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犬娘「魔王になるっ!」

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Part13
145 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/16(土) 01:25:29.38 ID:YCMgiEvAO
虎獣人たちと合流した犬娘たちは村人たちに惜しまれながら帰還した
ーー北浜ーー
北浜は変わらず人がいない
虎獣人と勇者はそれぞれテントを立て始めた
術師「わくわくしちゃ駄目ですかね?」
犬娘「いいよ!」
術師「一人で戦わなくていいんですね……」
犬娘「術師ちゃん……」
犬娘にはなんとなく術師が自分の無力さで悩んでいるのは分かる
とてつもなく強い彼女だからこそ、自分の無力さに敏感なのだろう
でも同時に彼女がけして無力でないことを、犬娘は知っている
この国作りに彼女が居ない状態など考えられないのだ
夕方になり、塩田を掘っていた女拳士とメイド剣士が帰ってきた
メイド剣士「女拳士さんの新魔法ができたんですよ!」
メイド剣士がぴょんぴょん跳ねている
女拳士「メイドちゃんも初歩の転送に成功したよ」
術師「ぐっと近付いてきた……未来が!」
犬娘「じゃあこっちは、新しい仲間を紹介するよ!」
犬娘はまず虎獣人一家を紹介した
犬娘「そして最後の一人は……」
女拳士「人間だよね、誰だろ?」
メイド剣士「獣人と暮らす人間は少なからずいるらしいですよ?」
女拳士「ん、なんか知った顔なんだが」

146 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/16(土) 01:27:09.25 ID:YCMgiEvAO
メイド剣士たちがあれこれ推測しているのを見て、術師はにやけそうになる自分を抑えるのに必死だ
犬娘も少し嬉しそうに見える
きっとずっと心の底に残っていた、恐怖や、人間に対する不信感など、あらゆる感情が晴れたのだ
犬娘「勇者ちゃんです!」
女拳士「はあっ!? あ、そうだ!!」
メイド剣士「ええっ!?」
二人は、いや、この魔王パーティーは勇者と戦うために強くなってきたのだ
最強の敵が味方になったなど、有り得ないことだった
メイド剣士「まさか世界の半分を渡そうって言ったとか」
女拳士「世界なんて取れないよ」
犬娘「改心したらしいよ」
術師「とりあえず今ある食料を全部振る舞いましょう」
その日は、小さなお祭りのような空気になった
勇者「これからよろしく頼む」
女拳士「ああ、あんたが味方なら頼もしいよ」
メイド剣士「よろしくお願いします、たぶんあなたを加えて五人でコトー王様に挑むことになりますからね」
勇者「コトー王か……、あれに勝つのは無理じゃないかな?」
女拳士「そうだ、そういやあんたコトー王と戦ってたな」

147 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/16(土) 01:35:23.99 ID:YCMgiEvAO
勇者「そもそも女拳士さんに苦戦して、係員さんにギリギリ勝てるレベルだったからな」
女拳士「今なら負けないよ、またやろうよ!」
メイド剣士「塩田開拓ついでに戦ってみるのもいいかも」
勇者「俺はあんたたちの言うこと全てに逆らう権限はない、なんでも言いつけてくれ」
メイド剣士「……そうですね、あなたの罪は重い」
メイド剣士「知っていますか、あなたに敗れて家族を失った後の魔王様がどれほど苦労されたか!」
女拳士(ひたすら食ってた気もする)
勇者「俺も魔物と思しきものに家族を奪われた……、少しは解るつもりだ」
術師「それです、どういうことだったんですか?」
勇者は一つ一つ話していった
まず、勇者の妹が魔物と思しきものにさらわれたこと
サイセイではその手の事件が多発したこと
ある日、子供たちが魔物に襲われたこと
その後、また誘拐事件が多発し、遂に国王から勇者に魔物討伐令が下ったこと
勇者「しかし、全ては誤解だった」
勇者「子供たちは……偏った教育により、魔物を見つける度にいじめ殺していた」
勇者「襲われた、と言うのも、返り討ちにあったと言うだけだった」
犬娘(うさちゃんもかな……)
勇者「だが、偏った教育に騙されていたのは、俺も同じだな……」
勇者「そして、子供をさらっていたのは、人間だ」

