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百物語2015

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Part10
189 :猫虫(代理投稿) ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 01:27:26.50 ID:slHZZ5U50
【51話】チッチママ ◆pLru64DMbo 様
『防空壕』
田舎で昔の話だから、わりと怖い話は多かったんですけど
これは私が直接見たのではないです
小学校の近くに踏み切りがあるんです
そこを超えると小高い山があって昔の防空壕があったそうです
話は聞いてましたが地元の誰もが近づくなというので私は行きませんでした
同級生の男の子たちが肝試しにそこに行くというのを聞いて誘われたけど断りました
やんちゃ坊主の4〜5人のうちA君がリーダーな感じで、そこに行ったそうです
次の日に女子たちに彼らが興奮した様子で教えてくれました
「最初はおもしろ半分でさ」「古い神社の奥に穴があったよ」「墓みたいだっけど人の手で掘られてた」
「入ろうってAが言ったけど俺たちは気持ち悪いって言ったらあいつ入ってった」
「でAが笑って、弱虫って出てきた時に俺らみたんだよ」「ああ見た」
そこで一旦何かに怯えるように話は止まりました
「なんか緑の人影がさ…ゆらゆらついてきてた」「目だけリアルにギョロギョロしてて」
「あ、やべーってAに言ったらさ怒るんだよ、脅すなとか」「でもいたよな」「ああ」
「だからAに後ろ振り向けって言ったんだ」「Aが振り返る直前に目玉が上からAを睨んでスッで全部消えた」
「だからAは見てない、見てないから俺らにめっちゃ怒ってきたけど」「もう無理だって俺たち帰ってきた」
何それ?と女子たちや他の子がざわついてる時に当人のAが教室に入ってくるなり一緒に行った仲間を見て
「やい!!弱虫野郎ども!!どうせ昨日のオバケみたみたいに話してんだろ」と彼らと言い争いになりました
それが朝のホームルーム前の時間で、そのうち時間がきて担任の先生が来ました

190 :猫虫(代理投稿) ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 01:34:09.25 ID:slHZZ5U50
先生は男の先生でした
田舎では寺の息子が先生になる率が高くて、その先生もその一人でした
先生は最初は「何を騒いでるんだ」と言ってましたが、Aの顔をみるなり初めてみるような険しい顔でいきなり
「おい!!Aお前なにしたんだ!!何あったんだ!!」と怒鳴り始めました
私たちは先生の剣幕と突然の出来事に固まっていた、その時に
突然大きな「プォーン!!」というサイレンのような音とキキキーッという大きな物が止まる音がしました
皆が窓際に走っていくと、近くの踏切で電車が止まっているのが見えました
そんな光景は初めてで、他のクラスの子達も「わー」とか「すげぇー」と窓際に集まってパニック状態でした
先生たちも茫然としていたり、われに返って席に付けと怒っていたり、わりと長い時間に感じまし
私の担任はともかく座れと私たちを席に座らせ「ちょっと他の先生を呼んでくるまで、皆はここで待ってなさい」
と、なぜか不思議そうなAだけ連れて教室を出ようとした時に、教頭先生が私の教室に走ってきました
「Aは!〇山A君はいますか!はやくきなさい!」
と担任とAとで教室を出て行き、そして二人ともにその日は帰ってきませんでした
子供心に何かあったんだなと不安で嫌な気持ちになったのを覚えています
次の日の朝に母が新聞を見ながら「〇山A君って、あんたの同級生?」と聞かれました
言葉を濁す母に無理に聞いたところ、あの日に踏み切りに飛び込んだのはA君のお母さんだったそうです
大人たちは「せめて子の近くにいたかったから、あの場所」と言っていましたが
私たちは別の原因があったような気がして仕方ありませんでした
その日からA君は転校してしまい、担任の先生は厳しい顔で
「二度とあの場所には近づいてはいけない」と言い、実際に子供たちに危険との事で何か月かは
大人のバトロールがその付近を巡回していました
(終)

