女「また混浴に来たんですか!!」
Part17
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:23:54.19 ID:acofFuSc0
女「ゆびがふやけてきました」
男「俺も少しのぼせた」
女「おばあちゃんの指もこんな感じです」
男「年をとった時に同じことを思うだろう」
女「私の手がこんな風になった時、あなたは私に何をしてくれていますかね」
男「俺は生きているのかな」
女「18,000個のしあわせをつかいきるまではいきてください」
男「お前といるとあっという間に減っていく」
女「お上手ですね」
男「ため息が止まらないからな」
女「お湯かけますよ」
男「やめてくれ。そろそろのぼせた」
女「あがりましょうか。マナー違反者は即刻立ち去れです」ザバァ
男「…………」ザバァ
一瞬の幻想の後。
私たちはくだらない会話や、少し深い話をして、お風呂からあがった。
いつもどおり、私もあなたも裸で、指一本触れずにコミュニケーションを取っていたけれど。
この行為は、
俗にいうセックスというものよりも。
深くて暖かい、結びの行為だったのだろう。
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:24:02.55 ID:fJXDnXayo
すごくいい…
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:26:58.93 ID:Dv/kjbjG0
ふぉぉ…
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:46:57.16 ID:JaK9UdbWo
不穏な回想調やめてくれよ...
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:54:16.30 ID:acofFuSc0
この日初めて、私と男さんは温泉以外で行動を共にした。
はじめに一緒にご飯を食べた。
雪国の魚は、冷たくて新鮮で、感動するほど美味しかった。
ソフトクリームを買って食べさせ合うという、男さんにとっては拷問のような行為もさせた。
動物を観にいったり、ブーメランを投げたり、子どもたちに紛れてソリで滑る遊びもした。
男さんに似合わないことをさせるのを、性格の悪い私はこの上なく楽しんだ。
寄り道をしながら日本を下っていった。
仙台で牛タンを食べて、栃木でいちごを食べて、何故か新潟にちょっと寄ってお米を食べた。
今まで訪れたことのない地に足を運んだ。
暗闇の中で生きていた頃の私なら決して許さないような愉快な気持ちになり、明かりの中に必死で飛びでていた私なら決して感じなかったような安堵感を覚えていた。
毎日長距離を移動していたにも関わらず、自分の居場所はここだという確信を、隣の肩に頭を寄せながら思った。
頭のどこかでは、生き急いでいることを理解していたのだろう。
残り50年では幸せにはなれない計算式で、もしも多大な幸せを感じているのだとしたら。
生きる日々という分母が、極端に減っていたのかもしれない。
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 00:13:54.82 ID:GTn7eKNl0
俺たちは、帰宅中の学生やサラリーマンが大勢いる駅のホームに立っていた。
女「ここでお別れですか」
男「ああ」
女「お引っ越しですか」
男「そんなには離れていないさ」
女「私が遊びに行ってあげますからね」
男「あの温泉にもまた行こう」
女「大丈夫ですか」
男「時間帯によるな」
女「何時がいいですかね」
男「どうだかな」
私と男さんが話しているうちに、電車の到着を告げるアナウンスがなった。
女「お別れですね」
男「ああ。お前も気をつけて帰れよ」
女「なんだかドラマチックな別れですね」
男「俺の電車に飛び乗ったりするなよ。挟まれるかもしれないからな」
女「ロマンの欠片もないですね。いいですよ、どうせ5駅分だし」
男「お前との旅は楽しかった」
女「私もです。これでもう老後は文句を言いません」
男「指がふやけるまで生きろよ」
女「指がふやけるまで一緒に浸かりましょうね」
電車のドアが開き、俺は乗り込んだ。
人混みに押し流されまいとしながら、女は俺を見送ろうとしてくれた。
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 00:14:22.39 ID:GTn7eKNl0
女「夏祭りの約束、わすれないでくださいね」
男「お前もな」
女「私、やきそばを食べますからね」
男「好きなものを食えばいい」
女「線香花火もするんですからね」
男「何でもしてやる」
女「わたし……」
