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百物語2015

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Part8
149 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:19:28.99 ID:AgCPeYID0
【40話】儚 ◆Um9yHBDNIMLw 様
『無題』
小6の時に私が体験した話です
当時通ってた小学校にはいくつか怪談がありました
いわゆる学校の七不思議というやつです
休み時間中に仲のいい友達3人とその話で盛り上がり放課後確認することになりました
私たちは1つずつ確認していくも
6つ目まで何も起こらず
?やっぱ七不思議なんて全部ウソだよね〜?なんて言いながら最後の7つ目を実行すべく体育館に向かいました
7つ目の七不思議は
一人で体育館の真ん中にボールを置いて?一緒に遊ぼう?と3回言いボールに背を向ける
霊が来るとボールが勝手に動き出すというものでした
これは一人でやらなければならないためじゃんけんで負けたアヤちゃん(仮名)が実行役になりました
その間私たち3人は舞台横の用具室に隠れることに
ドアの隙間から覗いてましたがやはり何も起こらず
がっかりしていると一緒に覗いてたはずのカナちゃんがいません
名前を呼ぶと?みんなこっち来てー!?と舞台の方から声がするので行くと
?放送室空いてる!?と興奮気味
放送室は舞台横の階段の上にあります
普段は先生や放送委員の人しか入れない上いつもは鍵がしまっている場所
中に入ると当然普通の放送室ですが脇にある窓から体育館が見下ろせるのでいつもと違う気分が味わえました
秘密基地みたいだねなんて話してたらアヤちゃんが?ボールなくなってる?と…
確かに窓からさっき使ったボールは見当たらず

150 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:20:32.80 ID:AgCPeYID0
?アヤちゃんが片付けたんじゃないの??
?私触ってない。そのままにしてこっち来た?
?見回りの先生もう来ちゃったんじゃない!??
?見つからないうちに逃げよう?
私が先にドアに近づくと向こうからコツコツコツコツと足音が
私は人差し指を立て?静かに?の合図をして小声で?先生こっち来てる?と伝えました
カナちゃんが?鍵、鍵しめて見つかったらヤバい?と言うので私はなるべく音が出ないようそっと鍵を締めました
鍵が閉まってればわざわざそこを開けたりはしないはずです
私たちは息を殺してドアを見ながらじっとしてました
すると突然ガンガンガンガンガン!!とものすごい勢いでドアが叩かれました
とても一人でやってるとは思えない勢いでガンガンガンガンガン!!ガンガンガンガンガン!!
?アケテーアケテーアケテー?
ノックの音に混じって歪んだような女の声
こんな声の先生は知りません
瞬時に得体の知れないナニカだと思いました
他の3人もこれは先生ではないと気付き真っ青になりました
ヤバいきっと七不思議なんか試したりしたから変なのを呼んでしまったんだ
どうしようどうしようとみんなパニックっておろおろするしか出来ない
私はランドセルに付けてたお守りを握りひたすら?神様お願いします守って下さいお願いします?と心の中で唱えました
しばらくすると音は止み去ったかと思ったら今度はペシャペシャと湿り気のある気味の悪い音
ドアの向こうで何をしてるのか
ぞっとしました
窓の一番近くにいたリサちゃんが?先生来た!先生来た!?と言うので見たらちゃんと知ってる先生がそこに!
私たちはもう怒られるとかそんなのはどうでもよくなって必死に窓を叩いて?先生!先生!?と呼びました
それに気づいて舞台の方に駆けていく先生を見てホッとしました
いつの間にかペシャという音はなかなっていて階段を登ってくる音

151 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:22:00.21 ID:AgCPeYID0
?どうしたの?何かあったの??
私たちはドアを開けて正直に今起こっていたことを話しました
先生は?誰かのイタズラじゃないの??と言って舞台の周りなどを見て回るも誰も見当たりませんでした
先生もこちらに向かうさいに誰かとすれ違うこともなかったとのこと
怖がってる私たちを可哀相に思ったのかこの事は担任には言わないでおいてくれました
それから半年ほどして私たちは卒業式を向かえました
式の後あの先生にも挨拶に行くと
?あの時あなたたち怯えてたから言わなかったけどあそこ出るみたいなのよ。
ほら去年までいた保健のサトウ先生(仮名)覚えてる?サトウ先生霊感強かったみたいでね体育館は“アレ”がいるからなるべく近づきたくないてよく言ってたのよ。
アレって何?て聞いても教えてくれなかったから先生もよく分からないんだけどね。
もしかしてあなたたちが遭遇したのはサトウ先生が感じてたアレなのかもしれないわね。ごめんなさいね今更怖がらせちゃったかな。でもアレはあそこから動けないから憑いたりはしないそうよ。だから安心して?
今も体育館にアレはいるのか
確かめようがないし確かめたくありませんが母校の前を通ると思い出します


