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男「少し不思議な話をしようか」女「いいよ」
Part5


117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:34:40.64 ID:K+b7Rviio
第五話
【他人の中に入った夢】

118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:35:18.12 ID:K+b7Rviio
女「今、思い出したけどさ」
男「?」
女「私、中学の時に不思議な夢を見た事があった」
男「夢?」
女「うん、夢。悪夢って訳じゃないけど、変な夢を見たの」
男「ふうん。夢ねえ」

119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:35:46.72 ID:K+b7Rviio
男「でも、夢ってさ」
男「大体、不思議なものじゃないか?」
男「場面がころころ変わったり、普段なら有り得ない事が起きたり、そういうのが普通にあるだろ?」
男「そんな珍しい事じゃないと思うんだけどな」
女「うん、そうかもしれないけど」
女「でも、私が昔見たあの夢はさ」
女「かなり特別な夢だったと思うの」
女「ちょっと、普通じゃない夢」
女「奇妙な夢だった」

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:36:29.70 ID:K+b7Rviio
男「奇妙?」
女「うん。私は、普段あまり夢を見ない方で」
女「夢も、そんなにリアルじゃないんだけど」
男「リアルってのは?」
女「ほら、夢って人によって色々じゃない」
女「白黒で、音もないって人もいればさ」
女「カラーで音もあって、匂いとか触った感触とかもあるって人、いるよね?」
男「ああ、そういう事な」
男「確かに、人によって、結構違うらしいな」
女「うん。で、私の見る夢は、そんなにリアルじゃない方なの」
女「カラーなんだけど、音はしなくて」
女「匂いとか感触とかもないのね」
女「音のない映画を観てる感じ?」
女「これで何となく、どんな感じか伝わるかな?」
男「ああ、伝わる。大丈夫だ」

121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:37:19.07 ID:K+b7Rviio
女「でもね、その時に見た夢だけは特別で」
女「音もあったし、感触もあったし、匂いもあったの」
女「夢じゃなくて、本当に現実に起きた事みたいだった」
男「ふうん」
女「場面もころころ変わらないし」
女「起きても、その夢の事はしっかり覚えてたし」
女「本当にさっきの事は夢だったの? って疑う感じの夢ね」
男「確かに、たまにあるけどな、そういうリアルな夢」

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:38:01.25 ID:K+b7Rviio
女「それで、その夢の中で私は」
女「他人の体の中に、意識だけが入っていたの」
男「意識?」
女「そう。その夢を見たのは、私が中学校三年生の時でさ」
女「卒業間近の時だった」
男「うん」

123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:38:29.28 ID:K+b7Rviio
女「その日は土曜日でね」
女「明日は学校ないし、だから、少し夜更かしして」
女「多分、寝たのは深夜の一時過ぎ頃だと思う」
男「ああ」
女「それでさ、朝に起きるじゃない?」
男「うん」
女「そしたらね」
女「私は、全然知らない部屋にいたの」
男「?」

124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:39:01.35 ID:K+b7Rviio
女「布団で寝てたはずなのに、ベッドに変わってるし」
女「部屋の家具も見た事ないものだし」
女「驚くでしょ?」
男「それはな」
女「しかもさ、体が勝手に動くんだよ」
女「私が起きようとした訳じゃないのに、起き上がるし」
女「それで、周りをきょろきょろ見渡すの」
女「すごい変な感じだった。操られてるみたいにさ」
男「…………」

125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:39:28.71 ID:K+b7Rviio
女「自分の意思じゃないのに、体が勝手に動きだすってね」
女「実際に体験してみたらわかるだろうけど」
女「あれ、メチャクチャ怖いよ。パニックになるよ」
女「自分の体が、誰かに乗っ取られてる!」
女「みたいに思っちゃうからさ」
女「ホントにあの時は怖かったし、気持ち悪かったなあ」
男「…………」

