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神様にねがったら、幼馴染が二人に増えてしまった

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Part4
104 :名無しさん :2014/03/30(日)17:23:23 ID:cbHBi7BUb
『ハヅキ』のその言葉でようやく僕は理解できたんだよ。
 なにが起きているのか。
 テレビの音がやけにうるさく聞こえてさ。
 無意識にリモコンをとって電源を落としたんだ、僕は。
 けどそれは、八つ当たりにちかいものだったんだと思う。
 『ハヅキ』が、自分のおかれた状況が奇妙であると気づくのに、
 ソイツは一役買ったにちがいないから。
 まるで魔法がとけたような。
 どん底に叩き落とされたような気持ちになったね。
 でも、本当は僕だって気づいていたよ。
 こうなることはわかりきっていたんだ。

105 :名無しさん :2014/03/30(日)17:24:44 ID:cbHBi7BUb
 なんとか僕は『ハヅキ』を落ち着かせた。
 自分でも不思議なんだけどさ。
 今のハヅキのときとちがって。
 昔の『ハヅキ』と接するときは不思議と冷静でいられたんだよ。
 ハヅキの話をまとめると。
 昨晩、僕がアパートから出ると急に『ハヅキ』の意識ははっきりとしたらしい。
 どこかぼんやりしていた思考がクリアになった。
 それで今の状況を知ろうとして、テレビを見たらしい。
 かしこい『ハヅキ』のことだ。
 ワイドショーやなんらかの番組を見て、
 おかしな状況に陥ってると、すぐに理解したんだろうね。
 よくよく考えれば、この二日間のハヅキは僕にとって都合がよすぎる存在だった。
 ひょっとすると、それは『ねがい』のおまけのようなものだったのかもしれない。

106 :名無しさん :2014/03/30(日)17:26:48 ID:cbHBi7BUb
 『ハヅキ』が冷静さを失った理由は、それだけじゃない。
 親に電話したそうだ。
 無断外泊を二日間もしたから、『ハヅキ』はその事情を親に説明しようとした。
 でも、全然話がかみ合わなかった。
 いないはずの自分のことを、親が勝手に話し出したあたりで、
 『ハヅキ』は自分がおかれている状況の深刻さを完全に把握した。
 しかも『ハヅキ』の親は、僕のパーティーのことまで話したらしい。
 ハヅキに「なにか知ってるよね?」とすがるように詰め寄られる。
 だけど、どう答えたらいいのか見当もつかなかった。
 いや、やるべきことはわかっていたよ。
 僕の『ねがい』について話す。ただそれだけのこと。
 でも『ねがい』を口にすることの危険性を考えたら、ためらわずにはいられなかった。
 それに。そのことを説明したとき『ハヅキ』の顔に浮かぶものがなんなのか。
 それを考えると、僕は押し黙ることしかできなかった。

107 :名無しさん :2014/03/30(日)17:30:59 ID:cbHBi7BUb
 「少し待って」とだけ言ってベランダに出る。逃げるように。
 『ハヅキ』の顔を直視することなんて、できるわけがなかった。
 だけど三分もたたないうちに、僕は部屋に戻ってしまった。
 二日前は、寒さはそこまで気にならなかったのに、
 今はかじかんだ指先が痛くてしかたがない。
 部屋の中も凍りついたみたいに冷えきっていたから、中に戻った意味はまるでなかったけど。
 『ハヅキ』はなにも映っていないテレビをベッドを背もたれにして、
 ぼんやりと眺めていた。
 その横顔が、不意に誰かとかぶる。今のハヅキだ。
 気づいたときには、僕は『ハヅキ』の真正面に座っていた。
 『ハヅキ』の濡れた瞳をのぞきこむようにして、僕は話しだした。

108 :名無しさん :2014/03/30(日)17:36:31 ID:cbHBi7BUb
 一言目を発すると、堰を切ったように言葉があふれでた。
 僕の『ねがい』で『ハヅキ』が生まれてしまったこと。
 ハヅキを好きだから、こんなバカげたねがいをしてしまったこと。
 僕はなにもかもを吐き出した。
 『ハヅキ』はしばらくなにも言わなかった。
 僕は次の彼女の言葉を待つ。
「たしかめさせて。今日中には帰ってくる」
 「ここで待っていて」と言った『ハヅキ』の声は、感情が抜け落ちたように淡々としていた。
 『ハヅキ』がアパートを出て、帰ってくるまでの間、僕はなにも考えられなかったんだ。
 脳みその芯が麻痺したみたいになってさ。
 とりとめのない考えが、けむりみたいに頭の中を行ったり来たりするだけで。
 時間の感覚も消え失せてたね、完全に。
 全身の血が抜けたみたいに、からだに力が入らない。
 結局『ハヅキ』がアパートに戻ってくるまで、僕はずっと白い壁を見つめていた。


