乗客Yx1
戸野 千織(トノ チオリ)
目が覚めたらそこは、走る列車の中だった
2: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:27:44 ID:4iSJ1d7xp2
千織(・・・あれ、いつのまに電車なんて乗ってたんだろ・・・)
電車に乗る前の記憶が全くない
千織(無意識のうちに乗ってたのかな・・・。でも、これ何線だろう)
通学に使う山手線や総武線とは似つかない、一面茶色の車両
窓から見えるのは、真っ黒な景色
3: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:30:40 ID:4iSJ1d7xp2
千織(なんか、やばいかも・・・)
ぼんやりした目覚めの感覚から、徐々に危機の意識が湧いてくる
スマホを取りだし時間を見ると、午前 2時3分の表示
千織(ありえない、こんな時間に電車に乗ってるなんて)
他に乗客が数人いるが、皆うつむき表情が見えない
4: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:34:44 ID:4iSJ1d7xp2
ピーッ
千織「!?」
前方のドアが開き、奥から1人の男性が姿を現した
帽子を目深にかぶり、手を後ろに組んだままこちらに歩み寄ってくる
千織(車掌さんだ・・・!)
風貌をみるに、車掌のようである
無意識に安堵し、保護されたような気分になった
5: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:38:39 ID:4iSJ1d7xp2
千織「あっ、あのっ」
思わず話しかける
千織「これってなんていう電車ですか?すみません、知らないうちに乗ってしまっていて・・・」
車掌「・・・」
千織「あ、あの・・・?」
車掌「・・・電車ではありません」
千織「え?」
6: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:41:50 ID:4iSJ1d7xp2
車掌「電気で動いておりません。この列車は、全て精力を燃料にしております」
千織「せ、せいりょく・・・?」
車掌「お客さま、乗車券を拝見いたします」
男はすっと手を差し出した
千織「あっ、えっ、えっと・・・」
あわててポケットに手をつっこむと、乗車券らしきものはなかったが、財布があるのを確認できた
7: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:46:09 ID:4iSJ1d7xp2
千織「あの、乗車券持ってなくて・・・。現金でもいいですか?」
車掌「現金でのお支払いはお受けしておりません」
千織「そ、そうなんですか!?どうしよう・・・suicaならあるんですけど」
車掌「・・・」
男は小さく息を吐いた
車掌「お客さま、どこからお乗りですか?」
千織「ご、ごめんなさい、覚えてないんです・・・。住んでるところは東京の荒川区なんですけど・・・」
車掌「・・・わかりました」
8: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 20:50:25 ID:4iSJ1d7xp2
男は白い手袋をはめた手を伸ばし、優しく千織の髪にふれた
千織「え・・・?」
車掌「今回は、乗車賃としてこれを頂きます」
千織「へ・・・?あ、あの」
車掌「もう二度と、この列車に乗ることがありませんように。その時は、お送りできる保証はありませんので」
千織「・・・!?」
ふわりと風が吹き、一瞬、帽子の奥から男の瞳が見えた
――それと同時に、千織は気を失った
9: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 23:51:44 ID:8vQGUW9sCM
乗客Yx2
沖 恭太(オキ キョウタ)
10: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 23:53:44 ID:8vQGUW9sCM
恭太「――ちおちゃん!?!?」
千織「お、おはよう」
恭太「か、か、髪どうしたの!?なんか嫌なことでもあった!?」
千織「ううん、何もないよ。イメチェンしたかっただけ」
恭太「だ、だって、小学校のころからずっとロングだったのに」
千織「どうせ似合ってないですよーだ」
恭太「そんなことないよ!ボブのちおちゃんも超カワイイ!!」
千織「もー恥ずかしいからやめて」
11: ◆e.A1wZTEY.:2017/4/30(日) 23:58:18 ID:8vQGUW9sCM
――今朝
気がついたら、私は荒川区にある公園のベンチで寝ていた
胸まであった長い黒髪はばっさりと切られ、無造作なショートヘアになっていた
切られた髪は、どこにも見当たらない
千織(・・・あれは、夢じゃなかった・・・)
髪に触れ、車掌服を着た男の言葉を思い出す
『今回は、乗車賃としてこれを頂きます』
千織(・・・こんなのってアリ・・・?)
12: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:05:39 ID:spmolqlGjY
――どうやら私は高校が終わってから半日、夕方〜朝方の間行方不明になっていたらしい
親が帰宅しない私を心配し、捜索願を出すかどうかというところで帰ることができた
髪のことを含め散々問いただされたが、曖昧にごまかすしか術がなく、美容院で髪を整えてもらい午後から登校する次第となった
恭太「っていうかさー、昨日なんでLINE返してくれなかったんだよぉ。宿題教えてもらいたかったのにー」
千織「ごめんごめん。気づいたら寝ちゃってて」
どうやら、私が行方不明になっていたことを知らないらしい
13: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:11:41 ID:spmolqlGjY
恭太「確かに、昨日の帰り道でなんか疲れてるっぽかったもんねー」
千織(昨日の帰り道・・・)
千織「ねぇ沖くん、私昨日・・・」
恭太「ん?」
千織「ふ、普通に帰ってた?」
恭太「? どゆこと?」
千織「だからその、沖くんと別れるまで・・・」
恭太と途中まで一緒に帰り、別れるところまでは記憶がある
だが、帰り道を分岐してからは、断片的で、曖昧な記憶しかない
14: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:18:12 ID:spmolqlGjY
恭太「普通だったよ?なんで?」
千織「な、なんでもない。そうだよね、うん。なんでもない」
恭太「え、なに、気になるじゃーん!」
恭太「…あ!もしかして変質者がいたとか!?今日は俺が家まで送ったほうがいい!?」
千織「だ、大丈夫。大丈夫だから」
15: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:21:28 ID:spmolqlGjY
帰り道
恭太「−じゃあ、ちおちゃんまたね!」
千織「うん、またね」
手を振り、2人はT字路で左右の道へ分かれた
すぅっと息を吸う
別に怖くなんかない
いつも通り、普通に帰ればいいのだ
いつものように、人がまばらなマンション街を歩く
何もない 何も思い出さない
何も――
16: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 00:25:01 ID:spmolqlGjY
『お客さま』
ふっと、あの車掌の声が脳裏によぎる
最後に見た漆黒の瞳
千織(・・・あの人は)
千織(あの人は、誰なんだろう)
わからない でも、別にわからなくてもいい
気がつけば、自分の住むマンションの前に来ていた
千織(・・・何も、なかった)
千織は安堵すると、勢いよく階段を駆け上がった
17: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 21:54:52 ID:spmolqlGjY