女が目に涙を浮かべ、感情を堪えながら俺を見つめている時、発車の合図が聞こえた。
男「それじゃあ、また……」
女「あのっ、言い忘れてたんですけど」
男「何だ」
女「私、実家にいる時は、お風呂でトイレしちゃいます」
男「はぁ?」
女「それではまた早朝!」
閉じた電車のドアの向こうで、女は一人顔を赤らめ、涙を流しながら腹を抱えて笑っていた。
男「ロマンの欠片もないのはどっちだ」
閉ざされたドアのせいで俺の声は届かなかった。
俺は呆れた顔を向けようと頑張ったが、あまりの無邪気さにつられ、一人で車内で笑ってしまった。
素敵な人生だった。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 00:25:40.18 ID:GTn7eKNl0
チュン。
鳥の鳴き声に似ていた。
ゲームセンターや映画で聴いた音とは少し違っていた。
それでも、二人だけのものであったはずのこの時間の、この場所で、聞きなれない音がするのは不吉に思えた。
私は足を早めて山道を進んだ。
おばあさんにお金を渡し、服も脱がずに、急いで中を確かめた。
ごつくて、でかくて、今ではあんまり怖くない人が座っていた。
お湯は、色とりどりの火花が夜空を照らしたあの夜のように、赤く染まっていた。
深く目を瞑っているその人に私は声をかける。
女「知ってますよ。あなたが死にかけてたこと。またいつもみたいにのぼせてるだけですよね」
女「みんな、気絶しているあなたを放っておいていたとしても。私は、ちゃんと、あなたが死にかけて、さみしかったこと、怖かったことにきづいてあげますからね」
女「あなたの友達も、恩人も、お母さんも、誰もあなたを見ようとしなくても」
女「私が、ちゃんと見ててあげますからね」
女「だから、目を覚ましてくださいよ」
女「私となら、目を合わせられるでしょう?」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 00:44:56.77 ID:GTn7eKNl0
女「湯の花の花言葉って知ってますか」
男「湯の花は、花じゃないだろ。温泉の成分の塊みたいなものじゃなかったか」
女「ここの温泉、凄いですよね。お土産に湯の花が販売されてるのも見えました」
男「良い入浴剤になりそうだ」
女「それで、なんだと思いますか」
男「何だ」
女「心まで浸かりたい」
男「…………」
女「もう一つあるそうですよ。さぁ、どうぞ」
男「どうぞって……」
女「さぁ」
男「…………」
男「君といると、のぼせてしまう」
女「キャー!」
男「うるさい」
女「キャーキャー!」
男「静かにしろ!」
女「素敵です」
男「知らん。寝る」
女「ふて寝ですか」
男「…………」
女「あなたが気絶していても私が見ていてあげますからね」
男「…………」
女「じー」
男「…………」
女「じー」
男「…………」
女「やっぱり起きて下さい」
男「…………」
女「本当に気絶してませんよね?」
男「…………」
女「起きてくださいってば!」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 00:49:38.31 ID:GTn7eKNl0
「おきてってば!」
女「わっ!」
娘「風邪引いちゃうよ」
女「今何時!?」
娘「10時」
女「よかったー。パパ帰ってきた?」
娘「まだ」
女「あんたお風呂もう入った?」
娘「まだ」
女「早くお風呂入りなさい」
娘「やだ!!!!せっかく起こしてあげたのに!!!」
女「パパとかぶっちゃうでしょ」
娘「朝入るもん」
女「朝起きられないでしょ」
娘「お風呂も起きるのも嫌い!」
朝起きられることは幸せなことなのよ。
なんて言葉は、言わない。
女「いいから入りなさい!!」
しぶしぶ娘がお風呂に入っていく姿を見て、大変だなぁと思う。
子供の頃の大人は完璧に見えたが、そんなことはなかった。
私はこの子を怒る資格なんてないくらいに、今でもお風呂に入るのはとてもめんどうくさいし、朝起きる時も二度寝したくてたまらない。
それでも愛しい家族との日常を回すために、お風呂に入るし朝も起きる。それどころか、お風呂も沸かすし、朝になったらみんなを起こす。そしてご飯もつくる。
「ただいま」
女「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも」
「娘はどこ?」
女「お風呂に入ったわよ」
「そっか。じゃあ飯食う」
女「…………」
「冗談だよ」
夫が髪を撫でてくれた。
幼いころ望んでいたような、幸せな生活だった。
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 01:08:40.47 ID:GTn7eKNl0
生きていくことは、つらいことの連続で。
かたまりかけたものが溶けてなくなってしまったり。