148 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/16(土) 01:37:23.28 ID:YCMgiEvAO
術師「!?」
メイド剣士「どういうことですか?」
勇者「目撃証言を集めたが、全て黒衣の女が関わっていることが分かった」
勇者「しかしサイセイの国は魔物と敵対する国だ」
勇者「子供をさらう魔物たち、と言うのは、プロパガンダの具としてこれ以上無かったんだ」
勇者「俺は国王にまで訴えたが、結果反逆者にされ、なんとか逃げ出した俺はあの村で暮らすことになったんだ」
術師「……なんてこと……」
メイド剣士「結局勇者さんも翻弄されていたと言うことですか……」
犬娘「……許せない」
術師「!」
勇者「!」
犬娘「その黒衣の女、絶対許さない!」

149 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/16(土) 01:38:04.29 ID:YCMgiEvAO
第二章「犬娘開拓する」 完
次回ーー
新たな敵と、頼もしい仲間たち
犬娘たちは開拓を進め、街を作るために動き始めるーー
第三章「犬娘、街を作る」
たくさんの仲間、そして、それを引き裂く闇ーー


154 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/22(金) 23:15:55.20 ID:CEWxAOtAO
第三章「犬娘、街を作る」
北浜の盆地には、四つのテントと一つの牛のための雨除け、鶏の住む木箱、牛車、そして10個ほどの樽が並んでいる
樽の中身は水と小麦粉などの食料だ
幾つか空になった樽は白石や青石で冷蔵庫になっているか、雨水を貯める受け皿となっている
ここから、街作りが始まる
虎獣人「水、これだけじゃ足りんだろ」
術師「そうですわね、人も増えたし でも今必要な量は転送で簡単に取って来れますわ」
虎獣人「将来のこともあるし井戸を掘ろう モグラを連れてくる」
術師「それでは送りますわ」
予定を変更し、術師は残る七人にそれぞれ指示を出す
女拳士と犬娘、勇者には食料調達、メイド剣士には子供二人のトレーニング、シスターには昼食の準備を任せて、村に飛ぶ
術師「子供さんたちはあれで良かったんですか?」
虎獣人「ああ、必ずあの子らも力になれる 上の女の子は犬娘……魔王様と同い年だし……」
虎獣人「ただ下の子、男の子の方は魔法の方が向いてるかも知れん」
術師「では、帰ったら私がお預かりしてよろしいですか?」
虎獣人「あんたが忙しくないなら、頼もう」
術師「少し楽しみですわ」
術師はにっこりと笑った

155 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/22(金) 23:19:03.43 ID:CEWxAOtAO
ーーサイセイ、虎獣人の村ーー
村に着くと虎獣人は何やら作業小屋のような場所に立ち寄る
その作業小屋の前の穴に顔を突っ込んで、地を割るような声を出す
虎獣人「もぐらのおおおおおお!」
すると術師の後ろの穴からモグラが二匹飛び出してきた
モグラ親方「てやんでいバーロー、虎の!」
モグラ子分「朝から大声は勘弁してくだせえ」
虎獣人「がっはっは!」
虎獣人は見た目通り豪快だ
術師「失礼、私はカイオウ島北浜の魔王様の使いの者です 実はモグラ様に井戸を……」
そこまで言うとモグラ親方はスコップを突きつけてきた
モグラ親方「みなまで言うな、もちろん協力させてもらうぜ!」
モグラ子分「犬娘ちゃんが苦労して魔物の国を作ってくれた話はもう村中みんなが知ってますぜ!」
モグラ親方「近隣の村まで掛け合ってもうみんなが協力する事で一致した」
モグラ親方「いつでも誰でも呼びやがれってなもんでい!」
術師「有り難いですわ、モグラ様はお二人だけですか?」
モグラ親方「おうよ、なんせ小さな村だからよ」
虎獣人「みな仕事を始めてるだろう、すぐに帰って俺達も手伝おう」
術師「そうですわね」