――あれから、1か月たった
ショートヘアの違和感にも慣れ、あの時のことは忘れつつあった
自分の髪を見るたびふと思い出すこともあるが、あれは現実のような夢だったのだ
そう、夢だったのだ そう思うことにしていた
恭太「――ちおちゃん!」
千織「あ、沖くん」
恭太「待たせてごめんねー、先生の説教長くってさぁ。さぁ、かえろー!」
千織「ちゃんと宿題出さなきゃだめだよ?」
恭太「今回は家に忘れちゃっただけなんだよ〜」
千織「もう、それ何回目?」 クスクス
18: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 21:58:36 ID:spmolqlGjY
恭太「・・・あ!そうだ、大事なこと思い出した」
千織「大事なこと?」
恭太「はい、これ!」 スッ
カバンの中から、ピンク色の包装紙に包まれた小さな箱を取りだす
恭太「きょう、ホワイトデーでしょ!」
千織「あ・・・」
19: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:00:14 ID:spmolqlGjY
恭太「ちおちゃんには、バレンタインデーにおいしいクッキーもらったからね〜」 ニコニコ
千織「で、でも、沖くんもバレンタインにチョコくれたじゃない。私てっきり交換だと思って・・・」
恭太「いいのいいの!俺がホワイトデーにお返しあげたいだけなんだから!」
千織「あ、ありがとう・・・。また手作りしてくれたの?」
恭太「もち!愛情100%!」
千織「沖くんの女子力にはかなわないなぁ〜」
20: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:07:24 ID:spmolqlGjY
恭太「あーあ、ちおちゃんと帰ってると帰り道があっという間だなぁ」
千織「またすぐ明日会えるでしょ」
恭太「そうだけどさー、寂しいっていうか・・・」
千織「寂しい?」
恭太「うん」
千織「変なのー」クスクス
恭太「ほんとだよ、俺ちおちゃんがいないと…」
千織「あ、いけない!今日お母さんに夕飯の買い出し頼まれてたんだった!」
千織「じゃあ、沖くんまたね!チョコほんとにありがと!」 タタタッ
恭太「あっ・・・!」
21: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:14:05 ID:spmolqlGjY
恭太と別れてからいつも1人で帰る道を、今日は少し早足で歩いていく
千織(えっと…ネギと人参だっけ?も〜、お母さん、学校帰りに買い出し頼むのやめてほしいな〜)
少し閑散とした通りに出ると、小さな池が見えた
あの池を過ぎれば、自宅からもっとも近いスーパーがある
千織(・・・?)
1人の男の子が池の前でしゃがみこみ、じっと何かを見つめている
千織「ぼく、この池はけっこう深いから危ないよ」
なんとなく声をかける
そう、声をかけてしまった
22: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:23:29 ID:spmolqlGjY
男の子はゆっくりと立ち上がり、千織を見た
10歳にも満たないだろうか、まだ肌寒い時期だというのに半袖を着て半ズボンをはいている
眠そうな表情と、ぼさぼさの栗色の髪
男の子「――おねえちゃん」
男の子「おねえちゃん、ぼく、おなかすいたよ」
ぼそりと、かすれた声で言う
千織(もしかして、貧乏な子なのかな・・・上着着てないし)
千織「ぼく、おうちはどこ?お母さんは?」
男の子「・・・」
男の子「・・・ねぇおねえちゃん、おなか、すいた」
千織「・・・」
23: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:26:15 ID:spmolqlGjY
千織「ご、ごめんね、今おねえちゃん何も食べ物持ってなくて・・・」
男の子「うそ。持ってる」
千織「え?」
男の子「そこに入ってる」
千織のカバンを指さす
千織(・・・もしかして)
カバンから、恭太からもらったチョコを取りだす
千織「こ、これはね、友だちからもらったものだから・・・」
そのとき
ふっと、脳内に記憶がよみがえった
24: 名無しさん@読者の声:2017/5/1(月) 22:33:43 ID:spmolqlGjY
千織(あれ・・・?こんなこと、前にもどっかで・・・)
男の子「・・・おねえちゃん、前はぼくに、それくれたよ」
千織「え?」
男の子「ぼく、それ好きなんだ。だから、今日ももらいにきたの」
千織「・・・!」
男の子の生気のない眼を見つめていると、ぞわぞわと忘れていたものが視界に、耳に、背筋にかけめぐる
1か月前、2月14日
あの日、私は同じように沖くんからもらったチョコを――
25: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/1(月) 22:37:56 ID:spmolqlGjY
「ちおちゃん!!」
はっとして振り向くと、恭太が息を切らしながら走ってきていた
千織「沖くん・・・!?」
恭太「あのねちおちゃん!俺、どうしても今日伝えたいことがあって」
千織「だめ、沖くん来ちゃだめ!!」
恭太「ホワイトデーだから、どうしても伝えたくて!俺、ちおちゃんのことが――」
千織「来ちゃだめ、戻って!!!」
次の瞬間
男の子が、千織の手からチョコをもぎとった
男の子「えへへ、またもらっちゃった・・・」
千織「・・・!」
男の子「お礼に、また、連れてってあげるね」
視界から、色が消えた
26: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 18:59:58 ID:spmolqlGjY
――ガタンゴトン ガタンゴトン
――ガタンゴトン ガタンゴトン
千織(・・・・また・・・・)
ガタンゴトン
千織(・・・・来て、・・・・)
ガタン、
「お客さま」
千織「!」 ハッ
27: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:02:30 ID:spmolqlGjY
目を開けると、そこは、”あの”列車のなかだった
目の前には、帽子を目深にかぶった、”あの”車掌
1か月前となんら変わりなく、背筋をのばし、手を後ろで組んで、千織を見下ろしている
車掌「・・・お客さま」
車掌「乗車券を、拝見いたします」
千織「っ・・・」
間違いない
また、あのよくわからない列車
現金も、suicaも使えない列車
28: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:05:45 ID:spmolqlGjY
千織「・・・・・」
心臓がバクバクと音をたて、何も喋ることができない
車掌「・・・」
千織「・・・」
車掌「・・・お客さま」
千織「・・・・まっ・・・」
なんとか声をしぼりだす
千織「っま、また、髪をあげます!だから、元の世界へかっ、帰してください!」
車掌「・・・」
29: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:12:19 ID:spmolqlGjY
千織「私、ほんとに何も知らないんです!知らなくて、乗ってしまって・・・」
千織「だから、乗車券とか持ってなく、て・・・」
車掌「・・・」
車掌「あなたの今の髪の長さでは、足りません」
千織「・・・!?」
車掌「毛根から根こそぎ頂くことになりますがよろしいでしょうか?」
千織「もっ、毛根!?」
車掌「・・・はい」
ゆっくりと、千織の髪に手を伸ばす――
そのときだった
30: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/2(火) 19:14:32 ID:spmolqlGjY
恭太「てめぇっ、ちおちゃんから離れろ!!」
ドゴッ!!
