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堕女神「私を、『淫魔』にしてください」

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Part15
317 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:34:27.75 ID:DU8XxeDfo
堕女神「『勇者』……!?」
振り返った彼女は、勇者の後ろ姿へ丸くなった目を向ける。
彼は話に間を置き、グラスを傾けていた。
その言葉は、城下の書店で聞き覚えがあった。
世界を救い、魔王を打ち倒し、闇を打ち払う希望の存在。
童話では、その後は描かれていないと―――彼は、そう語っていた。
勇者「……俺の見た夢を話し、実際に『雷』を使ってみせると、村の人たちは、沸き立ったよ」
空になったグラスを弄びながら、尚も言葉を続ける。
勇者「……その時聞かされたんだが、村の大人たちは、『魔王』の出現を知っていて、子供達には黙っていたんだ」
堕女神「……子供らを不安にさせぬため、ですか?」
勇者「そう。……魔物の群れを率いて世界を喰らう、『魔王』と呼ばれる伝説の存在の復活を、知っていて」
勇者「……それでも、子供らに余計な心配をかけないために、田舎の農村の日常を守っていた」
勇者「………まぁ、流石に村の子供から『勇者』が生まれるとは思わないな、普通は」

318 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:35:00.73 ID:DU8XxeDfo
勇者「それでも、父さんと、母さんと……小さな妹は、俺を送り出す事に抵抗があったみたいだ」
堕女神「……でしょうね」
勇者「……それでも結局は、村の鍛冶屋の爺ちゃんが、剣と防具を拵えてくれて、それを持って旅に出たよ」
勇者「ああ、なけなしの金と、簡単な傷薬に使える薬草も少し持たせてくれたな」
堕女神「……その後は?」
勇者「何年かは、一人旅さ。……魔物を退治し、少しずつ、少しずつ力をつけて、使い方を覚えていって」
勇者「穏やかで優しいけど、頑固な僧侶。強者で有名だった戦士、そして、勝ち気だけど寂しがりなところがある魔法使い」
勇者「……その三人と出会い、俺達は、本格的に世界を救う旅を始めたんだ」
堕女神「旅は、辛いものでしたか?」
勇者「斬られて刺されて射られて殴られて、たまには毒まで受けた。病気に伏せる事もあったよ」
堕女神「…愚問でした」
勇者「……そして、俺達はようやく……『魔王』を、倒したんだ」

319 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:36:52.13 ID:DU8XxeDfo
堕女神「……世界は、救われたのですか?」
体を勇者の方へ向けても、ベッドを挟み反対側に座る本人は、背中を向けたまま、押し黙る。
サイドテーブル上のボトルに手を伸ばし、手酌でグラスへ注ぎ、元の場所へ戻す。
舌先を湿らせるように一口だけ含み、ようやく、語り始めた。
勇者「……分からないんだよ」
堕女神「え……?」
勇者「………俺の国と、隣の国は、魔王のいなくなった後でまた、覇権を争う準備を進めていたんだ」
堕女神「………何故?」
勇者「『敵の敵は味方』と言うけれど、共通の敵が消えたらどうなる? 数年は平和だとしても、数十年後にはどうなる?」
堕女神「……それは……」
勇者「俺は、『世界』を救ったのかもしれない。……だけど」
勇者「……『人間』を救う事は、できなかった」

320 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:37:20.69 ID:DU8XxeDfo
堕女神「…陛下」
勇者「……湿っぽくしてごめん」
堕女神「……ありがとうございます」
勇者「え――――?」
堕女神「…隣に、よろしいでしょうか」
いつの間にか、彼女は隣へと座っていた。
半身ほどの距離は空けているが、勇者から見て左手側に、彼女の暖かな気配が、在った。
勇者「『ありがとう』とは、何に対して……?」
堕女神「……いくつも、です」
勇者「…………」
堕女神「……陛下の『雷』が怖くないその訳が、分かりました」

321 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:37:48.89 ID:DU8XxeDfo
勇者「え?」
堕女神「……いえ。それより……どうやって、この世界に参られたのですか?」
勇者「……魔王が、俺をこの世界へ導いてくれたんだ」
堕女神「魔王、が……?」
勇者「…………俺は、魔王を倒したら死のうと思っていた」
いきなりの告白に堕女神の肩が揺れ、緩みかけた表情が凍りついた。
それでも、黙って次の言葉を待つ。
勇者「……魔王を倒せてしまう男を、俺の国は放っておくはずがない。政略に組み込まれて、隣国との戦争に放り込まれる所だったんだ」
堕女神「そんな……」
勇者「だが、俺は……救った世界の人々に、剣を向けたくなかった。……だから、魔王と相討ちになってもいいと思ってたんだ」


