百物語2015
Part7
129 :猫虫(代理投稿) ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 23:44:32.39 ID:rKZkpF2O0
【三十四話】NNN ◆fRBuZwgwp 様
『無題』
20年くらい前の出来事です。
夜寝ていて、ふと気がつくと妙に体がこわばって、動こうとしても
どうにも動かすことができません。
これはもしかして金縛りというやつか?と思い、隣で寝ている夫に
助けを求めようとしましたが、声も出せませんでした。
以前、金縛り中に目を開けると、傍らに落ち武者が立って睨みつけて
いる、とか、老婆が斧を振り上げている、とか聞いたことを思い出し、
目を開けるのも怖くてそのままじっと、金縛りが解けるまで
我慢するしかありませんでした。
どれくらい時間がかかったかは覚えていませんが、ようやく動けて
声も出せるようになったので隣の夫に、今金縛りにあって、呼ぼう
としたんだけど声も出なかった、と伝えると、なんと夫も私と全く
同じ状況だったとのこと。
夫も私も全く霊感はなく、不思議な体験は後にも先にもこれだけです。
当時アパート住まいで、隣がお寺だったので、そこから何かが私たちの
上を通過していったのかな、と今でもそう思っています。
<終了>
131 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 23:49:08.94 ID:uO4SmEpe0
【35話】デッドエンド ◆JY70SElFKI 様
『壁越し』
私が昔住んでいたマンションでのことです。
ことの発端は、ある日の朝TVを観ながらダラダラとしていたら、ベランダの方から焦げたような臭いがしてきました。
なんだろ?と思い見てみると、何かが燃えたカスがありました。
私の住んでたマンションは7階建ての7階です。放火?ビックリしたのと怖いので警察に連絡し現場を見てもらいました。
そして、燃えカスの中に見覚えのある赤いテープをみつけ、つい最近ベランダに設置してあるガスの箱のようなパイプの付いたなんかうまく説明できないけど、それを全室新品に交換する工事があり、それに巻いてある
やつだと思いますと警察の方に説明しました。
すると警察の人はベランダから両隣を除き家の中に戻ってから小さな声で「おそらくこちら側の人やと思います。
水面下で調査しますのでなんかあったら直ぐ連絡して下さい」と言い燃えカスを持って帰って行きました。
そして管理会社に電話して事情を話すと「犯人は?隣の人でしょ!」と、なぜそう言うのか私は不思議に思いましたけど、その後直ぐに管理会社の人が隣の人のとこに来て数か月分の家賃を払ってくれと催促したことで
なんとなく理解しました。
133 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 23:50:02.04 ID:uO4SmEpe0
その後、隣人は部屋の中で毎日荒れていて、夜になると女の人のすすり泣く声とそれに話しかける男の人の声が聞こえて複雑な気持ちになりました。
ある日、壁にもたれてTVを見ていたら、ドンッ!と爆発した音と衝撃があり部屋が揺れました。
ビックリしたもののしばらく様子をみてなにもなかったので通報はしませんでした。
ところがそれからしばらくしたある晩、ベットに入り寝ようとしていたら、やけに隣が静かでふと隣の人死んだんかなと思いました。
で、眠りに落ち急に目がパッと覚め部屋の空気が生温かく異様なことに気づくと同時に人の気配も感じました。
怖いけど枕から少しだけ離れるか離れないかくらい頭を持ち上げチラっとみて布団をかぶって目をつぶりました。
灰色のズボンを履いた男の人が立っていたんです。もう言葉にならないくらいの恐怖で逃げたくても逃げれない。
ジッとしていると、気配が消えた!今や!とベットから飛び出そうとした瞬間、バンッ!とその男の人の両手が私の両足を叩きつけました。
もうパニックになった私はワーなのかギャーなのかわからない声を出しながら跳び上がり部屋中の電気という電気を無我夢中で付けて回り朝まで眠れず、昼前頃、経験したことのない臭いがしました。
なんの臭いかと思っていたら、マンションの廊下から「早く来て下さい!」「たぶん死んでます」「この部屋の◯◯さんやと思います」と電話してる人の声が聞こえてきました。
その数十分後に警察や鑑識の人が来て話をしました。
警察の方の話では部屋に灯油を撒き火を点けたが失敗に終わり、結局のところ隣人の死因は餓死で死後2週間くらい立ってますとのことでした。
警察の人達はよく火事にならなかったもんやと首を傾げていました。
昨日まで私が聞いていたあの声は一体なんだったんでしょうか?流石にそれは警察には言えませんでした。
終
135 :猫虫(代理投稿) ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 23:52:24.29 ID:rKZkpF2O0
【36話】未帰還 ◆H3nLk5uPzc 様
『呼吸』
私が小学生の頃、曾祖母が亡くなった時の話です。
母方の曾祖母が亡くなったという報せを真夜中に受け、母の実家に急遽帰省する事になりました。
親戚はとても多いのですが私達は親戚の内では近くに住んでいたため私達より早かったのは伯母の家族だけで、母の実家の大きな家にはあまり人が居ませんでした。
両親とともに顔布を掛けられた曾祖母と対面したのですが、恥ずかしながらその頃私はまだ「死」というものを理解しておらず、何故曾祖母の顔を隠すのか分かりませんでした。
その後集まってくる親戚の出迎えなどで家中が忙しくなり、とんでもない話ですが曾祖母の部屋に小学生の私一人しかいないという時間がありました。
なんとなく「今は大人しくしていなければならない」というのは伝わっていたので、悪戯するような事はありませんでしたが。
その時、私は曾祖母の顔に掛けられた布が、曾祖母が呼吸しているかのように上下に動いているのに気付きました。
しかし「死」を理解していない私はその事を特に不思議には思わず、ただ「自分が吸って吐くのと、ひいばあちゃんが吸って吐くのが一緒だな」と考えていました。