千織「!?」
突如視界に恭太が現れ、車掌を殴りとばした
車掌は勢いよく近くの座席シートに激突した
千織「おっ、沖くん・・・!?」
恭太「ちおちゃん、気をつけろ!こいつはさっき、俺を奥の車両に閉じ込めやがった!!」
千織「え・・・!?」
恭太「これは普通の列車じゃない!俺たちをどっかへさらおうとしてるんだ!!」
31: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 20:45:35 ID:spmolqlGjY
車掌「・・・まったく」
口元の血をぬぐい、ゆっくりと立ちあがる
帽子がとれたその姿は、意外にも千織たちとほぼ同年代の若い青年だった
車掌「無賃乗車の分際で、よく吠える」
恭太「なんだと・・・!?」
車掌「この列車に乗ったからには、この列車の規律を守って頂こう。君は大声出して列車内を徘徊するという迷惑行為をしていたので、閉じ込めたまでのこと」
千織(車掌さん・・・!?)
今までの丁寧な口調とは打って変わり、鋭い口調になっている
32: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 20:50:42 ID:spmolqlGjY
恭太「へっ、あんなロック、力づくで壊してやったし!」
恭太「つーか、俺たちをどこへ連れて行くつもりなんだ!今すぐ降ろしやがれ!!」
車掌「・・・」
千織「沖くん、待って・・・!」
恭太「ちおちゃん、安心して。降りさえすれば、俺んち電話して、車出してもらうから」
恭太「聞こえてんのかお前!!さっさと列車を止めやがれ!!」
車掌「・・・わかりました」
プシューッッ!!
千織「ひゃっ」
恭太「うわっ」
33: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 20:55:53 ID:spmolqlGjY
大きな音を立て、列車が止まった。ドアが開く
千織「・・・!」
車掌「どうぞ」
恭太「お、おう・・・」
あっけなく止まったので、少し動揺したが、すぐさま千織の手をつかむ
恭太「ちおちゃん、行くよ!」
千織「まっ待って」
ギリギリのところで制止する
千織「車掌さん、あの」
車掌「・・・なんでしょう」
34: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 21:01:18 ID:spmolqlGjY
千織「おっ、遅くなりましたけど、この間は送って頂いてありがとうございました!」
車掌「・・・」
恭太「え!?送ってもらったってなに!?」
千織「沖くんが、失礼をしてすみませんでした」 ペコリ
車掌「・・・」
恭太「え、ちょっと待って、どゆこと?知り合いだったの?」
千織「ううん、そういうわけじゃ・・・」
車掌「降りるならさっさと降りてください。いい迷惑です」
恭太「な、なんだよ、かんじわる・・・。ちおちゃん、行こう!」
恭太が手を引くと、2人は列車を飛び出した
外は暗黒だった
35: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 21:15:02 ID:spmolqlGjY
黒猫「――いいの?逃がしちゃって」 クスクス
座席の上で、1匹の黒猫が毛づくろいする
車掌「どういう意味」
黒猫「人間なんて、貴重な”燃料”になるじゃないか。みすみす放すなんてもったいない」
黒猫「大体さあ、人間がこんなとこで降りたら、魚人あたりに喰われるのが関の山だよねー」
車掌「知ったことか。全く、客だと思って丁重に扱ってやったらこのザマだ」
不服そうに血が滲んだ口元をぬぐう
黒猫「あらー殴られちゃったの?珍しいね」 クスクス
車掌「ほっとけ」
プシューッと音を立てると、列車は再び走り出した
36: 名無しさん@読者の声:2017/5/4(木) 22:29:10 ID:lH5VhHYhaA
支援
37: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:20:48 ID:spmolqlGjY
>>36
ヒエッ、初支援ありがとうございます…!
