乗客Yx1
戸野 千織(トノ チオリ)
目が覚めたらそこは、走る列車の中だった
51: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 00:08:38 ID:spmolqlGjY
黒猫「なに?知りたくないの?」
千織「・・・!」
ブンブンと首を横に振った
急な出来事に、心臓がバクバクと音を立てている
猫がニヤリと笑った
黒猫「いい?君を助けられるのは、この場においてこの列車の車掌、あいつ一人だけだ」
無意識にうなづく
黒猫「それ以外はどうやったってだめだ。仮にそこの窓から逃げられたとしても、君はまた別の奴に捕まるだろう」
52: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 00:13:20 ID:spmolqlGjY
黒猫「だから、君はあいつに必死に頼むんだ。『私を買ってください』って」
千織「・・・!?」
黒猫「生きたかったら、覚悟を見せな」
ベリリ、と千織の口のテープを剥がす
黒猫「まずは、大声だして騒げ。騒ぎまくって、あいつを呼べ。そしたら・・・わかってるね」
千織「ま、待って!」
千織「そ、そんなこと言ったって、『お前は客の荷物だからだめだ』って、さっき言われちゃったし・・・!」
黒猫「グズグズしてるとミヤコ駅に着くよ」
そう言うと、暗闇に消えていった
53: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:30:15 ID:spmolqlGjY
――人ならざる者たちが座る車内を、手を後ろに組み、歩く
車掌「―お客さま」
タバコをふかしているカエル男の前で止まる
車掌「この列車は、全席禁煙でございます」
蛙男「あぁ?」
車掌「おタバコはおやめください」
蛙男「いいじゃねえか、タバコくらい。こちとらちゃんと乗車券とって乗ってんだ」
車掌「乗車券を持っているからといって、列車内の決まりを破っていい理由にはなりません」
54: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:33:02 ID:spmolqlGjY
蛙男「てめぇ、車掌の分際で客に文句言うのか」
ギロリと車掌をにらむ
車掌「この列車の規則を守れないのであれば、即刻、降りて頂きます」
蛙男「あんだとぉ!?」
立ち上がり、車掌の胸ぐらをつかんだ
他の乗客たちもざわつき始める
蛙男「俺は今、イライラしてんだ。ストレスたまってんだよ、わかるか?タバコくらい吸わせろや」
55: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:36:14 ID:spmolqlGjY
車掌「そのような個人の理由は配慮致しかねます」
蛙男「あぁそうかい!じゃあ消せばいいんだな、わかったよ」
そういうと、蛙男は床にタバコを落とし、グリグリと足でふみつけた
蛙男「これで満足だろぉ?んん?」 ニヤニヤ
車掌「・・・」
車掌「次、規則を破ったときは容赦致しませんので、ご理解ください」
そう言い、タバコの吸い殻を拾った、そのとき――
「わーーーーっ!!!!!」
「!?」
56: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:40:31 ID:spmolqlGjY
突如、大きな声が列車内に響いた
乗客がみなぎょっとする
「わー!!わーー!!わーーー!!!」
ドタドタ、バタン、ガッシャーン!!!
それと同時に、何か物が倒れたり壊れたりするような音がする
どうやら後続の車両からのようだ
車掌「・・・なんなんだ」
小さく舌打ちをして、歩き出した
57: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:47:11 ID:spmolqlGjY
千織「わーわーわー!!わーーっ!!」
必死に大声を出し、騒ぎ立てる
手足は拘束されたままなので、まるでミノムシのようにダンボールに体当たりする
千織「・・・」 ゼェゼェ
千織「わ・・!」
車掌「静かにしろ」
仏頂面をした車掌が部屋に入ってきた
車掌「こんなに散らかして・・・人の仕事を増やさないでもらえるか」
58: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:50:10 ID:spmolqlGjY
千織「車掌さん!!」
息をのみ、口を開く
千織「私を、かっ・・・」
千織「買ってください!!!!」
車掌「は?」
千織「私、何でもします!何でもっ・・・何でも、お手伝いしますから!私を買ってください!!」
車掌「・・・」
千織「もう、このわけのわからない世界で頼れるの、車掌さんしかいないんです!お願いします・・・!」
千織「ご迷惑をかけてしまうのはわかってます!でも、お願いします、買ってください・・・!」
59: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:54:44 ID:spmolqlGjY
車掌「・・・なにか勘違いしているようだが」
千織「え・・・?」
車掌「君を買うことと、君を助けることは等しくない。私は君を助けることはできない」
千織「・・・!」
車掌「誰にそそのかされたかしらないが、私に過剰な期待をしないことだ」
千織「っ・・・それでも!このまま、魚のお化けに連れて行かれるのは困るんです!」
千織「お願いします、お願いします・・・!」
拘束された状態で、必死に頭を下げる
60: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:59:26 ID:spmolqlGjY
千織「髪の毛、根こそぎあげてもいいです!私にできることなら、何でもします!!」
車掌「・・・」
目をつぶり、ため息をつく
車掌「買うということは、君の身体を全て、私が所有することを意味する。わかっているか?」
千織「・・・!」
ゴクリと唾をのむ
千織「わかって、います・・・」
車掌「よろしい」
すると、車掌は背を向け、貨物車両を出て行った
