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女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」

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Part2
27 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)13:58:21 ID:FGZ
女「私は、女。ここに住んでる」
「ひとりでか?」
女「そうよ」
「何年」
女「あのときからずっと。5年くらい」
「他に人はいないのか、本当に」
女「そうよ…」
「じゃあ、あの放送はお前が?」
女「!」
「2ヶ月くらい前に、ラジオで放送を聞いた。ここに生存者がいると」
女「そ、それ私。私が放送した」
「…そうか」
背中にあたっていた冷たさが、なくなった。
女「…」
「もう動いていい」
女「…」ソッ
恐る恐るふりむくと、
女「…あ」
本当に、本当に久しぶりに見る、“生きた人間”の顔があった。
切れ長の猫みたいな目。長い黒髪。引き結んだ唇。身長は、私より少し低い。
女「…ど、どうも」
「ああ」
多分、女の子だ。

29 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:04:41 ID:FGZ
女「え、っと」
「女、といったか」
女「あ、うん」
「俺はリン。隣県から来た」
女「リン。…よ、よろしく」
リン「しかし、どうしてこんな真似をした」
女「は?」
リン「後ろからこそこそついて来たろうが。気づいていたぞ」
女「いや、だからあなたを追いかけて」
リン「2時から3時の間はここにいるんじゃなかったのか?」
女「…いる、けど」
リン「いないじゃないか」ズイ
女「…」
リンが差し出した時計の文字盤には、2時13分と刻まれている。
女「…午前じゃなくて、午後なんだけど」
リン「紛らわしい!!」
リンの目が細められ、鋭い八重歯がむき出しになった。
女「ご、ごめん」
リン「午前午後くらいの区別はつけろ!普通、朝と夜にいるものだと思うだろ!」
女「うん?そ、そうかな。ごめん」

30 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:10:43 ID:FGZ
女(あれ?私、午後ってつけてたはずなんだけどなあ)
リン「…ああ、もう。もういい」バン
女「…」
ノイズかなにかで聞こえなかったんだろうか。怒られ損だ。
女「リン、…さん?」
リン「何だ」
女「えっと、隣県から来たのよね」
リン「ああ」
女「生存者は?いた?」
リン「…いたけど、死んだ」
女「…そ、っか」
リン「俺は一人でここまで来た。1年前から、俺は一人で旅している」
女「旅?」
リン「そうだ。生き残りを探して、救助を求める旅」
女「そ、そうなんだ…」
私より若そうなのに、すごい勇気だなぁ。
リン「先日この放送を聴いて、てっきり誰かがここでコミュニティを作って暮らしているものだと思ったんだが」
女「…」
リン「まさかこんな、…こんな女が一人でいるとは」
女(え、睨まれた…?)ガン

32 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:15:56 ID:FGZ
リン「それにしても、この商店街はどうなっている?」
女「ん」
リン「…いないだろうが、アレが」
女「ああ。…トウメイ?」
リン「トウメイ?…なんだそれ」
女「あの、目の無い半透明な、ふわふわしたやつでしょ」
リン「…クリアだろ?」
女「…?」
話がかみ合わない。
リン「タッセルクリアに感染して死んだものの成れの果てだ。クリアというだろ、正式名称は」
女「あ、ああ」
女「うん、多分それだ。ごめん、勝手にそう呼んでた」
リン「…」
リンの視線が痛い。すごく、見下されている気がする。
リン「で、そのクリアはここにはいないのか?駅には大勢いたが」
女「うん、ここには一匹もいないよ」

33 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:21:47 ID:FGZ
リン「…そうか。どうして」
女「前には2、3匹いたけど、駆除したの」
リン「…お前がか?」
女「うん」
リン「そうか」
女(疑わしそうな顔して…)
トウメイを私が全部駆除したっていうのは、本当だ。
大変だった。多分、人生で一番疲れた。
リン「まあ、…信じがたいが。クリアが寄らない土地も、あるにはある」
リン「こんなに広範囲な事例は初めてだがな」
女「そうなんだ」
リン「お前、ここから一歩も出てないのか?」
女「うん」
リン「…どおりで物知らずなはずだ。合点がいった」
女「…」ガン
リン「まあ、いい。お前の住処はどこだ?案内してくれ」
女「う、うん。分かった」
少し、どきりとした。
私の家に、リンが来る。
リン「何笑っている」
女「あ、ううん。別に」
一人ぼっちの時間が、静かな感動とともに破られようとしていた。


