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女「また混浴に来たんですか!!」

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Part9
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/19(日) 10:02:43.40 ID:bWXyEvtc0
女「昨日は」
男「すまなかった」
女「すいませんでした」
男「おはよう」
女「おはようございます。じゃなくて」
男「やっぱり正解不正解があったんだな。どちらの瞳を見るのが正しいのか」
女「いいですよ。どっちでも」
女「うんざりして飽きてしまっていても、いつまで経っても慣れない人の反応っていうのが私にはあるんです」
女「男さん。よろしければなんですけど。のぼせたらすぐあがってもいいので。私の」
男「お前の昔話を聞かせてくれ」
女「……はい」
男「俺の長話に付き合ってくれたしな。話してて、意外とすっきりしたよ」
女「よかったです」
男「ちゃんと聞いてやる」
女「そんなに力を入れなくてもいいですよ」
男「それじゃあ湯の花をつまみにでもしながら」
女「どんな味がするんですかね。小麦粉みたいですけど」
男「食べてみるか?」
女「たべられません」
男「身体にいいらしいぞ」
女「浸かるとですよ」
男「話はまだか?」
女「私の嫌なところでうつってきましたね……」
男「水中感染だな」

139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 08:38:46.11 ID:V7OCpS1JO
目を閉じた時に見える虹色のチカチカはどこから来るのだろう。
幼い時の私は、世界で自分にしか見えないものだと信じていた。
初めはパチパチとしたまだら模様の虹を映していても、目蓋の上から眼球を指圧するとその光景は変わる。
虹から宇宙へ。
宇宙から大地へ。
大地からマグマへ。
マグマから地獄へ。
地獄から星空へ。
困った私はそれを「まぶたのうらのはなび」と子供の感性で命名した。

140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 08:39:53.61 ID:V7OCpS1JO
父親は外科医で、母親は高校時代の同級生だった。
父親はプライドの高い変人で、母親はおしとやかだけれどたまに怒ると怖い人で。
父親は私を持ち上げるのが大好きで。
母親は私を抱き締めるのが大好きで。
2人とも愛情が深かった。
私は小学生の頃から授業は真面目に聞いていたし、快活な子達と上手く人間関係を築けていた。
親の期待通りに良い子に育った。

141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 08:40:41.02 ID:V7OCpS1JO
いや、こんな言い方は傲慢だ。
子供は親に似る。
素敵な親を見て育ち、素敵な親を模倣して似ていっただけだ。
「良い子を演じ続けた反動で不良に…」
テレビ番組でそんなエピソードを見ては少し違和感を覚えていた。

142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 08:41:24.91 ID:V7OCpS1JO
私はこうではないかと考える。
子供の反抗には、親の期待に対する反発と、親が期待しないことに対する反発、この一見正反対な2種類があると。
「親や教師に敷かれたレールの上なんか歩きたくない!」
親が敷くまでもなく、レールは既に敷かれている。
それは、親が歩いてきたレールだ。
それぞれのレールを歩いてきた男と女が出会い、結婚を機にレールは一つに結合される。
出産はその過程にあり、子供は生まれた瞬間から、親と一緒のレールを歩みはじめている。
その時に親が「あなたはあそこのレールを渡りなさい」と遥か上空にある綺麗なレールを指差していると、期待に応えられないストレスでグレてしまうのだろう。
一方で、親と歩いてきたぼろぼろのレールに嫌気がさして、「私はあそこのレールを渡りたい!」と反抗してしまうか。


143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 08:42:09.16 ID:V7OCpS1JO
私は素直に、親の歩いてきたレールを歩みたいと思った。
私もこの人達のように、健全で、明るくて、時々くだらない口喧嘩のある、愛情に包まれている生活を送りたいと当たり前に思っていた。
父と、母と、あの事件が起きる日までの中学生の私を見て思う。
素敵な人生だった。

144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 09:06:26.39 ID:V7OCpS1JO
席替えをすることになった。
クジ引きで決めるのだが、私は中学生の女子としてはおそらく珍しく、隣の男子が誰になるかはあまり気にしなかった。
前後が自分と仲の良い女友達になりさえすれば、毎日楽しくなるなと思った。
だから、クジを引いて、前に仲の良い友達が来て、嬉しかった。
隣が肥っていてにきびだらけで俯いている男子で、後ろが眼鏡をかけてカバーをつけた本をこれまた俯きながら読んでいる女子でも、気にならなかった。
ちょっとからかってみようとか、見下すような気持ちも全然なかった。
全く、気にもかけないだけだった。
それは、恵まれた思春期を生きている女子学生には自然に芽生える感情で、決して罪深いことではなかっただろう。

