乗客Yx1
戸野 千織(トノ チオリ)
目が覚めたらそこは、走る列車の中だった
31: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 20:45:35 ID:spmolqlGjY
車掌「・・・まったく」
口元の血をぬぐい、ゆっくりと立ちあがる
帽子がとれたその姿は、意外にも千織たちとほぼ同年代の若い青年だった
車掌「無賃乗車の分際で、よく吠える」
恭太「なんだと・・・!?」
車掌「この列車に乗ったからには、この列車の規律を守って頂こう。君は大声出して列車内を徘徊するという迷惑行為をしていたので、閉じ込めたまでのこと」
千織(車掌さん・・・!?)
今までの丁寧な口調とは打って変わり、鋭い口調になっている
32: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 20:50:42 ID:spmolqlGjY
恭太「へっ、あんなロック、力づくで壊してやったし!」
恭太「つーか、俺たちをどこへ連れて行くつもりなんだ!今すぐ降ろしやがれ!!」
車掌「・・・」
千織「沖くん、待って・・・!」
恭太「ちおちゃん、安心して。降りさえすれば、俺んち電話して、車出してもらうから」
恭太「聞こえてんのかお前!!さっさと列車を止めやがれ!!」
車掌「・・・わかりました」
プシューッッ!!
千織「ひゃっ」
恭太「うわっ」
33: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 20:55:53 ID:spmolqlGjY
大きな音を立て、列車が止まった。ドアが開く
千織「・・・!」
車掌「どうぞ」
恭太「お、おう・・・」
あっけなく止まったので、少し動揺したが、すぐさま千織の手をつかむ
恭太「ちおちゃん、行くよ!」
千織「まっ待って」
ギリギリのところで制止する
千織「車掌さん、あの」
車掌「・・・なんでしょう」
34: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 21:01:18 ID:spmolqlGjY
千織「おっ、遅くなりましたけど、この間は送って頂いてありがとうございました!」
車掌「・・・」
恭太「え!?送ってもらったってなに!?」
千織「沖くんが、失礼をしてすみませんでした」 ペコリ
車掌「・・・」
恭太「え、ちょっと待って、どゆこと?知り合いだったの?」
千織「ううん、そういうわけじゃ・・・」
車掌「降りるならさっさと降りてください。いい迷惑です」
恭太「な、なんだよ、かんじわる・・・。ちおちゃん、行こう!」
恭太が手を引くと、2人は列車を飛び出した
外は暗黒だった
35: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/3(水) 21:15:02 ID:spmolqlGjY
黒猫「――いいの?逃がしちゃって」 クスクス
座席の上で、1匹の黒猫が毛づくろいする
車掌「どういう意味」
黒猫「人間なんて、貴重な”燃料”になるじゃないか。みすみす放すなんてもったいない」
黒猫「大体さあ、人間がこんなとこで降りたら、魚人あたりに喰われるのが関の山だよねー」
車掌「知ったことか。全く、客だと思って丁重に扱ってやったらこのザマだ」
不服そうに血が滲んだ口元をぬぐう
黒猫「あらー殴られちゃったの?珍しいね」 クスクス
車掌「ほっとけ」
プシューッと音を立てると、列車は再び走り出した
36: 名無しさん@読者の声:2017/5/4(木) 22:29:10 ID:lH5VhHYhaA
支援
37: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:20:48 ID:spmolqlGjY
>>36
ヒエッ、初支援ありがとうございます…!
嬉しいです頑張って毎日更新するのでよろしくお願いします//
38: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:25:53 ID:spmolqlGjY
恭太「――まいったなぁ」
河川敷に座り、スマホを操作する
恭太「ここ、全然電波とんでねーじゃん。しっかりしろよクソ●トバンク」
千織「私も繋がらないや」
恭太「ていうかさ、何で俺たちこんなとこに来ちゃったんだ?全然覚えてないんだけど」
千織「・・・」
どうやら恭太には、以前の千織と同様、ここに来る直前の記憶がないらしい
千織(今度は、私覚えてる・・・。あの男の子にチョコをあげたら、ここに来てしまった・・・)
恭太「とりあえず、どっかの家に電話借りようか」
と、その時
目の前の河川から、ばしゃんと大きな音がした
39: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:31:03 ID:spmolqlGjY
???「あー、はらへったな・・・・」
何かが、川の中から這い上がってくる
千織「・・・!」
恭太「な、なんだよあれ・・・」
暗がりではっきりとはみえないが、人の形ではないことはわかる
いや、手足のようなシルエットはみえる
???「・・・」
それは、こちらに気づいたのか、じっと見つめてきた
40: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:35:21 ID:spmolqlGjY
千織「お、沖くん、」
そでをつかむ。嫌な予感がする
凝視すると、それの姿が把握できた
全長2mほどの大きな魚に、手足が生えている
恭太「―逃げるぞ!!」 ダッ
千織「きゃっ」
危機を察知し、恭太は千織の手をつかみ逆方向へ走り出した
同時に、魚人も無言でダッシュを切り追いかけはじめる
41: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:40:50 ID:spmolqlGjY
恭太「なっ、なんだよあの化け物っ・・・」
千織「沖くん、列車に戻ろう!」
恭太「もう出発してる!無理だ!」
暗い土手を、無我夢中で走る
あの化け物がどこまで追ってきているのか、確認する余裕もない
魚人「はい、追いついた」
「!?」
突如、背後から肩をつかまれ、千織は地面に尻もちをついた
42: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/4(木) 23:46:20 ID:spmolqlGjY
恭太「ちおちゃん!!」
魚人がニタニタと笑い、千織の首ねっこをつかむ
恭太「てっ、てめぇ!ちおちゃんをはなせ!!」
叫ぶが、ガタガタと足が震えている
魚人「まさか人間を見つけるなんてなぁ・・・。幸運だぜ」
千織「沖くん、逃げて!!」
次の瞬間
ドゴッ!!
