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従姉に恋をした。

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Part10
342 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 12:10:34
プッと、加えていた爪楊枝を俺に飛ばしてきた。
ようやく大の視線がズレた。自分の茶碗を見つめていた。
「なんだよ、考えさせてくれ、の一言くらい言ってくれよなぁ(笑)
 …わかった。
 ただな、ひとつだけ言うぞ。
 俺がお前を誘ったのは、勘違いでも郷愁にかられたからでもない。
 俺の頭がお前だって言ったんだよ。
 …後で後悔すんなよぉ。俺の直感て、案外当たるんだぜ(笑)」
大は笑顔だった。
「よし!大塚!ビール飲むか!持ってくる」
「うん。俺の冷蔵庫から、俺のビールを持ってきてくれ(笑)」
「だけどなぁ…」大が両手にビールを持って戻ってきた。
「彼女もいないし、仕事もつまらんって言うから、
 日本に未練ナシってことでOKしてくれるかと思ったんだよなぁ。
 甘かったか。未練とかそういう問題じゃないんだな」
未練。
さっきの大の視線よりも鋭く、それは俺に突き刺さった。

343 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 12:11:21
最後の夜ということで、その後は家でダラダラと飲んだ。
ふたりとも酔い潰れることもなく、1時過ぎには床に就いた。
すぐに大は寝息をたてた。
それを聞きながら、俺は寝付かれなかった。
1時間ほど経った頃、俺は大を揺り起こした。
「…んー?なんだぁ?」
「大、聞いてくれ。俺、未練ある。好きな女がいるんだ」

344 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 12:12:17
再び電気を点け、大は冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってきた。
それを脇に抱き、俺の目の前にドカッと座り込んだ。
「どれ、聞かせろや」
一時間、話した。
恵子ちゃんのこと。
家族のこと。
恵子ちゃんとのこれまでのこと。
全て話し終えた時、大が一時間ぶりに口を開いた。

345 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 12:13:16
「大塚ぁ…さっきの話より、今の話のほうがよっぽど納得いくぞ。
 好きな女がいるってのは、それだけでなんだか、何よりも大事だしな」
大がタバコに火を点けた。
「しかし。お前…変わってねぇなぁ」
「スーツ姿も似合うようになって、
 すっかりオッサンになっちまったと思ってたけど、
 中身、高校の時と大差ねぇじゃん」
「今の話、お前、誰にも言ってねぇのか?」
黙って頷いた。
「…まぁ、恋の相談っつっても、
 今の話じゃあ、おいそれと誰にでも話せる内容じゃないわな。
 でも俺は明日、ここからいなくなる。
 話す相手としてはうってつけだったってワケか(笑)」
長くゆっくりと、大が煙を吐き出した。
「どうにもなんねぇな」
厳しい口調ではなかった。
「どうにかするんなら、何かぶっこわさないと、な。
 でもお前、それ、出来ないだろ?」
何も言えない。
「おい!ならよ。
 俺とアメリカ行ったほうが、キッパリスッキリするんじゃねぇか?ん?」
やっぱり何も言えず、大を見た。
「うわぁ…お前のそんな顔、初めて見た…。
 やめろよお前、そんな切ねぇツラ。
 なんか、母性本能くすぐられたぞ(笑)」
俺は俯いてしまった。
「ま、好きなだけ悩め。お前の気持ちだ。誰のモンでもねぇ」
もうお互い話すこともなくなり、今度はホントに寝た。

346 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2005/11/25(金) 12:14:07
翌日は休みだったので、大を空港まで見送ることにした。
便は午後で余裕があったから、
ゆっくりと大の作った朝飯を噛み締めることができた。
空港までの電車の中、話すことなく、ふたりとも爆睡した。
空港のロビーに着くと大が言った。
「もうここでいいや」
「まだ離陸まで時間あるだろ?付き合うよ」
「いいよ。俺、なんか言ってしまいそうだもん(笑)」
「あのよ」
「うん?」
「アメリカ生活が始まったら、住所連絡するわ」
「うん」
「ケリついたら、教えろ」
「うん」
「もうこれで、日本に帰ってくることはないと思う」
「そか」
「…あ、いや、帰ってくるな、俺」
「?」
「メジャーになったら凱旋帰国だ(笑)」
「じゃあ、一生帰ってこないってことじゃん(笑)」
笑いながら、大が俺の肩を小突いた。
「バイバイ」
大きく両手を振って、大が俺に「帰れ」と急かした。
デカい男が、一際大きく見えた。


668 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:31:35 ID:
ご無沙汰しております。1です。
五ヶ月もの間このスレッドを放置してしまい、本当に申し訳ありませんでした。
非常に遅れ馳せながら、続きをアップさせていただきます。
これが最後になります。
とても長い文章となっておりますがどうかご容赦ください。
また、最後に文章をアップした昨年11月から本日に至るまでの経緯を
後ほどお話しさせていただきます。
今更ですみません。

