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堕女神「私を、『淫魔』にしてください」

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Part7
141 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:42:44.00 ID:IAYWe2woo
隣女王「特殊…ですか?」
勇者「ああ。世界に一人だけの存在だった。……自惚れと受け取ってくれてもいいよ」
隣女王「……詳しく……いえ。お訊きするのは控えます、ごめんなさい」
勇者「…………」
隣女王「……それより、別の話をいたしましょう」
勇者「女王がそう言うのなら……」
隣女王「私の従者達は今どちらに?」
勇者「もう一つの食堂にいるはずだよ。今頃、同じく食事中の筈だ」
隣女王「そうですか。ありがとうございます」
勇者「ところで、何人連れてきたのかな」
隣女王「側近は信頼のおける者を、三人ほど。護衛は二十人程度です」
勇者「三人……」
堕女神「お話中、失礼いたします、メインをお持ちしました。………陛下? 私の顔に何か?」
勇者「……今回は何もないといいな」
堕女神「は……?」

142 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:43:15.84 ID:IAYWe2woo
食後
勇者「さて、どうもてなしたものか……」
隣女王「……あの…よろしいでしょうか」
勇者「何かな」
隣女王「庭を歩いてみたいのですが……ご迷惑でしょうか?」
勇者「いいよ。行こうか」
隣女王「ありがとうございます。……でも」
勇者「でも?」
隣女王「……あのサキュバスさん達……間に合ったのでしょうか」
勇者「……大丈夫。もう手入れは終わってる」
隣女王「まぁ……。流石ですね」
勇者「…………それじゃ、行こう」

143 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:44:04.39 ID:IAYWe2woo
隣女王「………わぁ…!」
城内を歩き、庭園に繋がる扉をくぐった彼女が、思わず声を上げる。
女王という位は得ても、短命ではあってもそれでもヒトの二倍の寿命を持つ彼女が、子供のように目を輝かせて。
きっちりと手入れされた薔薇のアーチ、キラキラと硝子片のように水を噴き上げる大理石の噴水、
整えられた幾種類もの庭木と、雑草一本も挟ませない、年季の入った石畳の通路。
そして――勇者自身も今初めて見た、ステンドグラスのように水色や翡翠色に透き通る羽を持つ、蝶たちの舞い姿。
勇者「(……本当に手入れ、済ませてやがった)」
隣女王「きれいです。まるで……」
勇者「…『お城みたい』?」
隣女王「あっ……えっと……!」
勇者「……しばらく、見て回ると良いよ。俺は、そこのテラスにいるから」
隣女王「もし、よろしければ……共に、歩いていただけませんか?」
踵を返しかけ、投げかけられた声に再び振り向く。
勇者「え? ……ああ、勿論」
返事をすれば彼女の微笑みは更に深まり、晴れ渡るような、「笑顔」へと変わった。

144 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:45:22.14 ID:IAYWe2woo
石畳を、二つの足音が並んで歩む。
ひとつは、硬いブーツの底が石畳を打つ、硬質でありながら、耳に心地よいリズム。
ひとつは、皮革を縫って作った靴の、沈み込むように柔らかな、またも心地よく衣擦れのような音を立てる小さな足音。
真逆の足音が、時折ペースを崩しながら、美しく整えられた庭園に響く。
隣女王「……夢みたいです。流石は、陛下のお城ですね」
勇者「……それは、どうも」
短く返し、硬い足音の主は、はしゃぎ気味の柔らかい足音の主を追う。
彼女の視線は、次々に移り変わる。
庭木にとまる、ルビーのように輝く真紅の甲虫、翡翠色を基調としたグラデーションを羽に宿した蝶。
あまたの美しい虫や、絶妙に計算された剪定を施され、枝葉を誘導された植木、色とりどりの花。
そして、彼女が次に目に留めたのは―――。
隣女王「……庭園迷路、ですか? 噂には聞いておりましたが……見るのは初めてです」
勇者「見ての通り」
隣女王「入っても?」
勇者「迷わないのなら」
隣女王「……迷わぬ迷路を、『迷路』と呼べますか?」
勇者「…いや、全くだ」