145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 09:09:40.90 ID:V7OCpS1JO
これは後に知ったことなのだが。
休み時間を地獄だと感じ、早く授業中になって欲しいと願っている生徒がクラスの片隅にはいるらしい。
休み時間になって、嫌な人とコミュニケーションをとることや、
そのコミュニケーションすら取れず、孤独で惨めな思いをする人達だ。
私が見向きもしなかった人達。
孤独で可哀想だなんて思ったことはない。
孤独なんだな、と頭に浮かぶだけ。
私と人生が交わることがないような人達に対して、何ら感情を抱くことはなかった。
ヒエラルキーなんて言葉がまだなかった頃。
「みんな違ってみんないい」
「ナンバーワンよりオンリーワン」
流行りの言葉に素直に頷いていたのは、みんなと違ってみんなより可愛い子や、容姿の良さは1番の子だった。
男子は、デブでも愛されキャラの人もいたし、チビでも面白いキャラの人もよく注目を集めていた(恋愛対象にはならなかったが)。
ただ、会話がまるで面白くない人は、やはり冴えない者同士で群れていた。
一方、女子学生における序列においては、容姿が絶大な力を持っていた。

146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 09:28:20.76 ID:V7OCpS1JO
休み時間になる度に手鏡を開く女の子と一緒のグループだった。
綺麗な女の子ほど自分の容姿に厳しい。
アイドルや芸能人がブログで自分の容姿のコンプレックスを告白することがあるが、あれは本心だろう。
テストで46点の答案が返ってきても折り畳んですぐに捨てて忘れてしまうが、98点の答案が返って来たら用紙の間違えた部分をいつまでも悔い続けるだろう。
用紙の間違えた部分、いや、容姿の間違えた部分について、98点の女の子はいつまでも悔い続ける。
私はあごに小さなにきびが出来ていた。
親が外科医でもにきびの出現を抑えることはできない。
これさえなければかなり幸せなのになぁ、と悩んでいたことは、クラスのマドンナの様な存在だった母親の遺伝により獲得した98点の幸せの証だったろう。
いつも手鏡を大切そうにもっているのを揶揄して、根暗な女の子が「ラッコかよ」と言ってるのを聞いた時は、やはり妬みだとも不快だともすら思わず、何の感情も芽生えなかった。

147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 12:18:34.39 ID:U20VhLqYO
浴衣の似合う女の子達だった。
ピンクも、黄色も、うぐいすいろも、鮮やかに映えていた。
私は友達が大好きだった。
クラスの男の子は二の次だったけれど。それでも、こんなに綺麗な女の子達だけで歩いているのは、なんだかもったいない気がするなぁと、他人事のように傲慢なことを考えていた。
生まれて、気付いたらここにいた。
13才になって、綺麗な女の子達と歩いている。
26才になった私はどうなっているんだろう。
39才になった私は今のような家庭を築けているんだろうか。
学校の先生をからかうような話題を聞きながら、私は珍しく哲学的なことを頭の片隅で考えていた。

148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 12:31:59.63 ID:U20VhLqYO
食べ物を買おう、ということになった。
私はやきそばを食べたいと思った。
誰かがたこやきを食べたいと言い出した。
私も、私も、と続いた。
私も、と私も言った。
たこやきを買って、食べながら歩く。
確かに、食べ歩きするなら、やきそばよりもたこやきの方が芽生えがいいかもしれない。
食べ終わってしばらく歩くと、わたあめを飼おうということになった。
私はあまり好きではなかったけれど、私も、と再び言った。
無理して協調しているというわけではなかった。
自分で考えず、周りに流されるのに慣れていた。
慣れというのは、好き嫌いを超越した感情であり、自由や束縛よりも高い次元にある行動でもある。
わたあめを舐める姿はたこやきを食べる時よりも浴衣姿に似合っていたと思う。
ちゃんと13才の時間を私達は生きていた。

149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 15:55:17.31 ID:WNx/H5KLO
女「今日はここでおしまいです」
男「そうか」
女「あなたがのぼせてしまいそうなので」
男「気付いていたか。中々言い出せなかった」
女「私の前では忍耐しないでくださいね」
男「当時のお前は、なんというか」
女「はい」
男「感情の見えないやつだな」
女「そうかもしれないですね。抜け殻みたいで気持ち悪いでしょ」
男「そこまでは言ってない」
女「今はどうですか?」
男「明るさで何かを隠していそうだ」
女「何かを隠したいなら暗いものが1番ですよ。なんせ見えにくいんですから」

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 15:59:14.27 ID:WNx/H5KLO
女「おはようございます」
男「おはよう。昨日の話の続きをしてくれ」
女「せっかちですねぇ」
男「善は急げだ」
女「のぼせるのは善ですか」
男「急いでのぼせてる訳ではない」
女「それじゃああなたがのぼせないうちに、話しましょう」

152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/27(月) 17:21:19.99 ID:WNx/H5KLO
「疲れたね」
屋台をぐるぐるまわっているうちに飽きてきた。
「花火の時間まであとどんくらいかな」
「落ち着いた場所で見たいね」
「……あのさ」
「ん?」
「公園、男子いるかな」

