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女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」

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Part20
365 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)18:00:53 ID:8sv
ミキ「私がミストになったとき、生前は出せなかった声が元に戻ってた」
リン「ああ」
ミキ「でもね、どうしても歌だけは歌えないの」
女「どういうこと?」
ミキ「見てて。……」
彼の喉から、たっぷりの空気に若干の雑音を含んだ透明な息が漏れた。
ミキ「今、歌おうとしているの。でも、声が出ない」
リン「嘘つけ」
ミキ「マジよ!!喉が塞がったみたいになるんだもんっ」
リン「知るか。俺たちは医者じゃないし、歌手でもない。お前のスランプは治せない」
ミキ「心当たりがあんのよ。あのね、このステージを綺麗にして、私の衣装も手直しして」
ミキ「生きてた頃みたいに、夜にステージができたら…。聞いてくれる人がいたら…。多分、歌えるの」
女「そうなの?」
ミキ「勘だけど」
リン「ふざけるな」
ミキ「ああーら?ふざけてなんかないわよ?ま、いいけど。やんないんなら」
リン「やる」
ミキ「でしょうね」
リン「じゃあ、さっさとステージを掃除して服を着替えろ。そして歌え。そして情報を渡せ」
ミキ「あのねえ!」

366 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)18:31:31 ID:8sv
ミキ「あんたらがやんのよ!当たり前でしょ」
女「リン、下手に出ないとやっていけないよ」
リン「…」
ミキ「そうそう、女ちゃんの言うとおりよ。あんたには謙虚さが足りない」
リン「…分かった。でも急ぐ。手伝ってくれるな、女」
女「うん」
リン「とにかく、前のようにすればいいんだろ。やってみる」
ミキ「よし、契約成立ね」
ミキが出した手を、リンは握らなかった。代わりに私が握った。
ミキ「ま、とにかく今日は遅いからゆっくり休みなさいよ」
女「そうだね、リンも運転で疲れたでしょ?」
リン「別に」
ミキ「そこは素直に休みなさいよ!ガキらしくないわねえ」
リン「黙れ」
ミキ「…ねえ女ちゃん、こいつと旅するの苦痛じゃない?」
女「え?ううん」
ミキ「…どえむね」
女「?」

367 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)18:37:16 ID:8sv
店の奥に、従業員の使っていた休憩所があった。
布団と必要なものを運ぶと、ちょっと居心地のいいホテルみたいになる。
女「すごいねー。スタッフルームにも凝ってるなんて」
リン「ん」
女「…」
ランプの光がリンの顔に陰を作る。リンは、手帳に目を落としていた。
女「リン」
リン「何」
女「…誰を探してるの」
リンが顔を上げた。簪を取った彼の髪が、頬にまばらにかかっている。
リン「知り合いだ」
女「…名前は?その人とどういう関係だったの?」
リン「…」
リンが髪を耳にかけ、私をじっと見る。
リン「言う必要がない」
彼の言葉は静かだった。でも、今までで一番厳しい響きがあった。
女「必要がない、って。…何で?」
リン「今まで黙っていたことは、謝る。けど、お前に言う必要は無い」
女「だから、何で」
リン「関係ないからだ」
カンケイナイカラダ。
女「…」
私は、
女「…そ、っか」
へらりと笑った。

368 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)18:40:29 ID:8sv
女「ま、色々あるもんねー」
リン「ああ」
女「でも、その人に会いたいんでしょ?…会えると、いいね」
リン「そうだな」
女「私も、…手伝えることあったら、言ってね?」
リン「いや。迷惑がかかるから、お前はそのままでいい」
女「…」
メイワクガカカル。
女「…」
「ふたりともーっ、ご飯できたわよーっ」
リン「だってさ。行くか」
リンは何でもないように立ち上がった。その目の静かさから、私は
女(あー)
女(本気で、言ってるんだな)
絶対に、絶対に
女「…うん。行こう」
リンの本音には触れさせれもらえないのだ、と理解した。

369 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)18:41:25 ID:8sv
ちょっと落ちます!
二人の関係性にヒビが入ってきたね


370 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)19:04:34 ID:KI3
最後にリンがクリアになって女ちゃんが記憶を見る展開とかだったら泣ける
生きてくれえ

