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女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」

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Part19
351 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)16:21:20 ID:8sv
どうすんのよ、って聞くとさ。
「いや、もう死ぬしかないっしょ。オーナーうける」
いやいや、死ぬって。え、もう?
「頭痛いし、ヤバいっすね」
軽くない、あんた?冗談でしょ?
「俺、病院にオーナーを戻すなら今しかないっすよ。最終確認ですけど、いいんですね?」

「オーナーが一人で帰れるわけないし、多分もう誰も助けてくれないですよ。皆逃げるのに必死だし」
うんまあ、別に帰らなくていいんだけど
「じゃ、俺とオーナーどっちが早く死ぬか賭けつつ、ダベりましょうか」
笑えないわねえ…。あんたこそ病院行きなさいよ。
「もう無理っすよ。皆、死にますよ」
ベップは微笑んでた。
ああ、死ぬのかあって思った。
嫌だな、って思う人もいるでしょうね。でも、皆死ぬんだもん。
しょうがないな。もう、…。
夕方になって、ベップがいきなり席を立った。
「煙草吸ってきます、オーナー」
お前煙草吸わねーじゃん。って、書こうとしたら、さっさと砂浜に下りてっちゃって。
店からダッシュで離れたとこで、いきなり頭が破裂した。

352 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)16:29:04 ID:8sv
あのね、綺麗だったのよ。
ベップが最後に振り返って、大きい声で
「オーナー、ごめん。お先に」
って映画か。…叫んだのよ。そしたら、あいつの頭が包まれるみたいに青い液状になって。
ぱん、って。
ベップの頭のない体だけが、砂浜に転がってた。
片付けようかなって思ったけど、触ったら感染するだろうし、ベップもやめろって言いそうで、やめた。
夜が来て。
私はずっと座ってた。
何日経ったかな。ベップのクリアがふよふよ店の外を漂ってるの見たときには、もう動けなかった。
私は、死んだ。
で、起きると、こんなになってた。
あれー?って思ったけどすぐ、ああ、これが「ミスト」だって気づいたの。
うん?まさかあんたら、知らない?
ははーん…。私、結構情報通なのよねえ。
前に来た「生存者」に色々教えてもらった知識もあるし。
よっしゃ、じゃあいっちょ教えてあげますか。
…って、女ちゃん、何!泣いてるの、まさか
ベップが良い奴?そ、そうよね。あいついい奴よ。
…リンは何よ。え?違うわよ!!ベップはノンケよ!!そんなんじゃないからっ!
私の好きなタイプは筋肉隆々で頼りがいのある…

353 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)16:33:12 ID:8sv
喉の奥と鼻の奥がつんとして、目が熱くなる。
ミキ「あーあーあー、鼻水でてるわよ」
ミキが手を伸ばし、私にティッシュを渡してくれた。
リン「ベップ、ってやつのクリアは?」
ミキ「分かんない。あいつ放浪もんだし、どっか行ったんじゃない?」
リン「そうか、…女、うるさい。泣き止め」
女「ごべ、…ん」ズビ
リン「それで、情報通って言ったな」
ミキ「ええ。結構調べたしね、病気のこと」
リン「是非聞きたい」
ミキ「いいわよ!まず、ええと。タッセルクリア症候群は原因不明の…」
リン「そこはいい。常識の範囲内だ。…ミストとかいうやつに、ついてだよ」
ミキ「ああ、オッケー」
女「…ぐしゅっ」
リン「お前、…はあ。もういい」

355 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)16:40:23 ID:8sv
ミキ「あんたら、感染者の死体が青いゼリーみたいになるってことは知ってるわね?」
女「トウメ…じゃなかった、クリア」
ミキ「そ。二次災害、クリア。けど、もう一個あんのよ」
リン「…ミストか」
ミキ「うん。ミスト…霧ね。これって結構特殊な事例らしいの」
ミキ「潜伏感染者が発症前に何らかの原因で死亡した場合、死後にはクリアにならず、ミストになるのよ」
ずい、と身を乗り出しつつ霞のような体をした彼が息巻いた。
リン「成る程」
リンはささっとノートにペンを走らせて行く。マメなやつだ。
ミキ「ある怪しげなネット掲示板の噂だったんだけどねー。ソースもなかったしぃ。でもマジだったとは」
リン「死体は、…残るんだよな」
ミキ「そう。何故か生前の姿のまま、腐敗もなにもしないの」
リン「…科学的に、納得がいかないな」
女「それを言えばさ、リン。この病気だって科学じゃ説明つかないよ?」
リン「まあな。お前案外柔軟なんだな…」
ミキ「私は、この姿はユウレイみたいなもんなんじゃないかって思ってるけどね」
リン「生前の記憶、形を宿した思念体、…みたいなもんなんじゃないか?」
女「…」
リン「…いや、理解できないならいい。とにかく、これは幽霊ではなく病気の弊害ということがはっきりした」
女「あ、…。コマリの首にも潜伏感染のアザがあったもんね」
リン「ああ」