ふくらんだ希望が泡のようにはじけてしまったり。
とても、大変な日々の連続だけれど。
ひとりで、お風呂に入って。
涙も、悲しい出来事も、全部お湯に流して。
冷え込んだ心は身体の芯からあたためることで癒やして。
沈んだ気持ちはのぼせるまで浸かって高揚させて。
時々お風呂の中で100を数える呪文を唱えれば。
また、次の日を受け入れる準備が出来ている。
もしも、熱さが我慢できなかったら、さっさとあがってしまえばいい。
そして寒さに耐えられなくなったら、また入りにくればいい。
ひとりでも、ひとりにさせない場所。
もしもまた、涙を流す日が訪れたら。
お風呂のお湯で、拭えばいい。
屈斜路湖露天風呂にいた数多の白鳥のように。
少し身体をあたためたら。また、自由に飛び立っていけばいいのだ。
~fin~
307 : ◆uw4OnhNu4k :2017/03/14(火) 01:18:38.89 ID:GTn7eKNl0
終わりです。
長めの内容になってしまいましたが、読んでくれて本当にありがとうございました。
無責任に身体の障害に触れてしまったので、傷ついた方がいたら本当に申し訳ありません。
お風呂嫌いな人から、少しでも抵抗を減らせたら幸いです。
私も今からお風呂に入ってきます。
おやすみなさい。
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 01:19:30.62 ID:FlcIMt5no
結局添い遂げられなんだか……乙
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 01:21:34.38 ID:0nGpYjGyo
乙
俺も今から丁度風呂入る所だったんだ
310 : ◆uw4OnhNu4k :2017/03/14(火) 01:49:31.26 ID:GTn7eKNl0
参考文献だけもう一度
絶景混浴秘境温泉2017(MSムック) 大黒敬太 著
女性が混浴のレポートをする特典動画付きでした。
(念のため、まわしものではありません。)
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 03:04:55.40 ID:G2FuxQIQO
あぁ……乙でした
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 06:46:04.14 ID:nYYYHHTeO
ダメだったか…おつ
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 08:35:31.28 ID:Ace3pM7A0
男じゃない人との家庭、なのかなやっぱ。
男が望んだ未来であり、幸せの形の一つ……だけどやるせない……。
乙でした。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 09:10:31.41 ID:lokLXsEiO
幽霊じゃないのになんで結ばれないんだ畜生
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 09:39:28.17 ID:3vFFQz3V0
乙。本当に良かった。
男は幸せだったよ……
女「ゆびがふやけてきました」
男「俺も少しのぼせた」
女「おばあちゃんの指もこんな感じです」
男「年をとった時に同じことを思うだろう」
女「私の手がこんな風になった時、あなたは私に何をしてくれていますかね」
男「俺は生きているのかな」
女「18,000個のしあわせをつかいきるまではいきてください」
男「お前といるとあっという間に減っていく」
女「お上手ですね」
男「ため息が止まらないからな」
女「お湯かけますよ」
男「やめてくれ。そろそろのぼせた」
女「あがりましょうか。マナー違反者は即刻立ち去れです」ザバァ
男「…………」ザバァ
一瞬の幻想の後。
私たちはくだらない会話や、少し深い話をして、お風呂からあがった。
いつもどおり、私もあなたも裸で、指一本触れずにコミュニケーションを取っていたけれど。
この行為は、
俗にいうセックスというものよりも。
深くて暖かい、結びの行為だったのだろう。
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:24:02.55 ID:fJXDnXayo
すごくいい…
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:26:58.93 ID:Dv/kjbjG0
ふぉぉ…
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:46:57.16 ID:JaK9UdbWo
不穏な回想調やめてくれよ...
