込ませてくる。
広い店内にはありとあらゆる書物が本棚に並べられ、判型は不揃いであっても、きっちりと分類されていた。
丸めた地図や、占術に用いる図版などが紐でまとめられて壺に立てて陳列され、
少し広く取られた空間には、暖炉を囲むようにふかふかと座り心地の良さそうな長椅子や、ロッキングチェアが備わっている。
書店主「……ふわ~ぁ……お客様かしら…?」
カウンターに伏していた妙齢に見える淫魔が、気配を感じて顔を上げ、扉の前に立つ二人の来客を見た。
眠たげな潤んだ眼差しはいかにも柔和で、ゆるく巻き癖のある髪も相まって、どこか気だるげな雰囲気を醸し出す。
肉体はかっちりとした衣服の上からも分かるほどにむちむちと豊満で、指先に至るまで何処に触れても柔らかそうだ。
優しく包み込む薄絹のような声にどこか安堵しながら、勇者が話を切り出した。
勇者「…すまないが、客じゃない。新しく国王になって、今日は城下の視察に……」
書店主「え……? 本日は遠い所をわざわざどうも~。……ところで、どこの国から参られました?」
勇者「いや、この国だよ! 王様だよ!」
書店主「は~……そうだったんですかぁ……遠い所からお疲れ様です……」

205 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:50:03.24 ID:5XcExnPco
それだけ言うと、書店主の瞼は少しずつ落ちていき、閉じる寸前になり、再び薄目に開かれた。
書店主「…あら。堕女神様~……国王陛下まで、ご一緒に……何の御用件でしょうか?」
勇者「だから、視察だって言ったよね!? 話聞いてた!?」
堕女神「……お変わりないですね」
書店主「それはそれは、ありがとうございます~……何かお役に立てます?」
勇者「…調子はどうなんだ?」
書店主「まぁ、普通ですねぇ。あ、でも最近はお子様向けの童話本がよく売れますよ~」
勇者「…どんな?」
書店主「やっぱり、鉄板はこれですね。……『マッチ買いの少女』」
勇者「……タイトルがおかしくない?」
書店主「いやいや、合ってますよぉ。さわりだけお読みしますか?」
勇者「頼むよ」

206 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:50:54.94 ID:5XcExnPco
書店主「……ごほん。昔々、あるところに、貧しいけれど、とても優しくてきれいな少女がおりました」
勇者「…普通だな」
書店主「継母にいじめられており、お金を稼いで帰らないと、ひどいお仕置きをされてしまいます」
勇者「ここまでも普通だな」
書店主「……そこで彼女は、道行く男の人にこう言います。『ねぇ……私のここ、寒くて凍えそうなの……』」
勇者「んん……?」
書店主「『あなたの熱くて立派なもので…暖めて下さい……』そう言うと彼女はスカートをめくり上げ―――」
勇者「ストップ。やっぱりな、やっぱりこういう展開だ」
書店主「ここからがいいところなんですよぉ」
勇者「どうなるんだよ」
書店主「最後は異国から来た旅人に見初められ、一緒に旅立ちます。感動のシーンですよ」
勇者「一応ハッピーエンドなのな」
堕女神「その前に一度、騙されて悪趣味な富豪のもとに売り飛ばされる場面がありますが」
勇者「子どもに聞かせる話かよ」
堕女神「淫魔の国ですから」

207 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:52:05.28 ID:5XcExnPco
書店主「いえ、最近のはその場面はカットされてますよぉ。流石に不適切だって事で」
堕女神「そうなのですか?」
書店主「代わりに、少女が常連客のおじさまに徹底的にお尻を開発される場面が入ってますねぇ」
勇者「もっと酷いわ!」
書店主「これでも最近のは、かなりソフトな描写になったんですよ?」
勇者(……書庫に原典あるかな)
書店主「あぁ、あとこれですね。『淫魔と七人の穴兄弟』」
勇者「タイトルだけで中身が分かるぞ」
書店主「『淫魔と野獣』」
勇者「濃厚そう」
書店主「『精かぶり姫』はどうです? 主人公は、継父と二人の義兄にいじめられ―――」
勇者「読むまでもない感じ」
書店主「『女盗賊強制異種姦ボテボテ孕ませ産卵地獄』」
勇者「え?」
書店主「あ……間違えた。これは人間界で買ってきたやつでした~」
勇者(…………どっちもどっち……)