35 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:27:02 ID:FGZ
リン「…電気がつくのか」
女「うん。よくわかんないけど、そういう装置がついてるんだ」
リン「…へえ」
女「あと、水も飲めるよ」
リン「ふうん」
女「すごいでしょ」
リン「お前が威張ることではない。ここは恐らく、避難用のシェルターだからな」
女「…はい」
リン「稼動してるのか。こんな田舎なのに…。驚いたな」
女「リンのいたとこは、どうだったの」
リン「こんな設備はなかった」
女「おお、そっか」
リン「まず手入れする人間がいなければ話にならないからな」
女「まあ、ね」
リン「そうか。ここでなら、まあ、外に出なくても生きてはいけるな」
女「うん。すごく住みやすいんだよ、ここ。商店街の中で何でも手に入るもん」
リン「…」
女(あれ、なんでまた睨まれるんだろう)

36 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:32:44 ID:FGZ
リン「…」
女「リン、お腹すいてない?」
リン「いらん」
女「そっか。あの、どうぞ座って」
リン「ああ」
リンは、肩に担いでいた大きなバックパックを下ろした。登山用のやつだ。
それから、…腰にさげていた木刀も下ろした。
リン「…で」
女「うん」
リン「色々情報交換が必要だな。この地方がどうなってるか、俺は全く知らないんだから」
女「そうだね」
リン「…話せ」
女「自己紹介ってことだね。私は、女。18歳で、ええと、ここに住んで5年目」
リン「18歳?…見えないな」
女「背が全然伸びなかったんだよね」
リン「いや、まあ。…そういうことじゃないが」
女「リンはいくつ?」
リン「16」
女「あ、そうなんだ。…14くらいかと思った」
リン「…」
女「お互い童顔なのかなー。あはは」
リン「俺は世間話がしたいんじゃない。ここで何が起こったか、どう対応したかを話せと言ってるんだ」
女「あ、は、はい。ごめん」

37 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:40:16 ID:FGZ
静かに目を閉じた。
あの日、…あのことを思い出す。
私の脳には、鮮やかに残っている、最後の記憶。
人がいて、家族がいて、友達がいた、色のある記憶だ。
5年前の夏、世界が崩壊した。
“タッセルクリア”
どこかの国の学者が発見した、病気。
感染源は不明。人間だけでなく、あらゆる生物に感染し
物凄い速さで拡大していく。
何故か、その存在は隠されていた。
あとから、某国が実験した生物兵器なんじゃないか、とか。未知のウイルスが研究所からもれたのだ、とか。
憶測が飛び交ったけれど。
真相は全く分からないし、噂する人もなくなった。
文字通り、なくなったのだ。
タッセルクリアは、全ての人間の体内に、平等に入り込み、全てを殺した。
実験だろうが生物兵器だろうが、どうだっていい。
皆、死んだんだから。

38 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:47:18 ID:FGZ
その日私は、学校にいた。
外国で未知の病気が発生したということは、前々からニュースで報道されていたけど
ほんのささいなニュースだった。専門家も、問題ない、風土病だ…と言っていた。
全ては嘘だった。
ニュースの一ヵ月後、首都の空港である男性の頭部が爆発した。
爆発、というか。なんというか。少しニュアンスが違うんだけど。
とにかく、頭が青い半透明のとろりとした液状になって、膨らんで
そのまま、クラッカーみたいな音を出して、飛び散ったのだ。
飛び散った綺麗なゼリーは、道行く人々の肌に付着した。
2時間後、皆の頭はクラッカーみたいな音と共に飛び散った。
私は居眠りをしていた。
急に鳴った校内連絡の音声に、びびって顔をあげたのだ。
“避難警報が県から出されました”
焦った校長の声が、寝ぼけた頭に飛び込んできた。

