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女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」

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Part6
104 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:07:19 ID:dox
If the sky that we look upon
Should tumble and fall
Or the mountain
Should crumble to the sea
I won't cry, I won't cry
No, I won't shed a tear
Just as long as you stand
stand by me
Darling darling
Stand by me
Oh stand by me

105 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:12:39 ID:dox
「ソー・ダーリン ダーリン」
「スタンド・バイ・ミー」
女「…ん」
「スタンド・バイ・ミー…」
女「…」モゾ
歌っているのは誰。
小さくて、甘くて、ふうと吹いたら消えそうな声で歌っているのは、誰。
「ダー、リン。ダーリン…」
女「…ん、う」ゴシ
リン「!」ビク
女「ふわ…」
リン「……」
女(…あれ?CDの音しか聞こえない。…こんな声じゃなかったんだけど)
リン「やっと起きたか」
女「あ、…うん」
どうやら、結構な時間昼寝をしていたようだ。
私の生まれた町を出た後、リンは一度も停まることなく車を走らせた。
閑散とした住宅街や田畑が入り混じる、ちょっとした田舎を過ぎて。
リン「…県庁所在地に入った」
女「おお、そっか」

106 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:20:25 ID:dox
頭を上げて外を見てみると、遥か遠くに沈まんとしている赤い太陽が見えた。
もう、夕方だ。
女「すごい、ビルがいっぱい」
リン「まさか、…来たことないのか?」
女「そんなわけ無いでしょ!?地元だよ!?」
でも、最後に来たのはいつだったか。
ああ、そうだ。新しい鞄が欲しくて、お母さんと終末に買いにいったんだ。
ブランド店やオシャレなセレクトショップが立ち並ぶモールで、お財布とにらめっこしながら選んで
女「…あのね、このバッグここの大きなショッピングモールで買ったんだ」
鮮やかな茜色の肩掛けバッグ。 この西日と、驚くほど似た色をしている。
リン「へえ」
女「高かったんだよ?2万くらいした」
リン「そんなに…」
リンはバッグを一瞥すると、鼻で笑った。
リン「そんな風には見えないな」
女「そう?シンプルで好きだな。丈夫だし」

107 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:25:53 ID:dox
女「ねえ、リン」
リン「なんだ」
かつての活気はどこへ行ったのだろうか。
人の気配など微塵もない、赤い街を走る。
女「何処に向かってるの?」
リン「…北」
女「うん、それはもう聞いたけど。…なんで、北?」
リン「行ったことないから」
女「…アテでもあるのかと思った」
リン「現地にいかないと、人間が暮らしてるかどうかは分からないだろ」
女「そうだけどー」
リン「こういう繁華街の近くには、誰かが暮らしてるかもしれないんだ」
女「会ったこと、ある?」
リン「…ああ」
その人たちは、今、どうしてるのかな。
女「…」
睫毛まで赤く染めて、口を結ぶリンに
私は何も言えなかった。

108 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:29:59 ID:dox
バタン
リン「…よし」ギッ
女「お、停めるの?」
リン「今日はここまでにしておく。暗くなってからの移動は、しないほうが良い」
女「ふうん」
リンが車を停めたのは、広大な駐車場だった。
あれ、ここってまさか
女「…プレミアムモール?」
リン「知ってるのか」
女「うん、ここでバッグ買ったって言わなかったっけ?」
リン「さあ」
私の話は、彼にとっては車内で聞き流す音楽と同レベルらしい。
女「ええと、どうするの?」
リン「とりあえずガソリンを補給する」
女「うん」
駐車場の入り口付近には、ガソリンスタンドが完備されているのだ。
リン「結構走ったからな。そこで待ってろよ、入れるから」
女「はーい」


109 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:34:38 ID:dox
ガタン
女「…ガソリン、出るの?」
リン「ああ」
女「へえ、…意外だな」
リン「ガソリンスタンドがあり次第、教えてくれ。こまめに補給するに限る」
女「ガソリンないとただの箱だもんね、これ」
リンは慣れた手つきでガソリンを満タンにすると、後部のドアを開けた。
女「車内泊するの?」
リン「山地とかで休むときはそうするけど、今は必要ないだろ」
リン「…モールがあんだから。それとも、車で寝たいのか?」
女「う、ううん」
車内泊かー。
…どうなんだろう。やったことはないけど、異性が近くにいる状態でっていうのは、どうなんだろ。
リン「ほら、荷物取れ」
女「分かった」
リン「必要最低限のものでいいからな」

