サシャ「いつだって、あなたの味方です」
Part6
123 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:11:52 ID:moLpM0wo
ライナー「それにしても、さっきから肉の屋台が一軒も見当たらないな。気づかないうちに通りすぎたか?」キョロキョロ
サシャ「もしかすると、お肉の屋台自体がないのかもしれませんね。さっきアルミンから聞いたんですけど、トロスト区のお肉って偉い人が全部牛耳ってるらしいんですよ。ずるいですよね」ムー...
ライナー「……トロスト区の中で流通している肉の量を、商会がまとめて管理してるのか?」
サシャ「そうですそれです! だから、こういう露店にはお肉が回ってこないのかもしれませんね。……残念です」シュン
ライナー「……いや、そうでもないらしいぞ? あそこの角見えるか? 黄土色の天幕が張ってある店だ」
サシャ「角ですか? ……あっ!」
ライナー「鶏の串焼きなんてはじめて見たな。少し値が張るが食ってみるか? 他に肉の屋台があるかどうかわからねえし、それにーー」
サシャ「食べます食べます! 私買ってきますね!」パッ タッタッタッ...
ライナー「あっ……! おいこら、手を離すな! この人混みで走るんじゃない!」ダッ
サシャ「大丈夫ですよ、ちょっとそこまでなんですからーーわっ!?」ガッ
ライナー「!」ガシッ
124 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:12:41 ID:moLpM0wo
サシャ(び、びっくりしたぁ……! 顔から転ぶところでした……)ドキドキ
ライナー「……ったく、少し油断したらこれだもんな。お前は」ハァ
サシャ「あ、あはは……」
ライナー「楽しみなのはわかったから走るな。足元と周りはちゃんと見ろ。屋台は逃げないから歩いていけ」クドクド
サシャ「……屋台は逃げませんけど、食べ物は逃げちゃうじゃないですか」ボソッ
ライナー「串に足は生えてない」
サシャ「そりゃあもちろん生えてませんよ? でもモタモタしてたら目の前で売り切れちゃうことだってあるでしょう?」
ライナー「……なるほどな。つまりお前は、慌てて走ってぶっ転んで怪我して肉を食えなくなる方がよっぽどいいと」
サシャ「……それは嫌です」
ライナー「だろ? ……何か言うことあるよな?」
サシャ「……走ってすみませんでした」ションボリ
ライナー「わかればいい。……それじゃ2本、頼んでいいか? 味や種類はお前に任せる。俺は二人で座れるところを探しておこう」チャリン
サシャ「おつかいですね! わかりました、おまかせください! ……ところで」
ライナー「ん? どうした?」
125 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:13:36 ID:moLpM0wo
サシャ「手、離してくれます? 支えてもらったのはありがたいんですけど、その……腰に手を回されるのは、恥ずかしいというか」モジモジ
ライナー「腰? ……!」パッ
サシャ「わっ……ととっ」ヨロッ
ライナー「わざとじゃないぞ? ……わざとじゃないんだ、わかるよな?」
サシャ「わかってますよ、大丈夫です。ーーそれじゃあ行ってきますね! いいところ探して置いてくださいよー!」タッタッタッ
ライナー「……」
ライナー(昨日担いだ時も思ったが、腰細っせぇな……あと柔らか……)ハッ
ライナー(違う違う違う! 何考えてんだ俺は! そうじゃねえだろ!)ブンブン
ライナー(しっかりしろ、浮かれてる場合じゃない……今日は他にやることがあるんだ。こんな心構えで臨むわけにはいかん)
ライナー(……けどあいつ、全然動揺してなかったな。俺だけ一人で慌てて馬鹿みてぇだ)ハァ
126 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:14:24 ID:moLpM0wo
サシャ(うわぁ、びっくりしたぁ……ううっ、まだ顔が熱いです)パタパタ
サシャ(見られてないですよね? 不審に思われてないといいんですけど……)チラッ
サシャ(……よし、気づかれてないみたいですね。早くお肉買ってライナーのところに戻りましょう)
サシャ(それにしても、2本も食べるんですか……ということは、私の分も合わせて4本でいいんですかね。お金多く持ってきてよかったです)ゴソゴソ
サシャ(というか、4本も持ちきれるんでしょうか……結構お肉大きいですし、量もありますよね。袋とかあればいいんですけど)ウーン...
サシャ「あのー……すみません、この鶏の串焼きっていうの4本もらえますか? 種類とか味はおまかせで」
店員「はいよ、串焼き4つね」ジュー...
サシャ「……」ジュルリ
サシャ(……おっと、いけませんいけません! 涎垂らしてるところなんか見られたらまた子ども扱いされちゃいますからね、しっかりしないと)グッ
店員「お嬢さん、一人で4本も食うのかい? 見た目によらず大食いだね」
サシャ「いえ、二人で2本ずつ食べるんです。……まあよく食べるのはその通りなんですけど」エヘヘ
127 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:15:21 ID:moLpM0wo
店員「ほい、串焼き4つだ。代金はそこの箱に入れておいてくれ。釣りが欲しいなら勝手に持って行きな」
サシャ「はーい……ええっと、4本だからー、代金は4をかけてっと……」チャリンチャリン
店員「タレが顔や手につきやすいから、食う時は注意してくれよ? ……それと、そこのそいつにもな」
サシャ「はい? そいつ? ……誰もいませんけど」クルッ
店員「違う違う、下だよ下」
サシャ「下……?」
犬「」ヘッヘッヘッヘッ
サシャ「……犬?」キョトン
店員「運が悪かったな、お嬢さん。そいつに目ぇつけられたら、手に持ってるもんやらねえと一生離れねえぞ?」
サシャ「ええっ!? ……ということは、この串焼きをこの子にあげないと」
店員「家までついてくる」
サシャ「」
128 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:16:04 ID:moLpM0wo
ライナー(昨日はあのままベルトルトに寝かしつけられちまったからな……今朝もあいつに付き合わされたし、その後はすぐ打ち合わせや会議で考える暇がなかった)
ライナー(ぶっつけ本番は避けたかったんだがなぁ……さて、どう切り出したもんか)ウーン...