145 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:46:45.93 ID:IAYWe2woo
一階廊下
サキュバスB「……ふぅ、どうにかなったねー」
サキュバスA「……はぁ…」
サキュバスB「………どうしたの?」
サキュバスA「『どうしたの』じゃないわ。全く……貴女ってコは……」
サキュバスB「陛下?」
サキュバスA「…そうよ。あんな風にバラされるなんて……」
サキュバスB「やっぱり、陛下だ」
サキュバスA「だから、そうだと言っているでしょう。……って、どこを見ているの?」
勇者「……お疲れ様」
隣女王「お疲れ様です」
サキュバスA「!?」


146 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:47:32.81 ID:IAYWe2woo
サキュバスB「陛下。こっちのちっちゃい子は?」
勇者「どの口で言ってる、どの口で」
サキュバスA「っ……女王陛下、非礼をお許し下さい」
サキュバスB「えっ!?」
隣女王「……お初にお目にかかります。隣女王と申します。お見知りおきを」
サキュバスB「……ご、ごめんなさい!」
隣女王「いえ、良いのです。顔を上げてください、お二方」
サキュバスA「………」
隣女王「我が儘で庭園を見させていただきましたが、素晴らしかったです」
サキュバスB「……えへへ」
隣女王「……それで、その……お願いがありまして」
勇者「ん」
隣女王「……お庭でこの虫を見つけまして。……我が国に、連れ帰ってよろしいでしょうか?」
サキュバスA「…カメムシの一種ですわね。赤く輝く羽が趣深いでしょう」

147 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:48:49.66 ID:IAYWe2woo
勇者「えっ…カメムシ?」
サキュバスA「御心配なさらずとも、悪臭を発する事はありません」
隣女王「……綺麗なので……つい……」
勇者「……この虫って、ひょっとして貴重なのか?」
サキュバスA「いえ、我が国ではよく見る部類ですが……」
勇者「毒か何かあるのか?」
サキュバスB「毒なんて無いですよ。きれいだし、飼いやすいし、それに……」
勇者「それに?」
隣女王「他に何か?」
サキュバスA「驚かせると霧状にフェロモンを分泌するのですが、淫魔に対して強烈な催淫作用が。特に幼い者には効果覿めn」
勇者「捨てろォォォォォォォ!!!!」

148 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:50:57.58 ID:IAYWe2woo
その頃、厨房では堕女神と侍女達が後片付けと並行して、晩餐の下拵えをしていた。
常より多い洗い物は用人達に任せて、堕女神は晩餐の準備を。
洗われる皿が触れ合う音から少し離れて、メインディッシュ用の肉に下拵えを施す。
牛の肉……それも、硬く締まった肉質のテールを煮込む予定のため、丹念な仕込みは欠かせない。
彼女は答えを欠いた自問を繰り返す。
会食の最中に、「彼」からかけられた言葉が、胸中にこだましていた。
あの一瞬の胸の高鳴りは、果たして何だったのか。
あの言葉の真意は、果たして何なのか、と。
あの一節を、噛み締めるように、無意識に何度も再生する。
その度にトクトクと心臓の鼓動が際立ち、毛穴が浮かされて開くような感覚まである。
頬に暖かい血が集まり、ほのかな赤みさえも見てとれるようになる。
「人間」に優しい言葉をかけられたのは、何千、何万年の昔だったろうか。
いやそもそも、最後に「人間」を見たのは、果たしていつだったのか。
彼女が最後に振り返って見た人間達は、果たして――――知ある「人間」に見えたのか。
もはや過去と言うにも遠すぎる、果てしない彼方の、埃にまみれた記憶と化していた。
人間界に…もう、彼女の痕跡は無い。
神殿はとうの昔に無くなり、神像は粉々に砕かれてしまった。