356 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)16:50:12 ID:8sv
ミキ「ま、とにかくこうなって5年ちょいね。でも消えるわけでもないし」
女「遊園地で会ったミストの子はね、お母さんのクリアを倒したら消えたの」
ミキ「えっ、マジ」
リン「ああ。母親の死と何か連動があったと考えてる」
ミキ「…そっかあ」
ふむふむとミキが頷く。
ミキ「…噂、なんだけど。クリアは物理攻撃で死ぬじゃない?」
リン「ああ」
ミキ「ミストは、“生前の未練”を叶えてあげると消えるらしいの」
女「まんま、幽霊だよね」
リン「ああ」
ミキ「うーん、ネット情報も馬鹿にできないわね」
女「ミキさんは、何か未練ってある?」
ミキの動きが一瞬止まる。何かを考えるように、数回瞬きをした。
ミキ「色々心当たりありすぎて、一概には言えないわ」
リン「そうか。クリアの死に連動するんなら、女を使えばいいと思ったんだがな」
女「…リン、ミキさんを成仏させる気だったんだ」
ミキ「おっそろしいわね」
リン「したくないのか?」
ミキ「…考えたことなかったわ。でも、このままじゃいけないとは思うけど」


357 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)16:56:17 ID:8sv
リン「…ミストに関して知っていることは、このくらいか」
ミキ「ええ」
リン「そうか」
リンがペンをかち、と一回ノックした。伏せていた睫毛を、上げる。
リン「一番肝心なことを聞きたい」
ミキ「…」
ミキの笑みが、消えた。
リン「ここに来た男のことだ」
ミキ「…」
リン「知ってること、全て話してくれ。俺には知る権利がある」
私は、とっくに冷めたティーカップを手のひらで包んだ。
空気が、変わった気がした。
ミキ「キノミヤ・リン」
ふいに、グロスで濡れた唇でミキが呟いた。
ミキ「そうでしょう」
リン「…何で、知っている」
ミキ「彼からあなたのことは大方聞いてる」
リン「やっぱり、…あいつだったんだな。話せ、今すぐ」
ミキ「無理よ」
リンの動きが、電源を落としたように止まった。

358 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)17:00:20 ID:8sv
女(…え、どういうこと?何でミキさんは、リンの苗字を)
それに、さっきから“彼”だの、“あいつ”だの。
リン「ふざけるな!!」
ミキ「ふざけてないわ。約束なんだもの」
何を話しているの?私を置いて。リン、あいつって誰?
リン「何の約束だ!あいつが俺に何も話すなって、言ったのか!」
ミキ「ええ」
リン「そんなはずないだろ!!」
リン、どうしてそんなに怒ってるの。
女「…」
震えるリンの腕に触れようとする。
リン「…っ」
まるで邪魔な羽虫を落とすように、払われた。
リンの目は、目の前のミキしか見ていなかった。
リン「話せ!!」
ミキ「駄目。あなたには彼のことを何も話せない」
リン「生きてたんだろ、ここに来たんだろ、なあ!」
リンがついに、スツールを蹴ってミキの首元へ手を伸ばした。
女「リ、リン!!」
リン「離せっ!」

359 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)17:06:02 ID:8sv
女「お、落ち着いてっ。どうしたのよっ」
リン「知ってるんだろ!聞いたんだろ!何で俺には教えられない!?」
ミキ「それが彼の望みだからよ」
リン「だから、…そんなわけ、」
ミキ「私も話さないほうがいいと思う。だから、言わない」
リン「…っ」
女「リン、やめて!!」
リンの固いお腹に腕を回し、必死に力を入れる。
荒い息をしていた。今まで見たリンの表情の中で、一番凶暴だった。
ミキ「落ち着きなさいよ」
リン「…くそ、っ」
ミキ「聞いたとおりの子だわ。大事なことの前では、すぐ理性を失う」
リンが、息を呑んだ。
やがて、彼の腕が力なく垂れた。
リン「…会いたいんだ」
私は、
リン「どうしても、会いたい。駄目なのか」
初めてリンの過去を思った。
ミキ「…話せない、わ」
私に一瞬だって触れさせなかった、彼の過去を。
頭の底が、冷たくなった。