嬉しいです頑張って毎日更新するのでよろしくお願いします//
38: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:25:53 ID:spmolqlGjY
恭太「――まいったなぁ」
河川敷に座り、スマホを操作する
恭太「ここ、全然電波とんでねーじゃん。しっかりしろよクソ●トバンク」
千織「私も繋がらないや」
恭太「ていうかさ、何で俺たちこんなとこに来ちゃったんだ?全然覚えてないんだけど」
千織「・・・」
どうやら恭太には、以前の千織と同様、ここに来る直前の記憶がないらしい
千織(今度は、私覚えてる・・・。あの男の子にチョコをあげたら、ここに来てしまった・・・)
恭太「とりあえず、どっかの家に電話借りようか」
と、その時
目の前の河川から、ばしゃんと大きな音がした
39: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:31:03 ID:spmolqlGjY
???「あー、はらへったな・・・・」
何かが、川の中から這い上がってくる
千織「・・・!」
恭太「な、なんだよあれ・・・」
暗がりではっきりとはみえないが、人の形ではないことはわかる
いや、手足のようなシルエットはみえる
???「・・・」
それは、こちらに気づいたのか、じっと見つめてきた
40: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:35:21 ID:spmolqlGjY
千織「お、沖くん、」
そでをつかむ。嫌な予感がする
凝視すると、それの姿が把握できた
全長2mほどの大きな魚に、手足が生えている
恭太「―逃げるぞ!!」 ダッ
千織「きゃっ」
危機を察知し、恭太は千織の手をつかみ逆方向へ走り出した
同時に、魚人も無言でダッシュを切り追いかけはじめる
41: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:40:50 ID:spmolqlGjY
恭太「なっ、なんだよあの化け物っ・・・」
千織「沖くん、列車に戻ろう!」
恭太「もう出発してる!無理だ!」
暗い土手を、無我夢中で走る
あの化け物がどこまで追ってきているのか、確認する余裕もない
魚人「はい、追いついた」
「!?」
突如、背後から肩をつかまれ、千織は地面に尻もちをついた
42: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:46:20 ID:spmolqlGjY
恭太「ちおちゃん!!」
魚人がニタニタと笑い、千織の首ねっこをつかむ
恭太「てっ、てめぇ!ちおちゃんをはなせ!!」
叫ぶが、ガタガタと足が震えている
魚人「まさか人間を見つけるなんてなぁ・・・。幸運だぜ」
千織「沖くん、逃げて!!」
次の瞬間
ドゴッ!!
恭太「う、」
千織「!!」
恭太は腹に拳を入れられ、バタリと地面に崩れおちた
43: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 20:46:40 ID:ufTVIcJVgc
―――――
千織「――ん・・・」
目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった
千織「・・・!?」
身体の自由がきかない
手足が縄で拘束され、口にはテープが貼られている
千織「んっ、んっ」
必死にもがくが、一向に縄がほどける気配はない
千織(沖くんは・・・!?)
44: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 20:49:32 ID:ufTVIcJVgc
まわりを見回すが、恭太の姿はない
ダンボールがそこら中に積まれている
すると
ギイイイィ・・・
千織「!」
部屋の扉が開いた
45: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 20:53:08 ID:ufTVIcJVgc
入ってきたのは、魚人と、
千織(車掌さん・・・!?)
あの、車掌だった
魚人「あ、起きてるじゃねーか」
ニタニタと笑いながら近づき、千織の顎をつかむ
魚人「てめぇは女だからなぁ・・・。高値で売ってやるぜ」
千織「・・・!」
46: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 20:56:33 ID:ufTVIcJVgc
魚人「オレの荷物は、これと、これと、この奴隷だ」
2つのダンボール箱と千織を指さす
魚人「ミヤコ駅まで運んでくれ。くれぐれも人間だからって食ってくれるなよ」 ケラケラ
車掌「かしこまりました」 ペコリ
車掌が会釈すると、魚人は部屋を出て行った
千織「んーっ、んーっ」
車掌もそれに続こうとするのを、必死で止める
47: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 21:03:20 ID:ufTVIcJVgc
千織「んー!んんーっ!」
車掌「・・・」 ハァ
小さくため息をつき、千織の方へ振り返る
車掌「君を助けることはできない。君はこの貨物車両に積まれた『荷物』だ」
千織「んーっ!んーっ!!」
車掌「これからは、魚人の奴隷として生きていくことだ」
バタン
慈悲もなく、車掌は出て行った
48: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 23:53:30 ID:spmolqlGjY
魚人「いやー、にしても、人間なんて珍しいモン見つけるなんて超ついてるわぁ。そう思わねえ?」
列車内をご機嫌で歩く
車掌「そうですね」
魚人「しかも2人だぜ2人!たまに人間が迷い込んでも誰かにとられちまうからなぁ」
車掌「運ぶのは1人だけでよろしいのですか?」
魚人「あぁ、男の方は今晩の夕飯だ。母ちゃんに蒸し餃子にしてもらうんだあ〜楽しみだぜ」
車掌「そうですか」
49: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 00:00:11 ID:spmolqlGjY
ゴトン、ゴトン・・・
音を立て、列車が走りはじめる
千織が閉じ込められているのは、最も後続の貨物車両だった
千織(どうすれば・・・)
千織(どうすれば、いいんだろう・・・)
どうやら自分は、どこかで奴隷として売られてしまうらしい
千織(沖くんは、無事なのかな・・・)
そのとき
「にゃ〜〜ご」
千織「!」
1匹の黒猫が、部屋の隅から姿を現した
50: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 00:03:26 ID:spmolqlGjY
千織(ね、ねこ・・・?なんでこんな所に・・・)
黒猫は千織に歩み寄ると、ペロリと千織の頬をなめた
千織(かわいい・・・)
千織「んー、んー」
黒猫「にゃー」
千織「んー」
黒猫「助かる方法、教えてあげようか」
千織「!?」 ビクッ
千織(しゃしゃしゃ喋った・・・!?!?)