149 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:52:53.39 ID:IAYWe2woo
堕女神「………」
メイド「どうかなさいました?」
堕女神「……いえ、別に。それより、晩は大食堂に隣国の皆さんをお招きしましょうか」
メイド「女王陛下と、従者の方々をご一緒に?」
堕女神「はい。……両陛下が良いと言って下されば、ですが」
メイド「かしこまりました。デザートはどうしましょうか」
堕女神「種類を多めに作りましょう。材料はありますね?」
メイド「届いております。今朝摘んだばかりの果物が豊富に」
堕女神「心配はありませんね。……それでは、少しの間失礼いたします。時間になったら、メインの調理を。教えた通りの分量で煮込んで下さい」
メイド「はい。お任せ下さい」

150 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:54:33.30 ID:IAYWe2woo
厨房から出てすぐに、彼女は一人のサキュバスに出会った。
サキュバスA「晩餐の準備は済んでしまいましたの? 手が空いたので来ましたのに」
堕女神「仕込みは済みましたので、後は任せる事にしました。デザートはこれから取りかかります」
サキュバスA「……それでは、あとは私がお作りしてよろしいかしら?」
堕女神「…構いませんが、どうなさったのですか? それと、両陛下は……」
サキュバスA「『あちら』の陛下は、二階のサロンにてBと遊んでおりますわ。どうも、気が合う所があったようですわね」
堕女神「こちらの陛下は?」
サキュバスA「寝室にて、お召し替えを。どうにも、礼装は堅くて息苦しいようでしたわ」
堕女神「…ありがとうございます。それでは、後の事は全てお任せします」
一礼して去った彼女の背を、残された淫魔は見続ける。
大きく開いた、雪原のようにまっさらな背が、角を曲がって――見えなくなるまで。
サキュバスA「………少し、話しやすくなったかしら…?」
小首を傾げ、考え込むように指先を遊ばせながら、彼女は、厨房に入っていった。

151 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:55:08.15 ID:IAYWe2woo
堕女神は、隣女王とサキュバスBが遊戯に興じているサロンを迂回し、邪魔をしないようにして王の寝室へと向かう。
その足取りは一定ではなく、早まり、遅くなり、まるで揺れ動くようにも見えた。
早く着こう、という焦りに似た感覚。
着いたらどうしよう、という心の底から湧く迷い。
二つの感情を秘めながらも、彼女は、気付けば寝室の前に辿り着いた。
堕女神「……陛下、御在室でしょうか?」
平素より更に控えた声が、扉へと吸い込まれる。
答えを待つ間、彼女の視線はただ、扉を何度も眺めて廻るだけ。
三、四日前にそうした時とは違い、目の行き場が定まらない。
伏せる事も、閉じる事もできないまま、何度も、何度も往復する。
「落胆」と「安心」の両方が心に覗かせ、どちらともとれるため息が漏れた。
扉を叩いてから二分ほど経つ頃、ようやく彼女は踵を返そうとする。
その瞬間に扉が開き、平服姿の主が顔を出した。

152 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:55:52.26 ID:IAYWe2woo
勇者「すまない、手間取って……どうしたんだ?」
堕女神「…陛下?」
勇者「ベルトが見つからなくて。それで、何の用だ?」
堕女神「その……夕食の事ですが」
勇者「何だ」
堕女神「大食堂に、隣国の皆さんをお招きしようかと思うのですが。念の為に両陛下の許可を」
勇者「ああ、勿論いいよ。隣女王も快く応じてくれた」
堕女神「えっ……?」
勇者「俺が伝えに行こうかと思ってたんだが……同じことを考えてたんだな」
堕女神「……それでは、席を整えますので、後ほど」
勇者「……あ、ちょっと」
堕女神「何でしょうか?」

