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堕女神「私を、『淫魔』にしてください」

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Part5
93 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:47:30.62 ID:LNQCQUA8o
――――――――
村娘「い、いや……やめて…近寄らないで……!」
オーク「……ブヒッ! ブギィィィ!!」
村娘「嫌ぁっ! 来ないで! 来ないでぇぇ!!」
ガバッ……ギリ、ギリギリ……
村娘「い、痛いっ……折れ、ちゃ…う……!」
オーク「プギィィィィ!!」
村娘「な、何するの……?」
オーク「……ギヒッ」
ビリ、ビリビリ……
村娘「やっ…そんな……まさか……!」
ピトッ……ズッ…メリ、メリメリ……ゴリュンッ! ブチブチブチィ!!
村娘「い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
オーク「ブヒィ! ブヒ、ブヒ……」
村娘「痛っ……痛いぃぃ! やめてぇぇぇぇ!」
――――――――

94 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:48:06.49 ID:LNQCQUA8o
勇者「…………おい」
サキュバスA「はい?」
勇者「何、これ?」
サキュバスA「何って、私が陛下のポーンを取っている『最中』ですわ」
白黒二色の盤上で、黒のポーン……オークが、農民の娘の姿をした白のポーンを激しく凌辱していた。
継ぎ接ぎだらけの衣服を剥ぎ取り、組み伏せ、ばたつかせる手足を押さえつけ、正面から。
素朴な少女の姿をした『小人』は、小さな『オーク』に為す術なく、その身を貪られる。
よく目を凝らせばことさらに小さな結合部からは、血の筋までもが流れていた。
盤上の凄惨な凌辱劇をそれでも食い入るように眺めながら、勇者が言葉を続ける。
勇者「………つまり、駒を取る度に『これ』があるのか?」
サキュバスA「ええ、そうです。……ポーン同士の場合は、10分ほどかかりますわね」
勇者「…………長くね?」
サキュバスA「そうでもありませんわ。これを見ながらティータイムを愉しむのが、私達の嗜みですもの」
勇者「……ま、いい。正直、予想できてた。……茶をくれ」
サキュバスA「はい、陛下」

95 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:48:46.17 ID:LNQCQUA8o
勇者「……ついでに、ずっと気になってたんだけどさ」
サキュバスA「何でしょう?」
勇者「そっちのビショップ。いったい、何がモチーフなんだ?」
サキュバスA「魔族の術師ですわ。ちなみに、この駒でそちらのナイトを取るとかなり見ごたえがありますわよ」
勇者「一体何がどうなるんだ」
サキュバスA「……ふふ、それはお楽しみに」
勇者「……その場合、いったい何分かかる」
サキュバスA「たっぷり二時間」
勇者「長ぇよ!」
サキュバスA「ですから、基本……このルールは、たっぷり丸三日ほどかけて楽しむものですわ」
勇者「だから、長いってば!!」
サキュバスA「あ、それと……各駒には、低確率の追加演出がありまして」
勇者「今度は何!?」
サキュバスA「例えば黒のクイーン、つまり『サキュバス』の場合……取った駒が、魔族の刻印に支配され、転化して『淫魔』となる演出が」
勇者「…………(ちょっと見たい)」
サキュバスA「毎回プレイ内容も変わりますし、私達『淫魔』でさえも飽きません」

96 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:49:27.88 ID:LNQCQUA8o
勇者「………さて、そんな事を話してる間に」
サキュバスA「あら」
村娘(ポーン)『…ぁ……うぅ…』
勇者「レイプ目でこっち見んなっ!」
サキュバスA「あらあら、陛下ったら……」
勇者「で、取られた駒はどうなる?」
サキュバスA「盤上から消えて、盤外に出現します。犯された状態のまま。ほら」
勇者「……それで」
村娘(ポーン)『うっ……ひぐっ……う、うぇぇぇぇ……』
サキュバスA「そして通常のチェスと同様に、私の駒は、そのコがいたマスへと移動します」
勇者(やりづれぇ……)
サキュバスA「純潔を奪われて、あそこからオークの精液を泡立たせて吐き出しながら泣きじゃくるなんて……ああ、素敵」
勇者「……ドMが」
サキュバスA「へっ!?」
勇者「……何でも。それより、続けるぞ」
サキュバスA「は、はい…」
村娘(ポーン)『う、ぅ……酷いぃ……酷いよぉ……こんなの……』

