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勇者「真夏の昼の淫魔の国」

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Part4
105 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:08:45.35 ID:4UUpVNZro
地図を広げる前から。
彼女に休みを言い渡した時から、ずっと、彼女はそわそわしていた。
初めて貰う『休日』に浮き立っているようでもない。
否、それも無いとは言い切れないようだが――――。
「このような紙片を、どこでお見つけに?」
「うん。……それ、なんだ」
――――――見つけたのは昨夜、最後の書面にサインを入れた直後の事だった。
あの『光の蛾』がどこかに消えていたので、何気なく探していると、頭の上にそれは降ってきた。
広げて見ればこの近傍の地図が書き記してあり、どこかで見たような、宝を示すような安直な印が描かれていた。
その地図は決して大雑把ではなく、机に広げた大地図と見比べてみれば、寸分たがわず重なり合った。
ポケットに忍ばせ、翌朝に堕女神に訊ねてみようと思って、眠りに入ろうとしたら――――ベッドには、先客がいて。
「俺は大丈夫、何かが起こるとしても、『試練』には慣れた。それに、領内でそうそう荒事は起こらないはずだ」
「私も、心より願っております。……それでは、お言葉に甘えまして。
 陛下がご出発なされた翌日から、休暇を取らせていただきます。ただし」
「?」
「必ず、帰ってきてください」

106 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:09:31.11 ID:4UUpVNZro
言葉は、要らない。
ただ、頷くだけで――――彼女の顔に浮かんだ曇りは、消えて去った。
「……お一つ訊ねてよろしいでしょうか?」
一転して、堕女神の声にはいつもの調子が戻り。
「『普通に眠る』と申したはずですが、サキュバスBがお部屋にいらしたのは何故でしょうか?」
質問とともに、彼女のこめかみ辺りが引き攣れたように見えた。
微笑んではいても、瞳に柔らかな眼差しが宿ってはいても――――不釣り合いさが、差し挟まれた『憤り』を強調していた。
「……お答え願えませんか?」
「待て、待ってくれ。話せば分かるんだ」
「そうですか? では、お話してください。是非、私を説き伏せてください。喜んでお聞きしますよ。はい、どうぞ」
「えっ……そ、その……あの、堕女神、さん」
呼びかけると、彼女はにっこりと微笑みながら、言葉を待った。
「…………Bとも、相談したんだよ」
「何を、でしょう」
「まぁ……その、確かに、した、後でだけど……さ」

107 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:12:23.42 ID:4UUpVNZro
****
「堕女神様に……お休み?」
ひとしきりの交わりを終えて、ベッドに潜り込んだサキュバスBと、顔を突き合わせて語っていた。
あれほど注ぎ込んだにも関わらず、彼女の秘部からは出てくる形跡さえなく、すっかりと、吸収しきってしまったようだ。
淫魔にとって精液は、嗜好品であり、回復薬であり、酸素でもある。
人間界に現界し続けるためには欠かせないが、魔界にいる限り、摂る必要は無い。
それでも好むのは――――やはり、『淫魔』だからだ。
「先代の存命中から、逝った後にも。堕女神はずっと休まなかった、らしい」
「ほへ~……働き者さんですねぇ」
「サキュバスAなら『上手にサボる』し、お前はお前で、失敗してもクヨクヨしない。……でも、堕女神はどっちでもない」
彼女は、絶対に気を抜かない、手を抜かない。
料理の手筋もそうだし、城内での他の務めも。
一度彼女が、料理に用いる香草を間違えた事があった。
食する前に申告され、それはそれで美味だったのに、彼女は今にも死んでしまいそうな顔をしていた。
だが、何となく――――過剰なまでに、失敗、手違い、手遅れを恐れるその理由も、分かってはいた。
「……少し、行き過ぎだ。塩加減を間違えたぐらいで――――『世界』は滅びなんてしないのに」
「一気にスケール大きくなりましたねぇ」
「もう、標準的なスケールなんて俺には分からないけど……とにかくだ。お前はどう思う」
「私はいいと思いますよー。……でも、その間……お城は? 陛下は?」
「あぁ、俺は心配ない。……ほんの少し、城から離れる事になりそうなんでね」
「?」
「明日、いや……今日の昼にでも教えるよ」
「なるほど、分かりました。……で、陛下? もう一回……しちゃい、ますー?」
「いや、……眠くなった。この勢いで少し眠りたい」
「なるほど、つまりもう一回、おしゃぶり治りょ……じょ、冗談です冗談ですっ! 角掴むのやめてっ!?」
「……時間はともかく、眠らなきゃ調子が出ないんだよ。今からだと二、三時間ほどは眠れるか」