153 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:25:51.80 ID:AgCPeYID0
【41話】チッチママ ◆pLru64DMbo 様
『道向いの家の影』
私の家系は昔から猫が好きで自然と猫がいます
現在も縁で猫が4匹いるのです
昔から我が家に何かあると猫が消えたり亡くなります
私の身内は「身代わりになってくれたんだね」と土地に埋めて拝みます
我が家の猫は完全な室内飼育です(事故とか嫌なので)
家の窓から外を見張るのが大好きです
車が窓外に通ると「ナーナー」ときたよきたよと教えてくれます
飽きもせずジーッと何時間でも見ているのですが、この前のお盆から
どうも様子がちょっと違います
決まっているのが夜7時過ぎからの時間で道向いの家の小さな小窓を見ています
気づいたのは小さく唸り声をあげている時があるからです
実は霊感のない私は向いの、その小窓を見るのが嫌です
近所づきあいしないので、だいたいの家族構成しか知りません
夜はカーテンを閉めて向いを見えないようにしていますが
猫がヒョイっと自分の顔をつっこむスペースを開けて観察しています
私には何も見えないし、なんとなく黒いカーテンがたまに人影に見えるのが
嫌なだけなんですけど、この前ここの息子さんが言うんですよ
「寝ようとすると、女がずっとこっちみてる感じがして気持ち悪い」って
似たヤンチャな友達に笑われてました
今日もずーっとカーテンは閉まったままです
(終)

155 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:29:44.89 ID:ujnfAOrg0
『感性の違い』
「あのさ、ただであげるからこのチケット、要らないか」
 映画マニアである父の友人は気さくな口調でそう笑い、俺の手にとある名画座のチケットを握らせた。
「え、いいんですか。何の映画?」
「ああ、アンドレイ・タルコフスキーってソ連の監督が昔撮った作品。君は若いからちょっと退屈するかもなあ。だけど、それでもまあ話の種にはなる思うよ」
 翌日そのチケットを胸ポケットに忍ばせて、俺は早速夕暮れの街に踏み出した。
 街外れにその名画座はある。それまでも何度か訪れた場所だがこの映画館、採算性に牙を剥いているとしか思えぬ様な、趣味的で超マニアック作品しか扱っているのを
見た事のない、小ぢんまりとしたシアターだった。
 ライブハウスを改装したとされるこのシアターは一般的な映画館のスクリーン設置位置と比しても遥かに低いそれに加え、リノリウム貼りの上に据えられたシート数はほんの
百席弱。フロアそのものが平坦であるため、通常でも鑑賞の際は観辛い事この上無い。
 そんな場内に足を踏み入れると、上映5分前だと言うのに来館者はたったの俺一人。「まあこんなのも貸し切りみたいで、いいか」
 4列目の真ん中辺りに腰を下ろし、あまり期待もせずに俺は開演のベルを待ったものである。
「やばい。貴重な時間を無駄にしたか」
 始まってから俺がそう後悔するまでに、さほどの時間は要しなかった。肝心の題名は失念したもののこの映画、開演以降ろくな台詞も無いままに、河やら雲やら農村やらの
情景が延々と流れ続けている、いわゆる『アート系環境映画』的な代物だったのだ。
 玄人にはおそらく高評価な作品なのであろうが、バカでも判るスペクタクル超大作を好む俺にとって、この展開は苦痛以外の何物でも無い。
「ひょっとしてこれが最後まで続くのかなあ。涙目のせいか、スクリーンが霞んできたよ」
 欠伸を繰り返す俺の瞳の中で、銀盤の風景がじわりと滲んでいる。
 いや、しかし…その滲み方が何か変?