156 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/22(金) 23:20:50.76 ID:CEWxAOtAO
北浜の人口は二日で四人から十一人となった
ーー北浜ーー
犬娘「勇者さんはゴカイ大丈夫?」
勇者「ああ、修業時代に数年サバイバルをした経験がある」
女拳士「今日はデカいの釣りたいから仕掛けを変えてみた」
犬娘「糸巻き?」
女拳士「うん、これで釣った魚をエサにしてヒラメかスズキを釣ろうかと、ね」
勇者「いいな」
犬娘たちはゴカイを集めると、磯に向かった
…………
メイド剣士「虎娘さんは年上なんですね」
虎娘はぜえぜえと息を弾ませている
近くには少年も倒れている
虎娘「あ、あんた獣人のあたしより速いとか有り得ないだろ!」
メイド剣士「これでもうちでは遅い方ですよ?」
虎娘「犬娘ちゃんどんだけ強くなってるのよおっ!」
メイド剣士「私が足元に及ばないくらいには」
虎娘「……信じらんない……」
メイド剣士「虎娘さんの戦闘スタイルだと女拳士さんに弟子入りした方が良いかも分かりませんね、まあ走り込みなんかはさせてあげられますが」
虎娘「あんまり……させて欲しく……ないかな……」
虎娘はそのまま潰れた
メイド剣士「水を冷やして持ってきますね」

157 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/22(金) 23:22:43.26 ID:CEWxAOtAO
メイド剣士はビンに水を入れると、白石をかざし一瞬魔力を込めた
メイド剣士「白石は確かに便利ですね……」
水が十分に冷えると白石を冷凍樽に戻した
メイド剣士「ただ、もっと欲しいなあ」
術師はそこに帰ってきた
術師「明日は山に登ってみますわ あと、石使いちゃんに協力を要請してみます」
メイド剣士「虎少年さんの方もお願いします、あ、水を持って行かないと」
虎獣人とモグラは先に二人の所に行った
虎獣人「なんだ、二人ともへばってるのか」
虎娘「……あの子強過ぎ……」
虎少年「……」
虎獣人「情けないな」
メイド剣士が帰ってくると二人は水に飛びついた
メイド剣士「ちょ、コップ有りますから、直接飲まないで」
虎娘「ぷはーっ!」
虎少年「た、助かった……」
虎獣人「メイドさん、少し手合わせをお願いしたい」
メイド剣士「?」
メイド剣士「分かりました」
虎獣人の戦いは術師も興味が湧いた
五人が見守る中、メイド剣士が先に一閃を加える
しかし、虎獣人の毛皮は予想したよりも硬い手応えだ
メイド剣士「私も何度か獣人と戦ってますが、お父さんお強いですね」
虎獣人「昔は少し鍛えたからな」

158 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/22(金) 23:24:28.17 ID:CEWxAOtAO
術師「メイドさん、あなたの剣ってもっと斬れると思うんですが」
メイド剣士「どういうことです?」
術師「振りをコンパクトにし過ぎてスピードと言うか、腰が十分に乗っていない気がするんです」
メイド剣士「……そうかも」
メイド剣士は眼前でぴゅんぴゅんと剣を振り回すと、深く腰を落として構えた
身体の柔らかいメイド剣士が深く構えると剣はほとんど体の後ろに回る
虎獣人「面白い、今度はこちらから行くぞ!」
虎獣人は初めて会った頃の犬娘並みのスピードでメイド剣士の後ろに回る
いや、回ろうとした
虎獣人「ぐはっ!」
メイド剣士「……通った!」
虎獣人「み、見事!」
それでも深手にはならなかったようでそのまま虎獣人は向かってきた
メイド剣士「深く……斬る!」
虎獣人に一撃をもらえばこちらもただでは済むまい
メイド剣士は素早く剣を振り、間合いを作る
虎獣人「おおっ!」
虎獣人は軽く振り回している間は大丈夫だろう、と突っ込んでくる
メイド剣士が後ろに跳ね飛ぶと、足元は深く抉れた
メイド剣士「素晴らしい攻撃力!」
術師「メイド剣士さんも本当に強くなりましたね」