108 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:14:11.42 ID:4UUpVNZro
外は、もう白んで――――否、明るくなっていた。
少しすれば、朝一番の鳥の唄も聞こえてくるはずだ。
「…………あの、陛下。お願い、して……いいですか?」
「何だ?」
「あの……ですね? ひざ、まくら……して、みたくて」
「膝枕?」
「す、少しでいいんですよ? ただ、その……どんな、気持ちなのかなっ……て……」
慌てて取り繕う顔は、窓から差し込む朝焼け空に照らされて、赤く染まっていた。
そろそろと起き上がり、頭近くに座り込まれると、拒む言葉など出てこない。
「……それじゃ、頼むよ。あまり寝顔は見つめないでくれ、緊張する」
「は、はい! それじゃ……失礼、します。……んしょっ、と……」
枕をどかせて、仰向けに寝たままほんの少し頭を浮かせると、頭の下に、柔らかく、暖かい感触が潜り込んできた。
横に、ではなく、縦に。
閉じた太ももの間に頭を載せる形の膝枕が完成して、薄目を開けると、逆さまのサキュバスBの顔が見えた。
「……どうですか?」
「いくらでも眠れそうだ。さっきも言ったが、寝顔を凝視するなよ」
「はい。……おやすみなさい、です」
血の通った『枕』の弾力は、初めてのものだった。
暖かくて、すべすべの肌が気持ちよくて――――雲の上で眠るようだ。
耳を澄ませばとくとくと脈打つ鼓動が聴こえて、額の辺りに、彼女の胸の感触がある。
頬に小さな手が添えられ、すこしだけ、くすぐったい。
血の音に耳を澄ませているうちに――――催眠にでもかかったように、かくりと、眠りに落ちてしまった。

109 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:15:32.61 ID:4UUpVNZro
****
「……抜け駆けにも程がありますね、サキュバスB」
「?」
「何でもございません。……ともかく分かりました。陛下の、私を案じてくださるお気持ちは……確かに、受け取らせていただきました」
どこかしら漂っていた冷気は消えて、ようやく、平素の彼女の声に戻る。
「それでは、明日の朝。……ご出発の準備を整えます。私はその間、
 ご休暇を賜りますが――何かあれば陛下にお伝えしますし休暇も取り止めとしますが、よろしいですか」
「もちろんだ。俺も何かあればすぐに帰ってくる。行き場所は伝えた通りだ」
「はい。……では、本日の内に『残務』を処理していただきましょうか」
「え?」
「『課題』は早めに終わらせた方が、残りの休日を有意義に過ごせるというものだとか。是非、私のために……願えますね?」
「なんか最近立場が弱くないか、俺」
「気のせいかと」


110 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:16:43.68 ID:4UUpVNZro
翌朝、出発前の朝食を終えて城の正面玄関前に行くと、一頭の馬を堕女神が引いていた。
銀白色のたてがみと尾をなびかせ、すらりと伸びた脚に、一切の逸りのない呼吸。
そう馬には詳しくないが――――見れば分かるような、名馬だった。
といっても、これは『馬』ではない。
便宜上そう呼ばれてはいるが、これもまた、『淫魔』の一種。
悪夢を喰らう夢魔、『ナイトメア』だ。
「……久々に、身が引き締まるな」
乗馬用のブーツ、久々に帯びた剣、厚手の革の手袋、少し地味なローブ。
本来は紋章付きのものを着るはずだったが、半ば忍びの旅程のため、目立つ事は避けた。
もっとも、淫魔ばかりの国で、人間の男が目立たないはずもないが。
奇妙にも、壮麗な城にいる時より、この華々しさのない装いで旅立つ今の方が身も気も引き締まる。
それと同時に――――懐かしくもあった。
「それでは、陛下。……馬上へ」
ぴたりとこちらの目の前で馬を止めた堕女神が言った。
鐙に足をかけ、身を翻すように鞍上に移ると、視点が一気に高くなった。
見送りに出てきた者は、堕女神だけ。
サキュバスBは、今日から休日に入った。