192 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 01:36:41.96 ID:AgCPeYID0
【52話】チッチママ ◆pLru64DMbo 様
『キューピットさん』
中学生の頃に流行したコックリさんではなく、キューピットさん
コックリさんは怖いけど、キューピットさんは大丈夫とか言う事だった
鉛筆一本を皆でにぎって白い紙の中心の点を書いた場所に置く
そして呪文を唱える
「キューピットさんキューピットさん、なんたらかんたら」
するとゆっくりと鉛筆が時計周りにグルグルと回り出す
鉛筆の線が少しずつ、ゆっくりと大きくなると来た証拠
ここで聞きたい質問をする
「〇君は私が好きですか?」「今度のテストは良い…がとれますか?」
YESなら大きく丸を描くが、いいえなら中心の点に戻って動かない
そして、これだけはしてはいけない約束が二つある
一つは人の生死を聞かない、願わない事
一つはちゃんと帰って貰う事
教室の隅でキューピットさんをしていた友達が「キャー」と騒ぎ出した
なんでも、ある子が「私と一緒にいて守って下さい」と願ってしまったそうだ
あくまで質問しかしてはいけない、願いをかけてはいけないのにかけてしまった
鉛筆は大きく勢いよく丸を描いたあとに、今度は鉛筆から凄い振動がきたそうだ
ガクガクと震えはじめ、鉛筆を持っていたみんなは
「お帰り下さい」まで離してはいけないのに気持ち悪くて離してしまった
その日は何かあったら怖いね、と皆が口数少なくその場は解散になって自宅に帰った
夕方の綺麗な太陽が出ているのに、雨が降って虹が出た
狐の嫁入りだーと、なんとなく感動した
次の日に、願った女の子が言った
「うちの犬が死んだんだよ、昨日の雨にうたれたあとに泡ふいて死んだ」
皆が自然とその子をさけるようになってしまった
オカルト好きだけど大人しい性格だったその子は、性格が豹変して荒れた
ああいうのは自己催眠だと思ってるけど、いまだにひっかかる出来事です
(終)

194 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 01:39:58.54 ID:AgCPeYID0
【53話】こげ ◆b9EIe80Jrg.5 様
『無題』
十年以上も昔の話になる。
会社の先輩と中学以来の友人と俺の三人で、盆休みに有給を足して十一日間の北海道旅行へ出掛けた。
車一台にバイク一台の、むさ苦しい野郎だけの貧乏旅行だったが、
それは素晴らしいものになるだろうと胸を弾ませていた。
しかし、出発当日から台風に見舞われ、フェリーは大時化の中を航行、
無事に苫小牧港へ到着はしたが、何の因果か、北の大地に足をつけてから連日、
怪異と遭遇する羽目になった。
艱難辛苦を乗り越え?旅は知床で折り返して六日目、道東の海岸沿いを一気に南下して根室へやってきた。
花咲港で名物のハナサキガニを食し、日本最東端の納沙布岬で北方領土の歯舞群島を間近に臨み、
双眼鏡で水晶島の監視塔で小銃を肩にかけて警戒にあたる兵士の姿を捉えた。
また、西の彼方へ沈み行く夕日を、男三人が肩を並べて見守ったりした。
チャシ跡群や、旧日本軍が建造したトーチカや掩体壕の遺跡群は時間も時間なので
明日、見に行くことにして本日の宿を探しに根室市内へ向かう。
根室駅前にある観光案内所へ着いたのは時間は午後6時を過ぎていた。
パンフを見比べながら、あーでもないこーでもないとやっている俺達。
そこへ軽トラに乗ったおっちゃんが現れ、宿を探しているのかと話しかけられた。
ホテルではなく安価な民宿で、魚介類とハナサキガニが手頃な価格で食えるような所へと条件を提示すれば、
それなら俺の所に決定だと、おっさんは親指を立てる。
どことなく、映画『プラトーン』に登場したバーンズ軍曹に似たおっさんだ。
おっさんは民宿を営みながら、漁師もやっているのだそうだ。
宿泊代に二千円を足せば、晩飯にハナサキガニ+αを付けると言った。
宜しくお願いしますと、俺達はおっさんに向けて、ホッチキスも斯くやの身体を折り曲げ頭を下げた。

195 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 01:41:07.18 ID:AgCPeYID0
美味い飯を食い、美味い酒を飲み、風呂に入って、久しぶりに屋根の下で布団へ入って眠った。
テントとは違って寝心地が段違いだ。それに熊等の襲撃を恐れる心配がないのは最高だ。