そんな不自然な一致や、真夜中だった事から今考えてみると、単にうとうとして夢を見ただけだったのかもしれません。
ただ、戻ってきた両親に「顔布が乱れている、悪戯するな」としこたま怒られて、「自分は悪くない」とかなんとか泣き出してしまったのは覚えています。
了
137 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/29(土) 23:57:42.11 ID:WCE2gmw+0
『誘(いざな)われたら気をつけて』
俺はかつて駆け出しのライダーだった頃、地元のバイクショップが主催するツーリングクラブに所属していた。そこで俺はバイクのメンテナンスやツーリングのノウハウを
諸先輩の皆様に色々と叩き込まれたものだ。そうした先輩の一人にNさんという方が居た。
飄々としたいでたちのそのNさんはひと口で言えばホント『いいひと』。
つまらない相談にも笑顔で接してくれる上に、クラブの新参者で年下で、しかも中型バイクまでしか乗れない俺にすら、いつも敬語で受け答えしてくれたものだ。
とある春の日に、ショップのテーブル越しに彼が語ってくれたのが以下のお話。
大型免許取りたてだった頃のNさんは、1週間程度のスケジュールで東日本をのんびりと旅した事があったらしい。そして道行きには、彼の友人の住む地に立ち寄り旧交を
温めるというプランも含まれていたそうだ。
それは、まさにその旧友の実家に立ち寄らんとしていた時の出来事であったと言う。
盛夏の深夜、Nさんを乗せたカワサキGPZ900Rは、心地良いエキゾースト・ノートを奏でながら緩やかなカーブの続く路上を疾走していた。
開通したてであるとのその道路は、路面の各種表示も綺麗に真っ白真黄色、アスファルトはひび一つ無い濡れ羽色、雨でも降れば湯気のひとつも立ちそうなそれこそ文字
通りの『ヴァージン・ロード』だったそうだ。自然とNさんの心も躍る。
「気持ちのいい道だなあ。この分なら早朝にはあいつの街に着けるかもな」
その時、Nさんの目には前方で扇状に揺れる赤い灯が見えた。
細かく点滅する光源に近づくにつれ、それが道路工事における片側一車線規制の交通誘導員が振る誘導棒の生み出す赤色灯である事が判ったNさん。
ちなみに『片側一車線規制』とは、中央線を挟んで上下を通過出来る車両が一台分ずつの道路の片側どちらか一方で路面工事などの作業が行われている場合、作業中の
車線を通過しようとする車両をとうせんぼしてから反対車線の交通状況を確認後、一時的に反対車線での通行を促して工事区間終了後に本来の車線へと復帰させる規制の
事であるッ!…って、頭じゃ判ってても文字に起こすと何言ってるのか判んない状況ですね。ですからあんまり鵜呑みにしない方がいいです、責任持てませんので…閑話休題
138 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/29(土) 23:59:20.73 ID:WCE2gmw+0
「開通してさほど経って無いってのに、この真夜中に保守作業か何かかな…大変だなあ」 扇状に振られていた手の動きを止め、頭上に誘導棒をピタリと静止させた誘導員の数メートル手前まで
徐々に減速してゆくNさん。それに伴い愛車GPZのエンジン音も、まるで鍋物でも煮ているかの様なアイドリング時のそれに変わってゆく。
そんなNさんに今度は深々と頭を下げる誘導員。
バイクを停車させたまではよかったものの、Nさんはちょいと首を捻った。
それも当然、通常ならば派手な注意標識や進路指示灯、そして何よりも五月蠅い作業音がこれでもかとばかりに自己主張する工事現場が前方に見える筈であるのに、そこには静寂に包まれた
深夜の暗がりしか広がっていなかったわけなのだから。
「してみりゃ、誘導員の前に『○○メートル先工事中』の看板、あったっけか?」
そんなNさんの心中を知ってか知らずか、今度は誘導員は頭上にかざしていた誘導灯を自分の体と平行に、下半身沿いの半弧を描く形で進行方向へと向けて何度も何度も振り流す。これは
常識的に考えると、勿論『青信号』と同等の意味を有するジェスチャーだ。
『え、いいの?対向車両はまだ一台も通過して無いんだよ。いいの?』
前方を指さしながらフルフェイスのバイザーを開き、アイコンタクトを試みるNさん。 誘導員はそんなNさんを一瞥し、薄明かりの下でその表情までは窺い知れなかったものの、確かにこくりと頷いた。
「本当にいいのかなあ」
納得いかぬ気持ちのまま、Nさんのバイクは対向車線へと躍り出てゆく。
走り出してから十数秒、左車線をいくらチラ見しても相変わらず工事の『こ』の字も窺えない。ただのっぺりとした路面だけが、青白い道路照明灯にぼんやりと照らされているのみである。
不可解な誘導員の存在に対する疑念が心中を支配していたせいか、Nさんの集中力は若干弛緩していたのであろう。けたたましいクラクションの響きでふと気がつくと、彼の僅か前方には猛然と
迫り来る一対の馬鹿でかいヘッドライトが目映い銀光を放っていた。
139 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:00:24.13 ID:ujnfAOrg0
「…うぉっ!」
『視覚情報が脳みそに届く前に、反射的に舵切ってました』とは後日のNさんの弁。間一髪で本来の走行車線へ流れた彼をあざ笑うかの如く、轟音と共に傍らをすれ違ってゆく大型貨物…。
「あのまま行ってたら、逝ってたわ。しかしあの立ちんぼ野郎、どこの誰だか知らないがこんな辺鄙な山ん中でタチの悪い悪戯しやがって…」
本来は温厚である筈のNさんの怒りは、翌日彼の友人に会うまで治まる事は無かったそ
うだ。
「…しかしな、お前の『こっち来る時はこの道来いよ。出来たてのホヤホヤだから走り心地いいと思うよ』ってな台詞を真に受けて、えらい目に遭いそうになったぞ」
Nさんの愚痴をひと通り聞いていた彼の友人は、一部始終を聞き終えて口を開いた。
「悪い事したなあ。お前が言ってたその場所で、ちょうど開通する一年ほど前に工事作業車の誘導してたおっさんが、よろけたはずみでダンプに巻き込まれちゃったんだそうだよ。炎天下の