思わず身をのけぞり、猫から距離をとる
51: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 00:08:38 ID:spmolqlGjY
黒猫「なに?知りたくないの?」
千織「・・・!」
ブンブンと首を横に振った
急な出来事に、心臓がバクバクと音を立てている
猫がニヤリと笑った
黒猫「いい?君を助けられるのは、この場においてこの列車の車掌、あいつ一人だけだ」
無意識にうなづく
黒猫「それ以外はどうやったってだめだ。仮にそこの窓から逃げられたとしても、君はまた別の奴に捕まるだろう」
52: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 00:13:20 ID:spmolqlGjY
黒猫「だから、君はあいつに必死に頼むんだ。『私を買ってください』って」
千織「・・・!?」
黒猫「生きたかったら、覚悟を見せな」
ベリリ、と千織の口のテープを剥がす
黒猫「まずは、大声だして騒げ。騒ぎまくって、あいつを呼べ。そしたら・・・わかってるね」
千織「ま、待って!」
千織「そ、そんなこと言ったって、『お前は客の荷物だからだめだ』って、さっき言われちゃったし・・・!」
黒猫「グズグズしてるとミヤコ駅に着くよ」
そう言うと、暗闇に消えていった
53: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:30:15 ID:spmolqlGjY
――人ならざる者たちが座る車内を、手を後ろに組み、歩く
車掌「―お客さま」
タバコをふかしているカエル男の前で止まる
車掌「この列車は、全席禁煙でございます」
蛙男「あぁ?」
車掌「おタバコはおやめください」
蛙男「いいじゃねえか、タバコくらい。こちとらちゃんと乗車券とって乗ってんだ」
車掌「乗車券を持っているからといって、列車内の決まりを破っていい理由にはなりません」
54: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:33:02 ID:spmolqlGjY
蛙男「てめぇ、車掌の分際で客に文句言うのか」
ギロリと車掌をにらむ
車掌「この列車の規則を守れないのであれば、即刻、降りて頂きます」
蛙男「あんだとぉ!?」
立ち上がり、車掌の胸ぐらをつかんだ
他の乗客たちもざわつき始める
蛙男「俺は今、イライラしてんだ。ストレスたまってんだよ、わかるか?タバコくらい吸わせろや」
55: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:36:14 ID:spmolqlGjY
車掌「そのような個人の理由は配慮致しかねます」
蛙男「あぁそうかい!じゃあ消せばいいんだな、わかったよ」
そういうと、蛙男は床にタバコを落とし、グリグリと足でふみつけた
蛙男「これで満足だろぉ?んん?」 ニヤニヤ
車掌「・・・」
車掌「次、規則を破ったときは容赦致しませんので、ご理解ください」
そう言い、タバコの吸い殻を拾った、そのとき――
「わーーーーっ!!!!!」
「!?」
56: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:40:31 ID:spmolqlGjY
突如、大きな声が列車内に響いた
乗客がみなぎょっとする
「わー!!わーー!!わーーー!!!」
ドタドタ、バタン、ガッシャーン!!!
それと同時に、何か物が倒れたり壊れたりするような音がする
どうやら後続の車両からのようだ
車掌「・・・なんなんだ」
小さく舌打ちをして、歩き出した
57: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:47:11 ID:spmolqlGjY
千織「わーわーわー!!わーーっ!!」
必死に大声を出し、騒ぎ立てる
手足は拘束されたままなので、まるでミノムシのようにダンボールに体当たりする
千織「・・・」 ゼェゼェ
千織「わ・・!」
車掌「静かにしろ」
仏頂面をした車掌が部屋に入ってきた
車掌「こんなに散らかして・・・人の仕事を増やさないでもらえるか」
58: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:50:10 ID:spmolqlGjY
千織「車掌さん!!」
息をのみ、口を開く
千織「私を、かっ・・・」
千織「買ってください!!!!」
車掌「は?」
千織「私、何でもします!何でもっ・・・何でも、お手伝いしますから!私を買ってください!!」
車掌「・・・」
千織「もう、このわけのわからない世界で頼れるの、車掌さんしかいないんです!お願いします・・・!」
千織「ご迷惑をかけてしまうのはわかってます!でも、お願いします、買ってください・・・!」
59: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:54:44 ID:spmolqlGjY
車掌「・・・なにか勘違いしているようだが」
千織「え・・・?」
車掌「君を買うことと、君を助けることは等しくない。私は君を助けることはできない」
千織「・・・!」
車掌「誰にそそのかされたかしらないが、私に過剰な期待をしないことだ」
千織「っ・・・それでも!このまま、魚のお化けに連れて行かれるのは困るんです!」
千織「お願いします、お願いします・・・!」
拘束された状態で、必死に頭を下げる
60: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 21:59:26 ID:spmolqlGjY
千織「髪の毛、根こそぎあげてもいいです!私にできることなら、何でもします!!」
車掌「・・・」
目をつぶり、ため息をつく
車掌「買うということは、君の身体を全て、私が所有することを意味する。わかっているか?」
千織「・・・!」
ゴクリと唾をのむ
千織「わかって、います・・・」
車掌「よろしい」
すると、車掌は背を向け、貨物車両を出て行った
61: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/7(日) 21:21:04 ID:ufTVIcJVgc
魚人「――ん・・・?」
足を組んで座る魚人の前に、車掌が立つ
車掌「・・・」
魚人「なんだ?何か用か?」
車掌「はい。お客さまのお荷物のことなのですが」
魚人「おう」
車掌「あの奴隷、大体いくらほどの値打ちをお考えでしょう」
魚人「あ?なんでそんなこと聞く?」
車掌「ぜひ、私に買わせていただきたい」
62: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/7(日) 21:23:45 ID:ufTVIcJVgc
魚人「・・・ぶっ」
魚人「ぶわははははは!!!」 ゲラゲラ
予想外の言葉に、たまらず笑い出す
魚人「こいつぁ意外だ!人間なんぞ興味ない顔してやがるくせに!!」
車掌「お客さまにこのようなことをお願いするのは重々失礼だと存じ上げておりますが、器量の大きいお客さまでしたら、考えて頂けるかと・・・」
魚人「面白いが、やめときな。車掌ふぜいが払える金額じゃねえ」
63: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/7(日) 21:27:10 ID:ufTVIcJVgc
車掌「おいくらでしょうか?」
魚人「そうだなぁ・・・上流貴族に売れたとしたら、大体1000万くらいか」
車掌「でしたら」
バンッ、と手に持っていたプロテクトケースを開く
大量の札束が視界に広がった
車掌「2000万でお買い致しましょう」 ニッコリ
魚人「・・・!!」
64: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/8(月) 23:51:38 ID:spmolqlGjY
千織(・・・私、どうなっちゃうんだろう)
施錠されたドアを眺め、絶望とわずかな期待を抱く
すると
『――次は、ミヤコ駅。ミヤコ駅でございます』
千織「!」
アナウンスと同時に、列車が速度を緩め始めた
千織(どうすれば・・・)
プシューッ
列車が止まると、乗客が乗り降りする音と同時に、千織のいる貨物車両に誰かが入ってきた
千織「わっ」 バサッ
千織に大きな風呂敷がかぶせられる
65: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/8(月) 23:57:48 ID:spmolqlGjY
兎男「ん?今何か声がしたような・・・」
車掌「そうですか?気のせいでしょう」
兎男「いやはや、私も年ですかな。えーと、これとこれを運べばいいんですな?」
車掌「はい。あと、隅の大きなダンボールも」
兎男「わかりました」
数人の兎男たちが、荷物を運び出している
千織(車掌さんが、見つからないようにしてくれてる・・・?)