これで22:00(フタフタマルマル)就寝、02:00(ゼロフタマルマル)起床でなければ至福だったのだが…
なんでも、おっさんが操舵する船で、すごいところへ連れていってくれるのだそうだ。
午後11時まで食堂で俺達と飲んでいたのだが、午後2時きっかりにおっさんは起こしにやってきた。
船で摂る朝飯の支度も済んでいるとか…何時、寝てんだ。
厚着して眠い目を擦りながら外へ出ると、エンジンをかけた軽トラが待っていて、
有無を言わさず荷台へ乗せられ港へ向かい、おっさんが操舵する船で真っ暗な海原へ出る。
出港してしばらく無言だったおっさんが、ちょっとショートカットしていくからと俺達に断りを入れた。
深夜で島影どころか目の前の波すら見えない海の上だ。
何をショートカットするのかと思えば、現在は別の国家が占有している日本固有の領土がある海域だった。
北海道に来て熊と相対する覚悟はしていたが、流石に拿捕までは想定外…気構えとかなんか出来ていない。
極寒の牢獄に囚われ、餓死と貧困に怯えながら、空缶に用を足すことになるのは絶対に御免だ。
俺達は船長兼民宿の親父のおっさんに向かって本気で土下座したよ。
地図にしか見えない赤い一点鎖線の内側へお願いだから帰しておくれと…
それに対しておっさん…
「お前等、俺がどこでカニを捕ってくるか知っているか?
 道内では船影がちらりと見えただけでカニは岩陰に隠れてしまうが、
 こちらでは真上を船が通ろうと、のうのうと行列を作って歩いているくらい擦れていないから捕り放題だ。
 まあ、言ってみれば俺の庭みたいなものだ」
もし、露助の警備艇に臨検されそうになっても漁船には分不相応な高出力エンジンを積み、
操舵室うしろの壁には分厚い鉄板が仕込まれているから小銃の弾くらいなら耐えられると鼻で笑った。
強力な鼻薬も常時、搭載済みだと。
もうおっさんに全てを任せるしかないと、腹を括るしかない。
彼がトム?べレンジャー(軍曹)なら俺達はチャーリー・シーン(新兵)でしかないからな。
それって●漁?とか、おっさんに訊ねる余裕も無かった。


196 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 01:42:00.94 ID:AgCPeYID0
波を蹴立てて船は進み、おっさんが俺達に何を見せたかったのか…
空が白み始め、360度全てに島影すら見えない大海原…
しばらくすると水平線から顔を出す、黄金色に輝く朝日だった。
北海道へやって来て、二十歳をとうに過ぎた男三人が、
景色に目を奪われ、息を呑み、胸を詰まらせた事が幾度となくあったが、
この朝日の神々しさは格別だった。
今現在、俺達が地球上のどの辺りにいるかを忘れるくらいに…
地理的になかなか見れない御来光を拝んだ後、おっさんの用意してくれた朝飯を食った。
海苔と塩だけの握り飯にカニ味噌と身の入った味噌汁。
それらを頬張りながら、俺は艫で甲板に腰を下ろして海を見ていた。
二、三メートル先、波間に顔を出している白いのがいる。
ゴマフアザラシの幼獣…ゴマちゃんかと思ったが、天に向けてにょっきり伸びる一対の長い耳があった。
前脚を出し、水面へ置いたかと思うと、そこを支点によっこらしょと胴体を海中から引き抜く。
波の上に乗って後脚二本で立ち上がり、鼻をぴくぴくさせて周囲を警戒する一匹の白ウサギ…
俺の右手から握り飯がこぼれて海へ落ちた。
こちらを一対の赤い目が見て、それから小首を傾げる…その仕草が妙に人間臭い。
ウサギはくるりと俺に背中を向け、後脚二本で立ったまま波の上を走り去っていった。
まるで、『不思議の国のアリス』のワンシーン…何だったんだ今のは…と、呆気に取られる暇も無く、
また一匹、また一匹とウサギが浮き上がってくる。
海面へ這い出たウサギ達は後脚二本で立ち上がり、先程のウサギを追うように同じ方向へ走っていった。
気が付けば、船の周囲はウサギで埋まるほどになっている。
海域が沸き立ったかのように白く染まり、無数のウサギが海面へ這い出て列を作り、同じ方向へ去っていく。
白波が立ったみたいな有様だ。
数千羽、数万羽いるのだろうか、走るウサギが作る白い線は、水平線まで到達しそうな勢いだ。
船上にいる全員が、その光景に圧倒され、言葉を失った。