誘導だったから頭がボーッとしちゃってたのかもって事で、現場の安全管理ミス含めてこっちじゃ当時、さんざんニュースで取り上げられてたもん。それかもな」
「それかもなってお前、あっさり…ってか、それ知ってたんなら何でそんな道を俺に!」「仕方ないだろ、俺だってそんなもんが出るなんてのは初耳だもの。しかしまた何でだろうね、昔の現場が
懐かしくて出ただけならともかくその誘導員、ひょっとしたら寂しくてお前をこの世じゃないどこかへ誘導しようと…」
「やめてくれよお…」
先程までの腸の煮えくり返りもどこへやら、終いにはすっかり涙目のNさんだったそうで…。
140 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:01:52.63 ID:ujnfAOrg0
「…それでですね、俺ってビビリなもんだから、帰りは不案内ながらも別ルート駆けて来たんですよ。そこでもかなり怖い思い、しましてねえ」
「そいつは大変でしたねNさん、口調が稲川淳二ですよ。それからどうしました?」
そこまで話し終えた後、トレードマークのバンダナ頭を掻くNさんのネクスト・ストーリーに更なる興味が湧いた俺。
「別ルートも同じく深夜走行を余儀なくされたんですよ。そしたら漆黒の闇の中、延々と砂利道の続く九十九折れの山道でしょ…ちょっと気を抜けば谷底ですよ、谷底!ようやっと
舗装路に出たら今度は対面から威勢のいい四輪の走り屋どもが中央車線はみ出して特攻紛いのコーナリングして来るしで、あの晩何度死にかけましたかね俺」
「…ひょっとして、今ここにいるのは本当に生きてるNさんなんですか?はははは」
おちゃらけてテーブルの下を覗き込み、足の有無を確かめる素振りの俺にNさんは少し唇の端を歪める。
「笑いごとじゃありませんよ。ホントにあの誘導員、どうせなら他人の迷惑顧みねえあの走り屋どもの前に化けて出て、奴らをまとめてあの世へいざないやがれってんだよ。使えね
野郎だぜ、全く…」
『Nさんのその喋り方、面前で初めて聞いた!』
前半と後半との彼の口調の見事なギャップがやたらと可笑しかった半面、ちょっとNさんの本性が垣間見えてどことなく怖い気がした春の夕暮れだった…。
【了】
142 :猫虫(代理投稿) ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 00:04:54.26 ID:slHZZ5U50
【38話】チッチママ ◆pLru64DMbo 様
『子供の記憶』
うちの子がお腹にいた時から不思議な体験をしました。
めったに雪の降らない土地に雪が降った日、どうしても用事があった私が車で出かけました。
交差点の信号が青だったのですが急にお腹が張り、ブレーキをかけて停止した瞬間に
信号無視で雪で滑った車が勢いよく目の前を通過しました。
停止していなければ衝突していたでしょう。
子が生まれてからもドライブ中、機嫌が良かった娘が突然泣き出しました。
唐突でビックリして路肩に止めた瞬間に対向車のトラックが横道からきた乗用車と衝突しました。
部品はこちらに飛んできましたが停止していたために巻き込まれずに済みました。
そもそも、この子の出産は大変で本当に命の危険がある難産でした。
医者からも覚悟をして欲しいと言われ、万が一を考えた対応で出産に挑みました。
その時点で私はすでに虫の息で必死で我が子を出すだけで意識を繋いでいました。
酸素マスクを口につけられ、数々の点滴や機械に繋がれ、暴れないようにと手足を固定されての出産。
出産中に私意識を失い、どうも生死の境をさまよい、世で言う三途の川に行った様子です。
川ではなく光の集合体が暗い闇の中で川のように真横に流れていました。
フワフワとホタルより大きく、けれど暖かみのある光が周囲に幾つかフワフワと舞っていました。
川の向こうで亡くなった祖母を見つけ、私はただ嬉しくて「おーぃ」と手を振ったのです。
すると祖母は険しい見た事もない顔でこちらをにらみつけ、何も言わずに手でシッシッとあしらわれました。
シッシッって犬かよ!!と私がイラついた瞬間に小さな、でもはっきりした声で
「おかーさーん」って声が聞こえて目が覚めました。
婦長さんが私にまたがって私の頬をたたきがら「目を覚ましなさい」と叫んでいました。
そしてなんとか出産もできましたが、子はとても小さな子でした。
143 :猫虫(代理投稿) ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 00:09:43.71 ID:slHZZ5U50
私には霊感がありませんが、霊を否定する気もありませんでした。
ですが子が3歳程度になるまでは、見えない場所と会話をゴニョゴニョとしていたり手を振ったり
娘の写真に光が写っている確率が高かったりと色々と迷いました。
今でも娘の小さい頃の写真には、そんな不思議なモノが写っています。
持っている石が人の顔だったり、撮った背景の鏡に見知らぬ老人がいたりです。
3歳程度の時に娘とお風呂に入っていると娘が急に言いました。
「お腹の中でおかーちゃんの声きいてたよ?はやく会いたかったんだよ。
あのね、お空でどのおかーしゃんにするって時に、おかーしゃんがいいって思ったの
ずーっとお腹でここにいるよーってキックキックしてたんだよ」
それからも不思議な事は保育園時代まで続きました。
保育園に珍しく行きたくないと言った日は近くの山が家事になったり
あのトンネルは嫌と行った次の日に、そのトンネルで事故があったり。
ですが小学校に入る頃には収まり、今では怖いテレビを見て「キャー」なんて言ってます
今では普通の子ですが、親としてはこの方が安心できます
(終)
145 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:13:17.69 ID:ujnfAOrg0
『鏡よ鏡よ鏡さん』
学生だった当時、某サークルでの会報作成に忙殺されていた頃の話だ。