やがて、荷物の出し入れが終わったのか、人が出ていく音がした
車掌「――もういいだろう」
フワッと風呂敷がとられる
66: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:01:26 ID:spmolqlGjY
千織「車掌さん・・・」
車掌「君の望み通り、君を買った。今後、全ての行動は私の指示に従ってもらう」
千織「はっ、はい・・・あ、ありがとうございます!」
手足を拘束していた縄をほどく
車掌「名前は?」
千織「はい?」
車掌「君の名前を聞いている」
千織「はっ、はい。戸野千織、です」
車掌「千織。まず君はシャワーをあびて、この服に着替えなさい」
ぽん、と真っ黒な服を渡される。どうやら駅員服のようだ
67: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:05:43 ID:spmolqlGjY
千織「え、えと、シャワーですか?」
車掌「この貨物車両を出てすぐ右手にある」
千織「あの、ありがたいんですけど、その前にいろいろ聞きたいことが・・・」
車掌「君の人間の臭いを消すためでもある。再び変な輩に嗅ぎつけられる前に、対処しなければならない」
千織「人間の臭い・・・。そんなのがあるんですか」
車掌「ある。さきほどの風呂敷は、視覚的だけでなく嗅覚的にも隠す効果があった」
千織「車掌さんは、人間じゃないんですか・・・?」
車掌「そうだ」
さらりと答える
しかし、さきほどの魚人と比べて、風貌は人間にしか見えない
68: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 00:10:01 ID:spmolqlGjY
千織「人間じゃないって、じゃあ一体・・・」
車掌「静かに」
不意に、口を押えられ、車両の隅へ追いやられた
車掌が覆い隠すように千織の前に立つ
ガタン
ドアが開き、貨物車両に魚人が入ってきた
魚人「・・・お、いたいたぁ」
まさしく千織と恭太を誘拐した魚人だった
車掌「どうされましたか?なにかお忘れ物でも」
魚人「いや別に、なにもないんだが・・・」
ゆっくりと2人に歩み寄ってくる
69: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:13:19 ID:spmolqlGjY
千織「・・・?」
嫌な予感がした
車掌と魚人が、わずか1mの距離に対峙する
察したのか、車掌は小さく息を吐いた
車掌「―・・・申し訳ありませんが」
車掌「この人間を返すことはできません」
魚人「じゃあ死んでもらうしかねぇなあっ!!」
魚人は車掌めがけて腕を振り上げた
70: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:15:20 ID:spmolqlGjY
千織「っ・・・」
思わず目をつむり、うずくまった
・・・・・・・
・・・・・・・・・
何も音がしない
千織(いったい、何が起きたの・・・?)
薄く目をあけると―――
千織「え・・・」
魚人は腕を振り上げたまま、硬直していた
71: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:41:32 ID:spmolqlGjY
魚人「て、てめぇ!なんだこれは…!」
車両の壁や床から黒い手が出現し、魚人の手足に巻き付いている
車掌「あなたはもう、乗客ではありませんから。容赦はしません」
魚人「…!」
魚人「ま…待ってくれ!俺はそんなつもりじゃなかった、はは、」
車掌「残念ながら、あなたには遅かれ早かれ死んでいただく予定でした。私が人間を所有していると、あちこちにバラされては困りますので」
魚人「そんなことはしない、そんなことはしないから殺さないでくれ!」
車掌「千織、目を閉じて」
千織「っ…」
次の瞬間、ザシュッッ、と鈍い音がした
72: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:44:18 ID:spmolqlGjY
千織「…」
思わず目をあけてしまう
魚人は黒い手に胸を3か所、突き抜かれていた
巨体が倒れる姿を見て、口をおさえる
千織「あ、あなたは、…」
黒い手が、すすす、と消えていく
車掌「…」
車掌「…この列車は、全て私の意志で生きている。そういうことです」
73: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:13:52 ID:ufTVIcJVgc
――しばし沈黙が流れたあと
千織はハッとして叫んだ
千織「そうだ、沖くん!沖くんを助けなきゃ!!」
車掌「・・・あぁ、あの連れの」
千織「この魚人に連れ去られた後、離れ離れになっちゃったんです!どうしよう、早く探しに行かないと――」
車掌「もう手遅れだろう」
千織「どういうことですか!?」
車掌「この世界で人間は希少であり、食料としても奴隷としても需要が高い。常識的に考えて、あの男はもう煮るなり焼くなりされている」
74: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:15:52 ID:ufTVIcJVgc
千織「っ・・・なにが常識なんですか!!」
千織「大事な友達なんです!お願いです、助けてください!お願いします!!」
車掌「これ以上私の仕事を増やさないでほしい」
千織「お願いします!車掌さんしか頼れないんです…!お願いします、お願いします」
何度も頭を下げる
車掌「…」
車掌「…では、その男を助けて、私に何のメリットがあるのか教えてほしい」
千織「え…」
車掌「私は人間を助けるボランティア活動をしているわけではない」
75: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:21:23 ID:ufTVIcJVgc
千織「っ… に、人間は希少なんですよね?その人間をもう1人、車掌さんが手に入れられると思えば」
車掌「私は人間を食べないし奴隷にする趣味もない。君を買ったのも仕方なく、だ」
千織「じゃ、じゃあ、車掌さんは何が欲しいんですか?」
車掌「…」
車掌「この列車を動かすのに必要な精力。私はそれだけあればいい」
千織「よ、要するに、この列車の人手が足りてないってことですよね!?じゃあ、私が一生懸命働きますから!車掌さんの負担を減らせるように、何でもしますから…!」
76: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:23:46 ID:ufTVIcJVgc
車掌「…何も理解してないくせに、よく言う」
千織「え?」
車掌「やれやれ」
ため息をつくと、車掌は息絶えた魚人の懐に手を入れた
千織「・・・?」
車掌「―あった」
取りだしたのは、なにやら携帯電話のようなもの
77: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:25:40 ID:ufTVIcJVgc
カチャカチャ、カチ
慣れた手つきで操作し、どこかに通話をかけはじめた
プルルルル、プルルルル―――ガチャッ
魚人母『はいもしもし』
車掌「――あぁもしもし、俺だけど」
千織「!」
なんと、車掌の声が魚人そっくりになっていた
78: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:27:57 ID:ufTVIcJVgc
魚人母『俺?』
車掌「やだなぁ俺の声忘れたの、母さん」
魚人母『あぁ、あんたかい?あんたミヤコ駅ついたんかね?』
車掌「着いたよ、ついさっきね。奴隷も無事だ」
魚人母『そいつは良かった。高値で売ってくるんだよ〜』
車掌「わかってる。ところでさ、昨日捕まえたもう1匹の人間って、どうした?」
魚人母『んん?あんたが飯にしろって言ったから、ちょうど今、塩を塗ってるところさね』
千織「・・・!!」
車掌「そう。せっかく準備してるところ申し訳ないんだけどさ・・・」
