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俺+妹×天使=世界の終わり

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Part6

77:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/15 20:36 ID:nfXWrQKYlE
「ただいまー」
「おっじゃまっしま~す♪」
「おにーちゃんおかえり!あ、あれ?えっと……」
「どうしたんだ更紗。キリヤだぞ?」
「う、うん。そうだよね、キリヤさんだよね」
「こんにちわ~更紗ちゃん」
「こ、こんにちわ!いまおちゃ出します」
「まあ、あがれよ。汚いけど」
「はいよー」


とりあえずリビングの机に座り、更紗がいれてくれたお茶を飲む。
はぁ、まったり。


「更紗」
「なに?」
「イロハはどうした」
「おねーちゃん?」

78:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/15 21:05 ID:thGR1Hks36
更紗は駆け足で隣のテレビのある部屋を見に行った。
そして不思議な顔をして帰ってきた。


「さっきまでゲームしてたんだけど、いなくなっちゃった」
「え?」


おかしいな。いつもなら更紗の言う通りゲームをしている時間帯のはずだ。
今日に限って何か用事があったのだろうか。
天使の用事ってなんだろう。
でも、ラッキー。


「すまんキリヤ。今日は姉ちゃんいないみたいだわ」





79:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/15 21:12 ID:cfJvK2tyPA
「そうか~、残念」


よかった。何とかイロハとキリヤを会わせずにすみそうだ。


「じゃ、帰ってくるまで待ってみるわ」
「え」


どんだけ会いたいのこいつ!?


80:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/15 21:57 ID:Sl1w3Jp5.o

********


仕方ないので、イロハが帰ってくるまでゲームをして過ごすことにした。
しかし辺りが暗くなっても、全く帰ってくる気配はない。


「帰って来ないな」
「せやなぁ」


時計を見ると、八時を指していた。
そろそろ晩御飯を作り始めなければならない時間だ。


「俺今から晩飯作るけど、食ってくか?」
「いや、もう帰るわ。長いことすまんなニーノ」
「そうか、気をつけてな」


あれだけ会いたがっていたキリヤのことだから、きっとご飯も食べて待つ、とか言いかねないと思っていたから、拍子抜けした。
泊まり込む、とか言い出してもおかしくないと思っていたのに……。


「またなーニーノ」
「おう」

81:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/15 22:20 ID:5cv2uRWMyw
「おねーちゃん、どこいったのかな」
「……」


晩御飯も食べ終わり、時計の針はすでに10を示している。
もしかして、イロハの身に何かあったのかもしれないと、どうしても、そわそわと落ち着かない。


「……」
「……」


カチ、カチ、カチ。
秒針の無機質な音が部屋を満たす。
駄目だ。待ってるだけなんてやっぱり無理だ。


「更紗、ちょっと捜しに行ってくるわ」
「うん、わかった」


コートを羽織って、ドアを蹴破らんかの勢いで家を出た。
夜風が頬に染みる。

82:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/15 23:34 ID:51FwbxHOy.
“命は削られていく”


確か、イロハはそう言っていた。
考えたくもないが、どこかで――――倒れている可能性もある。
どこだ、どこにいる……!
だが、俺はイロハのことをほとんど知らない。
好きなものも、好きな場所も、何一つ知らない。
イロハが行きそうな場所なんて、全く検討がつかなかった。


「くそっ……!」


こうしているうちに、イロハの寿命はどんどん尽きていくんだと思うと、気持ちばかり焦る。
今回消えたのは、猫みたいに自分の死に目を見せたくないからなのかも……いや、そんなはずはない。
ぶるぶると頭を振ってそんな考えは頭から追い出す。


「イロハ、どこだ……」


なんだか、嫌な予感がする。

83:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 17:50 ID:5cv2uRWMyw
街の色々な所を探してみた。
そういえば、あいつはゲームを気に入ってたみたいだから、ゲーム屋にいるかもしれない。
そう思って行ってみたけれど、こんな時間に開いているゲーム屋なんてなかった。
そうだ。いつもうちの家の安いコーヒーを飲んでるから、たまには美味しいコーヒーが飲みたくなって、コーヒーショップに行ったのかもしれない。
万に一つの可能性を信じて行ってみたけれど、やっぱり、いなかった。
ドラマでは、二人が最初に出会った場所で再び巡り会う、なんて展開がよくあるから、もしかしてと思い、あの木の所にも行ってみたけれど、やっぱり現実はドラマとは違った。