153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/28(火) 07:42:02.95 ID:yypMNcYYO
「やあやあ、ひまじんども~」
「なんだ、女子かよ」
公園にはクラスの男子と、私服姿の暗い女の子3人組、それとベンチに座っている男性がいた。
こちらに気付いた女グループが手をあげかけたが、男子に話しかけた私達を見て手をおろした。
「それなに?銃?」
「クジ引きであたったんだよ」
「ここ日本だよ?捕まっちゃうよ?」
「お前らを射ったら捕まるかもな」
「なにそれ下ネタ?」
女子がクスクス笑いだすと、銃を持っていた男の子がうんざりしたそぶりを見せた。
けれど、本気で嫌がっているようには見えなかった。
夏祭りの夜は、男子と女子の机と机の間に空いている3cm程度の隙間を、くっつける日なのだ。

154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/28(火) 07:56:11.16 ID:yypMNcYYO
雑談がしばらく続いた。
いつもある男子のとげとげしさも抜けて、和やかな話題で笑い合った。
その時だった。
「始まった!」
花火が夜空に打ち上がった。
赤色、黄色、紫色、橙色、緑色。
浴衣に劣らぬ色のバリエーションで夜闇を照らす。
去年は家族と見ていた。
物心ついた頃から見続けていた。
見慣れてはいたが、見飽きることはなかった。
この美しい景色に見合うだけの青春の中にちゃんといるという感触は、私を安心させた。

155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/28(火) 08:04:31.93 ID:yypMNcYYO
男子の1人が私に近づいてきた。
「わたあめ余ってるね」
女「うん。実はちょっと苦手なの」
「代わりに舐めてあげようか?」
女「んっ、やめてよ」
ニヤニヤ笑う姿も、かっこよく見える男の子だった。
一緒の班になったこともあって、場を盛り上げるのが上手だった。
「小さい頃、花火苦手だったんだ」
女「どうして?」
「怖かったんだ。フランケンシュタインや、ドラキュラと同じくらいに」
女「なにそれ」
花火が打ち上がっている間に、私達はささいな秘密を共有しあった。
時折他の女子が振り向いてクスクス笑ってくるのが恥ずかしくて目を逸らした。
目を逸らした公園の中には、もう3人組の女子はいなくなっていた。

156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/28(火) 08:09:34.44 ID:yypMNcYYO
「そっちはないの」
女「なにが?」
「そういうの」
女「そういうのかぁ」
花火を見て思いつく。
女「なんか、ちょっとグロテスクかもしれないんだけどさ」
女「小さい頃から私にしか見えないと思ってて。家でそれを見てる時は、友達も見えてるか気になるのに、学校に着くとその景色の存在なんかすっかり忘れてるっていうものがあって」
女「朝に二度寝してる時なんかに、手の甲を目に押しつけることがあるのね。そうしたらさ」
わたあめの棒を取られた。
先ほどベンチに座っていた男だった。
食べたいのかな。ホームレスなのかな。
普段ぼぉーっとしている私でも、もっと不穏な空気を感じた。
判断をする時間さえ、与えられなかった。

157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/28(火) 08:11:25.27 ID:yypMNcYYO
死なせて。
死なせてよ。
右眼に割り箸が突き刺さったことを知覚した瞬間、激痛に襲われた。
今すぐこの痛みを消すか、それができなければ死なせてほしいと願った。
足がよろめいて、近くにいた女子を左手で握り締めた。
絶叫され必死で剥がされた。
このままが良いのか。抜くのが良いのか。ただひたすら混乱していた。

159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/28(火) 18:51:54.13 ID:D1iqdLVwO
左目まで涙が溢れてきて視界がぼやけた。
犯人の姿はなかった。
先ほど近づいて来た男の子はオロオロしているだけだった。
救急車。救急車。
それだけが自分を救ってくれると縋った。
お父さんの顔が浮かんだ。お父さんは私を治せるのだろうか。
お母さんの顔が浮かんだ。お母さんの腕の中で眠っていたころに戻りたかった。
他に苦しんでいる同級生はいなかった。
私でなければならない理由は、あったんだろうか?


160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/28(火) 19:09:59.44 ID:D1iqdLVwO
眼帯をつけて歩くのが、恥ずかしい。
真っ黒い液体が常にふつふつと沸いているように、私の心の中に今までの人生にはなかったような感情が芽生えていた。
怒り、憎しみ、恥ずかしさ、後悔。
地面を向いて歩きながら、屈辱だ、と呟きたくなった。
いつか学校の道徳の時間か何かで、盲目の人と盲導犬のドラマを見たことがあった。普段人に同情することがない私でさえ、少し涙が出てしまった。
同じ立場で相手に寄り添うことを共感と呼び、異なる立場で相手に寄り添うことを同情と呼ぶのだとしたら。
今の私に同情するような奴らは、絶対に許せない。
関心を持たれても、無関心を装られても、あるいは本当に無関心だとしても。
私はどんな相手でも憎むだろう。
世界を、私は憎むようになった。
私の右眼が、まぶたのうらのはなび、を見ることはもう二度となかった。

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