恭太「う、」
千織「!!」
恭太は腹に拳を入れられ、バタリと地面に崩れおちた
43: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 20:46:40 ID:ufTVIcJVgc
―――――
千織「――ん・・・」
目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった
千織「・・・!?」
身体の自由がきかない
手足が縄で拘束され、口にはテープが貼られている
千織「んっ、んっ」
必死にもがくが、一向に縄がほどける気配はない
千織(沖くんは・・・!?)
44: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 20:49:32 ID:ufTVIcJVgc
まわりを見回すが、恭太の姿はない
ダンボールがそこら中に積まれている
すると
ギイイイィ・・・
千織「!」
部屋の扉が開いた
45: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 20:53:08 ID:ufTVIcJVgc
入ってきたのは、魚人と、
千織(車掌さん・・・!?)
あの、車掌だった
魚人「あ、起きてるじゃねーか」
ニタニタと笑いながら近づき、千織の顎をつかむ
魚人「てめぇは女だからなぁ・・・。高値で売ってやるぜ」
千織「・・・!」
46: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 20:56:33 ID:ufTVIcJVgc
魚人「オレの荷物は、これと、これと、この奴隷だ」
2つのダンボール箱と千織を指さす
魚人「ミヤコ駅まで運んでくれ。くれぐれも人間だからって食ってくれるなよ」 ケラケラ
車掌「かしこまりました」 ペコリ
車掌が会釈すると、魚人は部屋を出て行った
千織「んーっ、んーっ」
車掌もそれに続こうとするのを、必死で止める
47: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 21:03:20 ID:ufTVIcJVgc
千織「んー!んんーっ!」
車掌「・・・」 ハァ
小さくため息をつき、千織の方へ振り返る
車掌「君を助けることはできない。君はこの貨物車両に積まれた『荷物』だ」
千織「んーっ!んーっ!!」
車掌「これからは、魚人の奴隷として生きていくことだ」
バタン
慈悲もなく、車掌は出て行った
48: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/5(金) 23:53:30 ID:spmolqlGjY
魚人「いやー、にしても、人間なんて珍しいモン見つけるなんて超ついてるわぁ。そう思わねえ?」
列車内をご機嫌で歩く
車掌「そうですね」
魚人「しかも2人だぜ2人!たまに人間が迷い込んでも誰かにとられちまうからなぁ」
車掌「運ぶのは1人だけでよろしいのですか?」
魚人「あぁ、男の方は今晩の夕飯だ。母ちゃんに蒸し餃子にしてもらうんだあ〜楽しみだぜ」
車掌「そうですか」
49: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 00:00:11 ID:spmolqlGjY
ゴトン、ゴトン・・・
音を立て、列車が走りはじめる
千織が閉じ込められているのは、最も後続の貨物車両だった
千織(どうすれば・・・)
千織(どうすれば、いいんだろう・・・)
どうやら自分は、どこかで奴隷として売られてしまうらしい
千織(沖くんは、無事なのかな・・・)
そのとき
「にゃ〜〜ご」
千織「!」
1匹の黒猫が、部屋の隅から姿を現した
50: ◆e.A1wZTEY.:2017/5/6(土) 00:03:26 ID:spmolqlGjY
千織(ね、ねこ・・・?なんでこんな所に・・・)
黒猫は千織に歩み寄ると、ペロリと千織の頬をなめた
千織(かわいい・・・)
千織「んー、んー」
黒猫「にゃー」
千織「んー」
黒猫「助かる方法、教えてあげようか」
千織「!?」 ビクッ
千織(しゃしゃしゃ喋った・・・!?!?)
思わず身をのけぞり、猫から距離をとる
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