111 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:18:16.69 ID:4UUpVNZro
「じゃ、行ってくるよ。……身体を休めてくれ、堕女神」
「はい。陛下こそどうかご無事で。……休み、といっても……起居は城で済ませる事になりましょう」
「なら、せめて羽を伸ばしてくれ。……しかし、その……行っても、本当に大丈夫なのか?」
「急にどうなさったのです」
「昨日の晩。…………寝入っても、脚を絡めてきて……」
「お、お止めください! 私の事ならご心配には及びませんから!」
一瞬でかっと顔を真っ赤にして抗議する彼女に微笑みを返して、馬首を城門へ向ける。
城下を通っていく事になり――――もしかすると、その途中で知った顔と会うかもしれない。
実に二か月ぶりになる、ささやかな『冒険』を、堕女神に見送られ。
晴天の空にそびえる雲の塔の、その根元へ向けて――――蹄の音を響かせていく。
「さぁ。…………何がある?」
蹄鉄が石畳を打つ快音が続く。
ぎらぎらに照りつける日差しは、これから昼に向けて更に厳しくなるはずだ。

112 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:19:48.54 ID:4UUpVNZro
****
半日ほど馬を飛ばすと、地形から見て、およそ道程の三分の一ほどを消化した。
人界の馬ならおよそ二日はかかる距離にあるのに、魔界の馬『ナイトメア』の健脚は予想以上だった。
古い街道を南東の方位、より正しく表すなら南南東へと進んでいく。
灼熱の刃のような日差しも、駆けて風を浴びていればむしろちょうどよく暖かいほどだ。
「少し、休憩だ」
手近な木陰に、馬を下りて身を休める。
手綱を引かずともついてきて、腰を下ろしたそのすぐ側に、同じく脚を折り畳んで、まるで犬のように側に侍った。
「……そういえば、普通の馬じゃなかったな」
人間界にいた頃、その姿を描いた絵を見た事が、確かにあった。
褥で眠る女性に覆いかぶさるように、蒼炎をまとった青白い馬が前身を覗かせていた。
その目は幽鬼のように虚ろで、いかにもおどろおどろしく描かれていたが、
今目の前にいる実物は、そこまでわざとらしくはない。
それどころか一種の神々しさまであり、角さえ生えていれば、あの『神馬』にも見えなくもない。

113 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:21:10.84 ID:4UUpVNZro
言葉、いや意さえ汲んでいるようで――――特に手綱を繰らずとも自分の判断で悪路を避けて走り、
速度も御して、さながら機械仕掛けの馬車に乗っているようで安心できた。
木陰で幹に背を預けていると、良い風が抜けた。
かいた汗をやさしく拭ってくれて、頭上の葉が揺れて触れ合う音が清かに聴こえる。
中庭にあるものとは違い、この木は、他者の手を借りずに大きくなった。
雨と風、光と土、それだけを恵みとして育ったはずだ。
枝も葉も、まるで手入れとは無縁に伸び、不揃いに下がっている。
だからこそ、美しい――――と、肌と、耳と、鼻でそう感じた。
うつらうつらとし出した頃、立ち上がり、腰を大きく捻って身体を解した。
休憩は、終わりだ。
再び、ポケットから、あの紙片を取り出して目を落とす。
「さて、何があるというのかな。……『ボス』がいない事を、祈るか」
このまま街道を南南東に行くと、断崖に面した道に出る。
そこを下っていけば平地に続いて、後は、大地図で確認したかぎり起伏は無い。
ちょっとした丘陵地帯は挟むが、問題はない。
立ち上がると、『馬』も同じく立ち上がり、これから行く道の方角へ馬首を向けて、すぐ側に立ち、尻尾を揺らした。
さも、『乗れ』と言っているかのように。