156 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:30:46.27 ID:ujnfAOrg0
 誰も座っていない最前列中央、ちょうど俺の視線の先が真っ正面に捉える席上だけが、丁度肩から上の人型に歪んでいるのだ。それ以外のスクリーンは鮮明に見えている。
 ほら、『光学迷彩』ってのを想像して欲しいんだけど、あたかもそれを纏った人間が前々々のシートにこちらに背を向け座っている様な不思議な構図。その半透明のシルエットが
動くと同時にその空間範囲だけ、映写されている光景が部分的にぐにゃりと歪む。
 その正体が何なのかはひとまず置き、普通であればスクリーンがもう少しはよく見える座席までの移動を試みれば良さそうなものであるが、上映作品も肩透かしな上に猛烈な
眠気に襲われた俺には、もうそれすら努力する意欲が既に残ってはいなかった。
 程なくして俺は睡魔に負け、深い眠りへ真っ逆さまに落ちていったものである。
「パチ、パチ、パチ…」
 神社を参拝する際の柏手にも似たその響きで、俺は目を覚ました。
「んん、やっと終わったか。しかしこんな映画でもブラボーするのがいるんだな。俺が寝てる間に他の客でも来館したか」
 館内照明が再点灯し始めた薄明かりの中、眠気の残る目を擦りながらフロア内をぐるりと見渡す俺。しかし劇場の中には入館時までと同様、俺以外の客は見当たらなかった。
「パチ、パチ、パチパチパチ…」
 若干速度を速めながらも続いているその拍手は、どうやら例の最前列中央の席から確かに聞こえているらしい。
『何だかなあ。さすが目に見えない誰かさんの芸術的感性ってのは、生きた人間のしかも凡夫たる俺なんかとはどうやら一線を画すみたいだわ…』
 かび臭いロビーを抜けて、今やとっぷりと日も暮れた街を吹く木枯らしに再び身を晒した俺は、肩を窄めながらも前方の空車タクシーに向かって右手を振ったものだった。
 蛇足ではあるが、当然の如くこの名画座は潰れてしまって今は無い。
【了】

158 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:31:46.60 ID:AgCPeYID0
【43話】まんじゅう ◆PP2Ugyol5s 様
『ついてくる』
同僚の父、Kさんは山歩きが趣味で、よく休日を利用し関東近郊の山へ赴いていたそうです。
数年前ひょんな事からカメラに凝り始めたKさんは、山歩きのついでに四季折々の自然をカメラに納めるようになりました。
そんなある日の事。いつもの様にトレッキングを楽しんでいたKさんは、山道から少し外れた場所に咲いた一輪の野花にカメラを構えました。
何枚か撮影してみたものの、なかなか思うようなアングルで写真が撮れません。
焦れったくなったKさんは、思わず身を乗り出し、その拍子に足を滑らせ数メートル下の斜面に滑落してしまいました。
幸い怪我もなくカメラも無事です。
「しまったなぁ。しかし夏も終わりとはいえまだまだ暑いし、この山は気軽なトレッキングが楽しめる初心者向けの山。遭難した話も聞かないし、まぁ大丈夫だろう」
そう楽観的に考えたKさんは一旦休憩し、山道に戻ろうとめぼしい場所に向けて道なき道を進みました。
しかし、何の手入れもされていない山の中を進むのは難しいものです。ましてやKさんは山歩きが趣味とはいえ、藪漕ぎの経験などありません。
ようやく山道らしきものに行き着いた頃には、日は暮れかかり辺りには夜の気配が漂い始めていました。
Kさんは心細く不安になる気持ちを何とか奮い立たせ、リュックの中に入れていた携帯用ライトで先を照らしてみました。
山道は随分荒れており、長い間人が通った形跡は見当たりません。野草が繁茂し、大きな石が転がる道を見失わないようにKさんは必死で歩きました。
どれくらい歩いたでしょう。
同じ様な風景が続く山の中、ふとKさんは自分の後方に何かがいる事に気づきました。
草を踏みしだく音、時折石にあたる爪の「チャッ」という音。微かに聞こえる息遣い。
狸か狐か。それとも何か他の野生動物でしょうか。ここいらに熊が出る話は聞きませんが、Kさんはライトを向けて確認してみました。
薄ぼんやりした明かりに照らされた後ろには、見た感じ生き物はおらず、荒れた山道しか見当たりません。
隠れたか逃げたか、まぁ良い先を急がなければ。Kさんは明かりを前に戻し歩き続けました。