ライナー(今日の「いつ」話すかは置いといて……やはり問題は、「どこまで話すか」だよな)
ライナー(何もかも全部話しちまったら、壁内に置いていくという選択肢がなくなる……最悪の場合、アニが言った通り力尽くにでも連れ去るしかない)
ライナー(壁を壊した後、サシャを連れ去る余裕があるといいんだが……どうだろうな。こればっかりはやってみないとわからないか)
ライナー(ある程度話す……となると、どこまで話していいものなんだ? トロスト区の壁を破壊する計画は当然話せない、が……黙ってたら怒るだろうな、サシャは)
ライナー(いっそのこと、何も話さず連れて行くか? ……だが、いつまでも隠し通すってのは無理がある。いずれは打ち明けることになるだろうな)
ライナー「……」
ライナー(駄目だ、何を選んでも悪い未来しか見えん……! どうしろってんだよ! どれを選べばいいんだ!? いっそのこと鉛筆転がして決めちまうか!?)ウダウダ
ライナー(だが……どう転ぶにしたって、無理矢理ってのは避けたいところだな。嫌がるあいつを連れて行っても……そりゃただの自己満足でしかない)
129 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:16:51 ID:moLpM0wo
ライナー「……困ったな、どうしたもんか」ハァ
サシャ「私も困ってます……」
ライナー「! サシャ、戻ってきてたのか? 遅かった……な…………?」
犬「」ヘッヘッヘッヘッ
サシャ「なんとかしてくださいぃぃ……」ションボリ
ライナー「…………」
130 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:17:32 ID:moLpM0wo
ライナー「まあ、色々聞きたいことはあるんだが……その犬、どこから連れてきた? 首輪もつけてないし野良犬だろ?」
サシャ「勝手についてきたんですよ! 私のせいじゃありません……」シュン
ライナー「勝手にって……お前、こいつに仲間だと思われたんじゃないか? 顔もどことなく似てるよな」ハハハ
サシャ「……そうなんですか? あなた、私のこと仲間だと思ってついてきたんですか?」チラッ
犬「?」ハッハッハッハッ
サシャ「うぅー……とぼけた顔しても誤魔化されませんからね! ちゃんと答えてください!」ガミガミ
ライナー「犬が答えられるわけないだろ……そもそもなんで4本も買ってきたんだ? 店で眺めてたら食いたくなっちまったのか?」
サシャ「だってライナーが2本分のお金渡したんじゃないですか! 私だって2本食べたいですよ、一人だけ多く食べてずるいですっ!」
ライナー「……あのなぁ、それは一人分じゃなくて二人分の金だ」
サシャ「へ? ……そ、そうだったんですか、私てっきりーー」
犬「」ピョン
131 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:18:34 ID:moLpM0wo
サシャ「っとぉっ! ーーあ、危ないところでした」ドキドキ
ライナー「完全に狙われてるな……一本くらいやっちまったらどうだ? そいつを避けながら食うのは無理だろ?」
サシャ「ダメですよせっかく買ってきたんですから! ーーあっ、そうだ!」ヒョイ
サシャ「ほ、ほら! ネギですよネギ! ネギは嫌いでしょう!? ネギ食べたらお腹壊しちゃいますもんね、好き嫌いしちゃ駄目ですよ!! お残しは許しませんっ!!」プンスカ
ライナー「犬に怒ってどうする」
犬「」ピョン
サシャ「わぁーっ!? そっちじゃありませんってばー!」タタタッ
ライナー「言ってわかる奴ならはじめからついてこねぇだろ……どれ、一本もらうぞ」ヒョイ
サシャ「あぁっ! ……それ、その子にあげちゃうんですか?」
ライナー「他に方法があるか? 興奮した犬に噛みつかれるよりはよっぽどマシだろ?」ジロッ
犬「?」ヘッヘッヘッヘッ
132 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:19:25 ID:moLpM0wo
ライナー「おい、これが欲しいんだよな? くれてやるからさっさと帰れ。なっ?」
犬「……」ジーッ...
ライナー「いらねえなら俺が食っちまうぞー?」ブンブン
ライナー(そういえば、子どもと話す時は目線を合わせたほうがよかったんだよな? 犬の場合はどうなんだ? 少し屈んだほうがいいのか……?)スッ...
サシャ「! ライナー、ダメですよ! 野良犬と目線合わせちゃーー」
犬「わんっ!」ガブッ
ライナー「い゛っ!?」
サシャ「あっ!」
犬「」タッタッタッ...
ライナー(痛ってぇぇ……! あの犬、思いっきり噛みやがった……!)ジンジンジンジン...
サシャ「ああ、やっぱり……! ライナー、手は大丈夫ですか? もしかして噛まれたんじゃーー」オロオロ
ライナー「い、いや……少し引っかかれただけだ。なんともない」サッ
サシャ「! 血が出てるじゃないですか!」グイッ
133 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:20:02 ID:moLpM0wo
ライナー「平気だって。これくらいツバつけときゃ治る」
サシャ「治るわけないでしょう! このままほっといて破傷風にでもなったらどうするんです? ーーちょっと待ってて下さい、お水もらってきますから!」スクッ
ライナー「おい、何もそこまでしなくてもーー」
サシャ「はい串持って!」サッ
ライナー「お、おう」
サシャ「それではサシャ・ブラウス、水の確保に行ってまいります!」バッ!! タタタッ
ライナー「あっ、おい待てサシャ! ……ダメだ、行っちまった」
ライナー(もう姿が見えなくなっちまったな……なんであいつ、こういう時は足が速いんだ? ……ん?)チラッ
犬「」ヘッヘッヘッヘッ
134 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:21:12 ID:moLpM0wo
ライナー「……お前のせいで余計に時間が潰れちまったじゃねえか。どうしてくれる」
犬「?」ヘッヘッヘッヘッ
ライナー「んな顔してももうやらねえよ、あっち行け。人の邪魔するな」シッシッ
犬「」トテトテ...