109 :名無しさん :2014/03/30(日)17:48:32 ID:cbHBi7BUb
 「ただいま」という声を聞いて、僕は意識を取り戻した。
 部屋の中は暗闇に沈んでいて『ハヅキ』の姿も、にじんだようにぼんやりしていた。
「自分の家に行って、たしかめてきた」
 それ以上『ハヅキ』は説明しなかった。
 というより、できなかったんだ。
 『ハヅキ』は膝からくずおれて、僕の腕を両手でつかんで泣いた。
 僕は『ハヅキ』がこんなにも泣くのを初めて見た。
 『ハヅキ』はずっとなにかを言っていた。
 嗚咽混じりのせいで、僕には聞き取れない。
 そして、僕もずっと「ごめん」と謝り続けることしかできなかった。
 いつのまにか自分も泣いていることに気づいた。

110 :名無しさん :2014/03/30(日)17:51:51 ID:cbHBi7BUb
「からだの水分に限界があってよかった」
 『ハヅキ』がはなをすすって言った。
 また僕は「ごめん」とかえす。
 部屋の中は真っ暗だったし、ハヅキの表情はやっぱりぼやけている。
「ていうか、なんでそっちが泣いてるの」
 『ハヅキ』の言うとおりだった。
 泣きたいのは彼女のほうなのに。
 しかも今の僕は、『ハヅキ』より年上なんだぞ。
「わたし……たくさん、ひどいこと、言ったけど……わかった?」
 『ハヅキ』の声に、わずかに嗚咽が混じる。
 僕は横に首をふった。

111 :名無しさん :2014/03/30(日)17:54:54 ID:cbHBi7BUb
「今、19歳になったんだっけ?」
 それから『ハヅキ』は僕にたくさん、質問してきた。
 それは悲しみをごまかすためだったのかな。
 もしくは、まったくべつの意図があったのかな。
 本当に僕はバカだよ。
 『ハヅキ』の気持ちを、少しも汲み取ることができないんだから。
「わたしってすごいね」
 会話のとちゅうで『ハヅキ』はそんなことを言った。
「だってわたし、未来に来たんだよ。みんなに自慢したいね」
「頭おかしいと思われるかもよ」
「そしたら未来に見てろって言う」
 また僕は首をひねってしまった。
 でも真っ暗だったから、『ハヅキ』は気づかなかったみたい。

112 :名無しさん :2014/03/30(日)18:07:15 ID:cbHBi7BUb
「あのときわたしに言った言葉どおり、頼りになる人になったのかと思ったけど」
「言った言葉?」
 ふと彼女が口にしたことが引っかかった。
「覚えてないの? わたしに宣言したこと」
 僕がハヅキに宣言したことなんて、それこそ数え切れないぐらいある。
 いったいどれのことだろ?
「いっぱい泣いていっぱい話したら、疲れちゃった」
『ハヅキ』が僕の右腕に体重をあずける。
「寝て、それで起きたら、わたしまた泣くかもしれないけど許してね」
「オレの胸で泣いていいよ」と少しどもりながら言うと、『ハヅキ』は小さく吹き出した。

114 :名無しさん :2014/03/30(日)18:27:20 ID:cbHBi7BUb
 次の日。
 僕も『ハヅキ』もお互いにほとんど眠れていないことは、わかっていた。
 ふたりとも寝不足だったせいかひどい顔をしてた。
「あっ……」
 『ハヅキ』がなにかに気づいたように声をあげたのは、
 僕が顔を洗って、洗面所から出てきたときだった。
「『ねがい』を口にしたよね?」
 『ハヅキ』の頬は完全に血の気が失せていた。
 『ねがい』を他人に話すと、よくないことが起きる。
 これに関して言えば『ハヅキ』に『ねがい』を話した時点で覚悟はしてたんだ。

