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女「また混浴に来たんですか!!」

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Part5
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/03(金) 23:34:13.05 ID:IpJ33mts0
女「好きな人がお風呂に入らないのいいなぁ」
男「好きな人とお風呂に入るのはどうなんだ」
女「そんなの恥ずかしいに決まってるじゃないですか!!!」
男「混浴来てる女が言うセリフか」
女「恋人と混浴に来るのはいいですけど。お家でお風呂に一緒に入るのは恥ずかしすぎますよ」
男「女心は複雑過ぎるな」
女「そもそもうちは両親が厳しいので同棲なんて状況ありえないんですけどね」
男「今時珍しいな」
女「過保護の星で生まれ育ってきたんです。今もですけど。だからこそ、なんとか一人で立とうとした私は、海外に行ったり、こうして田舎に来たり、色々試しているんです」
男「親から殴られてきた俺とは対極だな」
女「あっ……」
男「いちいち後ろめたそうな顔をするな。最初に言っただろう。俺とおまえは生きる時間が違うって」
男「それでもな、俺のことを守ろうとしてくれた人が人生で現れてくれたこともあった。それらも全部徒労でおわったけどな」
男「全部俺という存在が終わってしまったあとで、お前が現れたんだ。後ろめたく思うのはむしろ俺の方なんだ」
女「……怖いですが、ちょっとずつ話してほしい気もします」
女「あなたの人生がどういうものだったのか。興味本位といえばそうなんですけど」
男「名を名乗るにはまず自分からだな」
男「前いいかけてたお前の過去は何だったんだ?」
女「ワニが現れる前のことですよね。やっぱり気になってたんじゃないですか。今更話してくれだなんて」
男「俺と対極の生き方をしてきた女の人生に興味はなくはないからな」
女「うーん、刺青を入れるような、激しい過去ではありませんが。とても、無口で暗いものなんですが」
女「私、不登校だったんですよ」
男「それで?」
女「え、あの、不登校だったんです。学校に行きたくなくなって」
男「そんなもん、俺もよくさぼってたぞ」
女「ほら、これだから怖くてでかくてごつい人は……」
男「もうあがっても大丈夫か?」
女「どうぞお好きに」
男「では失礼する」ザバァ
女「本当失礼ですよ」
男「期待に答えられなくてわるかった」ザバァ
女「いいんです。たしかに、今となっては、"そんなもん"にすぎない気もしますし」
女「ちょっと気持ちが軽くなったかもしれません」
男「それならよかった」
女「それではまた早朝」
男「また早朝」

77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/03(金) 23:45:11.51 ID:IpJ33mts0
女「…………」
女「あなたがいつも、ここの温泉が開く時間に来てるというのはだいたいわかっています」
女「私は、あなたがすぐのぼせることに対して文句を言うわりには、いつも、少しだけ時間を遅らせて来ているんです」
女「旅は恥のかき捨てだなんて言って、実験的に何もかもをさらけ出すようなことは私はしたくありません」
女「だから、さらけ出せる部分だけをさらけ出そうと思っています」
女「混浴ですものね」
こんなことを思っている私は、やはり過去から何も学んでいないのだろうか。
目の前の人が何を抱えて生きてきたとも知らずに。
自分だけが、世界の苦しみを背負っているとでもいいたげな目で自分だけを見て。
お風呂の工事は、今週いっぱいで終わると聞いた。
お風呂に入って100数え終わるまでに。
私は、人生を許すことができるんだろうか。

78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/04(土) 00:04:50.30 ID:hMtr6kQ80
プリミティブピーポーな混浴。
エインシャントシャワーな混浴。
バッタバッタと快刀乱麻の如き混浴。
激昂する混浴。
人生で感じたことのない痛みに襲われていた私の頭のなかでは。
難関私立高校を受けるために日々覚えていた言葉がぐるぐると脳裏を駆けめぐっていた気がする。
どうして混浴というワードがついたのだろう。
全ては後付けかもしれない。
最近の出来事に触発されて、あの激痛の時間に意味があったときっと思い込みたいだけなのだ。
救急車か何かが今すぐ私を助けに来てくれることを切望していた。
早く救ってくれ、という願いが叶うのは。
それから8年近く経った、今になるのかもしれない。
しかし、それは完全なるハッピーエンドとも限らない。
"希望なんて、無い"
そう納得できるのもまた、1つの安らぎに違いないのだから。
次回「本屋でトイレに行きたくなるし、お風呂でおしっこしたくなるだろ?人生、垂れ流しだ」
屈斜路湖露天風呂の数多の白鳥も、水面下ではバタ足をしているのでしょうか。

79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/04(土) 00:05:25.54 ID:hMtr6kQ80
ご支援ありがとうございました。
おやすみなさい。

80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/04(土) 00:24:00.68 ID:eOR9tRdao
乙、毎度絶妙な予告の文句だな