ぜぇぜぇと荒い息を整えようと、立ち止まる。
気付けば、ずっと走り通しだった。


(どこか……少し休める場所は……)


俺の視界に、公園のブランコが飛び込んだ。
公園なら、ベンチのひとつくらいあるだろう。
俺は公園へ足を向けた。

84:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 18:00 ID:Sl1w3Jp5.o
(イロハ……)


ガタン、とベンチにへたりこむ。
もう、足に力が入らない……。
一分だけ。そう、一分だけ休んだらまた捜そう。
それまでに上がった息を少しでも整えようと、深呼吸する。

すぅ、はぁ。
すぅー、はぁ。
すぅー、はぁー。


(………)


いつの間に、イロハの存在はこんなにも“当たり前”になっていたんだろう。
出会って、まだほんの数日しか経っていない。
今まで、ずっと更紗と二人でいるのが普通だったのに。
イロハは、ぶっきらぼうで口が悪く、何かと暴力的な所があった。
俺はその被害にあってばかりだった。
ちょっとでもイロハの気に食わないことをすれば、すぐあの冷たい視線が突き刺さる。
もっと行けば、絞められるし、投げられる。

でも、


(……楽しかった、んだな)

85:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 18:05 ID:5cv2uRWMyw
“「うわあああ、痛い痛い痛い痛い!!!」”
“「貴様、人間の分際で気安く私に触れおって……!」”
“「ごめっ、マジごめ痛い痛い!!無理無理!!ギブ!!!」”
“「わあ、おねーちゃん、ストップストップ!」”
“「……フン、これに懲りたら二度と気安く触るんじゃない」”


いつかのワンシーンが蘇る。


(……あれ?別に俺Mじゃないのにな)

86:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 18:31 ID:cfJvK2tyPA
「よっし、行くか!」


パンッ、と両手で頬を叩き、心機一転。
まだ街の全部を捜したわけじゃない。
望みはある、とベンチから立ち上がった瞬間。
ざり、と土を踏む音がした。
公園の入り口の所に、人影があり、一歩一歩、少しずつ近付いてきていた。


(………?)


注意深く目をこらす。
しかし冬の闇は深く、全く誰だか分からない。
しばらくして、その人影が街灯の光の下へ到達する。


「よ、ニーノ。また会ったなぁ」
「……キリヤ?」

87:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 18:39 ID:thGR1Hks36
「お前、なんでこんな所に」


家に帰ったはずのキリヤが、何故こんな所にいるのか。
確かキリヤの家は、この公園とは反対側にあったはずだ。


「ごめんなぁ、ニーノ」
「何を謝って……」


俯いたキリヤの表情は、遠い上に髪の影が重なっていて、全く読めない。


「お前のことは嫌いやなかってんけど」


噛み締めるように、キリヤが言う。
いきなり何を言い出すんだ。
俺にはよく分からない。
俯いていた顔をたゆっくりと上げたキリヤは、何故か、


「ちょっと、殺されてくれや」


満面の、笑みで。


88:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 18:46 ID:thGR1Hks36
「え……」


何の冗談を、と言う言葉は発せられる前に飲み込まれた。
俺の顔の右横を何かが高速で通り抜けていく。
鋭い痛みを感じて手をやると、ぬるりとした鮮血で手が染まった。


「な……!?」


思わず後退りして、でも恐怖で足がもつれて、尻餅をつく。
いつの間にか目の前まで迫っていたキリヤを見上げるような形になって、それはますます俺の恐怖を煽った。


「何、で」
「悪いなぁニーノ。恨まんとってくれや」


ガッ、と首を掴まれる。
片手なのに、俺を簡単に地面から持ち上げている。

なんだ。
なんなんだ、これは。
なにが、どうして、こんなことに――――!?

89:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 20:20 ID:7fhDmLflzk
ギリギリ、と無情にも締め付けられ、意識が遠くなっていく。


(どうして……お前は、俺の……しん、ゆ、う)


信じがたい事実。
なんだか、不思議と抵抗する気も起きない。
そして、意識が、黒く塗り潰されていく――――。

しかし、唐突に地面に投げ出された。
一生懸命、酸素の回らないくらくらした頭を持ち上げる。
何があった?