126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:40:11.30 ID:K+b7Rviio
女「それで、そうやってパニクってたらね」
女「なんか、頭の中に直接、女の子の声が聞こえるの」
男「声?」
女「『何、これ!? 誰!? 何なの!?』って」
女「そんな風にさ」
女「向こうも相当なパニックぶりで」
女「ムチャクチャ怖がってたのが、自然とわかった。まるで、自分の事みたいに」
女「でも、私もそんな声が聞こえてくるから、怖いじゃない?」
女「しばらく、向こうも私もパニック状態でさ」
女「二人とも、落ち着くまでに、メチャクチャ時間がかかったよ。大変だったんだから」
男「…………」

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:41:11.12 ID:K+b7Rviio
女「それで、とにかくお互いに、ある程度、落ち着いた後」
女「向こうとも、色々と話して」
女「自分の名前だとか、ここがどことか、そういう事をね」
女「その辺は、詳しく話すほどの事でもないから、はしょるけど」
女「それで、三十分ぐらい経った頃かな。ようやく状況が何となくわかってきたの」
男「どんな状況だったんだ?」
女「まず、そこは私の知り合いの家だったんだ」
女「名前はアケミっていって」
女「私と同じクラスの子ね。私とは仲が良くも悪くもなかった。単なるクラスメイトかな」
女「それで、その子の体の中に、私の意識が入っちゃったみたいなのね」
男「?」

128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:41:50.33 ID:K+b7Rviio
男「意識が入るっていうのは?」
女「簡単に言うと」
女「アケミの体の中に、私もいる感じ」
女「二人で一人の体を共有してるって言えばわかる?」
女「ただし、体を動かせるのはアケミだけで」
女「体もアケミのもの。これは鏡を見てもらったから確かだね」
女「鏡を見たら、他人の顔が写ってる姿って、ちょっと衝撃だよ」
女「一種のホラーみたいだった。あれも不気味だったなあ」
男「…………」

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:42:34.95 ID:K+b7Rviio
女「だから、体がアケミのものなのは間違いなくて」
女「その中に、私の心だけが入っちゃったみたいな感じ?」
女「お互いに考えてる事はわかるし」
女「脳の中で会話も出来るのね。テレパシーみたいに」
男「ふうん」
女「感覚も二人で共有してて」
女「アケミの見た物は私にも見えるし」
女「匂いだとか、触った感触とか、他の事も全部そう。わかるの」
女「ただ、私がどうしても出来ないのは、アケミの体を動かす事だけで」
女「それ以外は自分の体とまったく同じ」
女「これで大体の事はわかってくれた?」
男「ああ、一応な」

130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:43:36.87 ID:K+b7Rviio
男「そういえば、前にそういう話を聞いた事があるぞ」
女「そういう話って?」
男「幽霊が乗り移ったってやつだ。とり憑いたと言ってもいい」
男「怖い話で聞いた覚えがある」
女「それ、どんな話なの?」
男「ああ。ある日、親友が事故で亡くなるんだけど」
男「しばらくしたら、自分の頭の中にその亡くなった親友の声が聞こえてくるんだ」
女「幽霊なんだね」
男「ああ。それで最初は、亡くなった後もこうして話が出来る、って喜んでたんだけど」
男「段々とさ」
女「段々と?」
男「体の支配権が幽霊の方に移っていくんだ。夜に寝てたら勝手に体を動かされたりとかさ」
男「最初はそれが寝ている時だけだったのに、起きてる時でも頻繁にそういう事が起こる様になって」
男「そして、最終的には、自分の体を全部乗っ取られてしまうって話」
女「…………」
男「この話も、そういうオチじゃないのか?」
女「ううん」
女「そうじゃないんだ。全然違うよ」
男「?」

131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:44:36.45 ID:K+b7Rviio
女「そもそも、これは夢の中の話だしさ」
女「それに、私はこうして生きてるし」
女「それに、最後までアケミの体を動かす事は出来なかったんだから」
女「アケミの体を乗っ取ったとか、そういうオチじゃないんだよね」
男「じゃあ、どんなオチなんだ? 最終的にはどうなるんだよ?」
女「順番に話すから、聞いて」
女「まず、私の事から話すけど」
女「私は意識がアケミの中に入ってるってわかったから」
女「どうにかして、自分の体に意識を戻したいって思うよね?」
女「そう思うのが当然でしょ」
男「まあな」