81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/07(火) 06:53:16.79 ID:/rdzyh2sO
女「……あれ。まだ来てないや」
女「お仕事が長引いてるのかな」
女「身体でも洗っておこうっと」
ゴシゴシ
女「それにしても、刺青をしてる人と話してるなんてな」
女「ピアスを開けてる女の子でさえほとんどいない環境下に育ったのに」
女「お父さんのコネで就職が決まった会社も、理系の大学院生がいっぱい入るような会社だし」
女「はぁー。私は私自身を乗り越えようと本気で戦ったことがなかったな。お父さんのお金で冒険ごっこをしてるくらいで」

82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/07(火) 07:07:11.33 ID:/rdzyh2sO
女「私は人生と戦いたい!厳しい環境で独り立ちしたい!」
女「そんなこと、思えないな。自信もないし勇気もない。守ってもらっていることは幸運なことだと思うだけ」
女「なのに漠然とした不安、ならぬ不満を抱えてしまうのは何故なんだろう」
女「私なんてかなり恵まれてる環境にいるのには違いないのにな」
女「世界がもし100人の村だったら」
女「6人が59%の富を握っていて、74人が39%を、20人が残りの2%を分け合っていて」
女「私はそんなことには無関心で隣街で温泉に入っている」
女「よそはよそ、うちはうち、かぁ」
女「私も小さい頃から物欲はあまりなかったし、お父さんもお母さんもなんでも買ってくれようとしたから言われたことはなかったけれど」
女「本来は、他人が幸福なのと、自分が不幸なのは関係ないってはなしなんだろうけどさ」
女「他人の不幸もまた、自分には関係のないことなんだ」
女「他人が不幸でも、私は私がまだ恵まれているとは到底思えなかったんだもの」ザバァ
女「ああ、良いお湯。この時間だけは正しい幸せの時間だ」

83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/07(火) 07:30:02.92 ID:/rdzyh2sO
男「おう。おはよう」
女「おはようございます」
男「一番風呂をとられたか」
女「遅刻するあなたが悪いんです」
男「まだ5時代だぞ。皆まだ寝ている」
女「よそはよそ、うちはうちです」
男「ん?」

84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/07(火) 07:35:59.14 ID:/rdzyh2sO
男「よいしょっと」ゴシゴシ
女「あれ、身体洗うんですね」
男「マナーだからな」
女「洗ってないのかと思ってました」
男「ワニがいた時言ったのは冗談だ」
女「見ててもいいですか」
男「何を」
女「身体を洗っているところ」
男「なんでだよ。ワニじゃないんだから」
女「ワニにだってメスはいるでしょう」
男「ああいえばこういうやつだ」
女「こういう奴なんです私は」

85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/07(火) 07:43:03.38 ID:/rdzyh2sO
男「…………」ゴシゴシ
女「…………」ジ-
男「洗いづらいな…」
男「楽しいか?」
女「背中大きいですね」
男「そうかもな」
男「刺青はどう思う?」
女「確かに温泉にこんな人が入ってきたらびびっちゃうなぁって」
男「そうか」
女「でもあなたの大きさを見たらどうせ男ならみんなびびっちゃいますよ」
男「……背中を見ているんだよな?」
女「背中のはなしですよ?」

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/07(火) 18:11:37.82 ID:VHF+V53uO
女「刺青って染みたりしますか?」
男「染みないな」
女「身長が高いのって幸せですか?」
男「役に立つことは多いな」
女「ふぅーん」
男「…………」
男「洗いづらい」
女「そうでしょうね」
男「視線を感じる」
女「視てますもん」
男「正面からじろじろ見るな」
女「……どういう意味ですか?」
男「せめて横目でチラ見するくらいの配慮はないのか」
女「そういう意味でしたか」
女「男の子の裸を見てキャーっと手で顔を多い隠すも、指の隙間から見ている女の子がタイプだということですね」
男「話を盛り上げるな」
女「チラ見はしません。景色でもみてます」
男「そうしろ」

87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/07(火) 18:26:20.58 ID:VHF+V53uO
男「ふぅー」ザバァ
男「生き返るなぁ」
女「さっきまで死んでたんですか?」
男「いつも死んでるみたいに生きてるよ」
女「そうですか」ザバァ
男「もうあがるのか?」
女「私はすぐにのぼせたりしません。定位置に着くんです」
女「あなたは奥。私は手前。お互い、いつも同じ所の石に寄りかかってるじゃないですか」ザバァ
男「俺は奥に詰めてただけだ。特にこだわりはない」
女「好きな女性のタイプは?」
男「特にこだわりはない」
女「そんなんじゃ根無し草になってしまいますよ」
男「根のない草などあるのか?」
女「ことわざですよ」
男「それくらい知ってる」
女「初恋の人の性格は?」
男「根掘り葉掘り聞くな」