ライナー「行ったか。……さて」
ライナー(怪我はしないように気をつけてたんだが、最後の最後に油断したな。やっちまった……)ハァ
ライナー(今のうちに治して、さっきのは気のせいだって言い張るか? ……いや、この人通りじゃ無理だな。赤の他人に蒸気を見られたら洒落にならない)
ライナー(技巧……は、なんとかなるよな。対人格闘もキツいができなくはない。座学は手を使わないからいいとして……問題は立体機動か)
ライナー(帰ったら傷を塞いで、上から包帯でも巻いて誤魔化しておくか。……ああ、またベルトルトに叱られるな)
135 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:21:55 ID:moLpM0wo
ーー しばらく後
サシャ「ハンカチを巻いて……これでよしっと。訓練所に帰ったら医務室行ってくださいね、約束ですよ?」ギュッ
ライナー「ああ、わかった。……返すもんが増えちまったな」
サシャ「いいですってこれくらい。それに血の汚れって洗っても落ちませんから、帰ったらハンカチは捨てちゃってもいいですよ。ーーさあ、お肉食べましょっか! ライナーはどれ食べます? 全部種類が違うみたいですけど」ワクワク
ライナー「どれでも構わん……って言ったら困るか。ほら」スッ
サシャ「……? 2本?」
ライナー「俺は1本でいいから、お前が2本食え。ーーすまんな、作りたてだったのに手当てしてるうちに冷めちまった」
サシャ「いえいえ、お肉が食べられるだけ儲けものですよ! それじゃあいただきまーす!」ガブッ
ライナー「いただきます。……服にこぼすなよ? 染みになったら洗濯が面倒だからな」ガブ
サシャ「そんなもったいないことしませんよー」モグモグ
136 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:22:44 ID:moLpM0wo
サシャ「ああー……おいひぃぃ……」トローン...
サシャ(この塩っけがある味は、訓練所じゃ絶対に食べられませんよね! 甘くないし量もありますから、これならきっとライナーも満足ーー)チラッ
ライナー「……」モグモグ
ライナー「…………」ハァ
サシャ(……あれ? どうしたんでしょう、元気ないですね……)ジーッ...
サシャ「あの……お肉おいしくありませんでした? 私のと交換します?」
ライナー「ん? ーーいや、そんなことないぞ? 普通にうまい」モグモグ
サシャ「それじゃあ……えーっと、手が痛いんですか? 血は止まったみたいですけど」
ライナー「そりゃ少しはな。軽くとはいえ犬に噛ま……引っかかれたんだ。何事もなかったかのようにってのはちょっと無理だろ」
サシャ「……あの、さっきはすみませんでした。私がさっさとあの子にお肉あげてればよかったんですよね。ーーそしたらライナーが怪我しなくても済んだのに」シュン
ライナー「いや、謝らんでいい。……よくよく考えたら、お前が他人に食い物分けてやれるはずねえよな」
サシャ「考えるだけでゾッとします!」キリッ
ライナー「ああ、知ってる」モグモグ
137 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:23:22 ID:moLpM0wo
サシャ「あっ、でも……ライナーもさっきはちょっと迂闊でしたよ? 野生の動物とあんなに長く目を合わせるなんて自殺行為です。今度から気をつけてくださいね?」
ライナー「……? 犬と目を合わせるとまずいのか?」
サシャ「大抵の動物は目を合わせると『喧嘩を売られてる』って思っちゃうんですよ。ペットの躾をするならむしろ必要な行為なんですけどね」
ライナー「……なるほど、躾か」
サシャ「ですから、訓練所にはじめて来た時は戸惑ったんですよ。今まで目線を合わせちゃいけない相手とばかり接してきましたから、目を合わせて人と話すってことにどうしても慣れなくて……でも今はなんとか、誰とでもお話できるようになったんですけ……ど…………」
ライナー「……」ジーッ...
サシャ「……? なんですか? 私の顔に何かついてます?」ペタペタ
ライナー「いや、何もついてない」
サシャ「それならどうして私の顔見てるんです? 恥ずかしいんですけど……」
ライナー「……」ジロジロ
サシャ「う、ううーっ……見るのやめてくださいってばぁ……」モジモジ
138 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:24:12 ID:moLpM0wo
サシャ「……///」プイ
ライナー「よし、俺の勝ちだな」ニヤリ
サシャ「へっ? ……今のって勝負だったんですか?」
ライナー「なんだ、躾のほうがよかったのか?」ニヤニヤ
サシャ「……」ムー...
サシャ(こっちは真面目に反省して、真剣に心配してたのに……完全に遊ばれちゃってるじゃないですか。なんだか悔しいです)ムスッ...