132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:45:23.40 ID:K+b7Rviio
女「だからさ」
女「私は真剣に、どうしてこんな風になったのかっていう原因とか」
女「どうやったら元に戻れるのかとか、そんな事を色々と考えてたんだけど」
男「ああ」
女「でもね」
女「アケミはその時、まったく違う事を考えてたの」
男「?」

133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:46:09.70 ID:K+b7Rviio
女「アケミはさ」
女「自分の頭が変になったんじゃないかって、そう考えてた」
男「…………」
女「変って言うか、狂ってしまったんじゃないかって」
女「何か精神的な病気になったんじゃないかって」
女「脳の中で、知り合いの声が聞こえるなんておかしい。病院に行かなきゃ駄目なの、って」
女「そんな風に、考えてたのね」
男「ああ……なるほどね」

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:47:04.31 ID:K+b7Rviio
女「そりゃ、そうだよね」
女「朝起きたら頭の中で変な声が聞こえる、ってなったらさ」
女「テレパシーだとか、誰かの意識が自分の中に入ったとか、普通は考えないよね」
男「……まあな」
女「普通は、幻聴だとか」
女「頭がおかしくなったんじゃないかって、そう思うよね?」
男「……だろうな」
女「アケミもそうだった」
女「狂ってしまったんじゃないかって、そんな心配をして、ものすごく不安になってた」
男「…………」

135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:47:54.88 ID:K+b7Rviio
女「私の場合だと」
女「鏡に写ってる姿が、自分の体じゃなかったし」
女「自分の意思で、体を動かす事も出来なかったから」
女「だから、意識だけがアケミの体の中に入ったんだって、すんなりそう信じられたんだけど」
女「でも、アケミの場合はそうはいかないよね」
女「自分の体なんだからさ」
女「しかも、原因もわからないし、心当たりもまったくないんだから」
女「私の意識だけが中に入ったって、そう脳内で言われてもさ」
女「それを信じる方が無理があるよね。小説や漫画じゃないんだし」
男「まあな」

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:48:37.17 ID:K+b7Rviio
女「でも、それを信じてもらわないとさ」
女「私はずっと、アケミの脳が生み出した妄想の産物、って感じに決め付けられちゃうでしょ?」
男「そうなるな」
女「そんな風に思われちゃうと」
女「私が困るじゃない」
女「私だって、元の体に戻りたいんだし」
女「それに、自分の体の事も気になるからさ」
男「だろうな」

137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:49:56.37 ID:K+b7Rviio
女「今、私の意識がアケミの中に入ってるって事は」
女「私の体は今、空っぽって事でしょ?」
女「それで、意識不明で救急車を呼ばれたりとかされたら、困るし」
女「それに、元に戻る方法を一緒に考えてもらいたかったしさ」
男「そうだな。自分で体を動かせないんだし、尚更そう思うよな」
女「うん。だから、私は幻聴とかじゃないってアケミに必死で伝えたんだけど」
女「でも、アケミはそれをなかなか信じてくれなかったんだ」
男「ああ」
女「だからね、私はこう言ったの」
男「?」

138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:50:47.36 ID:K+b7Rviio
男「何て言ったんだ?」
女「そんな難しい事じゃないよ」
女「『アケミって、私の家の住所を知らないよね? それを私が教えたら信じてくれる?』って」
女「そう言っただけ」
男「ああ、なるほど」
男「その住所に行って、そこが確かにお前の家なら、幻聴とかじゃないって信じてもらえるよな」
男「幻聴とかだと、そんな事は有り得ないんだし」
女「うん。でしょ」
女「それに、私も自分の家に戻れば、私の体がどうなってるかを確認出来るから」
女「これは、自分でも名案だと思ったんだけどね」
男「だけど?」

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/07/27(水) 19:51:37.62 ID:K+b7Rviio
男「アケミはお前の家に行ってくれなかったのか?」
女「ううん。最初は悩んでたけど、一生懸命に説得したらわかってくれて」
女「私の家まで行く事になったの」
男「…………」
女「それで、私が道案内をして」
女「アケミに、私の家まで行ってもらったのね」
男「ああ」
女「それで、実際に着いてインターホンを押したらさ」
男「押したら?」