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/13(月) 23:54:16.30 ID:acofFuSc0
この日初めて、私と男さんは温泉以外で行動を共にした。
はじめに一緒にご飯を食べた。
雪国の魚は、冷たくて新鮮で、感動するほど美味しかった。
ソフトクリームを買って食べさせ合うという、男さんにとっては拷問のような行為もさせた。
動物を観にいったり、ブーメランを投げたり、子どもたちに紛れてソリで滑る遊びもした。
男さんに似合わないことをさせるのを、性格の悪い私はこの上なく楽しんだ。
寄り道をしながら日本を下っていった。
仙台で牛タンを食べて、栃木でいちごを食べて、何故か新潟にちょっと寄ってお米を食べた。
今まで訪れたことのない地に足を運んだ。
暗闇の中で生きていた頃の私なら決して許さないような愉快な気持ちになり、明かりの中に必死で飛びでていた私なら決して感じなかったような安堵感を覚えていた。
毎日長距離を移動していたにも関わらず、自分の居場所はここだという確信を、隣の肩に頭を寄せながら思った。
頭のどこかでは、生き急いでいることを理解していたのだろう。
残り50年では幸せにはなれない計算式で、もしも多大な幸せを感じているのだとしたら。
生きる日々という分母が、極端に減っていたのかもしれない。
俺たちは、帰宅中の学生やサラリーマンが大勢いる駅のホームに立っていた。
女「ここでお別れですか」
男「ああ」
女「お引っ越しですか」
男「そんなには離れていないさ」
女「私が遊びに行ってあげますからね」
男「あの温泉にもまた行こう」
女「大丈夫ですか」
男「時間帯によるな」
女「何時がいいですかね」
男「どうだかな」
私と男さんが話しているうちに、電車の到着を告げるアナウンスがなった。
女「お別れですね」
男「ああ。お前も気をつけて帰れよ」
女「なんだかドラマチックな別れですね」
男「俺の電車に飛び乗ったりするなよ。挟まれるかもしれないからな」
女「ロマンの欠片もないですね。いいですよ、どうせ5駅分だし」
男「お前との旅は楽しかった」
女「私もです。これでもう老後は文句を言いません」
男「指がふやけるまで生きろよ」
女「指がふやけるまで一緒に浸かりましょうね」
電車のドアが開き、俺は乗り込んだ。
人混みに押し流されまいとしながら、女は俺を見送ろうとしてくれた。
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 00:14:22.39 ID:GTn7eKNl0
女「夏祭りの約束、わすれないでくださいね」
男「お前もな」
女「私、やきそばを食べますからね」
男「好きなものを食えばいい」
女「線香花火もするんですからね」
男「何でもしてやる」
女「わたし……」
女が目に涙を浮かべ、感情を堪えながら俺を見つめている時、発車の合図が聞こえた。
男「それじゃあ、また……」
女「あのっ、言い忘れてたんですけど」
男「何だ」
女「私、実家にいる時は、お風呂でトイレしちゃいます」
男「はぁ?」
女「それではまた早朝!」
閉じた電車のドアの向こうで、女は一人顔を赤らめ、涙を流しながら腹を抱えて笑っていた。
男「ロマンの欠片もないのはどっちだ」
閉ざされたドアのせいで俺の声は届かなかった。
俺は呆れた顔を向けようと頑張ったが、あまりの無邪気さにつられ、一人で車内で笑ってしまった。
素敵な人生だった。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 00:25:40.18 ID:GTn7eKNl0
チュン。
鳥の鳴き声に似ていた。
ゲームセンターや映画で聴いた音とは少し違っていた。
それでも、二人だけのものであったはずのこの時間の、この場所で、聞きなれない音がするのは不吉に思えた。
私は足を早めて山道を進んだ。
おばあさんにお金を渡し、服も脱がずに、急いで中を確かめた。
ごつくて、でかくて、今ではあんまり怖くない人が座っていた。
お湯は、色とりどりの火花が夜空を照らしたあの夜のように、赤く染まっていた。
深く目を瞑っているその人に私は声をかける。
女「知ってますよ。あなたが死にかけてたこと。またいつもみたいにのぼせてるだけですよね」
女「みんな、気絶しているあなたを放っておいていたとしても。私は、ちゃんと、あなたが死にかけて、さみしかったこと、怖かったことにきづいてあげますからね」
女「あなたの友達も、恩人も、お母さんも、誰もあなたを見ようとしなくても」
女「私が、ちゃんと見ててあげますからね」
女「だから、目を覚ましてくださいよ」
女「私となら、目を合わせられるでしょう?」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 00:44:56.77 ID:GTn7eKNl0
女「湯の花の花言葉って知ってますか」
男「湯の花は、花じゃないだろ。温泉の成分の塊みたいなものじゃなかったか」
女「ここの温泉、凄いですよね。お土産に湯の花が販売されてるのも見えました」
男「良い入浴剤になりそうだ」
女「それで、なんだと思いますか」
男「何だ」
女「心まで浸かりたい」
男「…………」
女「もう一つあるそうですよ。さぁ、どうぞ」
男「どうぞって……」
女「さぁ」
男「…………」
男「君といると、のぼせてしまう」
女「キャー!」
男「うるさい」
女「キャーキャー!」
男「静かにしろ!」
女「素敵です」
男「知らん。寝る」
女「ふて寝ですか」
男「…………」