153 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:57:10.45 ID:IAYWe2woo
勇者「サキュバスBと隣女王の様子を見に行こうと思うんだが、一緒に行かないか」
堕女神「私が……ですか?」
勇者「気が進まないのか?」
堕女神「……いえ、ご命令とあらば」
勇者「Bの奴、隣女王と遊ぶって言ってたけど……何してるんだろうな」
堕女神「…………」
勇者「女王というか、『隣国の淫魔』と二人きりにする時点で割と危な………どうしたんだ?」
堕女神「え?」
勇者「行かないのか?」
堕女神「陛下の御意志とあらば、同行いたします」
勇者「うん。……じゃ、行こう」
堕女神「……はい」

154 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 02:57:48.57 ID:IAYWe2woo
連れ添って、二人がサロンへと向かう。
共に歩むその間隔は、どこか近づいて見えた。
勇者は、堕女神に気を使うようにしてゆったりと歩んでいく。
踵の高い靴を履いた彼女へ合わせるように、ゆっくりと絨毯を踏みしめる。
さく、さくと小気味よく音を立てて沈む絨毯は、さながら浅く積もった雪の庭のように、静謐を湛えていた。
勇者「……堕女神」
先を行く勇者が、数歩後ろへ侍る彼女へ呼びかける。
堕女神「はい」
勇者「近隣で、亜人種の活動はどうなっているんだ?」
堕女神「……南方のオークの族長が、またも代替わりしたようです。これはもう、報告する事さえ億劫な程に頻繁です」
勇者「…何て落ち着きの無い奴らだか」
堕女神「それと、我が国と隣国の境で、中型のトロールが数頭目撃されております。賞金をかけましょうか?」
勇者「……賞金?」
堕女神「『淫魔』にとっては指先一つで片付くものです。まぁ、彼らとて我が国に手出しするほど愚かでは無いでしょうが」
勇者「……整えておいてくれ。隣国との境に、というのが気になる」
堕女神「はい。それでは直ちに」

155 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 03:00:20.71 ID:IAYWe2woo
二階 サロン
サキュバスB「……罠カード発動! 『壁尻』! これで女王さまの『ダークエルフの暗殺者』を捕縛します!」
隣女王「……やりますね」
サキュバスB「更に『ローパーの苗床職人』を召喚してターン終了です。次のわたしのターンで、この二つを生贄に『触手王キング・ローパー』を召喚しますよ!」
隣女王「それでは……場の『オークの偵察兵』を取り除いて、『巨木のミノタウロス』を召喚。能力を使用し、『壁尻』と捕われたモンスターを破壊します」
サキュバスB「えっ……!?」
隣女王「更に、魔法カード『買われし歳月』をこちらの『白百合のエルフ』に装備。『邪淫なる妖精女王』へと進化させます!」
サキュバスB「えぇぇぇぇぇ!?」
隣女王「そして、『ローパーの苗床職人』に対して、『邪淫なる妖精女王』の攻撃が通ります。……私の勝ちですね」
サキュバスB「…ま、負けました……!」
勇者「……いったい何やってんだ! 大声で!!」

156 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 03:01:33.37 ID:IAYWe2woo
サキュバスB「わっ……!!」
勇者「…それ、何?」
堕女神「我が国で流行しているカードゲームの一種ですね。奥深い戦略性と、実に3万種以上のカードが存在するのが特徴です」
サキュバスB「だ、だって………女王さまがぁ……」
隣女王「へ、陛下! やってみたいと言ったのは私ですので!」
勇者「何で?」
サキュバスB「この国で、どんな遊びが流行ってるかってお話になって……」
勇者「……で、これをやってたと」
隣女王「はい」
勇者「…………例のチェスよりはマシか」
堕女神「…………そうですね」