97 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:49:57.53 ID:LNQCQUA8o
そして、夕方少し前
勇者「…………これ、いつ終わんだよ………」
サキュバスA「ですから、投了かキングが取られるまで」
勇者「……あれから、全然進んでないんだけど」
サキュバスA「陛下が、うかつな場所にナイトを置くからですわ」
勇者「だからって……これは……いつ終わるんだ」
――――――――
女騎士(ナイト)『う……ふ、ぁぁ……やめ……ろぉ…そんな、ところ……』
サキュバス(クイーン)『ふふふ……ここ? 本当に、やめちゃっていいのかしらねぇ?』
女騎士(ナイト)『ひっ……! 嫌、だ……そんなに、した……ら……!』
サキュバス(クイーン)『ほぉら、気持ちいいでしょう? ……大丈夫、時間はまだたっぷりあるわよ』
――――――――

98 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:50:38.39 ID:LNQCQUA8o
勇者「……終わる気配が無い」
サキュバスA「確かに、これほど長引くのは久しぶりですわ。きっと、私のクイーンも陛下を歓迎していらっしゃるのです」
勇者「かれこれ一時間は経ってる」
サキュバスA「……でも、見応えはありますでしょう?」
勇者「まぁ、そうだけど」
サキュバスA「ちなみに、私の知る限りで一番長いパターンだったのは」
勇者「何だ」
サキュバスA「何十年か前、黒のクイーンが、白のクイーンを取った時です。あの時は、七十六時間もひたすらネチネチと」
勇者「途中で飽きない?」
サキュバスA「いえ、全然」
勇者「流石は淫魔」
サキュバスA「それよりも。……出てきたら?」
勇者「……え?」
サキュバスA「影が見えてるのだけれど?」

99 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:51:15.10 ID:LNQCQUA8o
サキュバスB「……見えてた?」
サキュバスA「ええ。それで、何をしていたの」
サキュバスB「……何となく、気になっちゃって。それに……いい匂いがしたから……」
サキュバスA「サボりかしら? ……いけない子ね」
勇者「お前はどうなんだお前は」
サキュバスA「私はいいのです。陛下の御為に、淫魔の国のゲームを――――」
サキュバスB「………」
きゅるる、と場に沿わぬ音がかすかに、それでいて確かに聞こえる。
勇者「?」
サキュバスB「はぅっ……ち、違います! わたしじゃ……」
勇者「……腹が空いてるのか?」
サキュバスB「え、えっと……」
勇者「座れよ。……この大量の菓子を何とか減らそう。手伝ってくれ」

100 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:51:46.46 ID:LNQCQUA8o
サキュバスA「そういえば、全然手をつけていませんでしたわね」
サキュバスB「それじゃ、失礼しますっ」
勇者「どの道、…………まだ、『こっち』はかかりそうだからな」
――――――――
サキュバス(クイーン)「うふふ……貴女ってば、お胸が弱かったのねえ。ほら、こうかしら?」
女騎士(ナイト)「や……! ちく…び……抓っ……ちゃ……!」
サキュバス(クイーン)「ずいぶん可愛い声ねぇ。『殺してやる』なんて言ってたのは誰だったかしら?」
女騎士(ナイト)「ひぃぁぁぁぁ! 取れ、る……ちくび……取れ、ちゃうぅ……!」
――――――――
サキュバスA「おやおや。絶好調ですわね」
勇者「そもそも、この場合どこまでやれば『終わり』なのかが分からん」
サキュバスA「…少なくとも、まだせいぜい折り返し点ですわ」
勇者「……スキップできないのか、これ」
サキュバスB「…………♪」