114 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:22:21.77 ID:4UUpVNZro
「分かったよ、それじゃ行こうか。……よ、っと」
鐙に足をかけて、馬上へ舞い戻る。
手綱で号令を下す事もなく、掛け声さえ必要なく、鞭など全く無縁な程。
こちらが馬上で身を安定させたのを感じ取ると、『彼女』は、脚を進めた。
一人きりの『旅』は、寂しさも無いとは言えないが――――楽しい。
風に吹かれるがまま、重荷を一時忘れる事ができる。
城の重厚な空気は、あの緑にあふれる庭園でさえ席巻していた。
その重々しさを、馬に揺られて、風に吹かれ、日差しを浴びているうちに、全く忘れてしまいそうだ。
それだけでも、この――――先代女王曰く、『避暑』には価値がある。
吸い込めば吸い込むだけ、暖かくて新鮮に青くさい空気が肺へと飛び込んでくる。
かつての人間界で、冒険の始まりに嗅いだあの空気と同じだ。
仲間たちと出会い、苦境を乗り越え、魔王の掌へと近づくほどに、その匂いは薄れて行った。
そして魔王の城を望んだ時には…………もう、何も感じなくなっていた。
「……気持ちいい、な」
焼き尽くすような日差しも、風も、草の匂いも。
その全てが――――今久しぶりに、愛しいと思った。

115 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:24:18.15 ID:4UUpVNZro
****
城下町、とある店は沸き立っていた。
内装は酒場に似ていて広く、四角いテーブルや椅子が何セットも立ち並んでいるが、それらは全て向かい合う二人掛けになっていて。
何よりそこにいるのは大半が子供、だった。
手には扇状に広げた手札を握り、向かい合う一組の目前には、並べた『札』と、山札がそれぞれある。
「えっと……『淫魔術・吸魂の右手』を発動。場の男性型モンスター一体を……『山賊の縄師』を破壊。
 捕縛状態の『白百合の女騎士』を取り返して……」
「罠カード、『凌辱の残夢』発動! 『白百合の女騎士』は再びこっちのコントロールになるよ。
 加えて、そっちの場の『騎士』ユニットも全部こっちに来るね」
「えぇっ……!?」
「二体を生贄に、『触手王キングローパー』召喚。と同時に『サキュバス』とつくユニットを全て破壊。わたしの勝ち!」
その中心に、サキュバスBと、妙に艶やかな薄衣を羽織った、獣の耳と尻尾を持つ少女が向かい合っていて、たった今、『勝負』がついた。
「もー……Bお姉ちゃん、強過ぎるよ! 手加減してよ!」
「てへっ……ごめんごめん。今日からお休みだから、つい……」
「お姉ちゃん、次、わたし! わたしと!」
「うん、いいよ」

116 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:25:22.04 ID:4UUpVNZro
サキュバスBの向かいに座っていた獣耳の少女が席を立つと、次に、サキュバスBを更に縮めたような姿の少女が着席した。
「負けないよ。『キングローパー』倒せるカード、ついに手に入れたんだからね!」
「えっ……!?」
「王さま記念パックに入ってたんだよ! 絶対勝つんだから!」
「えっ……そ、そんなの……出てたの!? 出遅れたよっ!」
ずっと城に勤めていたから、気付けなかったのだ。
がっくりとうな垂れて、とりあえず山札を切って、初めの手札を引く。
そこへ、ちりん、とドアについた鈴が鳴って、店内に一人、不釣り合いな『大人』の姿が舞い込む。
「……あらぁ、Bじゃないの。やっぱりココにいたのね? 休日も初っ端からカードゲームかしら」
その『大人』は、サキュバスBと同じ場で勤める、淫魔の一人だった。
深い紫の瞳は妖しげな色香を湛えて、淫魔の見本のように悩ましい肢体は、店内の『子供』の視線を釘付けにした。
彼女は、その一人一人に微笑みかけると、遊興に耽る同輩へ向けて、歩いて行った。

117 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:26:41.55 ID:4UUpVNZro
「あ、Aちゃん。……どうしたの?」
「たまにはお酒の匂いのしない空気が吸いたくなって。……あぁ、澱み腐った肝臓が浄化されていくわ」
「飲んだくれてたの? ずっと?」
「ずっとじゃないわよ、失礼ね。……って、貴女。何か、妙に……顔色が良くないかしら?」
「えっ……そ、そ……そんな事ないよ?」
裏返った声に、サキュバスAは疑いの眼差しを向け――――すぐに、はっとした表情を浮かべ、じとりと睨みつけた。
「……さては……したわね?」
「!」
「図星なのね? 『先に休みを取っていいよ』と言ったのはこの為? 陛下を独り占め、ってところ?
 やらしい事をするじゃない、全く。……ほら」
「え?」
「手、止まってるわよ。貴女の番なんでしょう?」
「あっ……ご、ごめんね、話し込んじゃって」
――――――そして結局、闖入者に思考を乱されたサキュバスBは、負けた。

