乗客Yx1
戸野 千織(トノ チオリ)
目が覚めたらそこは、走る列車の中だった
71: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:41:32 ID:spmolqlGjY
魚人「て、てめぇ!なんだこれは…!」
車両の壁や床から黒い手が出現し、魚人の手足に巻き付いている
車掌「あなたはもう、乗客ではありませんから。容赦はしません」
魚人「…!」
魚人「ま…待ってくれ!俺はそんなつもりじゃなかった、はは、」
車掌「残念ながら、あなたには遅かれ早かれ死んでいただく予定でした。私が人間を所有していると、あちこちにバラされては困りますので」
魚人「そんなことはしない、そんなことはしないから殺さないでくれ!」
車掌「千織、目を閉じて」
千織「っ…」
次の瞬間、ザシュッッ、と鈍い音がした
72: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/9(火) 20:44:18 ID:spmolqlGjY
千織「…」
思わず目をあけてしまう
魚人は黒い手に胸を3か所、突き抜かれていた
巨体が倒れる姿を見て、口をおさえる
千織「あ、あなたは、…」
黒い手が、すすす、と消えていく
車掌「…」
車掌「…この列車は、全て私の意志で生きている。そういうことです」
73: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:13:52 ID:ufTVIcJVgc
――しばし沈黙が流れたあと
千織はハッとして叫んだ
千織「そうだ、沖くん!沖くんを助けなきゃ!!」
車掌「・・・あぁ、あの連れの」
千織「この魚人に連れ去られた後、離れ離れになっちゃったんです!どうしよう、早く探しに行かないと――」
車掌「もう手遅れだろう」
千織「どういうことですか!?」
車掌「この世界で人間は希少であり、食料としても奴隷としても需要が高い。常識的に考えて、あの男はもう煮るなり焼くなりされている」
74: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:15:52 ID:ufTVIcJVgc
千織「っ・・・なにが常識なんですか!!」
千織「大事な友達なんです!お願いです、助けてください!お願いします!!」
車掌「これ以上私の仕事を増やさないでほしい」
千織「お願いします!車掌さんしか頼れないんです…!お願いします、お願いします」
何度も頭を下げる
車掌「…」
車掌「…では、その男を助けて、私に何のメリットがあるのか教えてほしい」
千織「え…」
車掌「私は人間を助けるボランティア活動をしているわけではない」
75: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:21:23 ID:ufTVIcJVgc
千織「っ… に、人間は希少なんですよね?その人間をもう1人、車掌さんが手に入れられると思えば」
車掌「私は人間を食べないし奴隷にする趣味もない。君を買ったのも仕方なく、だ」
千織「じゃ、じゃあ、車掌さんは何が欲しいんですか?」
車掌「…」
車掌「この列車を動かすのに必要な精力。私はそれだけあればいい」
千織「よ、要するに、この列車の人手が足りてないってことですよね!?じゃあ、私が一生懸命働きますから!車掌さんの負担を減らせるように、何でもしますから…!」
76: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:23:46 ID:ufTVIcJVgc
車掌「…何も理解してないくせに、よく言う」
千織「え?」
車掌「やれやれ」
ため息をつくと、車掌は息絶えた魚人の懐に手を入れた
千織「・・・?」
車掌「―あった」
取りだしたのは、なにやら携帯電話のようなもの
77: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:25:40 ID:ufTVIcJVgc
カチャカチャ、カチ
慣れた手つきで操作し、どこかに通話をかけはじめた
プルルルル、プルルルル―――ガチャッ
魚人母『はいもしもし』
車掌「――あぁもしもし、俺だけど」
千織「!」
なんと、車掌の声が魚人そっくりになっていた
78: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:27:57 ID:ufTVIcJVgc
魚人母『俺?』
車掌「やだなぁ俺の声忘れたの、母さん」
魚人母『あぁ、あんたかい?あんたミヤコ駅ついたんかね?』
車掌「着いたよ、ついさっきね。奴隷も無事だ」
魚人母『そいつは良かった。高値で売ってくるんだよ〜』
車掌「わかってる。ところでさ、昨日捕まえたもう1匹の人間って、どうした?」
魚人母『んん?あんたが飯にしろって言ったから、ちょうど今、塩を塗ってるところさね』
千織「・・・!!」
車掌「そう。せっかく準備してるところ申し訳ないんだけどさ・・・」
79: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:30:45 ID:ufTVIcJVgc
車掌「ちょうど今、男の人間を買いたいっていう貴族に会ったんだ。聞いてくれよ、6000万で買ってくれるっていうんだ」
魚人母『ろっ・・・6000万!?!?』
車掌「うん。だからさぁ、ちょっと食べるのは中止で。俺が取りにいくまで生かしといてくれないかな」
魚人母『わ、わかったよ。それなら仕方ないね』
車掌「じゃあ、よろしく頼む」ピッ
千織「・・・」
車掌「・・・運が良かったな」
車掌の声は、野太い怪物の声からいつもの声に戻っていた
80: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:34:11 ID:ufTVIcJVgc
千織「・・・っ」
千織は目に涙を浮かべ、頭を下げた
千織「ありがとうございますっ・・・。車掌さんがいなかったら、ほんとに、私たち・・・」
車掌「・・・・」ハァ
車掌「とりあえず、昨日君たちが連れ去られた駅――ササノコ駅に戻るのは、明日の夜になる」
千織「あ・・・明日の夜ですか?もっと早くできませんか?」
車掌「君たちのためにこの列車を動かしているわけではないからな。明日の朝ミヤコ駅の物資をのせ、他の駅を経由しつつササノコ駅へ戻る」