夕暮れのサークル室、同期のY子と二人きりで与太話をしながら作業を進めていたのであるが、どんな経緯を経たのかは失念したものの、やはり話はそっちの方向へと…。
「小学校の頃なんだけど、私、変な目に遭っちゃってさ…」
彼女の実家は信州だったか甲州だったか、とにかくその辺りだとの事。勿論彼の地でも神社の縁日ともなれば沿道に露店が軒を連ねるワケで、その晩は当然お祭り好き
のY子も兄と連れだって賑やかな人混みの中にいた。
さっそく輪投げに興じ始めたY子の兄であったが、何度投げても狙った的に嫌われるばかりで持ち輪はどんどん少なくなってゆく。
そして業を煮やした挙げ句に気合いを込めて放った最後の一投は、ようやく彼の執念が通じたものか、狙いは外したとは言えとある景品の台に見事すっぽりと収まった。
「つまんねえなあ。こんなの、俺使わねえからお前にやるよ」
狙っていた超合金のおもちゃを取りそこねていささかご機嫌斜めの兄がY子に手渡したその景品とは、『ひみつのアッコちゃん』の商売道具でお馴染みの丸形コンパクト
ミラーだったのである。
「やたっ!ありがとう兄ちゃん」
「知らない誰かが使った鏡を貰うのって、お婆ちゃんあんまり感心しないねえ」
家に戻って家族に件の戦利品を見せるや否や、彼女の祖母は眉を顰めてそう呟いた。
そのコンパクトは直径6?程度の年季物ではあるものの、いわゆる『いい仕事してますね』的な完成度を誇る、素人目に見ても極上の一品だったと後のY子は述懐する。
微細なエングレーブで縁取られたその上蓋の面には薄紅色に咲き誇る夾竹桃の周りを舞う蝶の群れが、精緻を尽くした螺鈿細工の技法により美しく描かれている。そして
金粉の散らされた裏蓋にはススキの穂を思わせる放射状の飾り絵の中、元の持ち主の名前と思しき草書体の文字が彫られていた。
何れにしろ、およそ露店の香具師が子供騙しのアイテムとして扱う様な代物では無い。
信心深かったとのY子の祖母は、なおも心配げに小さく囁く。
「今からでも遅くないよ。返しに行った方がいいんじゃないかえ?」
「いやだもん。古道具屋さんから買ったと思えばいいじゃない!」
146 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:15:16.03 ID:ujnfAOrg0
翌日からY子はそのコンパクトを肌身離さず持ち歩き始めたと言う。学校では先生に見つからぬ様に休み時間ともなればこっそりとそれを取り出し鏡に映る己の顔を飽きもせずうっと
り見つめ、放課後はそれを繰り返し友達に見せびらかして…という具合。
照れくさ気に頬を掻きながらの彼女曰く、
「ちょっと大人になったかな?みたいな気にさせてくれたあのコンパクトに、何て言うか、情が湧いちゃってねえ」とか。
やがてY子がコンパクトの異変に気づくのには、さほどの日数を要しなかった。
「あれっ?」
その日もいつも通り鏡の中の自分に見惚れていた彼女であったのだが、ひと重で自他共に認めるドングリ目玉である自分の目がほんの一瞬、二重で切れ長のそれに見えたのだと言う。
そしてまたある時は自分の背後に吊されているカレンダーの文字が、普通であれば反転されるはずであるのに当たり前の表示のままで鏡には映っていたりして。
何れの場合も共通するのは、ハッとして鏡を二度見した時にはいつも同様に普通の映り具合に戻っているという事であった。
一度であれば見間違いと言う事もあろう。しかしそれが二度三度と続くとなると、さすがの彼女も一抹の不安を覚えざるを得なくなると言うものである。
その他にも、確かに洗面台脇に置いたはずのコンパクトが、顔を洗い終えて見ると玄関の下駄箱の上に鎮座していたり、パチンと閉じたかと思えば少し目を離した隙にバネ仕掛けの
蝶番でも無いその蓋が、囲炉裏で炙ったホタテの如く何故かパックリと開いていたり。
にも関わらず、Y子はコンパクトを手放す気にはなれなかったそうである。そう、まるで何かに魅入られたかの様に…。
そしてある夜、決定的な出来事が起こった。
ここ数日体調が思わしくないものの、それでも就寝前にいつもの如くコンパクトを開いて鏡の中の自分と対面するY子。
「あたし寝るよ。あんたもおやすみ…」
そして蓋を閉じかけたその時、上蓋と下蓋の隙間で何かが瞬いた様に彼女には思えた。
「え?」
閉じかけていた蓋を再び開けたY子はコンパクトに顔を近づけ、青光りする鏡面を再びまじまじと覗き込む。
その瞬間彼女は見たそうだ。鏡の中の自分の唇が、本来無いはずの八重歯を覗かせてニヤリと薄気味悪く微笑んだのを…。
「パリンッ!」
147 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:16:14.12 ID:ujnfAOrg0
後の記憶は霧中の如く漠然としているために彼女には思い出せない。ただどこか遠いところで、
「タイヘンダ!カアサン!タオル ト ホウタイ ダア! アト ハヤク イシャ…」
「ダカラ イッタンダヨ!アンタ ガ ヘンナモノ ヲ コノコ ニ アゲルカラ…」
「ンナコト イッタッテ オ オレ シラネエヨオ…」
そんな喧噪が聞こえていたのだけは覚えている…との事。
「次の日、コンパクトはお婆ちゃんが近くのお寺に持ってっちゃったみたい。今でこそ兄貴も『あの鏡さ、多分お前が美しすぎるから割れたんだよ。ほら、パタリロのオープニングみたいにさあ』
なんて茶化しやがるけど、その後は普通の鏡さえもしばらくの間見られなかったもんね、あたし」
言い終えた後に、小さく肩をすくめるY子。
「ほう。怖くて普通の鏡も、か。Y子も男勝りに見えて結構、可愛いとこあるじゃないの…しかしその話、本当かい?」
自分の話を疑われ、Y子は紅潮して頬を膨らませた。
「嘘じゃ無いのに!ホラ、もっとこっち来てあたしの顔、じっくり見なさいよ」
言われた通りお互いの吐息が交錯するほどの間近でよく見ると、なるほど彼女の両頬には確かに鋭利な何かを散らされたかの様な小さい古傷の窪みがうっすらと数カ所見て取れる。
「ね、判ってくれた?」
「ああ、よ〜く判ったよ。お前さんの厚化粧の理由がな」
俺の何気ない失言が彼女の中のデリケートな何かをいたく刺激したものか、その後しばらくの間Y子はひと言も口を利いてはくれなかった。