118 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:28:26.64 ID:4UUpVNZro
「あー! あーもーーーー!」
「あっははははは! ボロ負けだったじゃない、B!」
一度、二度、三度と立て続けに負けたサキュバスBは、中央の卓から離れ、店外のベンチで風に当たっていた。
軒先は張り出した庇の陰となっていて、日差しは当たらず、風がよく通って涼しかった。
サキュバスAも茶化すようにそれを追って、隣に腰を下ろした。
「知らないよ、もう! 知らない! 知らない知らない!」
「怒らない怒らない。……陛下のお側にいるのもいいけれど。やっぱり、娑婆の空気はいいものよね」
「ん……」
「お休みが重なるのも久しぶりだし。今夜、お酒でも行かない?」
「Aちゃん、肝臓がどうとか言ってなかった?」
「だから、アルコールで消毒しに行くのよ」
「……知らないからね?」
「大丈夫よ。それに、今日は上質な魚が入ったそうよ。ちょっと辛口の『白』と絶妙に合うって言ってたわ」
「うん。……それじゃ、あのお店?」
「ええ、今夜待ってるわね。そうそう、さっき陛下が町の外へ行くのを見たわよ」
「え!?」
「見かけただけ、なんだけど。変な格好だったわ。まるで、旅にでも出るような……」
その時、がらりと扉が開いて――店内からぶわっと聞こえてきたはしゃぎ声に交じって、サキュバスBを呼ぶ声が聴こえた。
「お姉ちゃん! もう一回! もう一回遊ぼ!」
「えっ……!? う、うん。いいよ!」
「あら、随分と人気なのね。……折角だし、私ももう少し見て行こうかしらね」
サキュバスBに続き、サキュバスAも店内へ戻る。
彼女もついて来ると知ってサキュバスBも渋い顔をしたが、先ほどの相手のサキュバスの子の対面に座れば、
得意げな笑顔に戻って、山札を置いた。

119 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:30:30.01 ID:4UUpVNZro
「――――――発動。『ゲームから除外された魔法カードを一枚選んで手札に―――』」
「ねぇ、B」
「何?」
「今、『除外されたカードを戻す』って言った? 除外されたなら、プレイできる筈ないわよね?」
「…………うん」
「それ除外されてないわよね? 結局。そのカードに限らないけれど。ねぇ、何が『除外』なの?」
「…………」
数ターンして、もう一声。
今度は、店内に置かれていた目録をぱらぱらとめくりながら。
「ねぇねぇ、B。こんなに禁止カード多くてどうするのよ? 禁止禁止って、作った意味あるのかしらね?」
「わたしに言わないでよ」
「大会で禁止なら分かるけど、こんなショップ内でワイワイ遊んでる時まで『禁止』って。
 ゲームなんだからもう少し肩の力抜けばいいのに」
「だから、わたしに言わないでってば!」
更に数分して、サキュバスBの相手が変わってからも続いた。
「こういうゲームって、結局は財布で殴るゲームよね? 運が絡むとはいえ、財布の厚さがデッキの厚さじゃない?」
「しー! しーっ! そういう事言わないで、おねがい!」
「それに、1ターンキルってつまるところ作業じゃない? 決まると嬉しいかもしれないけど、『楽しく』は無いわよね」
「だからっ……! もう、やめてって言ってるでしょ!?」
結局、飽きたサキュバスAが店を出ていくまで、彼女は負けを重ねる事になった。

120 : ◆1UOAiS.xYWtC :2013/09/03(火) 01:35:49.83 ID:4UUpVNZro
本日分、終了です
サキュバスA、出番少ないかもしれない今回
ではまた明日
おやすみなさいー

121 :以下、新鯖からお送りいたします :2013/09/03(火) 01:37:14.22 ID:9d40uOqoo
おやすみー

157 :以下、新鯖からお送りいたします :2013/09/04(水) 01:47:35.95 ID:r/fCGTPs0
やはりクォリティ高いな

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