「貴様、何の真似だ」
「待ってたでぇ、コード:A-16832」

90:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 21:03 ID:7fhDmLflzk
「い、イロハ……?」


探し求めていた姿が、目の前にあった。
イロハは、キリヤの背後から首にナイフを突き付けていた。
え、そんな物騒もの持ってたんだ、なんて余りにも空気を読めていない考えが浮かぶ。


「チョロチョロ逃げ回りやがって。や~っと見つけたで」
「私を誘き出す為だけに、人間に手を出したのか」
「いや~、さっさと出てきてくれたらこんなことせんでよかったんやけどなぁ」
「噂は本当だったんだな」
「ああ。俺らから逃げるために、翼まで落としたんか」
「……」


何の、話をしているんだ?

91:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 21:14 ID:7fhDmLflzk
「それにしても、ようやるなぁ。ホンマに1500人の願いを叶える奴がおるとは」
「1500人目はまだだがな」
「まあな。残念やったなぁ。もうちょいで転生第一号やったのに」
「それを阻止する貴様が言うか」
「確かに」


緊迫した空気、のはずだ。
なのに、どうして、二人とも笑っているんだ?
冷たい、氷のような笑み。
キリヤ、お前は一体――――。


「さっさと正体を明かしたらどうだ。貴様の親友が不可解な顔をしているぞ」
「ああ、そうか。じゃあその手離してくれや」


大人しくイロハは首のナイフを下ろす。


「ほんじゃ、まあ説明するで」





92:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 21:24 ID:7fhDmLflzk
「俺はプロジェクト“討伐天使”コード:C-91618、キリヤだ」
「討伐、天使……?」


聞き慣れない言葉だ。


「その名の通り、天使を討伐する天使だ。日々増え続ける幸福天使を狩る」
「天使を、狩る?」


狩る、とは物騒な響きだ。
しかし、俺にはそれ以上に気になったことがあった。


「お前、いつもの関西弁はどうしたんだよ」
「ああ、それについては」


キリヤは一息置いてから続ける。


「よく考えてみな、ニーノ」

93:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 21:31 ID:51FwbxHOy.
「キリヤなんて友人、“存在した”か?」
「な、に……?」


キリヤが存在したか、なんて、そんなのは愚問だ。
キリヤは、俺の親友だ。

休み時間は一緒にすごしたし、
帰りにゲーセンとか寄って遊んだり、
宿題を見せてもらったり、した。
キリヤは、間違いなく、俺の――――。


「キリヤは」
「うん」


笑顔のキリヤが先を促すように頷く。


「俺の……!」
「うん」


俺の――――!


「ッ―――――――だ、誰だ……?」
「はい、正解~」

94:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 21:39 ID:7fhDmLflzk
急激に、俺の頭の中のキリヤが薄れていく。
なんだ、キリヤって……
キリヤって、誰だ……!?
いや、キリヤは俺の……。
俺の……っ!


「続きが出ないだろう?すまないが、君の頭に“関西弁で完璧人間な、須藤新野の親友であるキリヤ”という人物を刷り込ませて貰ったよ」
「な……」
「君の知るキリヤは存在しない。君の知るキリヤは全部記憶の中だけのまやかしだ。本当の私はプロジェクト“討伐天使”C-91618のキリヤだ」
「そんな、何のために」
「何のために?決まってる」


キリヤが俺から視線を外し、イロハの方へ向き直る。


「こいつを討伐するためだよ」

95:つねこ ◆MbmtstD.Mk:10/11/16 21:53 ID:51FwbxHOy.
イロハを、討伐する?
なんだ、それは。


「何でだよ!イロハは何も悪いことなんてしてないだろ!?」
「まあね。でも、そういう風になってるんだよ」
「なんだよ、それっ」


意味が分からない。
そういう風になってる、ってなんなんだよ。
今まで、転生するために頑張ってきて、やっと転生できそうな所までやってきて、この仕打ちなのかよ……!


「上の奴等は私達を嫌っているからな。幸福天使なんて言って、わざわざ現世にやること事態がもうおかしいんだよ。上にいたって“奇跡”とやらで現世の人間の願いを叶えるのは可能なのに。正直な所、幸福天使を転生なんてさせたくないんだろう?」
「よく分かってるね。その通りだよ」
「ククク、やっぱりそうなのか。どうりで規律が厳しいわけだ。“1500人の願いを叶えるまで帰れない”なんて、現世の毒で死ねと言っているようなものだしな」


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