もっともその後、丁度彼女に顔を近づけていたところを忘れ物を取りに来た同サークルの後輩が偶然目撃した様で、誤解を解くために俺はさんざん要らぬ苦労を強いられる羽目になってしまった
のだが、それはまた別の話。
【了】
【三十四話】NNN ◆fRBuZwgwp 様
『無題』
20年くらい前の出来事です。
夜寝ていて、ふと気がつくと妙に体がこわばって、動こうとしても
どうにも動かすことができません。
これはもしかして金縛りというやつか?と思い、隣で寝ている夫に
助けを求めようとしましたが、声も出せませんでした。
以前、金縛り中に目を開けると、傍らに落ち武者が立って睨みつけて
いる、とか、老婆が斧を振り上げている、とか聞いたことを思い出し、
目を開けるのも怖くてそのままじっと、金縛りが解けるまで
我慢するしかありませんでした。
どれくらい時間がかかったかは覚えていませんが、ようやく動けて
声も出せるようになったので隣の夫に、今金縛りにあって、呼ぼう
としたんだけど声も出なかった、と伝えると、なんと夫も私と全く
同じ状況だったとのこと。
夫も私も全く霊感はなく、不思議な体験は後にも先にもこれだけです。
当時アパート住まいで、隣がお寺だったので、そこから何かが私たちの
上を通過していったのかな、と今でもそう思っています。
<終了>
131 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 23:49:08.94 ID:uO4SmEpe0
【35話】デッドエンド ◆JY70SElFKI 様
『壁越し』
私が昔住んでいたマンションでのことです。
ことの発端は、ある日の朝TVを観ながらダラダラとしていたら、ベランダの方から焦げたような臭いがしてきました。
なんだろ?と思い見てみると、何かが燃えたカスがありました。
私の住んでたマンションは7階建ての7階です。放火?ビックリしたのと怖いので警察に連絡し現場を見てもらいました。
そして、燃えカスの中に見覚えのある赤いテープをみつけ、つい最近ベランダに設置してあるガスの箱のようなパイプの付いたなんかうまく説明できないけど、それを全室新品に交換する工事があり、それに巻いてある
やつだと思いますと警察の方に説明しました。
すると警察の人はベランダから両隣を除き家の中に戻ってから小さな声で「おそらくこちら側の人やと思います。
水面下で調査しますのでなんかあったら直ぐ連絡して下さい」と言い燃えカスを持って帰って行きました。
そして管理会社に電話して事情を話すと「犯人は?隣の人でしょ!」と、なぜそう言うのか私は不思議に思いましたけど、その後直ぐに管理会社の人が隣の人のとこに来て数か月分の家賃を払ってくれと催促したことで
なんとなく理解しました。
133 :わらび餅(代理投稿) ◆jlKPI7rooQ :2015/08/29(土) 23:50:02.04 ID:uO4SmEpe0
その後、隣人は部屋の中で毎日荒れていて、夜になると女の人のすすり泣く声とそれに話しかける男の人の声が聞こえて複雑な気持ちになりました。
ある日、壁にもたれてTVを見ていたら、ドンッ!と爆発した音と衝撃があり部屋が揺れました。
ビックリしたもののしばらく様子をみてなにもなかったので通報はしませんでした。
ところがそれからしばらくしたある晩、ベットに入り寝ようとしていたら、やけに隣が静かでふと隣の人死んだんかなと思いました。
で、眠りに落ち急に目がパッと覚め部屋の空気が生温かく異様なことに気づくと同時に人の気配も感じました。
怖いけど枕から少しだけ離れるか離れないかくらい頭を持ち上げチラっとみて布団をかぶって目をつぶりました。
灰色のズボンを履いた男の人が立っていたんです。もう言葉にならないくらいの恐怖で逃げたくても逃げれない。
ジッとしていると、気配が消えた!今や!とベットから飛び出そうとした瞬間、バンッ!とその男の人の両手が私の両足を叩きつけました。
もうパニックになった私はワーなのかギャーなのかわからない声を出しながら跳び上がり部屋中の電気という電気を無我夢中で付けて回り朝まで眠れず、昼前頃、経験したことのない臭いがしました。
なんの臭いかと思っていたら、マンションの廊下から「早く来て下さい!」「たぶん死んでます」「この部屋の◯◯さんやと思います」と電話してる人の声が聞こえてきました。
その数十分後に警察や鑑識の人が来て話をしました。
警察の方の話では部屋に灯油を撒き火を点けたが失敗に終わり、結局のところ隣人の死因は餓死で死後2週間くらい立ってますとのことでした。
警察の人達はよく火事にならなかったもんやと首を傾げていました。
昨日まで私が聞いていたあの声は一体なんだったんでしょうか?流石にそれは警察には言えませんでした。
終
135 :猫虫(代理投稿) ◆5G/PPtnDVU :2015/08/29(土) 23:52:24.29 ID:rKZkpF2O0
【36話】未帰還 ◆H3nLk5uPzc 様
『呼吸』
私が小学生の頃、曾祖母が亡くなった時の話です。
母方の曾祖母が亡くなったという報せを真夜中に受け、母の実家に急遽帰省する事になりました。
親戚はとても多いのですが私達は親戚の内では近くに住んでいたため私達より早かったのは伯母の家族だけで、母の実家の大きな家にはあまり人が居ませんでした。
両親とともに顔布を掛けられた曾祖母と対面したのですが、恥ずかしながらその頃私はまだ「死」というものを理解しておらず、何故曾祖母の顔を隠すのか分かりませんでした。
その後集まってくる親戚の出迎えなどで家中が忙しくなり、とんでもない話ですが曾祖母の部屋に小学生の私一人しかいないという時間がありました。
なんとなく「今は大人しくしていなければならない」というのは伝わっていたので、悪戯するような事はありませんでしたが。
その時、私は曾祖母の顔に掛けられた布が、曾祖母が呼吸しているかのように上下に動いているのに気付きました。
しかし「死」を理解していない私はその事を特に不思議には思わず、ただ「自分が吸って吐くのと、ひいばあちゃんが吸って吐くのが一緒だな」と考えていました。