159 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/22(金) 23:26:09.21 ID:CEWxAOtAO
虎獣人がもう一度突っ込むと鼻先に真空魔法を当てられ、怯む
虎獣人「ぐおっ」
メイド剣士はそのまま追撃をかける
メイド剣士(速く、より強く!)
メイド剣士の一閃は深く虎獣人の体を斬り、裂いた
術師「それまで!」
術師は試合を止めると、たちまち虎獣人の傷を塞いだ
虎娘「……そりゃ、あたしが勝てるわけないわ」
虎少年「強過ぎ」
虎獣人「参った!」
虎獣人「いやあ、これが我が魔王軍の強さ、俺も一兵卒として誇らしいわ!」
虎獣人は負けても豪快に笑った
モグラ親方「すげえな、あの姐さん」
モグラ子分「感動するほどつえぇや」
…………
女拳士「よっしゃ、デカいの来た!」
勇者「おお、タモを」
女拳士「へっへー、青物みたいだな」
犬娘「ごちそうだー!」
犬娘たちもどんどん小魚を釣り上げ、昼前には箱いっぱいになった
勇者「本当に魚が豊富だな」
犬娘「帰ろう!」
女拳士「そうだねぇ、アタシも沢山釣ったし」
網袋には大型の鯵のような魚やスズキなどが入っている
犬娘「売る前に全部食べちゃいそうだね」

160 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/22(金) 23:27:50.15 ID:CEWxAOtAO
盆地に帰ると術師たちは井戸を掘っていた
術師「あら、沢山釣りましたね」
犬娘「うん、魚いなくなっちゃうかも」
術師「磯を開拓するとそうなってしまうかも知れませんが、これくらいなら全く心配ありませんわ」
術師「でもそろそろ他の食料を探さないと駄目ですね」
虎獣人「俺が森を開拓して木材を確保するから、みなで畑を作ってくれ」
女拳士「手伝うよ」
虎娘「あたしも、トレーニングになるし」
虎獣人「下の森の、一時間くらい行った辺りで良いか?」
術師「そうですわね」
虎獣人「まず皆が眠れる小屋とベッドを作って、それから下にも小屋を作ろう」
術師「虎獣人さんは大工仕事得意なんですね」
虎獣人「あの村の家はだいたい俺が建てた」
犬娘「私の家も建ててもらったよ!」
術師「本当に、良い人材ですわね」
モグラ親方「俺っちたちもどんどん作業させてもらうぜ!」
術師「まず、井戸、次に下水道、三つ目に上水道をお願いします」
術師「その後は……そうですね、下の森にも同じ物を揃えてもらいましょうか」
モグラ親方「モグラ使い荒いなこの姐さん……」
モグラ子分「親分……頑張りやしょう」

161 :いかやき ◆J9pjHtW.ylNB :2014/08/22(金) 23:29:31.95 ID:CEWxAOtAO
シスター「魚が焼けましたよ〜」
虎獣人「おう、飯にしよう」
術師「そうですわね」
モグラ親方「魚に酒か、分かってるじゃねーか」
女拳士「まだそれしか無いんだけどね」
犬娘「美味しいよ〜」
虎娘「あたし魚大好き!」
術師「あ、お昼からも井戸掘りですから、お酒は控え目に」
モグラ親方「おうよ、わかってらあ!」
…………
モグラたちは意外と作業速度が速く、夕方には水が出るところまで掘った
モグラ親方「木枠がねえ」
術師「木材の切り出しと加工は虎獣人さんたちがやってくれてますわ」
モグラ親方「おう、ありがてえな」
モグラ親方「ついでにセメントなんか有れば下水作りに便利なんだが」
術師「それは山で探してきますわ、多分石灰は出ると思いますから」
モグラ親方「鉱石採取は俺っちたちよりドワーフにでも頼んでくれよ」
術師「では、チュウザンにお願いに行きますわ」
モグラ親方「姐さん博識だな」
術師「色々知恵が足りなくて困ってますわ」