115 :名無しさん :2014/03/30(日)18:41:18 ID:cbHBi7BUb
 『ハヅキ』は少し考えて、僕に外を出るのはひかえようと提案してきた。
 なにが起きるかわからない。
 だから、家の中でおとなしくしていようって。
 ほかにどうしようもなかったんだよ。
 家の中には満足な食料もなかったけど、ふたりとも食欲はなかったし。
 これからのことについてどうするか、という話も。
 『ハヅキ』が「は考えたくない」と拒否して、うやむやになった。
 暖房で生ぬるくなった部屋で、僕と『ハヅキ』は互いに寄りそってまた口を閉ざした。
 気づいたときには、僕は眠っていたんだ。
 いくら寝不足だからって、なんで僕は眠ってしまったんだろうと思う。
 夢から覚めたら、『ハヅキ』が部屋からいなくなっていた。

117 :名無しさん :2014/03/30(日)19:02:36 ID:cbHBi7BUb
 気づいたら部屋を飛び出してたよ。
 冷静さを完全に失ってた。
 ただなんとなく外出しただけかもしれない。
 気分転換に外の空気をすいに行っただけかもしれない。
 その可能性は十分考えられたし、実際に考えた。
 それでも得体の知れない不安が、墨汁のように胸の中に広がると僕はもうダメだった。
 ひたすらアテもなく走った。
 とちゅうで少しだけ冷静になって、『ハヅキ』に電話をかけようとした。
 でも、電話をかけても出る相手が今のハヅキであるのは、
 冷静さを失った僕でも判断がついた。
 どれぐらい走ったんだろう。
 酷使しすぎて足も肺も、悲鳴をあげててバス停で立ち止まったんだ。
 呼吸が多少ととのったあたりで、
 ふと30メートルぐらい先の交差点に、人だかりができてることに気づいた。

118 :名無しさん :2014/03/30(日)19:13:08 ID:cbHBi7BUb
 人の集まり。
 道路に中途半端にとまっている車。
 遠くから聞こえる救急車のサイレン。
 状況は断片的にしか頭に入ってこないのに、なにが起きているのかわかってしまう。
 僕は無意識に走っていた。
 人と人のすき間をうかがう。
 全てのものの色が抜けおいていく。
 なのに道路に横たわっている『ハヅキ』の姿だけは、色鮮やかに僕の目に焼きついた。

119 :名無しさん :2014/03/30(日)19:18:48 ID:cbHBi7BUb
 このとき僕は初めて、ある可能性を思いついた。
 いや、確信したと言っていい。
 『ねがい』を使ってから、それについて誰かに聞かせるとよくないことが起きる。
 僕はてっきりこのよくないことが、
 『ねがい』を使った本人に起きるんだと思っていた。
 でもちがったんだ。
 この『よくないこと』が起きる対象は、『ねがい』を使った人間じゃない。
 
 『ねがい』の対象なんだ。

120 :名無しさん :2014/03/30(日)19:19:00 ID:cbHBi7BUb
すまん休憩
たぶん終わるのは明日になると思う

121 :名無しさん :2014/03/30(日)19:22:24 ID:b6gEYnXKV
保守はまかせろー

122 :名無しさん :2014/03/30(日)19:28:58 ID:mDdFbevFi
なんだこの鬱展開は

123 :名無しさん :2014/03/30(日)19:38:30 ID:N4c7rKPms
応援する。嫌いじゃないぜこういうの

126 :名無しさん :2014/03/30(日)22:55:11 ID:eIfGnl3bK
続きが気になる
>>1まだか

127 :名無しさん :2014/03/31(月)00:39:14 ID:yy0fehQHp
ちょっと読み返したんだがよくわからないな
>そもそもこの『ねがい』って、ハヅキが僕を好きじゃなかったら成立しなかったわけだ。
>だから素直に嬉しかった。
ハヅキの気持ちの確証が持ててなかったのになんで冒頭で
>『オレを好きだったころの幼馴染を復活させてほしい』
って言えたんだろう。
まあつまらない突っ込みすんなと言われそうだが。


128 :名無しさん :2014/03/31(月)00:49:47 ID:8aiaiBdlU
>>127確証がなかったから願いが成立して主人公が驚いてたんでしょ
好きだったらいいなあって感じで願ったんじゃないの?