159 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:32:45.18 ID:AgCPeYID0
一向に麓に近づく雰囲気がなく、暗い山道を足を取られながら進むうち、Kさんの中で少しづつ焦りと恐怖が膨らんできます。
後ろに先程と同じ気配をまた感じましたが、好奇心旺盛な狐か何かが自分を窺っているのだろう、
そう思ったKさんは相手にしませんでした。
「疲れた…」滴る汗を拭い、水分を補給しようと立ち止まったKさんですが、ふいに嫌な事に気付きました。
後方の気配は未だ変わらず、「ザサッ、チャッ…チッ」という足音に「…ハッ、ハッ…フーっ」という吐息。明確にKさんの後をつけてきている意思を感じます。
更に、最初に感じたよりも、かなり大きい。
足音の重さや雰囲気で、姿を確認せずとも人は大体の大きさを察することが出来ます。
少なくとも大型犬くらいはある、そう感じたKさんは追いつかれる事に恐怖を感じ、歩みを早めました。
「チッ、チャッ…ハッ、ハッ…」
これだけの大きさのある野生動物。Kさんはこの音の主に当てはまりそうな動物を片っ端から考えましたが思い当たりません。恐怖で散漫になる思考に、じわりと嫌な、嫌なイメージがKさんの脳裏に浮かびました。
「ガサッ、チャッ…チャッ」
石にあたる爪は、マニキュアの剥げたボロボロの女の爪。
「…フーッ、ハッハッハッ…」
ざんばら髪の合間から覗く、裂けたような大きな口から漏れる荒い吐息。
そんな訳ない!そんな訳ない!
自分はアイツを見ていないのだから、これは疲労と恐怖が見せる何かだ!!
そう必死に自分に言い聞かせるKさんですが、何故か後ろにいるのはアレに違いないと確信していました。
まるで自分の頭の後ろに目の様な器官があって、後ろの映像をKさんの脳内に流し込んでいる。そんな感覚でした。

160 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:33:36.13 ID:AgCPeYID0
ボロボロの爪の赤いマニキュア。泥だらけの汚い長い髪。四つん這いの体もどこかおかしく、ギクシャクと部分がどこか欠損しているよう。
違う!違う!
恐怖のあまり走り出したKさんですが歩き詰めの体は限界で、のろのろと歩く速度でしか進めません。太ももや脹ら脛がビキビキと痙攣しているのが分かりました。
「…、…◯◯ぁ◯ー…」
ゆっくりとですが確実に後ろの気配はKさんに近づき、吐息に混じって何事か呟きが聞こえてきます。
痛いほど乾いた喉から嗚咽が漏れ、視界が滲んでいるのに、Kさんは自分が泣いているのに気づきました。
走って逃げ出したいのに、今にも止まってしまいそうな身体。
もう無理かもしれない。後ろを振り返って終わりにしてしまいたい。
Kさんがそんな事を思った時、鬱蒼とした木々の先にぼんやりとした明かりと人の気配がしました。
「おーい!…おーい!誰かっ」
弱々しい嗄れた声でしたが、Kさんの助けを呼ぶ声は幸いにも聞き届けられました。
Kさんに気づいた1人がライト片手に、木々の合間を縫ってこちらに向かって来てくれます。
どうやら壮年の男性のようでした。

161 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 00:34:44.19 ID:AgCPeYID0
「どうしましたー?」
大丈夫ですか?そう言おうとしたであろう相手はライトに照らされたKさんを見て絶句しました。
相手の恐怖に固まった顔と視線から、「あぁ、後ろのアレを見たなこの人…」そう思ったのを最後にKさんは気を失ってしまいました。
Kさんが意識を取り戻した時、既に時刻は明け方でした。
痛む体を引きずって寝かされていたテントから出ると、そこは見知ったキャンプ場で、どうやらKさんはここの裏手に辿り着き、倒れたところを介抱されていたようです。
心配していた周りの人が車で病院まで送ってくれる事になり、ほっとしたKさんですが、皆の中に1人だけKさんと視線を合わさず遠巻きにしている人がいます。
昨夜、Kさんを発見してくれた、あの男性でした。
爽やかな早朝の光の中では、あの夜の事が嘘の様に感じられ、Kさんは一言お礼を言おうと、その男性に近づきました。
口を開きかけたKさんは、しかしその男性に遮られ、
「あのね。あなたもう山に入らないほうが良いと思うよ。私ももう行くことはないと思う」
そう一方的に告げられたそうです。
〈完〉