101 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:53:15.02 ID:LNQCQUA8o
その後、すっかり日が暮れて、晩餐の準備が整うまで―――結局、勝負は進む事はなかった。
最終的に、ナイトへ対する凌辱をスキップし――手番を一つ進めてから、勝負は次回に持ち越された。
用意された菓子の大半はサキュバスBが処理し、残ったものは、二人に分け与えた。
勇者「……しかし、すごいゲームだったな」
大きすぎる食卓で、食前酒を傾けながら、「淫魔のチェス」を思い出す。
魔物を模した駒が、人類を模した駒を激しく凌辱する、歪んだゲーム。
まっとうに考えれば、確かにおぞましく悪趣味には違いない。
泣き叫ぶ農民の少女を、凛とした女騎士を、楚々としたシスターを、勇敢な女戦士を、気品ある女王を。
低劣なオークが、暗黒の魔騎士が、魔族の僧正が、醜いローパーが、妖艶なサキュバスが――――穢す。
それなのに―――楽しかった。
勇者「…………もしかして、俺……人間、嫌いなのかな」
食前酒が半ばほどまで残った細長いグラスを持ち上げ、燭台の火に透かし見る。
薄く黄金に色づいた液体の中を細かな泡が上っていき、液面にしばし留まった後、弾けた。
勇者「……イヤ、違うか」
言って、グラスに口をつけ――視線を自らの身体の下方まで滑らせる。
勇者「……三日目だしなぁ」

102 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:53:49.79 ID:LNQCQUA8o
夕食を終えた後、いつものように城内を散歩する。
なんとなしに身についた習慣は、腹ごなしの意味もあるが、何より―――身体が、鈍るのだ。
死闘に次ぐ死闘、危険に次ぐ危険、無限の業にさえ感じた日々を潜り抜け、務めを果たした彼にとっては。
危険も無く、死の恐怖も無い日々は、逆に居心地が悪い。
あの「七日間」は全てが新鮮であり、そういった体の心地悪さは感じなかった。
今はなまじ慣れてしまっているために、どうしようもなく体が鈍る感覚が、強い。
彷徨う内に夜も深くなり、勇者は寝室へと戻った。
庭園には、行けなかった。
もしも―――もしもまた、「彼女」の涙を見てしまったら。
どうすればよいのか、分からなかったからだ。
彼は、恐れたのだ。
昨夜だけならば、「彼女」の涙は偶然だという事になる。
だが、もしも今夜もまた、人知れず涙を零していたとしたら。
自分に、一体何ができるのだろうかと。
彼女の涙を、はたして拭ってやれる言葉が見つかったのだろうかと。
彼女にかける言葉を見つけてやれない事が、たまらなく恐ろしかったからだ。
昼にも、涙の理由を問う事ができなかった。
未だに距離を縮めきれず、よそよそしさを残したままの彼女が、答えてくれるかは分からないから。
答えてくれたとして―――それは、癒せるものなのか。

103 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:54:40.38 ID:LNQCQUA8o
サキュバスB「あ、陛下!」
溜息とともに寝室の扉を開けると、待ちかねたような歓声が聞こえた。
勇者「え……? 何でここに?」
サキュバスB「何でって……え? 陛下が……昨日……」
勇者「…………あぁ」
サキュバスB「わ、忘れてたんですか!?」
勇者「いや……うん、軽く」
サキュバスB「…酷いです」
勇者「……悪かったってば」
サキュバスB「…………」
勇者「まぁ、楽にしてくれ。何か飲むか?」
サキュバスB「……ミルクを」
勇者「………………『隠語』? いや、『淫語』か?」
サキュバスB「ち、違いますからね!? 『熱々のたんぱく質』じゃなくて『カルシウム』ですからね!?」
勇者「変な言い回しをするな!」
サキュバスB「へ、陛下こそっ!?」