376 :名無しさん@おーぷん :2015/09/27(日)10:14:30 ID:X4p
リン「なんだこれ」
レストランの一番大きなテーブルに広げられた光景を見て、リンが言葉を漏らした。
…私も概ね、この言葉と同じことを考えていた。
ミキ「何って、ウェルカムディナーよ!どお?」
白いテーブルに所狭しと並べられた、大量の料理。そして、ドリンク。
女「うわ、美味しそうーー!」
すっごくいい匂いだし、盛り付けも完璧だ。
女「これ全部、ミキが作ったの!?」
ミキ「もち」
女「すっごい!!めちゃくちゃ美味しそう!」
丸々一匹のチキンに、大鍋に入ったシーフードのスープ、それから香ばしい匂いのするパン…
リン「待て」
今にも飛び掛らんとする私を、リンの固い腕が制した。
リン「怪しいな。何でこんな新鮮な食材が手に入る」
ミキ「あら、その気になれば釣りでも素潜りでも、魚は手に入るわ」
リン「この鶏は」
ミキ「私がもともと飼ってたやつがね、野生化して裏の山にいっぱいいんのよ。それシメた」
リン「牛乳もあるな。5年前のを使ったのか?」
ミキ「農家の牛が野生化して…以下略よ」
リン「女っ、まだ食べていいとは言ってないだろ!」
女「あだっ」
リンが、ベリーのジャムを掬い取って舐めようとしていた私の腕をはたく。
リン「本当に安全なのか?」
ミキ「信じてよお。私これでも、ちゃんと調理師免許もあるんだから。国家資格よ?」

377 :名無しさん@おーぷん :2015/09/27(日)10:20:10 ID:X4p
リンがまるで毒を慎重に審査するように、料理に鼻を近づけた。
女「リン、大丈夫だよー。いい匂いだし、早く食べよう」
リン「お前は警戒心がなさすぎるんだよ」
女「ミキさんにも失礼だよ!もういいから、食べようってば」
リン「…」
リンはやっと安全を確認し終えたのか、席についた。
ミキ「さてさて、今晩はご来店いただきありがとうございます」
嬉しそうに上気した頬で、ミキが微笑んだ。
ミキ「では乾杯しましょう!オレンジジュースでよかったわよね?」
多分自分の手で絞ったのであろう果汁を、丁寧にグラスに注いでくれた。
ミキ「んじゃ、かんぱーい!」
女「かんぱーい!」
かちゃん、と3つのグラスがシャンデリアの光の下でぶつかり合った。
憮然とした表情のリン、子どものようにわくわくとした顔をするミキ。
その対比が面白くて、私はくすっと笑った。
ミキ「さ、食べて食べて。いっぱいあるんだからねっ」
女「はーい!」
リン「どうも」

378 :名無しさん@おーぷん :2015/09/27(日)10:26:40 ID:X4p
ミキはせっせと料理をとりわけてくれる。
お母さんみたいだな、と思った瞬間、胸が温かくなった気がした。
ミキ「いやー、久々に接客できると思うと胸が躍るわね」
女「ミキは食べないの?」
ミキ「あ、いらないのよー。飲食は必要ないの」
リン「だろうな」
ミキがついでくれたスープを一口飲む。
女「…」
私は目を見開いた。
舌の上に、長らく忘れていた感動が甦る。
女「…うまっ」
リン「美味しいな」
あのリンも、スプーンを握ったまま素直に頷いた。
ミキ「あらぁ?そう?よく言われるわ」
女「え、すごい!めっちゃ美味しい!プロみたい!!」
ミキ「プロじゃ!!」
私は夢中で手を動かし、ご馳走を摂取していった。
今まで食べていた冷凍食品とか、缶詰とか、そんなものに慣れてしまった舌にとって
ミキの料理は麻薬に近かった。もう、ダメだ。私は二度と保存食品を食べられないかも。

380 :名無しさん@おーぷん :2015/09/27(日)10:32:03 ID:X4p
女「し、幸せ…」
震えが出るほど、感動した。
ミキ「女ちゃん、本当に美味しそうに食べるわねー。嬉しい」
リン「単純だからな。子どもっぽいし」
女「そういうリンだって、いつもより食べるスピード速いよ」
リン「普通だ」
ミキ「…」
ミキは頬杖をつき、宝石でも見るみたいに私達を眺めていた。
ふと、目が合った。
ミキ「…いっぱい食べてね」
ミキの微笑みは、美しかった。
女「…うんっ」
私は、自分の頬が少し熱くなるのを感じた。
ん?何でだ?よく分からない、けど。
リン「…」
女「おいしいねー、リン」
リン「ああ」