157 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 03:02:26.48 ID:IAYWe2woo
勇者「まぁ、それはともかく、随分と打ち解けてるな」
隣女王「はい。歳が近いからでしょうか……話しやすくて」
勇者「いや、それは無いと思う」
隣女王「え?」
サキュバスB「ですねー」
隣女王「えっ? ……失礼ですが、その……お幾つなのですか?」
サキュバスB「3415歳です。わたしの方がちょっとだけ『お姉さん』ですね」
勇者「ケタ二つ差が『ちょっとだけお姉さん』って……あのさぁ……」
サキュバスB「でも、Aちゃんと比べたら全然年近いですよ?」
勇者「あぁ、成程。確かに近いな」
隣女王「…………」

158 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 03:03:53.26 ID:IAYWe2woo
勇者「……まぁ、楽しんでくれているのなら良いさ。邪魔をした」
サキュバスB「あっ……折角ですから、陛下もいかがですか?」
勇者「いや、遠慮しておくよ」
サキュバスB「……Aちゃんとは、遊んでたのに」
勇者「また今度、改めてな」
サキュバスB「えー」
勇者「それより、粗相の無いようにな。隣女王も何かあったら言ってくれ」
隣女王「はい。……それでは、もう一戦」
堕女神「夕食の準備が整ったらお呼びに参ります」
勇者「じゃ、また後で」
サキュバスB「はーい」

159 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 03:06:02.61 ID:IAYWe2woo
二人の淫魔が遊びに興じる場を後に、勇者と、堕女神は去る。
山札を切る音が広めに取られたサロンに小気味よく響き渡り、少しずつ、それは遠くなっていく。
勇者「……そういえば、サキュバスAはどうした?」
堕女神「夕食の支度を任せております。各種仕上げと、デザートを一から」
勇者「…できるのか?」
堕女神「菓子作りでは、私も一歩譲らねばならないかもしれません」
勇者「意外な一面だな」
堕女神「特に、果物の扱いが得意なようです」
勇者「ちなみに……サキュバスBはどう?」
堕女神「……ここだけの話になりますが」
勇者「うん」
堕女神「彼女には、厨房では食器洗いしかさせないようにしております」
勇者「把握した」

160 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 03:07:30.38 ID:IAYWe2woo
堕女神「名誉の為に言いますが、彼女は味覚は至って正常です。……ただ、作る側には向いていないというだけで」
勇者「……世の旦那も、あれ相手じゃ正直に言いづらいだろうなぁ」
堕女神「…………」
勇者「それと、これは隣女王からの要望なんだが」
堕女神「何でしょうか」
勇者「……今日の夕食。堕女神にも、席をともにして欲しいそうだ」
堕女神「私が?」
あまりに意外な申し出に、声の調子が若干外れて響く。
隣国の女王が、今や侍従に過ぎない自分に、ともに食卓に着くようにと申し出たのだから。
勇者「話したい事、聞きたい事があるらしい。女王不在の間、ずっとこの国の留守を守った、お前に」
堕女神「……私は、大したことはしておりません」
勇者「隣女王を助けると思ってさ。頼む」
堕女神「…仰せの通りに」


161 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/21(金) 03:09:05.16 ID:IAYWe2woo
勇者「……訊こうと思ってた事があるんだ」
堕女神「何でしょうか」
勇者「……先代の女王は、どういう人……いや、淫魔だったんだ?」
その問いかけに、彼女の身体は僅かに波打つ。
唇には一瞬だけ力が籠もり、その喉は震えた。
思いもかけない質問に細い瞳がわずかに膨らみ、明確な反応を示す。
堕女神「……優しく、聡明な方でした。……この、私にさえも」
勇者「…『さえも?』」
堕女神「『淫魔』ではない私にさえ、微笑みを向けて下さりました。」
勇者「…………堕女神」
堕女神「私は、先代の女王陛下の愛したこの国を、命ある限り守りたいのです」
勇者「……そう、か」
堕女神「……もはや、私の望みはそれだけです。それだけしか……私は、生の意味を持ちません」
勇者「………」

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