208 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:52:51.56 ID:5XcExnPco
書店主「せっかく来てくれたんですから、お茶でも淹れますねぇ。色々見ててください」
そう言って、書店を営む淫魔は奥へと引っ込んでしまう。
残された二人のうち、勇者は何気なく店内を歩き、つぶさに見て回る。
魔道書や学術書など、いわゆる「お堅い」本はあまり置いていない。
人間の作家の書き記した文学作品をはじめ、様々な「物語」に重点を置いて揃えているようだ。
もう一人―――堕女神もまた店内を流していたが、ひたと立ち止まり、本棚に手を伸ばす。
薄く積もった埃を舞わせて、革で装丁を施された一冊の古めかしい本を手に取り、めくる。
それは、人類の歴史の中に現れ、崇められた神々を書き記した書物だった。
世界を作った女神に始まり、人類を見つめ、加護し、時には正しい方向に導いてきた神々達。
文字通りの神代だが――今、手に取っている者は、それを知る者だ。
気が遠くなるような大昔に、人類を見つめてきた、正真正銘の元「女神」なのだ。
なれば、その本に描かれているのは、かつての「同族」達の姿に他ならない。
しばらくぱらぱらとめくっていると、ひとつのページに行き当たり、動きを止めた。
そこに描かれていたのは――――。
堕女神「……」
唇を震わせながら、彼女にしてはあまりに粗暴な動作で本が閉じられる。
幾分か頭が冷えた後に棚へと戻すと、棚の隙間から、ちょうど向かい側にいる勇者の口元が見えた。
引き結ばれた口元は思索にふけっているようでもある。

209 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:53:22.02 ID:5XcExnPco
堕女神「……陛下?」
棚を迂回して、横から問いかける。
垂れた髪で眼元の様子は伺いしれず、恐らくは視線の先にある一冊の本に集中している。
横から覗けたのは、挿絵から見て……子供向けの、おとぎ話。
勇者「…ん、何だ?」
顔を上げ、本に集中していた視線を堕女神に向ける。
その目には憂いがあり、まかり間違えば―――柔弱、とも表現できてしまいそうな危うさにも近い。
堕女神「何を、お読みに?」
勇者「……この本、ここにもあったんだな」
彼が読んでいたのは、人間界ではありふれて、誰しも一度は読んだことのある……『勇者』の物語。
『勇者』が仲間たちと旅をして、最後は憎き『魔王』を討ち果たす、英雄譚。
彼自身も例外ではなく、この物語に聞き入り、憧れた事があった。
――――その憧憬が、叶う事を知らなかった頃に。
勇者「……読んだ事、あるか?」
堕女神「…いえ、残念ながら」
勇者「……世界を滅ぼそうとする『魔王』。倒して平和を取り戻そうとする『勇者』の話さ」
堕女神「………どうなるのです?」

210 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:54:38.34 ID:5XcExnPco
勇者「何の事も無いさ。仲間と旅をして、『魔王』を倒して―――それで、オシマイ」
堕女神「おしまい……」
勇者「ああ。……この物語は、そこで終わっているんだ。『勇者』が『魔王』を倒して終わり。そこから先はない」
堕女神「………?」
勇者「なぁ、堕女神」
堕女神「はい」
勇者「……このあと、『勇者』はどうなったんだろうな?」
先ほどの堕女神とは対照的に、ゆっくりと本を閉じ、そのまま……自らの胸に押し付け、目を閉じる。
さながら聖職者がそうするかのように、穏やかな動作で。
勇者「……『魔王』を倒した『勇者』は、その後……どうなったのかな」
堕女神「……世界を救ったのですよね?」
勇者「…………ああ、救った」
堕女神「それならば……持て囃され、幸せに暮らしたのではないでしょうか」

211 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/22(土) 01:55:25.44 ID:5XcExnPco
勇者「俺も、そう思ってた。……きっとそうなんだろうな、って」
堕女神「…違うと?」
勇者「……この話さ。本当に、『魔王』を倒した場面で終わってるんだ。その後の事は、一行たりとも触れられてない」
堕女神「その……つまり?」
勇者「別に。ただ、それだけさ。……この後、『勇者』はどこに行くんだろうって」
堕女神「どうなされたのですか?」
勇者「……さぁ。忘れてくれ」
堕女神「……」
半ば強引に話に区切りをつけた頃に、書店主が嗅ぎなれない香りを放つ飲み物を盆に載せて運んできた。
目の覚めるような香ばしい薫りがたった三杯のそれによって店内へ広がり、勇者と堕女神とを、カウンターへと引き寄せる。
書店主「お待たせしました~。さる筋から手に入れた、確か…『コーヒー』という飲み物です」
勇者「……真っ黒だな。大丈夫なのか? これ」
堕女神「良い香りではありますが……毒見いたしましょうか」

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キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」

魔王「世界の半分はやらぬが、淫魔の国をくれてやろう」

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同僚女「おーい、おとこ。起きろ、起きろー」

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