381 :名無しさん@おーぷん :2015/09/27(日)10:37:50 ID:X4p
結局、私は何回も何回もおかわりを繰り返した。
おかわりを要求するたび、ミキが嬉しそうにぎゅっと目を細めて笑う。
リンも、いつもよりたくさん食べていた。
食べ過ぎると体が動きづらくなるから、程ほどにしておけーって言っていたくせに。
女「…はぁ、もう無理」
リン「俺も、ごちそうさま」
お腹が破裂しそうだ。確かに、これじゃあクリアが来ても動けないかも。
苦しいけど、幸せな苦しさだった。
ミキ「いやあ、本当にいっぱい食べたわね。成長期ねー」
リン「どっちも二次性長期は過ぎてる」
ミキ「あら、そうなの?あんたら何歳なの」
リン「俺は16、こいつは18」
ミキ「えええええええええっ!?お、女ちゃんが年上だったのぉ!?」
女「うん」
ミキ「いや、全然見えない…。確かに背は若干女ちゃんのほうが高いけど」
女「ど、どういう意味」
リン「ガキっぽいもんな、お前」
女「リンこそ!…」
リンのガキっぽいところ、を探そうとしたけど、…そんなもの無かった。
女「もう、いい」
ふてくされる私の顔を見て、ミキがのけぞって笑っていた。

382 :名無しさん@おーぷん :2015/09/27(日)10:44:43 ID:X4p
女「はー…。楽しかった」
ぼふん、と布団に沈み込む。
ご飯を食べた後は、ミキと一緒にトランプをして遊んだ。
…ババ抜きだったんだけど、私は恐ろしく弱いことが判明した。
リンは真顔でジョーカーへと誘導してくるので、ミキすら勝てていなかった。
リン「つかれた」
リンが横で、シンプルな感想を口にする。
女「私のほうが疲れたもん…。最下位はバツゲームで乾燥唐辛子食べさせられたし」
リン「傑作だったな」
女「まだ舌びりびりするもん」
口を尖らせていると、ドアがノックされた。
ミキ「やっほー。どう、ここ寒くない?」
女「ううん、大丈夫だよー」
ミキ「…おい、待てぃ」
ミキの表情が、布団にあぐらをかく私とリンを見たたまま固まった。
ミキ「…あんたら、二人で寝るの?」
女「え?」
ミキ「どうなのよ、それ」
た し か に 。

383 :名無しさん@おーぷん :2015/09/27(日)10:52:23 ID:X4p
麻痺していたのか何なのか、私はリンの隣で眠ることが普通になっていた。
いや、だってリンだし。リンなんてもう、ほら。何も無いでしょ。あるわけないでしょ。
リン「諸事情により、寝るスペースは今まで一緒だった」
ミキ「成る程…」
リン「変な勘ぐりを入れるな。俺はこいつに何もされていない」
女「何で私が“する”側なのよ!逆でしょ!?」
リン「うるさいな…。何か問題でもあるのか、これ。いいだろ」
ミキ「いやいやいやいや、女ちゃん的にどうなのよ!?」
女「え?…あー、ど、どうだろう。今までなんとも思ってなかった」
ミキ「16歳だよ!?16歳の異性とすぐ隣で寝るんだよ?」
女「う、嘘。最初はちょっといいのかなあって思った。けど、リンだし」
リン「ああ、何も起きるはずないだろ」
断言されるのも何だか悲しい気がするけど。
ミキ「はー…。ま、リンならまぁ…」
ミキはやっと納得がいったのか、ふむふむと頷きながらドアを閉めようとした。
ミキ「んじゃ、まあおやすみなさい。でも女ちゃん、気をつけなさいよ。男なんて皆」
ぼふっ。
ミキ「ぎゃっ!?」
リン「消えろ」
リンが枕を投げつけた姿勢のまま鋭く言い放った。
ミキ「ったーい…。乱暴者!!ばぁああか」
ミキは子どものように舌を出すと、荒々しくドアを閉めた。
リン「ったく」
リンは枕を拾い上げ、さっさと自分の領地に戻っていく。

385 :名無しさん@おーぷん :2015/09/27(日)10:59:54 ID:X4p
女「…」
リン「うるさい男だなあ、あいつ」
女「い、いや。男っていうか」
リン「さっさと寝るぞ。明かり消していいか」
女「え、あ、」
私は布団の上に座ったまま、固まる。
よく見たら、リンが近い。腕を伸ばせばすぐに体が触れ合うし。
それに、あれだ。リンの力ならどんなに離れていたって、簡単に…
リン「おい」
女「ひゃっ」
リンが長い髪と顔をかたむけながら、私の顔を覗き込んでいた。
リン「どうかしたか」
女「あ、ううん。何でも、何でもない」
リン「ふうん」
リンの髪がさらさらと音を立てる。
パジャマ代わりにしている若干だぼついたYシャツから覗く、雪みたいな首筋とか、鎖骨とか。
とか。
女「…」
私は、大丈夫だろうか。 寝ているとき、何か変なことになっていないだろうか。
リン「何見てんだ」
女「み、見てないよ」
リン「…」
リンが背を向けて、布団にもぐりこむ。女性的な繊細さをもつうなじが、見えた。

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