104 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:55:07.78 ID:LNQCQUA8o
勇者「……全く、ほら。適当に座れ」
サキュバスB「ありがとうございます」
勇者「……酒は飲めないのか?」
サキュバスB「えっと……飲めなくはないですけど……」
勇者「嫌いなのか」
サキュバスB「ワインは好きですけどあまり飲めなくて……ビールは苦いし……」
勇者「お子様」
サキュバスB「こ、これでも三千歳超えてるんですからねっ!」
勇者「牛乳飲みながら言う台詞か?」
サキュバスB「………」
勇者「……ごめん、からかい過ぎた」
サキュバスB「……意地悪です」

105 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:55:37.75 ID:LNQCQUA8o
勇者「それで、何の話だったかな」
サキュバスB「……『どうして、人間は互いを殺し合えるのか』です」
勇者「…昨日は立ち話だったからな。どうして、そういう疑問を持ったのか……話してくれるか?」
サキュバスB「……わたし、人間の世界に長くいたんですけど、不思議だったんですよ」
勇者「…………」
サキュバスB「……人が人に命令して、違う国の人を、まるでモンスターを狩るみたいに殺しちゃうんです」
勇者「……モンスター」
サキュバスB「殺された人は、もう家族に会えなくなっちゃって。殺した人は、生きて家族に会えて。……帰って、また子どもを抱いて」
サキュバスB「赤ちゃんを抱いて、幸せそうに笑って、……でもまた、時が来たら人を殺しに行って」
サキュバスB「……王さまの命令で、何千人の兵隊さんが……大好きな人たちと、会えなくなっちゃうんです」
サキュバスB「…………だから、わたしは……その……」

106 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:56:22.67 ID:LNQCQUA8o
彼女の声は、震えていた。
彼女が人間界で目にしたのは、人の王が戦を命じ、人を人とも思わず殺し合う無限の連鎖。
勇者が人間界で見たものより、更に長く密度の濃い、人類の罪。
勇者もまた、彼女の言葉で思い出せた。
過ぎ去りし日々、自らの国をさえ省みず、民を無碍に死なせた愚かな王達の姿を。
砂漠の国の王は、魔王軍との戦いの次は、その勢いのまま隣国へ攻め寄せる事を決意し―――国を、亡くした。
エルフの王は、古い戒律に縛られて、ダークエルフの存亡の危機を知りながら―――見捨てた。
―――ある国の王は、世界の危機に直面しながら、世界が救われた後に、再び隣国と殺し合うための準備をしていた。
それでも、戦そのものを好んで行う王など、存在しないのかも知れなかった。
領土を拡張する為、資源の為、ひいては、自国民の為なのかも知れなかった。
勇者「…………民の為に、民を死なせる、か」
「国民の為」に、国民に危険を強いる。
家族を護る為と言って、「家族を護っている」敵兵を死なせる。
まるで―――人類は、この世界にひとつしか椅子が存在しないかのように、殺し合う。
勇者「……確かに、怖いよな。……そんな『人間』が、『王』になったんだから」

107 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:57:11.83 ID:LNQCQUA8o
サキュバスB「い、え……そんな事、ない……です…」
勇者「……もしも俺が、逆の立場だったのなら……やはり、怖いよ」
言葉を続けて、サイドテーブルから水差しを取り、銀製の杯に注ぎ、口を湿らせるように傾ける。
勇者「見てきてしまったんだろ? ……そういう、莫迦らしい行いを」
不思議な程に冷たく保たれた水が、喉を滑り降りるのを感じた。
喉から胃までを冷まし、頭の先までも染み入るような冷たさが、勇者の思考を更に鮮明にする。
そして、立て続けに思い出したのは――――
勇者「……俺にも……そんな未来が、あったんだよ」
サキュバスB「え……?」
暴君と化した、未来であり、過去でもある、七日間の追憶。
淫魔の王であるという権威に酔い、淫魔達の肢体を食い漁り、堕ちし女神を甚振り、思いのままに生きる。
そんな唾棄すべき「王」になってしまう未来さえも、勇者は見ていた。
勇者「…………頼みが、ある」
サキュバスB「はい、何でしょうか……陛下」
彼女は、飲み干したグラスをスカートの布越しに腿の間に挟むようにして、隣に座る勇者の顔を見た。
勇者「……三年後。もしも、俺が……『ダメな王様』になっていたら、殺してくれ」