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/07(火) 18:48:54.26 ID:VHF+V53uO
女「育ちがよくて、性格がおしとやかな女の子に欠けてるものってなんだと思います?」
男「どうした急に」
女「自己分析です。就活生の間で流行ってます」
男「おしとやかか…。自己分析をする前に自己分析が必要なようだ」
女「育ちの良い女性はモテますか?近寄りがたいにしろ、人気はありますか?」
男「モテるだろう」
女「えへへ」
男「だが安心感に欠けている」
女「安心感?」
男「その子から恵まれた環境を取り除いたら、その子はどう変わるのかという不安がある」
女「ふむふむ」
男「薄手の服を着ているか、着物を着ているかの違いのようなものだ。薄手でスタイルが良い女は安心だ」
女「着物の方が脱いだ時の姿が楽しみじゃありません?」
男「…………」
女「共感しました!?今共感してましたよね!!?」
男「う、うるさい」
女「じゃあやっぱり薄手のバスタオルが一枚の方が?」
男「このメスワニはやっかいだな…」

89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/12(日) 02:19:01.49 ID:+Nlxqdvp0
女「安心感ですか」
男「どうした」
女「安心感が大切なんだなって」
男「温泉でもそうだろう。ゆったり浸かっても許される空間を求める。ハラハラドキドキなんて誰も求めちゃいない」
女「女の子はハラハラドキドキしたまま安心したいんですよ」
男「ジェットコースターに乗りながら寝ていられるか」
女「お父さんにおんぶしてもらいながらお化け屋敷を歩くのは思い出に残りますよ」
男「母親と観覧車に乗るのもわるくないだろ」
女「そんな思い出があるんですか?」
男「一切ないから憧れていた」
女「私は親との思い出ばかりです」
男「そうか」
女「あなたは?」
男「何の思い出もない」
女「どんな時間を過ごしていたんですか?」
男「俺の人生なんか聞いてもろくな哲学は得られないぞ」
女「押して駄目なら引いてみろって言うじゃないですか」
男「それが何だ?」
女「今の自分が不幸だと思ってるなら、今までの自分がしてきたことと逆のことをすればいいんじゃないかと思うんです」
女「あなたと私は見るからに真逆の生き方をしていそうじゃないですか。だから、あなたの真似をすれば、私の人生きっとひっくり返るって」
男「……くく」
男「…………ふふ。最悪だな俺は。しかし」
男「ははは!笑いが堪えられんな!そうか、俺の人生を真似してみるか!手始めに刺青でも入れたらどうだ?」
女「……気に障ったならそう言ってください」
男「気に入ったんだよ。思っていた以上に図太いやつかもしれないな、お前は。ふっふっふ」
男「刺青を入れることになった経緯くらいなら教えてやろう」
女「なんだかドキドキイライラしますが……ありがたいです」

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/12(日) 02:46:20.79 ID:+Nlxqdvp0
「殺してやったらどうだ」
駐車場で倒れ込んでいる俺に、話しかける男の声がした。
こういうやつらは今までにもいた。明らかに人生に敗亡しているような俺に、興味本位で話しかけて来る。
言葉だけは心配そうにしながらも、言葉の調子や顔の表情は決まってにやついている。
群れているから強気なのだろう。
3人、4人、多いときには8人近い時もあった。
弱ければ弱いほど力を高めるために大人数で群れている。
だから、群れの力は、結局どこも同じなのだ。
俺は憎しみを込めながら、いつものように返答をする。
「お前らこそ殺すぞ」
体中の痛みを堪えながら俺は立ち上がる。
中学の後半には、既に他人を見上げることが滅多にないほど俺の背は高くなっていた。
体格にも恵まれ、同級生との喧嘩では負けた記憶はない。
ふらふらになりながらも、こちらの立った姿を見た相手はひるんで去っていくものだった。

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/02/12(日) 03:06:12.56 ID:+Nlxqdvp0
時間の流れがわからない。
痛覚と麻痺が入り混じった感覚ばかり流れる。
しかし、それでも相手が去る気配だけは感じなかった。
「人を殺すときくらい、相手の目を見たらどうだ」
俺は顔をあげた。
相手は一人だった。
いい年したおっさんだ。身体つきは良いが身長は小さい。
自分の息子にでも姿を重ねて俺を気にかけたのだろうか。
男「捻り潰すぞ……」
俺は相手の目を見ないように気をつけながら、脅すように言った。
ナイフや、銃でも持っていない限り、普通の喧嘩で俺に勝てるようなやつはいない。
あるいは、母の依存している義父でも無い限りは。
「背の低いやつと、体格の悪そうな奴には喧嘩を売るんじゃねぇ」
「弱いから、ナイフと銃を持っているやつが多いんだ」
肩を掴まれたと気づいた後に、一瞬心地の良い背中の感覚があった。
そして、俺は地面に叩きつけられた。
頭の中に広がるチカチカとした星々と、夜空に浮かぶ現実の星々が交差し、視界が混乱した。
額に冷たい感触が触れた。
「ほらな、俺はどっちも持っている」
落ち着いて、視界を認識すると、拳銃のようなものと、ナイフと、俺を投げ飛ばした親父の目が見えた。
途端に汗が吹き出てきた。
男「はぁ…はぁ…」
「さっきまでの威勢はどうしたんだ」
男「や、やめてくれ…」
「死にたくないか?」
男「し、死んでもいい……」
「はぁ?」
男「み、見ないでくれ」
男「頼むから、俺の目を、見ないでくれ……」

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