そんな不自然な一致や、真夜中だった事から今考えてみると、単にうとうとして夢を見ただけだったのかもしれません。
ただ、戻ってきた両親に「顔布が乱れている、悪戯するな」としこたま怒られて、「自分は悪くない」とかなんとか泣き出してしまったのは覚えています。
了
137 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/29(土) 23:57:42.11 ID:WCE2gmw+0
『誘(いざな)われたら気をつけて』
俺はかつて駆け出しのライダーだった頃、地元のバイクショップが主催するツーリングクラブに所属していた。そこで俺はバイクのメンテナンスやツーリングのノウハウを
諸先輩の皆様に色々と叩き込まれたものだ。そうした先輩の一人にNさんという方が居た。
飄々としたいでたちのそのNさんはひと口で言えばホント『いいひと』。
つまらない相談にも笑顔で接してくれる上に、クラブの新参者で年下で、しかも中型バイクまでしか乗れない俺にすら、いつも敬語で受け答えしてくれたものだ。
とある春の日に、ショップのテーブル越しに彼が語ってくれたのが以下のお話。
大型免許取りたてだった頃のNさんは、1週間程度のスケジュールで東日本をのんびりと旅した事があったらしい。そして道行きには、彼の友人の住む地に立ち寄り旧交を
温めるというプランも含まれていたそうだ。
それは、まさにその旧友の実家に立ち寄らんとしていた時の出来事であったと言う。
盛夏の深夜、Nさんを乗せたカワサキGPZ900Rは、心地良いエキゾースト・ノートを奏でながら緩やかなカーブの続く路上を疾走していた。
開通したてであるとのその道路は、路面の各種表示も綺麗に真っ白真黄色、アスファルトはひび一つ無い濡れ羽色、雨でも降れば湯気のひとつも立ちそうなそれこそ文字
通りの『ヴァージン・ロード』だったそうだ。自然とNさんの心も躍る。
「気持ちのいい道だなあ。この分なら早朝にはあいつの街に着けるかもな」
その時、Nさんの目には前方で扇状に揺れる赤い灯が見えた。
細かく点滅する光源に近づくにつれ、それが道路工事における片側一車線規制の交通誘導員が振る誘導棒の生み出す赤色灯である事が判ったNさん。
ちなみに『片側一車線規制』とは、中央線を挟んで上下を通過出来る車両が一台分ずつの道路の片側どちらか一方で路面工事などの作業が行われている場合、作業中の
車線を通過しようとする車両をとうせんぼしてから反対車線の交通状況を確認後、一時的に反対車線での通行を促して工事区間終了後に本来の車線へと復帰させる規制の
事であるッ!…って、頭じゃ判ってても文字に起こすと何言ってるのか判んない状況ですね。ですからあんまり鵜呑みにしない方がいいです、責任持てませんので…閑話休題
「開通してさほど経って無いってのに、この真夜中に保守作業か何かかな…大変だなあ」 扇状に振られていた手の動きを止め、頭上に誘導棒をピタリと静止させた誘導員の数メートル手前まで
徐々に減速してゆくNさん。それに伴い愛車GPZのエンジン音も、まるで鍋物でも煮ているかの様なアイドリング時のそれに変わってゆく。
そんなNさんに今度は深々と頭を下げる誘導員。
バイクを停車させたまではよかったものの、Nさんはちょいと首を捻った。
それも当然、通常ならば派手な注意標識や進路指示灯、そして何よりも五月蠅い作業音がこれでもかとばかりに自己主張する工事現場が前方に見える筈であるのに、そこには静寂に包まれた
深夜の暗がりしか広がっていなかったわけなのだから。
「してみりゃ、誘導員の前に『○○メートル先工事中』の看板、あったっけか?」
そんなNさんの心中を知ってか知らずか、今度は誘導員は頭上にかざしていた誘導灯を自分の体と平行に、下半身沿いの半弧を描く形で進行方向へと向けて何度も何度も振り流す。これは
常識的に考えると、勿論『青信号』と同等の意味を有するジェスチャーだ。
『え、いいの?対向車両はまだ一台も通過して無いんだよ。いいの?』
前方を指さしながらフルフェイスのバイザーを開き、アイコンタクトを試みるNさん。 誘導員はそんなNさんを一瞥し、薄明かりの下でその表情までは窺い知れなかったものの、確かにこくりと頷いた。
「本当にいいのかなあ」
納得いかぬ気持ちのまま、Nさんのバイクは対向車線へと躍り出てゆく。
走り出してから十数秒、左車線をいくらチラ見しても相変わらず工事の『こ』の字も窺えない。ただのっぺりとした路面だけが、青白い道路照明灯にぼんやりと照らされているのみである。
不可解な誘導員の存在に対する疑念が心中を支配していたせいか、Nさんの集中力は若干弛緩していたのであろう。けたたましいクラクションの響きでふと気がつくと、彼の僅か前方には猛然と
迫り来る一対の馬鹿でかいヘッドライトが目映い銀光を放っていた。
139 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:00:24.13 ID:ujnfAOrg0
「…うぉっ!」
『視覚情報が脳みそに届く前に、反射的に舵切ってました』とは後日のNさんの弁。間一髪で本来の走行車線へ流れた彼をあざ笑うかの如く、轟音と共に傍らをすれ違ってゆく大型貨物…。
「あのまま行ってたら、逝ってたわ。しかしあの立ちんぼ野郎、どこの誰だか知らないがこんな辺鄙な山ん中でタチの悪い悪戯しやがって…」
本来は温厚である筈のNさんの怒りは、翌日彼の友人に会うまで治まる事は無かったそ
うだ。
「…しかしな、お前の『こっち来る時はこの道来いよ。出来たてのホヤホヤだから走り心地いいと思うよ』ってな台詞を真に受けて、えらい目に遭いそうになったぞ」
Nさんの愚痴をひと通り聞いていた彼の友人は、一部始終を聞き終えて口を開いた。
「悪い事したなあ。お前が言ってたその場所で、ちょうど開通する一年ほど前に工事作業車の誘導してたおっさんが、よろけたはずみでダンプに巻き込まれちゃったんだそうだよ。炎天下の
誘導だったから頭がボーッとしちゃってたのかもって事で、現場の安全管理ミス含めてこっちじゃ当時、さんざんニュースで取り上げられてたもん。それかもな」