女「あなたが気絶していても私が見ていてあげますからね」
男「…………」
女「じー」
男「…………」
女「じー」
男「…………」
女「やっぱり起きて下さい」
男「…………」
女「本当に気絶してませんよね?」
男「…………」
女「起きてくださいってば!」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 00:49:38.31 ID:GTn7eKNl0
「おきてってば!」
女「わっ!」
娘「風邪引いちゃうよ」
女「今何時!?」
娘「10時」
女「よかったー。パパ帰ってきた?」
娘「まだ」
女「あんたお風呂もう入った?」
娘「まだ」
女「早くお風呂入りなさい」
娘「やだ!!!!せっかく起こしてあげたのに!!!」
女「パパとかぶっちゃうでしょ」
娘「朝入るもん」
女「朝起きられないでしょ」
娘「お風呂も起きるのも嫌い!」
朝起きられることは幸せなことなのよ。
なんて言葉は、言わない。
女「いいから入りなさい!!」
しぶしぶ娘がお風呂に入っていく姿を見て、大変だなぁと思う。
子供の頃の大人は完璧に見えたが、そんなことはなかった。
私はこの子を怒る資格なんてないくらいに、今でもお風呂に入るのはとてもめんどうくさいし、朝起きる時も二度寝したくてたまらない。
それでも愛しい家族との日常を回すために、お風呂に入るし朝も起きる。それどころか、お風呂も沸かすし、朝になったらみんなを起こす。そしてご飯もつくる。
「ただいま」
女「おかえりなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも」
「娘はどこ?」
女「お風呂に入ったわよ」
「そっか。じゃあ飯食う」
女「…………」
「冗談だよ」
夫が髪を撫でてくれた。
幼いころ望んでいたような、幸せな生活だった。
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 01:08:40.47 ID:GTn7eKNl0
生きていくことは、つらいことの連続で。
かたまりかけたものが溶けてなくなってしまったり。
ふくらんだ希望が泡のようにはじけてしまったり。
とても、大変な日々の連続だけれど。
ひとりで、お風呂に入って。
涙も、悲しい出来事も、全部お湯に流して。
冷え込んだ心は身体の芯からあたためることで癒やして。
沈んだ気持ちはのぼせるまで浸かって高揚させて。
時々お風呂の中で100を数える呪文を唱えれば。
また、次の日を受け入れる準備が出来ている。
もしも、熱さが我慢できなかったら、さっさとあがってしまえばいい。
そして寒さに耐えられなくなったら、また入りにくればいい。
ひとりでも、ひとりにさせない場所。
もしもまた、涙を流す日が訪れたら。
お風呂のお湯で、拭えばいい。
屈斜路湖露天風呂にいた数多の白鳥のように。
少し身体をあたためたら。また、自由に飛び立っていけばいいのだ。
~fin~
307 : ◆uw4OnhNu4k :2017/03/14(火) 01:18:38.89 ID:GTn7eKNl0
終わりです。
長めの内容になってしまいましたが、読んでくれて本当にありがとうございました。
無責任に身体の障害に触れてしまったので、傷ついた方がいたら本当に申し訳ありません。
お風呂嫌いな人から、少しでも抵抗を減らせたら幸いです。
私も今からお風呂に入ってきます。
おやすみなさい。
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 01:19:30.62 ID:FlcIMt5no
結局添い遂げられなんだか……乙
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 01:21:34.38 ID:0nGpYjGyo
乙
俺も今から丁度風呂入る所だったんだ
310 : ◆uw4OnhNu4k :2017/03/14(火) 01:49:31.26 ID:GTn7eKNl0
参考文献だけもう一度
絶景混浴秘境温泉2017(MSムック) 大黒敬太 著
女性が混浴のレポートをする特典動画付きでした。
(念のため、まわしものではありません。)
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 03:04:55.40 ID:G2FuxQIQO
あぁ……乙でした
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 06:46:04.14 ID:nYYYHHTeO
ダメだったか…おつ
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 08:35:31.28 ID:Ace3pM7A0
男じゃない人との家庭、なのかなやっぱ。
男が望んだ未来であり、幸せの形の一つ……だけどやるせない……。
乙でした。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 09:10:31.41 ID:lokLXsEiO
幽霊じゃないのになんで結ばれないんだ畜生
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/14(火) 09:39:28.17 ID:3vFFQz3V0
乙。本当に良かった。
男は幸せだったよ……
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