669 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:33:42 ID:
大が去って3週間。
3月も終わりを告げた時だった。
俺は故郷への出張を命じられた。
仕事の内容は新入社員への研修。日程は一週間。
研修開始日の前日夜、俺は故郷に先乗りした。
前もって太田家には出張のことを連絡していたので
お父さんは太田家への滞在を勧めてくれたが、
連日、同僚との飲み会が予想されたため、
俺は迷惑をかけまいとお父さんの申し出を辞退していた。
会社のとってくれたホテルに、俺は苦笑した。
そこは三年前のクリスマスイブに、芽衣子さんと泊まるはずだったホテル。
さすがに同じ部屋ではなかったけれど、窓から見える夜景は変わらなかった。
一瞬よぎるほろ苦い思い出。
(思い出…になったなぁ)
缶ビール片手に、しばらく夜景を眺めた。
翌日。
古巣である事務所に出勤すると、懐かしい顔が俺を出迎えた。
転勤前によくパートナーを組んでいた後輩・友枝だった。
「お久しぶりです!
今日は俺が大塚さんのアシスタントですよぉ。凸凹コンビ復活!!(笑)」
ずんぐりむっくりとした体躯に、人懐っこい笑顔。
男の俺から見ても可愛らしく感じる友枝は、少しも変わっていなかった。
いや、少しお洒落になったかな。
趣味の良いワイシャツとネクタイが似合っていた。

670 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:35:11 ID:
研修は午後から始まった。
みんなお揃いかと思えるような、
色も形も定番のリクルートスーツに身を包んだ初々しい新入社員たち。
中途採用で入社した俺の目に、彼らがとても眩しかった。
研修はとにかく忙しかった。
しかし友枝のサポートでそつ無く進行することができた。
昔はちょっと頼りない男だったが、この三年で見違えるように成長していた。
所作の全てに自信が覗える。
頼もしくもあり、ちょっとだけさみしくもあった。
無事に初日を終え、後片付けをしていると友枝が言った。
「大塚さん。今日この後、どうします?」
「んー。さすがに疲れたよ。帰る」
「ちょっと付き合っていただけませんか?」
「飲むのかぁ?やだよお前、うわばみなんだもん(笑)」
「そんなこと言わず(笑)お話、というかご報告があるんです」
「なんだ?」
エヘヘ、と意味深な笑みで友枝は俺の問いをかわした。
妙に気になった俺は、彼の誘いに応じた。

671 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:37:11 ID:
連れて行かれたのはとても洒落た店だった。
赤ちょうちんがステータスだった友枝だけに、意外で驚いた。
「こんな店ができたんだなぁ。というかお前、よく知ってたな(笑)」
「エヘヘ」
またあの意味深な笑いだ。
「この店、彼女から教えてもらったんです」
驚きの連続だった。
三年前まで『彼女いない歴=年齢』だった友枝。
とても嬉しそうだ。俺も嬉しかった。
「やったなおい!彼女できたんかぁ」
「はい!しかも俺、結婚します!!」
おいおい、まだ驚かす気か、友枝。
「うわぁ、おめでと!…で、相手は?」
「大塚さん、おぼえてますかね?○×社の野田 芽衣子」
驚くにもほどがあった。

672 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:38:14 ID:
「式の日取りとか最近決まったばかりで、まだ会社の誰にも言ってないんです。
それにまず、大塚さんに報告したくて」
前置きをした友枝が、こぼれる笑顔で話を続けた。
俺と芽衣子さんの関係を知っていたのは社内では東京の先輩だけ。
先輩は口の堅い人だったから、友枝は知らないはず。
俺は平静を装った。
付き合い始めたのは去年の6月だという。
以来、順調に時を重ね、半年後のクリスマスにプロポーズしたそうだ。
はしゃぎながら芽衣子さんとの惚気話に夢中になる友枝。
いちいち頷きながら友枝の話に耳を傾ける俺。
ふたりとも、頼んだ酒や料理にほとんど手をつけなかった。
早くホテルに帰って頭を整理したかったが、
無邪気な友枝の顔を見ていたらいつしか帰る気も失せ、
俺は誘われるまま2軒目の店へとついて行った。
転勤前によく友枝と通ったバーだった。

673 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:39:08 ID:
俺のことを覚えていてくれたバーテンは、
あの頃いつも飲んでいた酒を用意してくれた。
「あらためて…おめでとう」
友枝のグラスにカチンと当てると、なんと友枝が泣き出した。
「な、なんだ!?どした??」
狼狽し、友枝の背中を摩る。
「い、いや、すんません。うれしいんス。うれしいんス」
ワイシャツの袖で、友枝は何度も目を擦った。
「大塚さんのっ、“ありがとう”がっ、うれしいんスっ」
可愛いヤツ。
こんなに無垢なヤツもいまどきいないだろう。

