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勇者「真夏の昼の淫魔の国」

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Part8
265 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:19:32.45 ID:iyjPN0cAo
してやれる事など、何もない。
ありもしない部分に痛み止めなど施せず、毛布をかけてやっても、その温感を感じる部分はもうない。
「なんだ、知ってたのか? ったくよ、脚はコレで代わりになるけど、どうしようもねェぜ」
「……なぁ、教えてくれ」
「何を」
恐らく、この質問は核心を突く。
その予感とともに、ゆっくりと、解き放つ。
「なぜ。なぜ、君達が……人間を、助けてくれたんだ?」
すると彼女は意外にも、軽い調子で、かといってふざけている調子でもなく、答えてくれた。
「人間を助けたんじゃねェ。『魔族』を裏切っちまったのさ」
「そうまでして……何故なんだ?」
「理由なんてどいつも違うさ。……強いて言えば、アタシ達はみんな、コウモリだからさ」
背の翼が翻り、風を立てる。
翼の皮膜は分厚く、光を吸い込み通さない、暗闇の色。
「人間を好いちゃいるが、結局は魔族。魔族のくせに、他の魔族にゃ知らん顔。……挙句の果ては、同族殺してヒトに肩入れ。
それでもヒトと一緒に生きようとなんてしねェ。……笑っちまうぐらい、コウモリじゃないか?」

266 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:20:41.34 ID:iyjPN0cAo
丘の下から、鶏の声を交えて、いくつもの小鳥の声が聴こえる。
果樹の林の中から、木螺子を締めるような囀り、水面に小石を放ったような短い韻、長く引いた弦楽にも似た唄声。
「鳥にも、獣にもなれない。だから、アタシらは……蝙蝠なんだ。夜ン中飛び回って、『吸う』事しかできねぇ。……なんてね」
そして彼女は、自らを嘲るように、道化た節回しを締めくくる。
「はいはい、湿っぽくしてゴメンよ、王様。……っつか、マジ? 『王様』が新しく来たのは知ってたけどさ」
「王冠は持ってこなかったから、証明出来るものはないな」
「……まぁ、信じといてやるよ。とりあえず、今日からベッド使いな。アタシは床で寝るからさ」
「いや、君が使えよ。家主で恩人を追い出して、ベッドでなんか寝られるか」
「は? アタシに、王様を納屋に放り込んでグッスリ寝ろってか?」
「…………多分ラチが明かなくなる、これは」
「ああ、アタシもそう思うね」
「なら、話は簡単じゃないか」
「あん?」
彼女は怪訝そうにこちらを向いて、立ち上がりかけて腰を浮かせた。
「ベッドを一緒に使えばいいさ」
「……狭ェよ、バカ! 一人分だ、一人分!」
「俺は家主を追い出せない。君は俺を、『王』を追い出したがらない。お互いの主張が交わる唯一の点だと思ったんだけどさ」
「お前、アホだろ?」
「でも鼻の下は短いさ。少なくとも今は。大丈夫、何もしないよ。君には絶対に、何もしない」
「そいつはそいつでムカつく話なんだが!? テメェ、下脱ぎやがれオラぁ!」

267 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:21:33.19 ID:iyjPN0cAo
ほんの少しからかってやるだけの軽口が、思わぬほど燃え上がってしまった。
サキュバスCは身を翻らせて飛びかかって来て、避ける間もなく――――押し倒されてしまった。
その拍子に背中に木の根が強く当たり、ほんの一瞬、息が詰まる。
「か、はっ……! お、おい…分かった、分かった! 悪かった!」
「あ!? 『悪かった』ってんなら償ってもらおうじゃねェか? 体でよォ!」
あっという間にシャツのボタンが外され、ほぼ同時にベルトに手をかけられた。
木陰で見る彼女の顔は怒りよりも嗜虐に燃え上がり、久しく見ない、『淫魔』の様相を示していた。
「はははははっ! 泣いてもいいんだぜェ!? さっさとおっ立て――――」
バックルを掴んだ彼女の手が、そこで止まる。
顔を見据えてきた嗜虐の笑みが一瞬固まり、瞳孔が収縮した。
遅れて――――押し倒されたまま、異変に気付く。
「…………聴こえるか? オイ」
「……何も」
そう。
何も――――聴こえない。
時雨のような虫の声も、合わせ唄っていた鳥たちの声も。
風のざわめきすら、葉の擦れ合う音ですら、消えて失せていた。
――――禍々しく重い沈黙は、『あの時』と同じだ。