ライナー「ごちそうさんでした、っと……珍しい味だったな。うまかった」
サシャ「え? ごちそうさまって……もう食べちゃったんですか? 早くありません?」
ライナー「そりゃ俺は1本だったからな。お前はゆっくり食えよ、時間は気にしなくていい。無理にがっつこうとするんじゃないぞ?」
サシャ「」ピタッ
ライナー「……しなくていいからな?」
サシャ「ふぁーい……」モグモグ
サシャ(そう言われましても、私一人だけ多く食べるってのはどうも落ち着かないんですよねー……あっ、そうだ)
139 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:25:33 ID:moLpM0wo
サシャ「ライナー、もうお腹いっぱいだったりします? まだ平気ですか?」
ライナー「ああ、平気だ。もう何軒かは回れるぞ」
サシャ「じゃあ……これどうぞ。こっちの串焼きはまだ手をつけてませんから」スッ
ライナー「どうぞって……なんだ、もしかして食い切れねえのか? だから4本じゃなくて2本にしろってーー」
サシャ「違います、食べられますよ! ……そうじゃなくて、二人で半分こしませんか? その串焼き」
ライナー「……お前、2本食いたいんじゃなかったのか?」
サシャ「2本食べたいから買ってきたわけじゃないですよ。ライナーが2本食べるから、私も同じく2本にしたんです。そこまでこだわりはありません」
ライナー「まあ、俺としちゃ半分でも食えるならありがたいが……本当にいいのか? もらっちまっても」
サシャ「全部はあげませんよ半分ですからね全部食べたら本気で怒りますからね半分ですよ半分半分はんぶんはんぶん!!」ユサユサ
ライナー「わかったわかったわかった。……じゃあ、いただきます」ガブ
サシャ「……」ジーッ...
ライナー「見張ってないでお前も食え」
サシャ「そうですね、それじゃあ見張りながら食べます」ジーッ... モグモグ
ライナー(……食いづれぇな)モグモグ
140 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:26:17 ID:moLpM0wo
サシャ「ごちそうさまでしたー! いやー、おいしかったですね! 最初の店から大当たりとは幸先がいいです!」ニマニマ
ライナー「幸先いいのは構わんが、顔がめでたいことになってるぞ? 移動する前になんとかしとけよ、それ」
サシャ「えっ? まさかそんな……」ゴソゴソ... パカッ
サシャ「…………確かにめでたいですね」
ライナー「だろ?」
サシャ(このままの顔で歩き回るわけにはいきませんよね。ええっと、ハンカチハンカチ……)ゴソゴソ...
サシャ「……あれ?」
ライナー「どうした? 財布でも落としたか?」
サシャ「いえ、ちょっと…………あれー……?」ゴソゴソ...
サシャ(おかしいですね、出かける前にきちんと入れてきたはずなのに……どこに行ったんでしょう、私のハンカチ……は…………)チラッ
ライナー(結構深く噛まれたが、これくらいの傷なら一晩あればなんとか塞がるよな。しかし、数日分の包帯を一体どこから調達するか……)ウーン...
サシャ「……」
141 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:26:55 ID:moLpM0wo
ライナー「どうだ、探しものは見つかったか?」
サシャ「……ええ、まあ、ありました」
ライナー「そうか、ならよかった。ーーそういう物の管理は日頃からきちんとやっておけよ? いざって時に必要なもんがないと困るのは自分だからな」
サシャ「そうですね、今まさに困ってます。……ものすごく」
ライナー「? どういうことだ? 探しものはあったんじゃないのか?」
サシャ「……それ、探してたんです。実は」
ライナー「それって…………あっ」
サシャ「今回は、その……一枚しか持ってきてなくてですね、いつもは二、三枚準備してるんですけど……」
ライナー「……もしかして、他に顔拭くもんないのか?」
サシャ「…………はい」シュン
ライナー「そういうことは早く言えって……ほら、顔こっち向けろ」グイッ
サシャ「へ?」
ライナー「拭いてやる」
142 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:28:05 ID:moLpM0wo
サシャ「拭いてやるって……えぇっ!? い、いいですよそんな! 貸してもらえたら自分でやれますからっ!!」ジタバタ
ライナー「その小さい手鏡じゃよく見えねえだろ? 遠慮するな」
サシャ「別に遠慮なんかしてないですって、平気ですからっ……!」
ライナー「なら、これはさっき手当てしてもらった礼だ。ありがたくやられとけ」
サシャ「……変なとこ拭かないでくださいね」
ライナー「んなことするか。……どれどれ」フキフキ
サシャ「……」モジモジ
サシャ(は、恥ずかしい……! しかも、顔が……顔が近いです……っ! いや近いのは別にいいんですけどでも結局子ども扱いされてますしなんか色々台無しになってるような)ソワソワ
ライナー「全く、お前は……いつまでも手がかかって、仕方ねえ奴だなぁ」ニヤニヤ
サシャ「……そう言う割には満更でもなさそうですけど?」
ライナー「生意気言う口はこれか?」グニュン
サシャ「ふぎゅっ!?」
ライナー「口周りは特に念入りに拭いとかねえとなー」ゴッシゴッシ
143 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:28:54 ID:moLpM0wo
ライナー「よし、綺麗になった。ーー完璧だ」ドヤァ
サシャ「……どうもありがとうございまふ」ヒリヒリ
ライナー「さて、あまりのんびりもしてられないな。次の店に行くか?」
サシャ「そうですね、行きましょっか! 次は何食べます?」
ライナー「次は、そうだな……手と顔が汚れにくくて、簡単に食べられるようなものにするか。この後お前の髪飾りも探さなきゃならんからな、あまり食ってばかりじゃ時間がなくなる」
サシャ「……忘れてました」ポン
ライナー「おい」
サシャ「しっ、仕方ないじゃないですかっ! 串焼きがおいしいのが悪いんですよ、別に私が食い意地張ってるわけじゃありませんっ!」ブンブン
ライナー「いや、責めてるわけじゃなくてだな……お前が食べ歩きのほうがいいってんなら無理に行かなくてもいいんだぞ? その分時間も浮くからな、もう少し色々なものが食えると思うんだが」
サシャ「……なんて恐ろしい提案をするんですかライナーは」
ライナー「まあ、お前の好きなほうを選べ。どっちでも付き合ってやる」
サシャ「好きなほう、ですか……」
サシャ(……今日、一緒にいられるだけで充分幸せなんですけどね)
ライナー「それにしても、さっきから肉の屋台が一軒も見当たらないな。気づかないうちに通りすぎたか?」キョロキョロ
サシャ「もしかすると、お肉の屋台自体がないのかもしれませんね。さっきアルミンから聞いたんですけど、トロスト区のお肉って偉い人が全部牛耳ってるらしいんですよ。ずるいですよね」ムー...