674 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:40:08 ID:
2杯目を注文した時は友枝も落ち着きを取り戻していた。
仕事でも見たことのない、至極真面目な表情で友枝が語り出す。
「実は彼女と付き合うことになる前、俺、一回告白したことがあるんです」
「…いつ?」
「一昨年の7月くらいでしたかね」
俺と芽衣子さんの交際が終わった頃だ。
「そん時は『好きな人がいるから』って、断られたんです」
「………」
「でも俺、彼女のことが、初めて会った時から好きだったから、
 諦められなくて、ずっと、想い続けてたんです」
知らなかった。
そんなにも深く、長く、友枝が芽衣子さんのことを想っていたなんて。
「彼女はいつも寂しそうでした。
 その顔を見るたび、
 好きな人とうまくいってないんだなって、俺は悲しくなりました」
胸にチクリと、何かが刺さる。
「だから俺、彼女の相談役になろうって、思って…
 …あ、でも俺っ、別に変な下心は無かったっスよ!?
 そんなんじゃなくて、あの、」
…なんていいヤツなんだろう、こいつは。
あさっての方向を見ているバーテンが、ウンウンと頷いている。
俺たち以外に客はない。
アンタもそう感じたんだね、バーテンさん。

675 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:41:20 ID:
「それから一ヶ月に一回、彼女を食事に誘ったんです。
 俺、見た目こんなだし、嫌がられるかなって、
ビクビクしながら彼女を誘ったんですけど、彼女は笑顔で応じてくれました。
 ただ…俺、店のことなんて詳しくなかったから、
いつも彼女に店を選んでもらってましたけど(笑)
 …食事に誘ってるのは俺なのに…かっこわるかったなぁ(笑)」
みるみる友枝のグラスが空になっていく。
俺はまだ一杯目だった。
「相談役って言っても、彼女はいつも多くは語ってくれませんでした。
 でも帰る時はいつでも『ありがとう』って、すごく綺麗な笑顔で言ってくれて。
毎回ドキドキしてました」
初めて友枝の口から聞けた“女性の話”。
始めはその相手が芽衣子さんであることに驚きと戸惑いをおぼえたけれど、
友枝の素直な言葉にいつしか俺は引き込まれていた。
「そしたら去年の6月、
 彼女のほうから『付き合ってください』って、言われたんス。
 俺ビックリして、『いいの?』って何回も聞いてしまいました」
よかったなぁ。
素直にそう思えた。

676 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:43:07 ID:
ふと、バーテンが俺たちにグラスを差し出した。
「これ、良かったら召し上がってください。お祝いです」
「やっぱり聞いてましたね(笑)」
「はい(笑)」
ばつの悪そうに苦笑しながらバーテンが言った。
「ウチのオリジナルです。
 本来はカップルの方にお出ししているんですが」
桃の香りと、微かな酸味。
シャンパンでアップされているそのカクテルは、この季節にピッタリな感じだった。
「なんという名前なんです?」
「“両想い”です。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございますッ。ありがとうございますッ」
友枝がまた泣き出した。

677 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:43:59 ID:
友枝を宥め、店を出た。
千鳥足のくせに、友枝はホテルまで送ると言ってきかず、
結局、肩を貸しながらホテルまで歩いた。
「ここでいいよ。ありがとな。気をつけて帰れよ」
「はい!ありがとうございました」
気になってたことを聞いた。
「…そのワイシャツとかネクタイとか、さ」
「はい?」
「野田さんの見立てかい?」
「はい!!」
酔ってるからか、照れ臭いからか、
真っ赤な顔して元気に返事する友枝を、なんだか無性に抱きしめてやりたくなった。
のっそりと踵を返した友枝がタクシーに乗り込むのを見届け、俺は部屋へと上がった。
冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを掴んだまま、ベッドへと倒れこむ。
夢も見ずに、深く眠った。

678 名前:1 ◆6uSZBGBxi. [sage] 投稿日:2006/04/29(土) 15:45:36 ID:
それからの一週間は、夜毎、宴会に興じた。
太田家にも一度顔を出したが、それ以外は友枝や他の同僚たちと飲み歩いた。
そして研修最終日の夜を迎えた。
「大塚さんのお別れ会をしますから!」
友枝の音頭で事務所の社員全員が集まり、宴となった。
いい加減、二日酔いなのか何日酔いなのかわからぬほど酒浸りの身体になっていたが、
彼らの気持ちに付き合った。
「2軒目、カラオケ行きます!逃がしませんよぉ(笑)」
ニヤリとした友枝に、俺も観念の笑みを向けた。
珍しいことにカラオケ屋には年配の社員も参加した。
若手だけかと思っていたのに、事務所のほぼ全員が顔を揃えている。
「? 珍しいな。部長までいるじゃん?」
「俺が誘ったんです」
友枝の鼻息が荒い。
「ふーん?」
その答えは一時間後に判明した。
「はい!みなさん!聞いてください!!」
最高潮を迎えた部屋の喧騒を友枝が制した。
「わたくし友枝、このたび結婚することとなりました!」
部屋中に『?』マークが飛び交った後、友枝は質問攻めにあった。
「誰と!?誰と!?」
当然の質問に、友枝が屈託の無い笑顔で答えた。
「実は…これからココに来ます!」
!!!!
なんてこった。

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