「それかもなってお前、あっさり…ってか、それ知ってたんなら何でそんな道を俺に!」「仕方ないだろ、俺だってそんなもんが出るなんてのは初耳だもの。しかしまた何でだろうね、昔の現場が
懐かしくて出ただけならともかくその誘導員、ひょっとしたら寂しくてお前をこの世じゃないどこかへ誘導しようと…」
「やめてくれよお…」
先程までの腸の煮えくり返りもどこへやら、終いにはすっかり涙目のNさんだったそうで…。
140 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:01:52.63 ID:ujnfAOrg0
「…それでですね、俺ってビビリなもんだから、帰りは不案内ながらも別ルート駆けて来たんですよ。そこでもかなり怖い思い、しましてねえ」
「そいつは大変でしたねNさん、口調が稲川淳二ですよ。それからどうしました?」
そこまで話し終えた後、トレードマークのバンダナ頭を掻くNさんのネクスト・ストーリーに更なる興味が湧いた俺。
「別ルートも同じく深夜走行を余儀なくされたんですよ。そしたら漆黒の闇の中、延々と砂利道の続く九十九折れの山道でしょ…ちょっと気を抜けば谷底ですよ、谷底!ようやっと
舗装路に出たら今度は対面から威勢のいい四輪の走り屋どもが中央車線はみ出して特攻紛いのコーナリングして来るしで、あの晩何度死にかけましたかね俺」
「…ひょっとして、今ここにいるのは本当に生きてるNさんなんですか?はははは」
おちゃらけてテーブルの下を覗き込み、足の有無を確かめる素振りの俺にNさんは少し唇の端を歪める。
「笑いごとじゃありませんよ。ホントにあの誘導員、どうせなら他人の迷惑顧みねえあの走り屋どもの前に化けて出て、奴らをまとめてあの世へいざないやがれってんだよ。使えね
野郎だぜ、全く…」
『Nさんのその喋り方、面前で初めて聞いた!』
前半と後半との彼の口調の見事なギャップがやたらと可笑しかった半面、ちょっとNさんの本性が垣間見えてどことなく怖い気がした春の夕暮れだった…。
【了】
142 :猫虫(代理投稿) ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 00:04:54.26 ID:slHZZ5U50
【38話】チッチママ ◆pLru64DMbo 様
『子供の記憶』
うちの子がお腹にいた時から不思議な体験をしました。
めったに雪の降らない土地に雪が降った日、どうしても用事があった私が車で出かけました。
交差点の信号が青だったのですが急にお腹が張り、ブレーキをかけて停止した瞬間に
信号無視で雪で滑った車が勢いよく目の前を通過しました。
停止していなければ衝突していたでしょう。
子が生まれてからもドライブ中、機嫌が良かった娘が突然泣き出しました。
唐突でビックリして路肩に止めた瞬間に対向車のトラックが横道からきた乗用車と衝突しました。
部品はこちらに飛んできましたが停止していたために巻き込まれずに済みました。
そもそも、この子の出産は大変で本当に命の危険がある難産でした。
医者からも覚悟をして欲しいと言われ、万が一を考えた対応で出産に挑みました。
その時点で私はすでに虫の息で必死で我が子を出すだけで意識を繋いでいました。
酸素マスクを口につけられ、数々の点滴や機械に繋がれ、暴れないようにと手足を固定されての出産。
出産中に私意識を失い、どうも生死の境をさまよい、世で言う三途の川に行った様子です。
川ではなく光の集合体が暗い闇の中で川のように真横に流れていました。
フワフワとホタルより大きく、けれど暖かみのある光が周囲に幾つかフワフワと舞っていました。
川の向こうで亡くなった祖母を見つけ、私はただ嬉しくて「おーぃ」と手を振ったのです。
すると祖母は険しい見た事もない顔でこちらをにらみつけ、何も言わずに手でシッシッとあしらわれました。
シッシッって犬かよ!!と私がイラついた瞬間に小さな、でもはっきりした声で
「おかーさーん」って声が聞こえて目が覚めました。
婦長さんが私にまたがって私の頬をたたきがら「目を覚ましなさい」と叫んでいました。
そしてなんとか出産もできましたが、子はとても小さな子でした。
143 :猫虫(代理投稿) ◆5G/PPtnDVU :2015/08/30(日) 00:09:43.71 ID:slHZZ5U50
私には霊感がありませんが、霊を否定する気もありませんでした。
ですが子が3歳程度になるまでは、見えない場所と会話をゴニョゴニョとしていたり手を振ったり
娘の写真に光が写っている確率が高かったりと色々と迷いました。
今でも娘の小さい頃の写真には、そんな不思議なモノが写っています。
持っている石が人の顔だったり、撮った背景の鏡に見知らぬ老人がいたりです。
3歳程度の時に娘とお風呂に入っていると娘が急に言いました。
「お腹の中でおかーちゃんの声きいてたよ?はやく会いたかったんだよ。
あのね、お空でどのおかーしゃんにするって時に、おかーしゃんがいいって思ったの
ずーっとお腹でここにいるよーってキックキックしてたんだよ」
それからも不思議な事は保育園時代まで続きました。
保育園に珍しく行きたくないと言った日は近くの山が家事になったり
あのトンネルは嫌と行った次の日に、そのトンネルで事故があったり。
ですが小学校に入る頃には収まり、今では怖いテレビを見て「キャー」なんて言ってます
今では普通の子ですが、親としてはこの方が安心できます
(終)
145 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:13:17.69 ID:ujnfAOrg0
『鏡よ鏡よ鏡さん』
学生だった当時、某サークルでの会報作成に忙殺されていた頃の話だ。
夕暮れのサークル室、同期のY子と二人きりで与太話をしながら作業を進めていたのであるが、どんな経緯を経たのかは失念したものの、やはり話はそっちの方向へと…。
「小学校の頃なんだけど、私、変な目に遭っちゃってさ…」
彼女の実家は信州だったか甲州だったか、とにかくその辺りだとの事。勿論彼の地でも神社の縁日ともなれば沿道に露店が軒を連ねるワケで、その晩は当然お祭り好き