163 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 00:40:36.06 ID:slHZZ5U50
【帰る】
俺のじいちゃんは漁師だった。
10歳の時から船に乗り、家族の反対を押し切って80歳まで現役を続けた生粋の海の男だ。
これはそんなじいちゃんから聞いた話だ。
夜に沖へ船を出していると、奇妙な事象に出くわすのはそう珍しくもない事なのだそうだ。
霊と思しきものや人魂のようなものばかりではなく、もっと謎めいたものも多く見たという。
それらは恐らく神や妖怪に分類されるものと思われるが、そういったものについてじいちゃんは多くを語らなかった。
一度その理由を尋ねたら、「人が触れちゃなんねぇ領域ってもんがあるんだ」と言っていた。
ちなみに、じいちゃん基準で人が触れてもいい領域の端っこにあたるのが幽霊だったらしく、海で見た霊のことはたまに話してくれた。
じいちゃん曰く、霊というものは光を求めるものなのだそうだ。
霊といえば夜に出るという概念があるから闇の方が好きそうに思えるが、霊にとって光は生者の世界の象徴であり、そちらに戻りたいという思いが彼らを光に惹き付けるのだろう。
特に、海で死んだ者は真っ暗な海に取り残されている事がつらくて仕方ない。
そんなわけで、じいちゃんのイカ釣り漁船にはそういった霊が時折寄ってきたらしい。
いつの間にか甲板に乗ってきていたり、引き揚げてくれとばかりに海の中から手を伸ばしてくる者もあったそうだ。
といっても、じいちゃんはそこまで霊感が強い訳ではない。
顔かたちまではっきり見えるようなことはほとんどなく、霊の声も聞こえないから話もできない。
半端に相手をすると厄介な事になるので、基本的にじいちゃんは霊に対して無関心を貫いていた。
海中から助けを求める霊は気の毒だが無視し、船に乗ってきた霊にも気付かないふりをした。
そうする事がお互いのためなのだそうだ。

164 :猫虫 ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 00:43:42.82 ID:slHZZ5U50
ある時、じいちゃんの仲間が海で事故に遭った。
同じ船に乗っていた者がすぐに引き揚げて病院へ運んだのだが、残念ながら助からなかった。
頼れる兄貴分だったその漁師の死を悼み、多くの仲間達が彼の葬儀に集まった。
悲しみを抱えながらも、漁師達は翌朝からまた海へと出ていった。
葬儀から半年ほど経った頃。
沖に停めた船の中でじいちゃんがあぐらをかいて作業をしていると、突然猛烈な眠気が訪れた。
寝ちゃいかんと思いながらも、瞼が重くて仕方ない。
必死で睡魔と戦っていると、背後に誰かが立っている気配がした。
眠くて振り返れないじいちゃんの頭の上から、テツ、とじいちゃんのあだ名を呼ぶ聞き覚えのある声が降ってきた。
「テツ、悪いがちょっと陸まで乗っけてくれな。俺、足がなくて戻れんから」
夢うつつのじいちゃんは、声の主である漁師が亡くなった事を忘れていた。
「ああ、兄貴か…どうした?」
じいちゃんの問いに背後の人物は答えず、「悪いな、頼むよ」と返した。
ああ、分かった…と呟いた時、じいちゃんは唐突に覚醒した。
辺りを見回すが、気配はすっかり掻き消えている。
それでもじいちゃんは兄貴の霊がこの船に乗っていると確信し、同じ船に乗っている仲間達に今見た夢を話した。
その場所が偶然にも兄貴の落ちた海域だった事もあり、仲間達はじいちゃんの話に納得すると、すぐに漁を打ち切って港へと戻ったのだそうだ。
じいちゃんが『無関心』の鉄則を破ったのは、それが最初で最後だった。
じいちゃんによれば、人は命を落とした場所に魂まで落っことしてきてしまう事があるらしい。
そうなると、体は埋葬されても魂はそこから帰れず、誰かに連れ帰ってもらう必要があるのだろう。
「幽霊に足がないってのは上手いこと言ったもんだな。足(交通手段)がなきゃ、生きてるもんでも遠くからは帰れんもんなぁ。タクシーやらバスやらに出る幽霊ってのも案外そんな理由なのかもしれんね。俺の船は幽霊のタクシー代わりだったわけだ」
そう言って笑った後、じいちゃんは海の方を向いて深いため息をついた。
「死ぬ瞬間まで俺は海の上にいたい」と言ってなかなか漁師をやめずに家族を困らせたじいちゃんは、海に魂を落っことした彼らの事を少し羨んでいるようにも見えた。
【了】

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