61: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/7(日) 21:21:04 ID:ufTVIcJVgc
魚人「――ん・・・?」
足を組んで座る魚人の前に、車掌が立つ
車掌「・・・」
魚人「なんだ?何か用か?」
車掌「はい。お客さまのお荷物のことなのですが」
魚人「おう」
車掌「あの奴隷、大体いくらほどの値打ちをお考えでしょう」
魚人「あ?なんでそんなこと聞く?」
車掌「ぜひ、私に買わせていただきたい」
62: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/7(日) 21:23:45 ID:ufTVIcJVgc
魚人「・・・ぶっ」
魚人「ぶわははははは!!!」 ゲラゲラ
予想外の言葉に、たまらず笑い出す
魚人「こいつぁ意外だ!人間なんぞ興味ない顔してやがるくせに!!」
車掌「お客さまにこのようなことをお願いするのは重々失礼だと存じ上げておりますが、器量の大きいお客さまでしたら、考えて頂けるかと・・・」
魚人「面白いが、やめときな。車掌ふぜいが払える金額じゃねえ」
63: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/7(日) 21:27:10 ID:ufTVIcJVgc
車掌「おいくらでしょうか?」
魚人「そうだなぁ・・・上流貴族に売れたとしたら、大体1000万くらいか」
車掌「でしたら」
バンッ、と手に持っていたプロテクトケースを開く
大量の札束が視界に広がった
車掌「2000万でお買い致しましょう」 ニッコリ
魚人「・・・!!」
64: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/8(月) 23:51:38 ID:spmolqlGjY
千織(・・・私、どうなっちゃうんだろう)
施錠されたドアを眺め、絶望とわずかな期待を抱く
すると
『――次は、ミヤコ駅。ミヤコ駅でございます』
千織「!」
アナウンスと同時に、列車が速度を緩め始めた
千織(どうすれば・・・)
プシューッ
列車が止まると、乗客が乗り降りする音と同時に、千織のいる貨物車両に誰かが入ってきた
千織「わっ」 バサッ
千織に大きな風呂敷がかぶせられる
65: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/8(月) 23:57:48 ID:spmolqlGjY
兎男「ん?今何か声がしたような・・・」
車掌「そうですか?気のせいでしょう」
兎男「いやはや、私も年ですかな。えーと、これとこれを運べばいいんですな?」
車掌「はい。あと、隅の大きなダンボールも」
兎男「わかりました」
数人の兎男たちが、荷物を運び出している
千織(車掌さんが、見つからないようにしてくれてる・・・?)
やがて、荷物の出し入れが終わったのか、人が出ていく音がした
車掌「――もういいだろう」
フワッと風呂敷がとられる
66: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:01:26 ID:spmolqlGjY
千織「車掌さん・・・」
車掌「君の望み通り、君を買った。今後、全ての行動は私の指示に従ってもらう」
千織「はっ、はい・・・あ、ありがとうございます!」
手足を拘束していた縄をほどく
車掌「名前は?」
千織「はい?」
車掌「君の名前を聞いている」
千織「はっ、はい。戸野千織、です」
車掌「千織。まず君はシャワーをあびて、この服に着替えなさい」
ぽん、と真っ黒な服を渡される。どうやら駅員服のようだ
67: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:05:43 ID:spmolqlGjY
千織「え、えと、シャワーですか?」
車掌「この貨物車両を出てすぐ右手にある」
千織「あの、ありがたいんですけど、その前にいろいろ聞きたいことが・・・」
車掌「君の人間の臭いを消すためでもある。再び変な輩に嗅ぎつけられる前に、対処しなければならない」
千織「人間の臭い・・・。そんなのがあるんですか」
車掌「ある。さきほどの風呂敷は、視覚的だけでなく嗅覚的にも隠す効果があった」
千織「車掌さんは、人間じゃないんですか・・・?」
車掌「そうだ」
さらりと答える
しかし、さきほどの魚人と比べて、風貌は人間にしか見えない
68: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:10:01 ID:spmolqlGjY
千織「人間じゃないって、じゃあ一体・・・」
車掌「静かに」
不意に、口を押えられ、車両の隅へ追いやられた
車掌が覆い隠すように千織の前に立つ
ガタン
ドアが開き、貨物車両に魚人が入ってきた
魚人「・・・お、いたいたぁ」
まさしく千織と恭太を誘拐した魚人だった
車掌「どうされましたか?なにかお忘れ物でも」
魚人「いや別に、なにもないんだが・・・」
ゆっくりと2人に歩み寄ってくる
69: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:13:19 ID:spmolqlGjY
千織「・・・?」
嫌な予感がした
車掌と魚人が、わずか1mの距離に対峙する
察したのか、車掌は小さく息を吐いた
車掌「―・・・申し訳ありませんが」
車掌「この人間を返すことはできません」
魚人「じゃあ死んでもらうしかねぇなあっ!!」
魚人は車掌めがけて腕を振り上げた
70: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:15:20 ID:spmolqlGjY
千織「っ・・・」
思わず目をつむり、うずくまった
・・・・・・・
・・・・・・・・・
何も音がしない
千織(いったい、何が起きたの・・・?)
薄く目をあけると―――
千織「え・・・」
魚人は腕を振り上げたまま、硬直していた
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