110 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:41:13 ID:dox
女「モール探索か。わくわくするな」
リン「馬鹿か。危ないかもしれないんだぞ」
女「平気だよ!プレミアムモールってできて1年くらいしか経ってないし、丈夫だもん」
リン「そういうことじゃなくて」
リンの手には、相変わらず無骨なあの物体が握られていた。…二つも。
リン「これ、持っとけ」
女「え、ええ?」
リン「ええ、じゃないだろ。武器くらい持っとけ」
女「いや、でも」
リン「警棒なら軽いし扱いやすい。ボタンを押せば伸びる。伸ばして、殴る。それだけだ」
女「…わ、分かった」
トウメイを倒すのに、私の方法はいささか回りくどいところがあるだろう。
一定の力をこめれば、女の私でもトウメイは倒せる。
…多分。今のところは、そうだ。
リン「それと、懐中電灯。…あとこれ」
女「…ケータイ?」
リン「俺との機器だけに通信できるよう設定してあるやつだ。前流行っただろ」
女「あー…。子どもと親が連絡するのに使うやつか!」
リン「万一はぐれたりしたら、それで連絡してこい。まあ、まず離れるな。面倒だから」
女「勿論」

111 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:48:21 ID:dox
リン「…」
自動扉は、勿論開かない。
リン「壊すぞ」
リンが、細い植物の茎みたいな腕を振り上げた。
…パリン!
女「おお」
リン「怪我するなよ」
警棒がすごいのか、リンがすごいのか。ガラスはあっけなく破壊された。
女「…ちょっと暗いね?」
リン「発電設備が落ちてる可能性があるな。誰も手入れしてない」
リン「…でも、節電のために夕方まで電気を落としてる、という可能性もあるな。とにかく、一階から探すぞ」
女「はーい」
薄暗いモールに、二つの光が浮かび上がった。
リン「お前、来たことあるんだから、ある程度案内はできるだろ?」
女「えっ」
大役な気がする。
女「う、うん。できるよ。ええと」
とりあえず地図つきのパンフレットを手に取った。
女「…一階はね、フードコートとか大型のスーパーみたいになってるんだ」
リン「ここに人がいる可能性は少ないな」
女「え、なんで?」
リン「食料補給や、雑貨を取りにくることはあるだろ。けど、住処にするには適さない」
女「…なるほど」

112 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:52:58 ID:dox
リン「例えば、家具屋とか…。ベッドがある所に人が避難してる可能性は高い」
女「確かに」
リン「あと、シャッターを閉めているところにも注意しろ」
女「リン、頭いいね」
リン「お前がアホなだけだ」
女「…」ガン
リン「とりあえず、ここは後回しにして上の階から探そう」
女「分かった。ええと、二階はファッション関連のお店が多いよ」
リン「まあ、候補だな」
女「3階は雑貨屋さんとか、色々。四階は、シネマとゲームセンターとかかな」
リン「2階から行くか」
女「はい、隊長」
リン「…なんだ、それ」
女「いや、なんか年下なのにめちゃくちゃ頼りになるから」ビシ
リン「なんでもいいが、勝手な行動すんなよ」
女「イエッサー」ビシ

113 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)20:59:05 ID:dox
本当、モールは何でもある。
買い物も、ご飯も事足りるし、サロンや写真スタジオ、そうそう、入浴施設なんかもあったりするんだっけ。
リン「シャッターは、…閉まってないな」
女「そうだねー」
当時のまま微動だにしないマネキンや、ディスプレイたち。
タッセルクリアが、シャッターを閉める間もなく拡大した証。
女「…うわ、これ可愛いな」
リン「ショッピングに来たんじゃない」
女「でも、ほら、これっ。学校で人気のブランドなんだよね」
リン「…」
心底興味なさそうなリンを尻目に、私の乙女心に火がついた。
女「今なら取り放題なんだよね!すごくない?あ、この夏物のサンダル、高くて買えなかったんだー」
リン「…」
女「ね、取っていっていい?」
リン「答えなきゃ駄目か」
女「…なんで、却下?」
リン「旅に必要なのは機能的な服だけだ。サンダルなんて足が疲れるし、駄目だ。…荷物になる」
女「…いいじゃん、ちょっとくらいさあ」