ライナー「……トロスト区の中で流通している肉の量を、商会がまとめて管理してるのか?」
サシャ「そうですそれです! だから、こういう露店にはお肉が回ってこないのかもしれませんね。……残念です」シュン
ライナー「……いや、そうでもないらしいぞ? あそこの角見えるか? 黄土色の天幕が張ってある店だ」
サシャ「角ですか? ……あっ!」
ライナー「鶏の串焼きなんてはじめて見たな。少し値が張るが食ってみるか? 他に肉の屋台があるかどうかわからねえし、それにーー」
サシャ「食べます食べます! 私買ってきますね!」パッ タッタッタッ...
ライナー「あっ……! おいこら、手を離すな! この人混みで走るんじゃない!」ダッ
サシャ「大丈夫ですよ、ちょっとそこまでなんですからーーわっ!?」ガッ
ライナー「!」ガシッ
124 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:12:41 ID:moLpM0wo
サシャ(び、びっくりしたぁ……! 顔から転ぶところでした……)ドキドキ
ライナー「……ったく、少し油断したらこれだもんな。お前は」ハァ
サシャ「あ、あはは……」
ライナー「楽しみなのはわかったから走るな。足元と周りはちゃんと見ろ。屋台は逃げないから歩いていけ」クドクド
サシャ「……屋台は逃げませんけど、食べ物は逃げちゃうじゃないですか」ボソッ
ライナー「串に足は生えてない」
サシャ「そりゃあもちろん生えてませんよ? でもモタモタしてたら目の前で売り切れちゃうことだってあるでしょう?」
ライナー「……なるほどな。つまりお前は、慌てて走ってぶっ転んで怪我して肉を食えなくなる方がよっぽどいいと」
サシャ「……それは嫌です」
ライナー「だろ? ……何か言うことあるよな?」
サシャ「……走ってすみませんでした」ションボリ
ライナー「わかればいい。……それじゃ2本、頼んでいいか? 味や種類はお前に任せる。俺は二人で座れるところを探しておこう」チャリン
サシャ「おつかいですね! わかりました、おまかせください! ……ところで」
ライナー「ん? どうした?」
125 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:13:36 ID:moLpM0wo
サシャ「手、離してくれます? 支えてもらったのはありがたいんですけど、その……腰に手を回されるのは、恥ずかしいというか」モジモジ
ライナー「腰? ……!」パッ
サシャ「わっ……ととっ」ヨロッ
ライナー「わざとじゃないぞ? ……わざとじゃないんだ、わかるよな?」
サシャ「わかってますよ、大丈夫です。ーーそれじゃあ行ってきますね! いいところ探して置いてくださいよー!」タッタッタッ
ライナー「……」
ライナー(昨日担いだ時も思ったが、腰細っせぇな……あと柔らか……)ハッ
ライナー(違う違う違う! 何考えてんだ俺は! そうじゃねえだろ!)ブンブン
ライナー(しっかりしろ、浮かれてる場合じゃない……今日は他にやることがあるんだ。こんな心構えで臨むわけにはいかん)
ライナー(……けどあいつ、全然動揺してなかったな。俺だけ一人で慌てて馬鹿みてぇだ)ハァ
126 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:14:24 ID:moLpM0wo
サシャ(うわぁ、びっくりしたぁ……ううっ、まだ顔が熱いです)パタパタ
サシャ(見られてないですよね? 不審に思われてないといいんですけど……)チラッ
サシャ(……よし、気づかれてないみたいですね。早くお肉買ってライナーのところに戻りましょう)
サシャ(それにしても、2本も食べるんですか……ということは、私の分も合わせて4本でいいんですかね。お金多く持ってきてよかったです)ゴソゴソ
サシャ(というか、4本も持ちきれるんでしょうか……結構お肉大きいですし、量もありますよね。袋とかあればいいんですけど)ウーン...
サシャ「あのー……すみません、この鶏の串焼きっていうの4本もらえますか? 種類とか味はおまかせで」
店員「はいよ、串焼き4つね」ジュー...
サシャ「……」ジュルリ
サシャ(……おっと、いけませんいけません! 涎垂らしてるところなんか見られたらまた子ども扱いされちゃいますからね、しっかりしないと)グッ
店員「お嬢さん、一人で4本も食うのかい? 見た目によらず大食いだね」
サシャ「いえ、二人で2本ずつ食べるんです。……まあよく食べるのはその通りなんですけど」エヘヘ
127 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:15:21 ID:moLpM0wo
店員「ほい、串焼き4つだ。代金はそこの箱に入れておいてくれ。釣りが欲しいなら勝手に持って行きな」
サシャ「はーい……ええっと、4本だからー、代金は4をかけてっと……」チャリンチャリン
店員「タレが顔や手につきやすいから、食う時は注意してくれよ? ……それと、そこのそいつにもな」
サシャ「はい? そいつ? ……誰もいませんけど」クルッ
店員「違う違う、下だよ下」
サシャ「下……?」
犬「」ヘッヘッヘッヘッ
サシャ「……犬?」キョトン
店員「運が悪かったな、お嬢さん。そいつに目ぇつけられたら、手に持ってるもんやらねえと一生離れねえぞ?」
サシャ「ええっ!? ……ということは、この串焼きをこの子にあげないと」
店員「家までついてくる」
サシャ「」
ライナー(昨日はあのままベルトルトに寝かしつけられちまったからな……今朝もあいつに付き合わされたし、その後はすぐ打ち合わせや会議で考える暇がなかった)
ライナー(ぶっつけ本番は避けたかったんだがなぁ……さて、どう切り出したもんか)ウーン...