39 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:53:21 ID:FGZ
「警報だって」
「首都でパンデミックが」
「でも、ずっと遠いから大丈夫なんじゃない?ここ、田舎だし」
「警報って、具体的にどうしたらいいのよ」
ざわざわ、ざわざわ。
先生が言った。
とりあえず、家に帰って避難準備を整えるように。
ニュースを常につけること。臨機応変に、自治体の指示に従うこと。
私は言われたとおり、家に帰った。
お母さんが真剣な表情でテレビに見入って、
首都に住んでいるお母さんの妹…私のおばさんの名前を呟いた時
ああ、これはただごとじゃないんだ。
そう気づいた。
警報の2日後、悪魔は私のいる町にも到着した。
逃げた人もいる。 逃げれなかった人もいる。
どうだろうが関係ないだろう。 皆、遅かれ早かれ頭を爆発させた。

41 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)14:59:36 ID:FGZ
リン「…そうか。やはり、ここにも」
女「私の家族は、離島にいるおばあちゃんの所へ避難しようとしてたんだけどさ」
女「船も飛行機も、何もかもごちゃごちゃだったじゃない?」
リン「ああ」
女「だから結局、ここから出られなかった」
女「…って、こんなかんじです」
リン「家族はどうした」
女「お父さんは、出張に行ってた。初日は連絡がとれたけど、町にタッセルクリアが来たころには、もう」
女「お母さんは、…もちろん死んだ。私の目の前で」
リン「そうか」
女「…うん」
見慣れたお母さんの、優しい笑顔が歪んで
青い、綺麗な水風船みたいになって
ぱーん
女「…」ブルッ
リン「政府が自衛隊を派遣して救助にあたったんだがな。逆効果だったよな」
リン「港や空港に殺到した人の中に、1人でも患者が混じってれば、皆死ぬ」
女「うん」
リン「…お前は」
女「…」
私は、悪魔に勝ったみたいだった。

42 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)15:05:55 ID:FGZ
お母さんの体液が飛び散って、私の目の中に入った。
ああ、死んだ。
そう思った。
あまりに衝撃的で、お母さんの横たわった体のそばで暫くぼうっとしていた。
それから、お母さんと寄り添って目を閉じた。
お母さんと添い寝をするなんて、小学校低学年以来だった。
お母さんは、温かかった。
タッセルクリアが死体の中をうごめき、お母さんの体を水にして溶かしていくのを
ただ、ぼんやり見ていた。
私は、自分の最後の時であろう二時間を、そうやって過ごした。
目を開けると、夜だった。
あれ?と、自然と言っていた。
水を浴びたのは昼だ。 もう破裂していてもおかしくない
町は恐ろしく静かだった。
避難したか、死んだか。
出て確かめる勇気はなかった。
ただ、私は生きていたのだ。
お母さんの死体は、消えていた。
青い水溜りだけが、そばにあった。

43 :名無しさん@おーぷん :2015/09/06(日)15:13:39 ID:FGZ
リン「…タッセルクリア」
リン「英国の科学者の名前と、透明、という意味のクリアという単語を合わせた病名」
リン「潜伏型もあるが、その場合は首に赤黒いアザができる」
リン「感染スピードは非常に速く、患者と濃厚接触、または死んだあとの体液を浴びると感染する」
リン「感染した場合、寿命は1〜2時間」
リン「頭部が水状になり、破裂する。そうして菌を飛び散らせるんだ」
女「詳しいのね」
リン「政府からチラシが来たろ」
女「…読んでない、かも」
リン「…」
女「そ、そんな時間なかったんだもん」
リン「致死率は100パーセント。死体は菌に犯されて水状になり、消える」
リン「…しかし、感染しても発病しなかった人物も、いる」
女「リンと私みたいなね」
リン「そうみたいだな」
女「リンは、感染しなかったんだよね」
リン「ああ。水は浴びたが、どうもなかった」

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