79: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:30:45 ID:ufTVIcJVgc
車掌「ちょうど今、男の人間を買いたいっていう貴族に会ったんだ。聞いてくれよ、6000万で買ってくれるっていうんだ」
魚人母『ろっ・・・6000万!?!?』
車掌「うん。だからさぁ、ちょっと食べるのは中止で。俺が取りにいくまで生かしといてくれないかな」
魚人母『わ、わかったよ。それなら仕方ないね』
車掌「じゃあ、よろしく頼む」ピッ
千織「・・・」
車掌「・・・運が良かったな」
車掌の声は、野太い怪物の声からいつもの声に戻っていた
80: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:34:11 ID:ufTVIcJVgc
千織「・・・っ」
千織は目に涙を浮かべ、頭を下げた
千織「ありがとうございますっ・・・。車掌さんがいなかったら、ほんとに、私たち・・・」
車掌「・・・・」ハァ
車掌「とりあえず、昨日君たちが連れ去られた駅――ササノコ駅に戻るのは、明日の夜になる」
千織「あ・・・明日の夜ですか?もっと早くできませんか?」
車掌「君たちのためにこの列車を動かしているわけではないからな。明日の朝ミヤコ駅の物資をのせ、他の駅を経由しつつササノコ駅へ戻る」
81: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:37:12 ID:ufTVIcJVgc
千織「でも、でも早く行かないと沖くんが」
車掌「君は」
冷めた瞳で睨まれた
車掌「君は、私に買われたことを忘れたのか?言い方を変えれば、君は私の奴隷であり、私は君の主人だ」
千織「…!」
車掌「願いをきいてやったからといって調子に乗るな。今後は私の指示に従え」
千織「は、はい・・・」
82: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:08:36 ID:spmolqlGjY
「にゃ〜」
千織「あ・・・!」
みると、さきほどの黒猫が歩み寄って来ていた
車掌「・・・」
千織「あ、あの、さっきこの猫ちゃんが私に・・・」
車掌「知っている。どうせこいつが余計なことを言ったんだろう」
黒猫「余計な事とは心外だなぁ。貴重な人間が下衆な輩に奪われるのはもったいないと思わない?」
車掌「別に」
黒猫「またそんなこと言って。精力があるに越したことはないじゃないか」
千織「・・・」 ポカーン
83: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:12:54 ID:spmolqlGjY
黒猫「あ、自己紹介遅れたけど。僕の名前はブリアン。君の名前は?」
千織「と、戸野千織です」
ブリアン「千織ちゃんね。僕はこの列車の車掌補佐をやってるんだ〜」
千織「補佐…。ね、猫なのに?」
ブリアン「魚が手足生やして歩いてるこの世界で、驚くことじゃないでしょ〜」
車掌「ブリアン、しばらく彼女の面倒をみてやってくれ」
ブリアン「え〜?」
車掌「私はまだ仕事が残っている。何かあったら私のところへ連れてこい」
ブリアン「わかったよ〜」
車掌は貨物車両から出ていき、千織はブリアンと2人きりになった
84: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:18:04 ID:spmolqlGjY
千織「…あの、ブリアンさん」
ブリアン「なあに」
千織「この世界はなんなんですか?人間じゃない人たちが、いっぱいいて・・・」
ブリアン「・・・・」
ブリアン「・・・そうだねぇ」
少し考えてから、話し始める
ブリアン「人間の言葉でいうと、ここは異世界であり、死後の世界でもある」
千織「死後って・・・」
ブリアン「この世界は欲望に満ちている。そして、死後というのは“人間ならざるもの”に限られる」
千織「???」
ブリアン「例えば、君を襲った魚人がいたでしょ?あれは、人間界で生きていた魚が死後、この世界で生まれ変わったものだよ」
85: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:20:45 ID:spmolqlGjY
ブリアン「人間に恨みをもっていたのか、単純に人間になりたかったのかは知らないけど、“欲望”をもっていたその魚は、この世界で手足を得た」
千織「そ、そんな・・・。じゃあ、この世界にいるものたちは全て、すでに死んでいるってことですか?車掌さんやブリアンさんも?」
ブリアン「僕はそうだよ。人間になりたいって欲はなかったから、魚人みたいな醜い姿にならずに済んだけど」
千織「じゃあ一体、なんの欲望が体現されたんですか・・・?」
ブリアン「さぁ、それは内緒だなぁ」 クスクス
千織「あ、もしかして、喋ること?」
ブリアン「違うね。この世界にきた者たちは全て、無条件で言葉を話すことができる」
86: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:26:08 ID:spmolqlGjY
・この世界は、「人間以外の生物の死後世界」
・生前に強い欲望をもっていた場合にのみ、この世界に存在することが許され、且つその欲望が体現される
87: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:28:27 ID:spmolqlGjY
千織「車掌さんは、見た目が完璧な人間ですよね…。生前はなんだったんでしょう」
ブリアン「あいつは死者じゃないよ」
千織「え!?」
ブリアン「ただこの世界で、この列車を動かすためだけに生まれてきた存在。それだけさ」
千織「…」
千織「…よく、わからないです」
ブリアン「気になるなら、直接あいつから聞いたら?詳しいことは僕も知らないし」
88: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:31:59 ID:spmolqlGjY
ブリアンは千織を小部屋へ案内した
ブリアン「ここ、シャワー室ね」
ブリアン「さっき車掌から言われたと思うけど、まずはお風呂入ってもらわないと、人間臭くてたまんないから」
千織「は、はい」
ブリアン「そしたら、その駅員服に着替えて。男物だから、サイズ合わないと思うけど、勘弁ね」
千織「はい」
89: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/12(金) 20:49:54 ID:spmolqlGjY
―――――――
恭太「う、うぅ・・・」
異臭と頭痛で目が覚めた
徐々に意識を覚醒させる
恭太(…俺、なにしてたんだっけ)
恭太(なんだこの臭い…くっさ…) ケホッケホッ
恭太(確か、よくわかんない列車でちおちゃんを探して―…)
恭太「――っ!」 ハッ
フッと記憶が蘇り、身体を起こす
90: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/12(金) 20:51:39 ID:spmolqlGjY
しかし
グイッ
恭太「え、」
身体が柱に縛りつけられ、全く身動きが取れない
身ぐるみを剥がされている上に、身体にはベタベタしたものが塗りたくられている
恭太「うそ、だろ…」
恐ろしい魚の化け物に捕らえられた記憶
恭太「あれ、夢じゃねーのかよ…」
恭太「もしかして俺、食われるのか…?あの化け物に…」
91: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/12(金) 20:54:25 ID:spmolqlGjY
「――安心しな、食いはしないさ」
恭太「!」
視界に化け物が現れた
魚人母「あんたは高値で売られるのさ。良かったねぇ、命が助かって」 ニヤニヤ
魚人母「まぁ、買い先で食われない可能性はないけど」
恭太「た、頼む、命だけは…」
魚人母「あらあら。私の話全然聞いてないわね」
魚人母「とりあえず、体に塗っちまった塩を落とさないとねぇ」
バシャーン!