114 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:08:44 ID:dox
リン「だめ。行くぞ」スタスタ
女「うぐ…」
名残惜しいけど、サンダルをマネキンの足元に置いた。
リン「ざっと見た感じ、人の気配は無いがな」
女「大声で聞いてみようよ。おーい、誰かいませんかー?」
リン「…クリアが感知するかもしれないだろ」
女「あ、…そっか」
リン「はあ。もう少し危機感持て」
女「ご、ごめん」
ブースに光を向けては、戻す。向けては、戻す。
華やかな服に目移りする私とは対照的に、リンは機械的に確認を済ませていった。
女「…お?」
リン「なんだ」
ふと、足が止まる。
和装小物のお店だった。かなり高級だが、若い人むけの商品展開もしていた所だ。
女「ここ、入ったことないんだ」
リン「…」カチ
女「着物とか持ってないし、必要ないもんねー」
リン「行くぞ」スタスタ
女(本当、…つっめた)
先を行くリンに反抗して、私は店に足を踏み入れた。
実は結構、興味がある。和装が似合う少女を目指したいと、日本女子なら皆思うはずだ。

115 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:15:54 ID:dox
女(すご…。色々あるんだな)
木綿のハンカチ、帯止め、浴衣、巾着、下駄…。
本当になんでもある。落ち着いた大人向けのものもあれば、華やかな色合いのものまで。
女「あ」
リン「…なにやってる」
女「うわ、びっくりした!何、リン」
リン「それはこっちの台詞だ。寄り道していいと誰が言った」
女「いいじゃん、ちょっとくらい。それより、見て」シャラ
リン「…なんだそれ」
女「簪だよ、簪!」シャン
リン「…」
女「可愛いなー。このしゃらしゃらした飾りついてるやつとか。夏祭りで着けてみたい」
リン「あのな」
女「リンにはこれが似合いそう」ピト
リン「!」
黒い軸に、牡丹が描かれた丸い飾り板を持つ簪。
彼のきれいな黒髪に刺すと、まるで牡丹を髪にさしているように見える。
リン「ふざけてるのか」
女「リン、髪の毛結んでないし。これで纏めなよ」
リン「女物だろ!」
女「似合ってるって、本当に!」

116 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:23:07 ID:dox
女「ちょっと刺してみていい?」
リン「やだ。やめろ、触るな」
女「まあまあ」クルクル
リン「おい!!」
女「…お、本当に似合ってるよ!いいじゃん」
リン「ふざけ…」
彼は怒って簪を引き抜こうとしたが、ふと手を止めた。
リン「…確かに、髪がうるさくはないけど」
女「でしょ?纏め方覚えたら簡単だよ。付けなよ」
ふむ、と口に手を当て思案顔になる。
実用性とそのほかを足し算引き算しているようだ。
リン「…確かに少し邪魔になっていたしな」
女「切らないの?」
リン「ああ」
女「ふーん。じゃ、せめてこうしてれば?」
リン「…お前の安に乗るのは気が進まないが、まあ、そうする」
女「おお!」
私は改めて、試着用の簪を引き抜いて新しい商品をリンに差し出した。
女「プレゼント、みたいだね」
リン「金も払ってないのに、偉そうにするなよ」
もう一度、彼の髪をお団子にして簪を挿してあげた。
女「うん、かわいい」
リン「手が出そうになる」
女「なんで!褒めてるんだよ?」
いらん、と彼は無表情でそっぽを向いた。

117 :名無しさん@おーぷん :2015/09/10(木)21:30:53 ID:dox
揺れる牡丹の絵と、リンの黒髪を見つめる。
リン「結局、この階の収穫はナシだな」
リンはマップを片手に、溜息をついた。
女「じゃあ次は3階だね」
リン「ああ」
停まったエスカレーターを上り、3階を捜索する。
しかし家具屋と寝具店、そのほか目ぼしい店を覗いても、人の気配はなかった。
リン「…いないな」
女「そうだね」
少しの間、沈黙が流れる。
女「…でもさ、入れ違いになってる可能性もあるよね?」
リン「これだけ広いとな」
女「だめもとでさ、アナウンスかけてみない?」
リン「アナウンス?」
女「そう。迷子放送とかしてる放送機器使って、私達はどこどこにいますから、来てくださいって放送するの」
リン「…なるほど」
リン「けど、クリアを刺激することになるぞ?」
女「うん、だから一階で待たない?それで危なくなったら逃げる」
リン「…」
リンの足し算引き算が始まる。 求めた解は
リン「試してみる価値は、あるな」
女「でしょ?」
リン「どこで放送してるか、分かるか?」
女「インフォメーションのところだよ。こっちこっち」

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