197 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 01:44:01.34 ID:AgCPeYID0
その中で最初に、我へ返ったのはおっさんだった。
慌てて船を動かし、海上に這い出たウサギ達を蹴散らして回頭、船を根室の港へ向けて走らせる。
その揺れで俺達も自我を取り戻したのだが、おっさんのとばし方が尋常ではなかった。
まるで何かから必死で逃れようとしているかのように、操舵輪を握る顔は青ざめ引き攣っている。
「ウサギが立った。大津波が来るぞ」
アイヌの伝承にあるそうだ。海で『ウサギ(イセポ)が立つ(テレケ)』と、大海嘯の前触れであると…
大海嘯とは大津波のことだ。
道内の古い漁師達は伝承を信じ、ウサギやアイヌ語の意である『イセポ』を海上で口にすることを禁じていたと言う。
アイヌ達が海上にいる時は『イセポ』の代わりに『カイクマ』という言葉を用いた。
「奴等は南…内地へ向けて走っていったな…今回はこっちに被害はないかれもしれない」
アイヌの昔話で、ある男がトンケシと言う場所を通りかかったとき、丘の上にウサギが立っていて
海の方へ手を突き出し、しきりに何かを招き寄せるような仕草をしているのを目撃する。
彼は丘の下にある集落で周辺六ヶ所の首領が集まり酒宴を開いているので、
津波が来るから早く逃げろと警告したが、首領達は酔っていて津波など怖くないと刀を振り回し相手にしなかった。
男は呆れ、内陸へ向けて去っていった。
その直後、トンケシの集落は津波に飲まれ、全滅してしまった。
トンケシの丘にいたのはウサギの大将=津波を呼ぶ神で、
海にいる無数の仲間を呼び寄せる儀式を行っていたのだと…

198 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/30(日) 01:45:23.46 ID:AgCPeYID0
「ウサギが立つ(イセポ・テレケ)を白波が立つことだなどと今では言われているが…
 じゃあ、俺達が見たアレは一体なんなんだ!?」
おっさんが必死になる理由は分かる。
1994年に起きた北海道東方沖地震による津波の記憶が新しい。
道内での被害は少なかったが、北方領土では死者行方不明者を出し、一万人近い住民がロシア各地へ移住を余儀なくされた。
あのウサギの群れが津波の予兆現象であるとしたら…
道内に残る、ウサギと津波に纏わる伝承では予兆現象があった即日から十年程の間に津波が起こったとされる。
宿まで戻った俺達は早々に根室を後にした。
今日は釧路湿原の脇を抜け、阿寒国立公園を目指す。
観光化されたとはいえ、アイヌの伝承や文化が残っている場所だ。
それに内陸部だから津波に襲われる心配はまず、無いだろう。
結局、俺達が北海道にいる間、津波は起こらなかった。
(了)

200 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 01:48:20.96 ID:ujnfAOrg0
『春の掌編』
 俺がその夜、何故そんな行動に及んだものか、今考えても腑に落ちない。
 いや、温かな布団の中の俺を無遠慮な尿意が襲い、夜半の身を切る肌寒さの中を、トイレで用を足してから自室に戻ろうとした辺りまでは鮮やかに覚えているのだが、その直後の記憶がすっぽりと抜け落ちて
いたのだ。
 どうした経緯を経たものかは知らない。我に返るとあろう事か、俺は自室と逆方向の父母の寝室の扉を開けてボーッと突っ立っていたものである。
「あれ?俺、何でこんなトコに居るんだっけ…?」
 そんな俺の様子を、目覚めた両親は怪訝そうに見つめている。
 たとえ両親のものとは言え、仮にも寝室はそこを用いる主のプライベートスペースだ。そんな侵すべからざる聖域に、あろう事か深夜にノックも無しにいきなり闖入するなんて行為は、肉親云々抜きにして無神経
だとの誹りを受けても弁明できぬ事案であった。
「ん、どうした。何か用か」
 欠伸を噛み殺しながら俺にそう問いかける父。母も、
「こんな夜中にどっか行くの?扉が開かる音で目が覚めたらいきなり滅多にここ来ないあんたが立っててさ、『もう行くよ』とか言ってるんだもの、ビックリだわ」
 などと、意味不明な事を口走っている。
「もう行くよって?…俺、そんな事言った?」
「たった今言ったろ。人騒がせな奴だなあ、寝ぼけてんじゃ無いのか?」
 事態をよく飲み込めぬまま、照れ隠しに後頭部をボリボリと掻いて苦笑いの俺。
「いやあ、そうかも知れないな。取りあえずはご無礼をした…さあ、どうか引き続き惰眠をむさぼって下さい」
 自室へと続く狭い廊下で、俺は納得ゆかずに何度も首を捻り続ける。
「おっかしいなあ。こんな事今まで全く無かったのになあ」
 それだけで済めばこの一件は、『寝ぼけたせがれの愚行』としてあっさりと片付けられる筈であった。