360 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)17:11:48 ID:8sv
女「…」
ミキ「はぁ」
リンはミキの言葉に呆然としたあと、店を出て行った。
私がいくら声をかけても、振り返らなかった。
頑なに、私の侵入を拒んでいた。
女「…あ、の」
ミキ「やっぱねえ。知らなかったのね、あんた」
女「え」
ミキ「さっきから訳わかんなかったでしょ?彼とかあいつとか」
女「う、うん。全然分かんない」
ミキ「教えてないんだ、…ふうん」
女「…」
ミキ「ヤなかんじよねえ」
女「あ、…。誰にでも、話したくないことは、あるから」
ミキ「でも、あいつは全くの素性を伏せたままあんたを旅に連れまわしてんのよ」
ミキさんがリンのひっくり返したカップを、そっと手に取った。
ミキ「…自分の望みを果たすだけの旅、に」
女「…」
リンは言っていた。
生き残りを探す旅、だと。
私は勿論それを信じたし、疑う余地なんかなかった。
でも、実際はこうなのだ。
「リン」は、「彼」を探している。
嘘、と言えるような、言えないような微妙な違い。
私には言わなかった、彼だけの秘め事なのだ。

361 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)17:16:21 ID:8sv
女「…彼って、誰ですか」
ミキ「リンの知り合い。…それ以上はいえない」
女「…」
小さなしこりが胸にできたようだった。
何で?言えば良いじゃないか。こういう人を探してるんだって。
そうしたら私も協力した。でも、リンは一切の情報開示を拒んだ。
自分の目的を、自分の胸だけに秘めたのだ。
それって、さ。
女「…私に、言いにくいことなの、かな」
胸の中が凝り固まって、冷たいし、苦い。
ミキ「そうなんじゃない?」
女「…」
ミキ「あの子と会って、長いの?」
女「まだ、一週間くらいだけど」
短いからか。何年も旅をしていれば、彼は全てを語ってくれただろうか。
…そうは、思えなかった。どうしても。

362 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)17:24:50 ID:8sv
女「…」
ミキ「悶々としてる?」
女「かなり」
ミキ「嘘つかれてたんだもんねー」
嘘、というには少し遠い。
話してすらくれなかったんだから。
女「その、彼ってリンにとって大事な人なのかな」
ミキ「あの剣幕と執着具合からして、そうね」
女「…」
リンに対してのモヤモヤは、勿論ある。
けど、
女「ぜ、是非…。教えてもらいたいんですけど」
ミキ「えぇー?女ちゃんまで?」
女「お願いしますっ。だって、リンがどうしても会いたい人なんでしょう?だったら」
ミキ「やだー健気ー」
女「リンに話しづらいんだったら、私にでもいいんで!お願いします」
ミキ「…うーん」
ミキが腕を組んでうむむ、と考え込んだ。
ミキ「いや、まあさ、ダチっていったって一緒にいたの2ヶ月もないのよねえ」
ミキ「そんな奴の約束を律儀に守るってのも、うーん」
女「お願いします」
ミキがほう、と息をついた。
ミキ「…じゃあ、私の言うこと聞いてくれる?」
女「え」
ミキ「お願いがあるの」

363 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)17:50:14 ID:8sv
なあ、リン
この世界には俺ら以外いなくなったのかな
なあ、リン
俺にはさ、守るべきものがいっぱいあったんだよ
もう、何も無い
だから、リン
お前は後悔しないように生きてくれ
大事な物を、絶対に見失ったりしないでくれ
リン「…」
女「リン」
リン「ん」
女「そんなところにいたんだ」
リン「ああ」
リンは防波堤の上にぼんやりと腰掛けていた。遠く沈んでいく夕日のオレンジが、瞳に燃え移っている。
女「ミキさん、話してくれるかもしれないってさ」
リン「!」
たちまち、瞳の色が黒に戻る。
リン「本当か」
女「ただし、条件付らしいけど。…行く?」
リン「当たり前だ」

364 :名無しさん@おーぷん :2015/09/26(土)17:55:47 ID:8sv
ミキ「来たわね坊や」
リン「条件って何だ。早く話せ」
ミキ「まあまあ落ち着いて。女ちゃん、お使いありがと。二人とも座って」
私達はうながされるまま、ミキさんに向かい合って座る。
ミキ「色々考えたんだけど、結局私ってダメなのよねー」
ミキ「友人との約束より、私欲に走っちゃうの。ごめんね」
リン「好都合だ」
ミキ「…個人としては、リンに何も伝えないほうがいいとは思ってる」
リン「前置きは言い。早く」
ミキ「ええと、私には彼から貰った資料があって、その上彼の行き先を知っている」
リン「…」
ミキ「取引よ。彼の行き先と資料、全てあんたに引き渡す。その代り」
女「うん」
ミキ「…私に、歌わせてほしいの」
はあ、とリンが隣で鋭い声を出した。
リン「勝手に歌えよ」
ミキ「せっかち!色々事情があんのよ」

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