268 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:23:00.20 ID:iyjPN0cAo
「……何かが来やがる」
「ここから離れよう。……木が巻き添えになる」
サキュバスCが立ち上がり、同じくして起き上がる。
そのまま、弾かれたように丘を下り、家の裏手にある果樹園を目指して駆ける。
草を踏みしめる音しかしない。
他には一切の音が奪われ、世界そのものが沈黙してしまったように感じた。
走れば肌に当たるはずの風さえ感じなくて、さながら目に見える全てが、息を殺しているようだ。
「っ…まずい。何か、まずい!」
「分かってんだよ、ンな事ァ! さっさと、離れて――――」
果樹園が目の前に迫った頃、木立を裂いて、正面から数本の、あの林道で見た『蔦』が飛来した。
先行していた彼女を目指していたそれは、しかし虚しく空を切り、半ばから切断されて地に落ちた。
「これが、例の『蔦』かよ? あいにく違うぜ。こいつァ……『肉体』だ」
「……らしいな」
斬られた触手は引っ込んでいき、その場には、溶けるように軟化して、蚯蚓のようにのたくる『蔦』、いや……『触手』だけが残された。

269 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:23:44.21 ID:iyjPN0cAo
「だが、まァ。相手が悪いぜ。……このアタシの家に手ェ出したのが間違いだ、ってな」
彼女は、右手をびゅっと振り払った。
五本の爪は伸びて、刃と化している。
同時に背の翼も猛々しく尖り、断頭台の刃のような威容を湛えていた。
「っ……剣を、納屋に置き忘れた」
「いいよ、そんなの。アタシに任せときゃいい。……王様に戦わせられっかよ」
「…………」
「……本体が来るぜ。さぁ……どんなモンかな?」
果樹園の奥から、不気味な水音が聴こえる。
地獄の窯を這いあがるような不吉に湿った音が、静まり返った『世界』を波立たせる。
恐らくは、それは井戸の底からやってくる。
魔界の一角を沈黙させるに値する、澱んだモノとともに。
柔らかく湿った、しかし重い音が聴こえた。
ずるり、ずるり、とまるで大量の濡れ衣を引き摺るような音が、段々と近づいてくる。
近づく音と気配はだんだんと大きく、増していき――――。
「あれは……ローパーか?」
木立から現れたのは、無数の触手の塊だった。
ぬめぬめと照った体表からは粘液が滴り落ちて、眉を顰めたくなるような異臭を放っている。
大人の背丈ほどしかないサイズは、むしろ人間界で遭遇したものに比べれば小型の部類に入る。
なのに、『勇者』の本能は告げている。
こいつは――――――『何か』がある。


270 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/10(火) 02:28:21.44 ID:iyjPN0cAo
「はっ……チンケなローパーかよ。随分ヤキが回ってんな、王様?」
「……気をつけろ。こいつ……何かが違う。剣を取ってくる。すぐに戻るから」
「はいはい。……そうだな、触手のコシが違うねェ。手入れの秘訣を訊きたいもんだ」
『それ』は、触手を伸ばす事もなく、鈍重ににじり寄ってくる。
彼女は、不敵な笑みとともに両手の爪と背の翼を一打ちし、一息に『それ』に飛びかかる。
同時にローパーの横をすり抜けるようにして、納屋の方向を目指して駆け出す。
ぼとぼとと触手が落ちる音、魔力が炸裂する音、鋭く空を切る音、それらを背に受けながら、振り返らずに走る。
納屋の中、藁山の脇にはナイトメアが怯えたようにうずくまっていて、扉を開けた時に目が合う。
その首を二撫でしてから、藁山の中に隠していた剣を取り――――先ほどのローパーのいた井戸端へ戻る。
――――――道中で、気付く。何の音も――――聴こえてなどこない事に。
――――――最悪の想像を振り払いながら、足を縺れさせて、ひた走り、戻った時には。
――――――ローパーが勝ち誇るように、『右脚』をもぎ取られ、臥して動かない彼女を前に、無数の魔手を蠢かせていた。
熱を持って湧き立つ何かを『心臓』で捉えた時。
何より先に聞こえたのは。
「…………お前」
低く唸るような、自らのものとは思えないような『声』ではなく。
意思よりも先走った轟雷の、『衝撃波』だった。