81: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/10(水) 23:37:12 ID:ufTVIcJVgc
千織「でも、でも早く行かないと沖くんが」
車掌「君は」
冷めた瞳で睨まれた
車掌「君は、私に買われたことを忘れたのか?言い方を変えれば、君は私の奴隷であり、私は君の主人だ」
千織「…!」
車掌「願いをきいてやったからといって調子に乗るな。今後は私の指示に従え」
千織「は、はい・・・」
82: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:08:36 ID:spmolqlGjY
「にゃ〜」
千織「あ・・・!」
みると、さきほどの黒猫が歩み寄って来ていた
車掌「・・・」
千織「あ、あの、さっきこの猫ちゃんが私に・・・」
車掌「知っている。どうせこいつが余計なことを言ったんだろう」
黒猫「余計な事とは心外だなぁ。貴重な人間が下衆な輩に奪われるのはもったいないと思わない?」
車掌「別に」
黒猫「またそんなこと言って。精力があるに越したことはないじゃないか」
千織「・・・」 ポカーン
83: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:12:54 ID:spmolqlGjY
黒猫「あ、自己紹介遅れたけど。僕の名前はブリアン。君の名前は?」
千織「と、戸野千織です」
ブリアン「千織ちゃんね。僕はこの列車の車掌補佐をやってるんだ〜」
千織「補佐…。ね、猫なのに?」
ブリアン「魚が手足生やして歩いてるこの世界で、驚くことじゃないでしょ〜」
車掌「ブリアン、しばらく彼女の面倒をみてやってくれ」
ブリアン「え〜?」
車掌「私はまだ仕事が残っている。何かあったら私のところへ連れてこい」
ブリアン「わかったよ〜」
車掌は貨物車両から出ていき、千織はブリアンと2人きりになった
84: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:18:04 ID:spmolqlGjY
千織「…あの、ブリアンさん」
ブリアン「なあに」
千織「この世界はなんなんですか?人間じゃない人たちが、いっぱいいて・・・」
ブリアン「・・・・」
ブリアン「・・・そうだねぇ」
少し考えてから、話し始める
ブリアン「人間の言葉でいうと、ここは異世界であり、死後の世界でもある」
千織「死後って・・・」
ブリアン「この世界は欲望に満ちている。そして、死後というのは“人間ならざるもの”に限られる」
千織「???」
ブリアン「例えば、君を襲った魚人がいたでしょ?あれは、人間界で生きていた魚が死後、この世界で生まれ変わったものだよ」
85: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:20:45 ID:spmolqlGjY
ブリアン「人間に恨みをもっていたのか、単純に人間になりたかったのかは知らないけど、“欲望”をもっていたその魚は、この世界で手足を得た」
千織「そ、そんな・・・。じゃあ、この世界にいるものたちは全て、すでに死んでいるってことですか?車掌さんやブリアンさんも?」
ブリアン「僕はそうだよ。人間になりたいって欲はなかったから、魚人みたいな醜い姿にならずに済んだけど」
千織「じゃあ一体、なんの欲望が体現されたんですか・・・?」
ブリアン「さぁ、それは内緒だなぁ」 クスクス
千織「あ、もしかして、喋ること?」
ブリアン「違うね。この世界にきた者たちは全て、無条件で言葉を話すことができる」
86: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:26:08 ID:spmolqlGjY
・この世界は、「人間以外の生物の死後世界」
・生前に強い欲望をもっていた場合にのみ、この世界に存在することが許され、且つその欲望が体現される
87: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:28:27 ID:spmolqlGjY
千織「車掌さんは、見た目が完璧な人間ですよね…。生前はなんだったんでしょう」
ブリアン「あいつは死者じゃないよ」
千織「え!?」
ブリアン「ただこの世界で、この列車を動かすためだけに生まれてきた存在。それだけさ」
千織「…」
千織「…よく、わからないです」
ブリアン「気になるなら、直接あいつから聞いたら?詳しいことは僕も知らないし」
88: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/11(木) 23:31:59 ID:spmolqlGjY
ブリアンは千織を小部屋へ案内した
ブリアン「ここ、シャワー室ね」
ブリアン「さっき車掌から言われたと思うけど、まずはお風呂入ってもらわないと、人間臭くてたまんないから」
千織「は、はい」
ブリアン「そしたら、その駅員服に着替えて。男物だから、サイズ合わないと思うけど、勘弁ね」
千織「はい」
89: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/12(金) 20:49:54 ID:spmolqlGjY
―――――――
恭太「う、うぅ・・・」
異臭と頭痛で目が覚めた
徐々に意識を覚醒させる
恭太(…俺、なにしてたんだっけ)
恭太(なんだこの臭い…くっさ…) ケホッケホッ
恭太(確か、よくわかんない列車でちおちゃんを探して―…)
恭太「――っ!」 ハッ
フッと記憶が蘇り、身体を起こす
90: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/12(金) 20:51:39 ID:spmolqlGjY
しかし
グイッ
恭太「え、」
身体が柱に縛りつけられ、全く身動きが取れない
身ぐるみを剥がされている上に、身体にはベタベタしたものが塗りたくられている
恭太「うそ、だろ…」
恐ろしい魚の化け物に捕らえられた記憶
恭太「あれ、夢じゃねーのかよ…」
恭太「もしかして俺、食われるのか…?あの化け物に…」
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