201 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 01:49:54.21 ID:ujnfAOrg0
 翌朝、階下の茶の間から聞こえてくる据え置き電話の着信音。どうやらそれに長々と応対していたらしい母親が、ドタドタと階段を登ってくる気配がする。
「あ、あんた起きてる?あのさ、茨城に居るあたしの兄さん、さっき夜中に死んだって」
「え?」
 母の兄。つまり俺にとっては叔父に当たるわけだが、彼が体調を崩して入院していたのは知っていた。しかしそこまで深刻な状態だったとは、それこそ寝耳に水である。
「あんたの喪服、汚れて無いでしょうね。明日朝一で行くんだから用意しときなさい」
 取るものも取りあえず、俺は会社にその意を伝え、3日間の忌引き休暇を許された。
 何とか翌日午前中には上野に到着、JRに乗り換えて…というJ字運行の末、俺たち家族は寄り道も許されずに茨城県某市中心部にある葬儀会場へと向かう。久方ぶりに再会した叔母や従妹はある程度の覚悟は
出来ていたのであろう、その表情からは不思議と悲壮感は感じられない。
 細々とした手伝い事で何かと忙しなく進行する一連の葬儀行程も滞りなく終わり、肩の荷を下ろした俺たちは会場であるセレモニーホールの一室を借りて故人の生前話に花を咲かせていた。
 亡くなった人を賑やかな笑顔で見送ろうという趣向か、この会場ではお酒も振る舞われる。その勢いで舌も滑らかになった俺は、隣に座る女子大生の従妹に先日の話を何の気無しに振ってみた。
「あ、それね。多分お兄ちゃん、まんまとうちのパパのチャンネルにされたよ」
 昔からオカルティックな話題に目がないこのお転婆は、普段のしおらしい仮面を脱ぎ捨てて決壊したダムの奔流の如くここぞとばかりに語り出す。
「チャンネル…、テレビに付いててカチャカチャ回すアレか?」
「『チャンネル回す』って、お兄ちゃんいつの時代の…じゃ無くてねえ、チャンネルってのは一般的な日本語に訳すと『憑依』ってのかな?パパ結構シャイだったもの、顔見せるのが恥ずかしいからお兄ちゃんの体を
借りて叔父さんたちへお別れしに行った可能性も否定し難いと私的には思うワケ」
「なるほどなあ。してみりゃあの時の『もう行くよ』ってのはそっちの意味か」
 自分の体をたとえ短時間でも乗っ取られた腹立たしさよりも、俺の心中にはどこか気弱気な表情を浮かべた叔父の顔が懐かしく思い出される。

202 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 01:51:34.65 ID:ujnfAOrg0
「でもねえお兄ちゃん。死んじゃった人間はまだいいよ」
 急に声を潜めて、俺の耳元で囁く従妹。
「どういう事?」
「だってさ、これ系の話じゃ定番の締めだけど、やっぱ『生きてる人間の方がよっぽど…』ね。生身でも厄介な性悪女に取り憑かれでもしたら最後、お兄ちゃんお先真っ暗だよ。
…あのさあ、何ならあたしが虫除け役としてお兄ちゃんに貰われてあげよっか?」
「い、要らねえよ!たた、確かに民法上では親族同士での四親等以上の婚姻は認められてはいるもののだなあ…」
「…あはは。ウソウソ!本気にした?」
 俺の顔が少々火照りを増したかに思えたのは、おそらく酒のせいばかりでもあるまい。
 そんな俺の表情を値踏みするかの様に見つめていた彼女は、初めて闊達に笑ったものだった。
 
 未だ雪も解けやらぬ地より訪れた者にとっては、麗らかな陽気の中で咲き誇る梅の花が妙に眩しく感じられた、そんな春の日のひと幕でしたとさ。
【了】

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