280 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/11(水) 02:24:29.59 ID:+kMTB924o
****
酷く痛む。
千年前、頭だけで仔馬ほどもある戦槌の一撃に潰されたはずの――――今は存在しない、右脚の膝から下が。
皮膚を突き抜け、骨を砕かれ、筋肉を一瞬で叩きのばされ。
激痛に気絶し、覚醒し、気絶し――――それを賽子のように数度繰り返し、どうにか『覚醒』の目が出た時の、あの痛みだ。
拳で潰した虫がそうなっていたように、自分の脚も、あの質量にへばりついていた光景。
筋肉、骨、皮膚が混ざった赤黒い糸を引く戦槌の頭が、今、鮮烈に思い出された。
痛みにうなされ、見開くように目を開けると、見慣れた寝室の天井が映った。
「……起きたか? よかった」
『王様』の声が聴こえて、目だけをそちらへ向ける。
ベッドの脇に椅子を持って来て、覗きこんできている。
体は、まだ起こせない。
右脚はもちろん、全身が軋んでいる。
特に腹部はまだ熱く重く、少し深く息を吸い込むだけで、吐き気を催した。

281 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/11(水) 02:25:39.62 ID:+kMTB924o
「は、っ…はぁ…! うぇ……!」
「どこか、痛いのか?」
「っ……痛……ね、ぇ……!」
「よせ、起きるな。……まだ休んでいろ。もう、大丈夫だから」
「っ……ロー……パ……は、どう、な……た?」
「倒した」
「はァ……!?」
「……ベッドに眠る事になったのは、君だったな」
「お前っ……! 本当に、倒した……って!?」
「『木』は無事さ。ただ、葡萄棚が少し壊れた。直しておくよ」
外からは、まるで嵐の中に閉じ込められたようにひっきりなしに雨の音がする。
互いの声が消されてしまい、耳がおかしくなりそうなほど、激しい雨だ。
日が暮れきっていないのに薄暗い部屋の中、その笑顔は灯火にさえ感じるほど、優しい。
「どうやって……倒したん、だよ」
「え? ……何?」
「だから、どうやって! 倒した!? 冗談こいてんじゃねぇよ!」
「…………『雷撃』だ。動かなくなるまで叩き込んでやった。……おかげで、今少し……耳の調子が悪いんだ。
 悪いが大きな声で話してくれ」
手のひらで、彼は水でも追い出すように片耳を叩く。
冗談を言っているようには見えない。
彼は、今……『雷を落とした』と言った。
「は!? 雷……?」
「殺せたかどうかは分からない。……今俺達が生きているのなら、撃退はできたんだろうな」

282 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/11(水) 02:26:12.30 ID:+kMTB924o
あのローパーには、何も通じなかった。
斬り付けた爪は阻まれ、斬り込んだ瞬間に再生した肉にへし折られた。
あるだけの魔力を叩き込めば、その寸前で全て散らされた。
呪文で結界を張れば、それを素通りして攻撃してきた。
――――まるで淫魔を狩るために産まれたような、悪夢にも似ている存在。
それを、倒してしまったと言う。
「……腹減っただろ。台所を借りるよ、何か作ってくる」
「おい、待っ……!」
彼が立ち上がったので、慌てて追うように、ベッドから下りようとして――――ガクン、と身体が傾いて、床が近づいてきた。
右脚に、痛覚が残っているがゆえに忘れてしまった。
その右脚は無いという事、繋げていた脚甲も、なくしてしまっていた事を。
「あ、危なっ――――!」
床の木目がすぐ間近まで近づいた頃、胴に温もりを感じて、そこで止まった。
慌てながら差し伸べられた腕が、体を支えてくれている。
「だから……危ないって。ベッドで横になって……おい、聞いているのか?」
「……お、おぅ……」
『彼』から触れられたのは、初めてで、『千年ぶり』、だった。
そのままベッドの上まで引き上げられ、――――手が離された。