129 :名無しさん :2014/03/31(月)02:00:18 ID:AZSk7fChf
結末すごく気になる
支援

130 :名無しさん :2014/03/31(月)02:49:05 ID:hxhLJsF7z
『ハヅキ』の姿が目に飛びこんできたときには、僕は人だかりを押しのけていた。
 横たわる『ハヅキ』の肩をつかんで、彼女の名前を叫んだ。
 周りの人たちが「ゆらすな」とか「触るな」とか言っていたけど、
 そんな言葉を聞き入られるような状態じゃなかった。
 だけど、結果だけから見ると僕の行動は間違ってはいなかったんだ。
 『ハヅキ』は目を開けた。
 次の瞬間には、僕の視界はにじんじゃってさ。
 でも『ハヅキ』は僕とちがって冷静だったな。
 からだを起こそうとしたとき、一瞬だけ表情が変わったけど。
 駆けつけた救急隊の人や、周りの人たちに大丈夫だと『ハヅキ』は伝えて、
「腰がぬけちゃったから、おぶってくれる?」
 と僕の腕をつかんだ。

131 :名無しさん :2014/03/31(月)02:50:26 ID:hxhLJsF7z
 僕は『ハヅキ』をおぶって、その場をはなれた。
 何人かの人に引き止められたけど、「大丈夫ですから」と『ハヅキ』は何度も頭を下げた。
 『ハヅキ』をおぶって五分ぐらいしたところで、ベンチを見つけた。
 そこに『ハヅキ』をおろして僕はこうたずねた。
「どうして病院に連れてってもらわなかったんだよ」
 どうして病院に行くことを拒んだのか、僕にはわからなかった。
「あのまま病院に搬送されてたら、わたしのことバレてたよ」
「どういうことだよ」と僕は聞きかえしてしまう。
「病院で検査とか受けたら、お父さんやお母さんに来てもらわなきゃダメでしょ?」
 そこまで言われて、僕は初めて『ハヅキ』の意図がわかったんだよ。
 『ハヅキ』の言うとおりだった。
 病院に行けば、ハヅキの両親を呼び出すことになる。
 『ハヅキ』はそれを避けるために、あの行動に出たんだ。

132 :名無しさん :2014/03/31(月)02:51:32 ID:hxhLJsF7z
「だけど大丈夫か? あんなとこでたおれるって、なにがあったんだよ?」
 僕の質問に『ハヅキ』は「よくわからない」とかえす。
 『ハヅキ』の声は、普段のそれに比べると低かった。
 『ハヅキ』はアパートを自分でもよくわからないまま、出ていたらしい。
 そうして知らないうちに、道路を歩いていて、気づいたら意識を失っていた。
「でも、もう大丈夫だから」
 言葉とは裏腹に、『ハヅキ』の笑顔には力がなかった。
 基本的に鈍い僕だけど、
 このときだけは『ハヅキ』に異変が起きていることには気づけたんだよ。
「ちがうだろ。ほかにもなにかあるんでしょ?」
 『ハヅキ』が顔をうつむけて、自分の右足に手を置いた。
 それだけで、彼女になにが起きたのかわかってしまった。
「足がね、動かないの」
 足におかれた手は、真っ白になっていた。

133 :名無しさん :2014/03/31(月)02:52:51 ID:hxhLJsF7z
 予感は完全に確信になった、この瞬間に。
 本来、誰にも話してはいけない『ねがい』が。
 ほかの人間に伝わったことで『のろい』にかわってしまった。
 僕でも気づけたことだ。
 たぶん『ハヅキ』もすでに気づいてるだろう。
 『のろい』の対象が『ねがい』を使った人間じゃなく、
 『ねがい』の対象であるってことに。
 それでも『ハヅキ』は気丈だった。
「わたしをおんぶして、お城まで連れて行ってくださる?」って、わざとらしくおどけてみせた。
 それどころか、僕が口を開こうとするより前に、
「口じゃなくて、からだをうごかすの」
 と言って僕の「ごめん」って言葉をさえぎったんだ。

134 :名無しさん :2014/03/31(月)02:53:54 ID:hxhLJsF7z
 家に帰ったときには、僕はじんわりと背中に汗をかいていた。
 ベッドにおろすと、『ハヅキ』は僕にお礼を言った。
 本当なら、泣きたいほどつらい状況のはずなのに『ハヅキ』は、
 「たくましくなったね」って太陽でも見るみたいに目を細めてさ。
「なんでだよ」
 気づいたら勝手にそう言ってた。みっともなくふるえる声で。
 まともな声なんて出せるわけがなかった。
「なんでオレをせめないんだよ」
 自分に非があるときって、人間って責められたほうが気分が軽くなるんだよな。
 だから、僕はそう言ったんだ。
「自分でもすごい不思議だよ。
 本当なら、昨日みたいに怒り狂うところなんだって思う。
 それはわたしもわかってるよ、でもね。
 今はまだ魔法にかかってるから、それでこんな状況でも許せるんだと思う」

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