ライナー(今日の「いつ」話すかは置いといて……やはり問題は、「どこまで話すか」だよな)
ライナー(何もかも全部話しちまったら、壁内に置いていくという選択肢がなくなる……最悪の場合、アニが言った通り力尽くにでも連れ去るしかない)
ライナー(壁を壊した後、サシャを連れ去る余裕があるといいんだが……どうだろうな。こればっかりはやってみないとわからないか)
ライナー(ある程度話す……となると、どこまで話していいものなんだ? トロスト区の壁を破壊する計画は当然話せない、が……黙ってたら怒るだろうな、サシャは)
ライナー(いっそのこと、何も話さず連れて行くか? ……だが、いつまでも隠し通すってのは無理がある。いずれは打ち明けることになるだろうな)
ライナー「……」
ライナー(駄目だ、何を選んでも悪い未来しか見えん……! どうしろってんだよ! どれを選べばいいんだ!? いっそのこと鉛筆転がして決めちまうか!?)ウダウダ
ライナー(だが……どう転ぶにしたって、無理矢理ってのは避けたいところだな。嫌がるあいつを連れて行っても……そりゃただの自己満足でしかない)
129 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:16:51 ID:moLpM0wo
ライナー「……困ったな、どうしたもんか」ハァ
サシャ「私も困ってます……」
ライナー「! サシャ、戻ってきてたのか? 遅かった……な…………?」
犬「」ヘッヘッヘッヘッ
サシャ「なんとかしてくださいぃぃ……」ションボリ
ライナー「…………」
130 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:17:32 ID:moLpM0wo
ライナー「まあ、色々聞きたいことはあるんだが……その犬、どこから連れてきた? 首輪もつけてないし野良犬だろ?」
サシャ「勝手についてきたんですよ! 私のせいじゃありません……」シュン
ライナー「勝手にって……お前、こいつに仲間だと思われたんじゃないか? 顔もどことなく似てるよな」ハハハ
サシャ「……そうなんですか? あなた、私のこと仲間だと思ってついてきたんですか?」チラッ
犬「?」ハッハッハッハッ
サシャ「うぅー……とぼけた顔しても誤魔化されませんからね! ちゃんと答えてください!」ガミガミ
ライナー「犬が答えられるわけないだろ……そもそもなんで4本も買ってきたんだ? 店で眺めてたら食いたくなっちまったのか?」
サシャ「だってライナーが2本分のお金渡したんじゃないですか! 私だって2本食べたいですよ、一人だけ多く食べてずるいですっ!」
ライナー「……あのなぁ、それは一人分じゃなくて二人分の金だ」
サシャ「へ? ……そ、そうだったんですか、私てっきりーー」
犬「」ピョン
131 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:18:34 ID:moLpM0wo
サシャ「っとぉっ! ーーあ、危ないところでした」ドキドキ
ライナー「完全に狙われてるな……一本くらいやっちまったらどうだ? そいつを避けながら食うのは無理だろ?」
サシャ「ダメですよせっかく買ってきたんですから! ーーあっ、そうだ!」ヒョイ
サシャ「ほ、ほら! ネギですよネギ! ネギは嫌いでしょう!? ネギ食べたらお腹壊しちゃいますもんね、好き嫌いしちゃ駄目ですよ!! お残しは許しませんっ!!」プンスカ
ライナー「犬に怒ってどうする」
犬「」ピョン
サシャ「わぁーっ!? そっちじゃありませんってばー!」タタタッ
ライナー「言ってわかる奴ならはじめからついてこねぇだろ……どれ、一本もらうぞ」ヒョイ
サシャ「あぁっ! ……それ、その子にあげちゃうんですか?」
ライナー「他に方法があるか? 興奮した犬に噛みつかれるよりはよっぽどマシだろ?」ジロッ
犬「?」ヘッヘッヘッヘッ
132 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:19:25 ID:moLpM0wo
ライナー「おい、これが欲しいんだよな? くれてやるからさっさと帰れ。なっ?」
犬「……」ジーッ...
ライナー「いらねえなら俺が食っちまうぞー?」ブンブン
ライナー(そういえば、子どもと話す時は目線を合わせたほうがよかったんだよな? 犬の場合はどうなんだ? 少し屈んだほうがいいのか……?)スッ...
サシャ「! ライナー、ダメですよ! 野良犬と目線合わせちゃーー」
犬「わんっ!」ガブッ
ライナー「い゛っ!?」
サシャ「あっ!」
犬「」タッタッタッ...
ライナー(痛ってぇぇ……! あの犬、思いっきり噛みやがった……!)ジンジンジンジン...
サシャ「ああ、やっぱり……! ライナー、手は大丈夫ですか? もしかして噛まれたんじゃーー」オロオロ
ライナー「い、いや……少し引っかかれただけだ。なんともない」サッ
サシャ「! 血が出てるじゃないですか!」グイッ
133 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:20:02 ID:moLpM0wo
ライナー「平気だって。これくらいツバつけときゃ治る」
サシャ「治るわけないでしょう! このままほっといて破傷風にでもなったらどうするんです? ーーちょっと待ってて下さい、お水もらってきますから!」スクッ
ライナー「おい、何もそこまでしなくてもーー」
サシャ「はい串持って!」サッ
ライナー「お、おう」
サシャ「それではサシャ・ブラウス、水の確保に行ってまいります!」バッ!! タタタッ
ライナー「あっ、おい待てサシャ! ……ダメだ、行っちまった」
ライナー(もう姿が見えなくなっちまったな……なんであいつ、こういう時は足が速いんだ? ……ん?)チラッ
犬「」ヘッヘッヘッヘッ
134 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:21:12 ID:moLpM0wo
ライナー「……お前のせいで余計に時間が潰れちまったじゃねえか。どうしてくれる」
犬「?」ヘッヘッヘッヘッ
ライナー「んな顔してももうやらねえよ、あっち行け。人の邪魔するな」シッシッ
犬「」トテトテ...