283 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/11(水) 02:27:41.03 ID:+kMTB924o
奇妙な事がある。
収まりかけて『疼き』にまで下がっていた感覚が、今は何も無い。
右脚に、残った『太もも』までの感覚しかない。
無いはずのそこから先の『痛み』が、きちんと無くなっていた。
「……『右脚』、探したんだが……その……あれ、だ」
指差された先を見ると、窓際のテーブルに、でんと乗っていた。
ぼろぼろにひしゃげて無惨に潰れ、『爪先』が二本無い。
そこにあるのはただの『壊れた脚甲』だった。
「…………あたし、の……脚……」
テーブルの上にある『脚甲』と、先のない『右脚』を見比べると、果てなく重い喪失感に襲われた。
失った、というのではない。
『失っていた』のだという事実が、扉から再び姿を見せたからだ。
「っ……悪ぃーけどさ。一人に、して……くんねーかな」
それだけ絞り出すように言うと、『王』は頷いてから、出て行った。
残されたのは、雨に閉じ込められた、隻脚のサキュバスが独り。
掛け布で覆う事もなく、じっと、閉じ込められていた『事実』の断面を見る。
すっかりと皮膚で塞がっていたが、隠れてはいない。
もう、立つ事さえ自力ではできなかったのだ。
普段なら受け止めていた筈の事実が、今はただ重く圧し掛かる。
やり場のない鬱屈までもが噴き出て、胸の辺りに靄がかかる。

284 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/11(水) 02:28:36.68 ID:+kMTB924o
窓の外には、依然として雨が降り続いていた。
少し勢いが落ち着き、滝のような轟音から、さかさかと掃くような、落ち着く音に変わっている。
『義足』の重心に慣れてしまっていた体では、立ち上がる事さえままならない。
尻尾でバランスを取りながらベッドの上で体勢を変えるのが、精々だった。
雨の音に耳を傾け、窓ガラスを流れていくのを見ていると、動転していた気が落ち着いた。
「……雨も、久しぶりか」
不思議と、今日は蒸さない。
いつもなら雨など降ろうものなら蒸してしまって、不快になるだけなのに。
もしかすると――――季節が変わろうとしているから、なのかもしれない。
さながら今は、この雨が時季を書き換えているのだろうか。
申し訳程度に差していた雲越しの陽も、段々と弱くなってきた。
気を失っていたせいで正確な時間は分からないが、これから夜が来るのだろう。
少なくとも明け方で無い事は確かだ。
やがて、先ほど追い出してしまった『王様』が、戻ってきた。
「待たせたな。こんな事をするのは久しぶりで……うまくはないよ、絶対に」
「期待はしてねェ。……それにしても、『王様』にメシ炊きさせちまったんだな」
「気にしないでくれ、これも気分転換になって悪くないんだ。……さ」
スープ用の木の器に、とろみのある白いスープが湯気を立てていた。
時間からすると眠っている間にすでに調理が済んでいて、今は、暖めて持ってきただけだろう。

285 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/11(水) 02:30:32.00 ID:+kMTB924o
「……いただきますよ、『王様』」
匙で掬い、ごろごろとした具とともに口へ運ぶ。
彼は謙遜していたが、悪い味ではない。
むしろ、優しく沁み込んでくるような――――穏やかな味わいで、美味しい。
「ガキが、いたんだよ」
「……え?」
「魔王との戦い。アタシ以外は全員決戦に出てさ。一人で、女子供を守る事になっててさ」
行儀悪く匙をパイプのように咥えたまま、語りかける。
「……『魔界騎士』の一匹にやられたのさ。勇敢ぶったガキが、よしゃいいのに出てきやがって
 ――――かばったら、避けきれなかった」
「…………そこまでして」
「でも、いいんだ。アタシはそれでいい。脚一本と命ひとつ、比べりゃ重さは違うに決まってんだ」
クス、と浮かべた笑顔は、今までに浮かべたものとは違う。
この『傷』を見せたからこそ、腹の底から、心からのものを浮かべる事ができた。
「…………で、いつまでここにいる気なんだ? 『おーさま』?」
「何も無ければ、明日にも帰るつもりだった。しかし……君が…………」
「大丈夫だよ、大丈夫。歩けなきゃ飛べばいい。何なら翼を杖代わりにすりゃいいんだ。意外とラクだぜ」
「…………」
「人間に心配されちゃ終いだわ。……さて、ごちそーさま。……ごめん、王様。食器片付けてくれよ」
「勿論。少し、眠るといい。俺はナイトメアの様子を見てくる。怯えてないといいが」
「あっ……あの、さ。王様」
「何だ?」
「ちょっと……手、握ってみてくれよ。その、……試して、みてェんだ」