108 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:57:38.56 ID:LNQCQUA8o
サキュバスB「えっ……!?」
勇者「……淫欲に溺れて、そして……『堕女神』を傷付けて憂さを晴らすようになっていたら」
サキュバスB「へ、陛下……!?」
勇者「頼むから……殺して、くれよ」
勇者が伸ばした左手は、彼女がベッドに置いた右手を、がっちりと掴まえていた。
奇妙な程低く落ち着いた声は、彼女の異議を差し挟む余地さえも備えてはいない。
ただ―――彼女へ、力強く願うだけだった。
サキュバスB「陛…下……痛い、ですっ……」
勇者「……ごめん」
小さな抗議で解かれた彼女の右手には、赤く痕が残っていた。
彼女は、その手の痛みで―――「王」の言葉の重さと、本気を知った。
サキュバスB「……どうして……そんな事、言うんですか」
勇者「……どうしても、そんな未来だけは避けたいんだ。………心配しなくてもいい。遺言は残して、お前に咎が及ばないようにする」
サキュバスB「……説明になってませんよっ!!」
彼女は、叫ぶ。
茫洋とした一方的な懇願を受けて、耐えきれないとばかりに。
大声を張り上げたためか、部屋の扉を、メイドが叩く。
何事も無い、と勇者が返してメイドを仕事に戻らせるまで、ほんの数秒。
その間――――彼女は、顔を紅くして、じっと勇者を見つめていた。

109 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:58:30.97 ID:LNQCQUA8o
勇者は、試みても苦笑すらできなかった。
一方的な、酷薄な頼みをして―――相手は、取り乱して叫ぶ。
ほんの数日前に起こった、『今生の別れ』を、胸中に再生させた。
勇者「…………俺には、間違いなくその未来も存在した……いや、今も存在するんだ」
サキュバスB「…………」
勇者「だから……もしそうなっていたら、俺を殺してほしい。……『暴君』と化した未来を、終わらせてほしいだけなんだ」
サキュバスB「……約束、します」
彼女が呟き、それに対して礼を言おうとした時――続く言葉が、告げられる。
サキュバスB「……陛下も、約束してください」
勇者の顔を覗き込むその瞳は、一切の曇りなく、黄金に輝いていた。
魔族である事を疑うような、至上の輝きと、はにかんだ笑顔を湛えて。
サキュバスB「……優しくて、カッコよくて、みんなが大好きな『王様』になるって。約束してください」
勇者「…………」
サキュバスB「……約束、し合いましょうよ」
すっ、と彼女が小指を立てた右手を、勇者の胸の前に突き出す。
いかにも子供じみた約束の所作が、羊皮紙の血判よりも重く、そして厳かで、優しいものに勇者には思えた。
しばしの逡巡の後、勇者は、その小指へ、自らの小指も絡める。
「約束」を交わす文句の代わりとして―――時間にして数十秒ほど、互いの目を見つめ合って。

110 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/20(木) 01:59:03.23 ID:LNQCQUA8o
勇者「……俺が、良い『王様』になれなかったら……頼む」
サキュバスB「その時は針千本、飲んでくださいね?」
勇者「分かった、飲むよ」
サキュバスB「じゃ、……指切ーったっ、と」
勇者「……ところで、眠くないのか?」
サキュバスB「やだなぁ、もう。サキュバスは夜型ですよ?」
勇者「……早寝早起きする淫魔の方がおかしいよな、そりゃ」
サキュバスB「堕女神様は規則正しいですよ」
勇者「『淫魔』じゃないからか?」
サキュバスB「はい。……きちんと夜寝て、朝早く起きてお仕事してますー」
勇者「……なぁ」
サキュバスB「はい?」
勇者「……その、堕女神について、何か知らないか?」
サキュバスB「何か?」

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