ライナー「行ったか。……さて」
ライナー(怪我はしないように気をつけてたんだが、最後の最後に油断したな。やっちまった……)ハァ
ライナー(今のうちに治して、さっきのは気のせいだって言い張るか? ……いや、この人通りじゃ無理だな。赤の他人に蒸気を見られたら洒落にならない)
ライナー(技巧……は、なんとかなるよな。対人格闘もキツいができなくはない。座学は手を使わないからいいとして……問題は立体機動か)
ライナー(帰ったら傷を塞いで、上から包帯でも巻いて誤魔化しておくか。……ああ、またベルトルトに叱られるな)
135 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:21:55 ID:moLpM0wo
ーー しばらく後
サシャ「ハンカチを巻いて……これでよしっと。訓練所に帰ったら医務室行ってくださいね、約束ですよ?」ギュッ
ライナー「ああ、わかった。……返すもんが増えちまったな」
サシャ「いいですってこれくらい。それに血の汚れって洗っても落ちませんから、帰ったらハンカチは捨てちゃってもいいですよ。ーーさあ、お肉食べましょっか! ライナーはどれ食べます? 全部種類が違うみたいですけど」ワクワク
ライナー「どれでも構わん……って言ったら困るか。ほら」スッ
サシャ「……? 2本?」
ライナー「俺は1本でいいから、お前が2本食え。ーーすまんな、作りたてだったのに手当てしてるうちに冷めちまった」
サシャ「いえいえ、お肉が食べられるだけ儲けものですよ! それじゃあいただきまーす!」ガブッ
ライナー「いただきます。……服にこぼすなよ? 染みになったら洗濯が面倒だからな」ガブ
サシャ「そんなもったいないことしませんよー」モグモグ
136 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:22:44 ID:moLpM0wo
サシャ「ああー……おいひぃぃ……」トローン...
サシャ(この塩っけがある味は、訓練所じゃ絶対に食べられませんよね! 甘くないし量もありますから、これならきっとライナーも満足ーー)チラッ
ライナー「……」モグモグ
ライナー「…………」ハァ
サシャ(……あれ? どうしたんでしょう、元気ないですね……)ジーッ...
サシャ「あの……お肉おいしくありませんでした? 私のと交換します?」
ライナー「ん? ーーいや、そんなことないぞ? 普通にうまい」モグモグ
サシャ「それじゃあ……えーっと、手が痛いんですか? 血は止まったみたいですけど」
ライナー「そりゃ少しはな。軽くとはいえ犬に噛ま……引っかかれたんだ。何事もなかったかのようにってのはちょっと無理だろ」
サシャ「……あの、さっきはすみませんでした。私がさっさとあの子にお肉あげてればよかったんですよね。ーーそしたらライナーが怪我しなくても済んだのに」シュン
ライナー「いや、謝らんでいい。……よくよく考えたら、お前が他人に食い物分けてやれるはずねえよな」
サシャ「考えるだけでゾッとします!」キリッ
ライナー「ああ、知ってる」モグモグ
137 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:23:22 ID:moLpM0wo
サシャ「あっ、でも……ライナーもさっきはちょっと迂闊でしたよ? 野生の動物とあんなに長く目を合わせるなんて自殺行為です。今度から気をつけてくださいね?」
ライナー「……? 犬と目を合わせるとまずいのか?」
サシャ「大抵の動物は目を合わせると『喧嘩を売られてる』って思っちゃうんですよ。ペットの躾をするならむしろ必要な行為なんですけどね」
ライナー「……なるほど、躾か」
サシャ「ですから、訓練所にはじめて来た時は戸惑ったんですよ。今まで目線を合わせちゃいけない相手とばかり接してきましたから、目を合わせて人と話すってことにどうしても慣れなくて……でも今はなんとか、誰とでもお話できるようになったんですけ……ど…………」
ライナー「……」ジーッ...
サシャ「……? なんですか? 私の顔に何かついてます?」ペタペタ
ライナー「いや、何もついてない」
サシャ「それならどうして私の顔見てるんです? 恥ずかしいんですけど……」
ライナー「……」ジロジロ
サシャ「う、ううーっ……見るのやめてくださいってばぁ……」モジモジ
138 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:24:12 ID:moLpM0wo
サシャ「……///」プイ
ライナー「よし、俺の勝ちだな」ニヤリ
サシャ「へっ? ……今のって勝負だったんですか?」
ライナー「なんだ、躾のほうがよかったのか?」ニヤニヤ
サシャ「……」ムー...
サシャ(こっちは真面目に反省して、真剣に心配してたのに……完全に遊ばれちゃってるじゃないですか。なんだか悔しいです)ムスッ...