恭太「ぅえっつめて!」
バケツから水をかけられる
魚人母「うふふ、楽しみだわぁ」
92: 名無しさん@読者の声:2017/5/12(金) 21:40:53 ID:JJovD3w/IY
支援
93: 名無しさん@読者の声:2017/5/13(土) 16:45:37 ID:QXC8O.Idx2
支援します
94: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/13(土) 17:50:35 ID:KHBlWpl3yc
>>92 >>93
フオオオ支援ありがとうございます、今日は帰るのが遅いので遅い時間の更新になってしまいますが、お二方の支援に感謝して多めに更新させて頂きますよろしくお願いします_(:3」 ∠ )_
95: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:01:44 ID:spmolqlGjY
―シャワーを浴びながら、悶々と考える
千織(なんとか命は助かったものの…私、これからどうなるんだろう)
千織(買われちゃって、良かったのかな…)
千織(あれしか助かる方法はなかった。だから正しかったんだ、うん)
千織(車掌さんはちょっと怖いけど、悪い人じゃなさそう…。信用していいよね…?)
千織(…)
千織(とりあえず、今は沖くんを助けることを考えないと)
千織(…車掌さんは、簡単に魚人をやっつけちゃったし。車掌さんが手を貸してくれれば、沖くんも助けられるはず…)
千織(…そうだ。この世界に来るきっかけになった、あの男の子についても聞いてみよう。何かわかるかもしれない)
96: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:03:40 ID:spmolqlGjY
シャワーを浴び終え、駅員服に着替える
ブリアン「――うん、まぁまぁマシなにおいになったね」 クンクン
ブリアン「僕や車掌のそばにいれば、人間だと思われなくなるよ」
千織「はは…」
なんだか複雑な気持ちだ
千織「あの、私はこれからどうすれば?」
ブリアン「んー。とりあえず今は、列車の休止時間。ぶっちゃけすることないよ」
97: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:05:39 ID:spmolqlGjY
千織「明日の朝に出発するって言ってましたけど、この世界も、人間界と同じ時間で進むんですか?」
ブリアン「そうだよ。1日は24時間で、朝も昼も夜もある」
千織「そうですか…。私がこっちに来てから、何日たったんでしょう」
ブリアン「昨日の夜にこの列車に乗って、外に飛び出して、今日の昼に列車に積まれて…で、今は夜だからまる1日じゃない?」
千織「1日…。あぁ、お父さんとお母さん、心配してるだろうなぁ」
98: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:08:25 ID:spmolqlGjY
千織「―…そうだ。私がこの世界にきたきっかけなんですけど」
千織「学校の帰り道、不思議な男にチョコをあげたら、この世界に連れてこられちゃったんです」
ブリアン「男の子?」
千織「3月なのに半袖半ズボンで…生気のない顔してて。この世界に住んでる子じゃないかって思うんです」
ブリアン「知らないね。多分車掌も知らないと思うよ」
千織「そ、そうですか…」 ショボーン
千織「何でその子は、私をこの世界に連れてきたんでしょう」
ブリアン「この世界じゃ人間の希少価値は高いから、送り込んでやろうと思ったんじゃないの。誰かに頼まれたのか、ただのイタズラなのか知らないけど」
千織「でも、私その子に連れてこられるの2回目なんです。おかしいですよね」
99: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:11:49 ID:spmolqlGjY
車掌「――で?私が何か知っていないかって?」
箒をもって車内の掃除をしていた車掌に尋ねる
千織「はい」
車掌「…」
車掌「具体的にその少年が誰なのかは知らないが、推測はできる」
千織「!」
車掌「おそらく、もう生きてはいない者だろう。しかし、人間の世界に存在しているところを見る限り、この世界の者でもない」
車掌「そして君に、何か理由があって執着している」
100: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/14(日) 00:17:28 ID:spmolqlGjY
千織「そ、それって…」
千織「わ、私、幽霊に憑かれてるってことですか?」
車掌「私は幽霊という概念に理解はないが、君たちの世界に存在する死者をそう呼ぶならそうなのだろう」
千織「ひー!いやだー!私霊感とか全然ないと思ってたのに…!」
千織「幽霊を祓わないと、私何度でもここに来ちゃうんだ…」
ブリアン「問題ないでしょ」
千織「え?」
ブリアン「千織は車掌に買われたんだから。元の世界に戻った後のこととか考える必要ある?」
千織「え、えぇえ!?」
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