のY子も兄と連れだって賑やかな人混みの中にいた。
さっそく輪投げに興じ始めたY子の兄であったが、何度投げても狙った的に嫌われるばかりで持ち輪はどんどん少なくなってゆく。
そして業を煮やした挙げ句に気合いを込めて放った最後の一投は、ようやく彼の執念が通じたものか、狙いは外したとは言えとある景品の台に見事すっぽりと収まった。
「つまんねえなあ。こんなの、俺使わねえからお前にやるよ」
狙っていた超合金のおもちゃを取りそこねていささかご機嫌斜めの兄がY子に手渡したその景品とは、『ひみつのアッコちゃん』の商売道具でお馴染みの丸形コンパクト
ミラーだったのである。
「やたっ!ありがとう兄ちゃん」
「知らない誰かが使った鏡を貰うのって、お婆ちゃんあんまり感心しないねえ」
家に戻って家族に件の戦利品を見せるや否や、彼女の祖母は眉を顰めてそう呟いた。
そのコンパクトは直径6?程度の年季物ではあるものの、いわゆる『いい仕事してますね』的な完成度を誇る、素人目に見ても極上の一品だったと後のY子は述懐する。
微細なエングレーブで縁取られたその上蓋の面には薄紅色に咲き誇る夾竹桃の周りを舞う蝶の群れが、精緻を尽くした螺鈿細工の技法により美しく描かれている。そして
金粉の散らされた裏蓋にはススキの穂を思わせる放射状の飾り絵の中、元の持ち主の名前と思しき草書体の文字が彫られていた。
何れにしろ、およそ露店の香具師が子供騙しのアイテムとして扱う様な代物では無い。
信心深かったとのY子の祖母は、なおも心配げに小さく囁く。
「今からでも遅くないよ。返しに行った方がいいんじゃないかえ?」
「いやだもん。古道具屋さんから買ったと思えばいいじゃない!」
146 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:15:16.03 ID:ujnfAOrg0
翌日からY子はそのコンパクトを肌身離さず持ち歩き始めたと言う。学校では先生に見つからぬ様に休み時間ともなればこっそりとそれを取り出し鏡に映る己の顔を飽きもせずうっと
り見つめ、放課後はそれを繰り返し友達に見せびらかして…という具合。
照れくさ気に頬を掻きながらの彼女曰く、
「ちょっと大人になったかな?みたいな気にさせてくれたあのコンパクトに、何て言うか、情が湧いちゃってねえ」とか。
やがてY子がコンパクトの異変に気づくのには、さほどの日数を要しなかった。
「あれっ?」
その日もいつも通り鏡の中の自分に見惚れていた彼女であったのだが、ひと重で自他共に認めるドングリ目玉である自分の目がほんの一瞬、二重で切れ長のそれに見えたのだと言う。
そしてまたある時は自分の背後に吊されているカレンダーの文字が、普通であれば反転されるはずであるのに当たり前の表示のままで鏡には映っていたりして。
何れの場合も共通するのは、ハッとして鏡を二度見した時にはいつも同様に普通の映り具合に戻っているという事であった。
一度であれば見間違いと言う事もあろう。しかしそれが二度三度と続くとなると、さすがの彼女も一抹の不安を覚えざるを得なくなると言うものである。
その他にも、確かに洗面台脇に置いたはずのコンパクトが、顔を洗い終えて見ると玄関の下駄箱の上に鎮座していたり、パチンと閉じたかと思えば少し目を離した隙にバネ仕掛けの
蝶番でも無いその蓋が、囲炉裏で炙ったホタテの如く何故かパックリと開いていたり。
にも関わらず、Y子はコンパクトを手放す気にはなれなかったそうである。そう、まるで何かに魅入られたかの様に…。
そしてある夜、決定的な出来事が起こった。
ここ数日体調が思わしくないものの、それでも就寝前にいつもの如くコンパクトを開いて鏡の中の自分と対面するY子。
「あたし寝るよ。あんたもおやすみ…」
そして蓋を閉じかけたその時、上蓋と下蓋の隙間で何かが瞬いた様に彼女には思えた。
「え?」
閉じかけていた蓋を再び開けたY子はコンパクトに顔を近づけ、青光りする鏡面を再びまじまじと覗き込む。
その瞬間彼女は見たそうだ。鏡の中の自分の唇が、本来無いはずの八重歯を覗かせてニヤリと薄気味悪く微笑んだのを…。
「パリンッ!」
147 :スヴィトリアーク ◆CQ0ZL4vfUw :2015/08/30(日) 00:16:14.12 ID:ujnfAOrg0
後の記憶は霧中の如く漠然としているために彼女には思い出せない。ただどこか遠いところで、
「タイヘンダ!カアサン!タオル ト ホウタイ ダア! アト ハヤク イシャ…」
「ダカラ イッタンダヨ!アンタ ガ ヘンナモノ ヲ コノコ ニ アゲルカラ…」
「ンナコト イッタッテ オ オレ シラネエヨオ…」
そんな喧噪が聞こえていたのだけは覚えている…との事。
「次の日、コンパクトはお婆ちゃんが近くのお寺に持ってっちゃったみたい。今でこそ兄貴も『あの鏡さ、多分お前が美しすぎるから割れたんだよ。ほら、パタリロのオープニングみたいにさあ』
なんて茶化しやがるけど、その後は普通の鏡さえもしばらくの間見られなかったもんね、あたし」
言い終えた後に、小さく肩をすくめるY子。
「ほう。怖くて普通の鏡も、か。Y子も男勝りに見えて結構、可愛いとこあるじゃないの…しかしその話、本当かい?」
自分の話を疑われ、Y子は紅潮して頬を膨らませた。
「嘘じゃ無いのに!ホラ、もっとこっち来てあたしの顔、じっくり見なさいよ」
言われた通りお互いの吐息が交錯するほどの間近でよく見ると、なるほど彼女の両頬には確かに鋭利な何かを散らされたかの様な小さい古傷の窪みがうっすらと数カ所見て取れる。
「ね、判ってくれた?」
「ああ、よ〜く判ったよ。お前さんの厚化粧の理由がな」
俺の何気ない失言が彼女の中のデリケートな何かをいたく刺激したものか、その後しばらくの間Y子はひと言も口を利いてはくれなかった。
もっともその後、丁度彼女に顔を近づけていたところを忘れ物を取りに来た同サークルの後輩が偶然目撃した様で、誤解を解くために俺はさんざん要らぬ苦労を強いられる羽目になってしまった
のだが、それはまた別の話。
【了】
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