ライナー「ごちそうさんでした、っと……珍しい味だったな。うまかった」
サシャ「え? ごちそうさまって……もう食べちゃったんですか? 早くありません?」
ライナー「そりゃ俺は1本だったからな。お前はゆっくり食えよ、時間は気にしなくていい。無理にがっつこうとするんじゃないぞ?」
サシャ「」ピタッ
ライナー「……しなくていいからな?」
サシャ「ふぁーい……」モグモグ
サシャ(そう言われましても、私一人だけ多く食べるってのはどうも落ち着かないんですよねー……あっ、そうだ)
139 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:25:33 ID:moLpM0wo
サシャ「ライナー、もうお腹いっぱいだったりします? まだ平気ですか?」
ライナー「ああ、平気だ。もう何軒かは回れるぞ」
サシャ「じゃあ……これどうぞ。こっちの串焼きはまだ手をつけてませんから」スッ
ライナー「どうぞって……なんだ、もしかして食い切れねえのか? だから4本じゃなくて2本にしろってーー」
サシャ「違います、食べられますよ! ……そうじゃなくて、二人で半分こしませんか? その串焼き」
ライナー「……お前、2本食いたいんじゃなかったのか?」
サシャ「2本食べたいから買ってきたわけじゃないですよ。ライナーが2本食べるから、私も同じく2本にしたんです。そこまでこだわりはありません」
ライナー「まあ、俺としちゃ半分でも食えるならありがたいが……本当にいいのか? もらっちまっても」
サシャ「全部はあげませんよ半分ですからね全部食べたら本気で怒りますからね半分ですよ半分半分はんぶんはんぶん!!」ユサユサ
ライナー「わかったわかったわかった。……じゃあ、いただきます」ガブ
サシャ「……」ジーッ...
ライナー「見張ってないでお前も食え」
サシャ「そうですね、それじゃあ見張りながら食べます」ジーッ... モグモグ
ライナー(……食いづれぇな)モグモグ
140 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:26:17 ID:moLpM0wo
サシャ「ごちそうさまでしたー! いやー、おいしかったですね! 最初の店から大当たりとは幸先がいいです!」ニマニマ
ライナー「幸先いいのは構わんが、顔がめでたいことになってるぞ? 移動する前になんとかしとけよ、それ」
サシャ「えっ? まさかそんな……」ゴソゴソ... パカッ
サシャ「…………確かにめでたいですね」
ライナー「だろ?」
サシャ(このままの顔で歩き回るわけにはいきませんよね。ええっと、ハンカチハンカチ……)ゴソゴソ...
サシャ「……あれ?」
ライナー「どうした? 財布でも落としたか?」
サシャ「いえ、ちょっと…………あれー……?」ゴソゴソ...
サシャ(おかしいですね、出かける前にきちんと入れてきたはずなのに……どこに行ったんでしょう、私のハンカチ……は…………)チラッ
ライナー(結構深く噛まれたが、これくらいの傷なら一晩あればなんとか塞がるよな。しかし、数日分の包帯を一体どこから調達するか……)ウーン...
サシャ「……」
141 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:26:55 ID:moLpM0wo
ライナー「どうだ、探しものは見つかったか?」
サシャ「……ええ、まあ、ありました」
ライナー「そうか、ならよかった。ーーそういう物の管理は日頃からきちんとやっておけよ? いざって時に必要なもんがないと困るのは自分だからな」
サシャ「そうですね、今まさに困ってます。……ものすごく」
ライナー「? どういうことだ? 探しものはあったんじゃないのか?」
サシャ「……それ、探してたんです。実は」
ライナー「それって…………あっ」
サシャ「今回は、その……一枚しか持ってきてなくてですね、いつもは二、三枚準備してるんですけど……」
ライナー「……もしかして、他に顔拭くもんないのか?」
サシャ「…………はい」シュン
ライナー「そういうことは早く言えって……ほら、顔こっち向けろ」グイッ
サシャ「へ?」
ライナー「拭いてやる」
142 : ◆H4iwFNXQsw:2014/04/02(水) 21:28:05 ID:moLpM0wo
サシャ「拭いてやるって……えぇっ!? い、いいですよそんな! 貸してもらえたら自分でやれますからっ!!」ジタバタ
ライナー「その小さい手鏡じゃよく見えねえだろ? 遠慮するな」
サシャ「別に遠慮なんかしてないですって、平気ですからっ……!」
ライナー「なら、これはさっき手当てしてもらった礼だ。ありがたくやられとけ」
サシャ「……変なとこ拭かないでくださいね」
ライナー「んなことするか。……どれどれ」フキフキ
サシャ「……」モジモジ
サシャ(は、恥ずかしい……! しかも、顔が……顔が近いです……っ! いや近いのは別にいいんですけどでも結局子ども扱いされてますしなんか色々台無しになってるような)ソワソワ
ライナー「全く、お前は……いつまでも手がかかって、仕方ねえ奴だなぁ」ニヤニヤ
サシャ「……そう言う割には満更でもなさそうですけど?」
ライナー「生意気言う口はこれか?」グニュン
サシャ「ふぎゅっ!?」
ライナー「口周りは特に念入りに拭いとかねえとなー」ゴッシゴッシ
ライナー「よし、綺麗になった。ーー完璧だ」ドヤァ
サシャ「……どうもありがとうございまふ」ヒリヒリ
ライナー「さて、あまりのんびりもしてられないな。次の店に行くか?」
サシャ「そうですね、行きましょっか! 次は何食べます?」
ライナー「次は、そうだな……手と顔が汚れにくくて、簡単に食べられるようなものにするか。この後お前の髪飾りも探さなきゃならんからな、あまり食ってばかりじゃ時間がなくなる」
サシャ「……忘れてました」ポン
ライナー「おい」
サシャ「しっ、仕方ないじゃないですかっ! 串焼きがおいしいのが悪いんですよ、別に私が食い意地張ってるわけじゃありませんっ!」ブンブン
ライナー「いや、責めてるわけじゃなくてだな……お前が食べ歩きのほうがいいってんなら無理に行かなくてもいいんだぞ? その分時間も浮くからな、もう少し色々なものが食えると思うんだが」
サシャ「……なんて恐ろしい提案をするんですかライナーは」
ライナー「まあ、お前の好きなほうを選べ。どっちでも付き合ってやる」
サシャ「好きなほう、ですか……」
サシャ(……今日、一緒にいられるだけで充分幸せなんですけどね)
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