286 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/11(水) 02:31:29.51 ID:+kMTB924o
食べ終わると、再び……妙な疼きが右脚を襲った。
もしかすれば、と右手を差し出して、そんな提案をしてみる。
『王』もそれぐらいなら、と受けてくれて、利き手でしっかりと握ってくれた。
「……やっぱ、だ」
「え?」
疼きが、消えた。
ただ手を握るそれだけの事で、右脚のもどかしい存在感は消えて『無』になる。
「いや、何でもねぇ。確かに、久々に荒事なんかして……疲れたよ。もう寝る」
「そうするといい。後でもう一度、様子を見に来る。何かあれば呼んでくれよ」
「……王様、こき使っていいワケないじゃん」
「ここにいる間は、『王』じゃない。休暇中さ」
そんな、冗談なのかどうなのかさえ分からない言葉で片付けられ、思わず忍び笑いが漏れる。
食器を持って、台所へ戻る後ろ姿に、『王様』の威厳はない。
だからこそ、逆に彼への信頼と、安心感が湧いてきた。
外の雨は、いよいよ小降りになっている。
窓をしめやかに叩く雨粒の音が、眠りに誘ってくれた。

287 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/11(水) 02:32:38.65 ID:+kMTB924o
****
「それ、で」
木立の中、訊ねる。
穴が穿たれた木々、地に落ちて潰れた果実、折れた枝、その中心には――――『触手塊』が、今も立っていた。
赤紫色のグロテスクな肉塊からは絶えず新たな触手が生まれ、
古い触手は引っ込み、代謝を繰り返すようにその威を示していた。
「まだ用があるのか?」
あの時サキュバスCに告げた事は、半分がウソだった。
連れて戻ったナイトメアに彼女を載せて離脱させ、この場で戦う事になってしまった。
雷撃を続けざまに食らわせ、その身を爆ぜさせ――――雷撃で引き裂かれた身体が再生しないのを入念に見届け、
彼女を家に運んだ。
なのに、今は――――完全に元の姿に戻ってしまっている。
「…………『女王』を、知っているのか? お前の棲み処はここなのか?」
答えも、身振りも、帰ってはこない。
発声器官も聴覚も、もしかすると備えていないのかもしれない。

288 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/11(水) 02:33:24.97 ID:+kMTB924o
「……まだやる気か?」
ぐねぐねと蠢くだけで、殺意も無ければ、どこかへ帰る様子もない。
試しに左手で雷を撃つ素振りを見せても、剣を抜いて見せても、まるで構えない。
『敵意』そのものがなく、身を護ろうとする意思さえない。。
その時、一本の触手が、ゆっくりと差し伸ばされてきた。
「?」
まるで何かを差し出すように述べられた触手に、受け取るように右手を出す。
触手の先端が掌に触れた、その時――――『ローパー』の本体が、風船がしぼむように消えはじめた。
根元から、本体の半ば。
そして頂部にいたるまでが消えていき、最後には、跡形なく消えていた。
残されたのは――――掌の上にある、奇妙な赤紫色の、木苺ほどの『卵』のみ。
「もしかして。俺と、一緒に……来るのか?」
見つめながら問うと、『卵』が掌の上で揺れた。
「なら、なぜ襲ってきたんだ。……ダメだ、考えが全然分からん。そもそも……」
とりあえず、それをポケットに押し込む。
すると、『虫』の鳴き声が帰ってきた。

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