322 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:38:53.18 ID:DU8XxeDfo
勇者「……ところが、魔王は俺を救ってくれた」
勇者「……『淫魔の国』の、王の座へと導いてくれたんだ」
堕女神「……魔王とは、何者なのですか? 何故、そのような事まで……」
勇者「もう分からない。……だが、魔王は……最後まで、『魔王』だった」
堕女神「…………」
勇者「その他の事は何もかもが俺の理解を超えていて、手が届かない。……ともかく、これが……俺の話さ」
締め括るように、グラスに残った酒を飲み干す。
溜めを作ってから長く息を吐き出すと、弾ける炭酸か、あるいはすべてを吐き出した事からか、
胸の中に溜まっていた重りが全て抜け落ちたような思いがした。
勇者「……さて、何か訊きたい事はあるかな」
堕女神「………それでは、一つだけ」
勇者「うん」
堕女神「……私にお訊ねになられましたが、陛下は……人間を、今でも愛しておられますか?」
勇者「……そうだな」
顔を上げ、天蓋を見つめる。
僅かな燭台の光に照らされた顔は、晴れ渡っていた。
勇者「……愛しているかは分からないけど……俺は、信じている」
勇者「どんなに愚かでも、どれだけ迷っても。人間は……必ず変わる事ができる。そう信じたい」

323 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:39:23.07 ID:DU8XxeDfo
雷雨は、すでに止んでいた。
気付けば窓を叩く雨の音も、彼方に響く雷鳴も、聞こえない。
嘘のように澄み渡った夜の静寂が取り戻されていた。
堕女神「………ありがとうございました、陛下」
勇者「…………」
堕女神「……一杯、頂いてもよろしいでしょうか」
勇者「…あぁ」
勇者は残っていたボトルを取り、未だちりちりに冷えた残りの酒をグラスへと注ぐ。
それを堕女神に渡すと、彼女はグラスを回しながら、しばし見入っているような仕草を取った。
堕女神「……では、いただきます」
一息に。
本当に一息で、グラスを満たしていた黄金の酒が魔法のように飲み込まれた。
そして、空になったボトルとグラスを盆に載せ、来た時を逆へ辿るように、扉へと向かった。
堕女神「……本日は、ありがとうございました。おやすみなさいませ、陛下」
勇者「……部屋に、戻るのか?」
堕女神「…………はい。少しだけ片付けなければならない仕事が残っておりますので」
勇者「……わかった。おやすみ」
彼女が背中を見せたまま、ドアノブに手を添え―――顔を見せずに、廊下へと消えて行った。
その姿を見送ると、勇者もまた、ベッドへ戻り―――しばらく天蓋を見つめた後、ゆっくりと目を閉じた。

324 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/24(月) 03:40:20.21 ID:DU8XxeDfo
昨日は投下できず申し訳ない
それでは、多分また明日ー

325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/24(月) 03:42:31.58 ID:luNkQlVmo
乙すぎる

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/24(月) 03:45:58.61 ID:gqxJy39AO
7日間は話さないのか
まぁ当然だが…
楽しみしてるよ

329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/24(月) 04:03:22.95 ID:vjGY3YtZo
乙です
楽しみにしてます
魔王もまた訳有りの存在だったんだろうな

330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/24(月) 04:09:13.18 ID:kxu7V2hro
堕女神は一体いくつの皿を割って来たのか

331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/24(月) 04:40:41.70 ID:rnMhTnwDo
乙です
駄目神と勇者ってどっちが強いんだろう

352 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/25(火) 13:36:55.00 ID:ZtWqhq/Mo
七日目
洗われた空が、淫魔の住まう国に朝日を導いていた。
明け方の空には、未だ月が姿を残している。
勇者は目を覚まし、自らカーテンを開き、光を室内に取り入れた。
燦々と輝く太陽が目に飛び込み、それにより、一気に目が覚める。
薄目を開けて少しずつ慣らして、窓越しに庭園を見下ろす。
使用人達が、露に濡れた庭園の掃除をしていた。
風に煽られ落ちた葉を掃き集め、乱れた植え込みを直し、小枝を拾い集めるその中には、二人のサキュバスの姿もある。
サキュバスAは植え込みを、まるで髪の寝乱れを梳き解すように丹念に直していた。
サキュバスBは散らばった小枝を拾い、蔦を編み込んで作った籠へと片端から放り込む。
しばらく庭園の様子を眺めていると、扉が叩かれた。
普段は声だけで済ませていたが、今朝は、自ら扉へ近づき、返事をする代わりに開ける。
朝を告げに来た堕女神が、驚いた様子でそこにいた。
そしてすぐに一歩引き、挨拶に続けて詫びた。
堕女神「おはようございます、陛下。朝食の準備は出来ております」
勇者「その前に……少しだけ、庭を回りたいんだが、いいかな」
堕女神「はい、かしこまりました」

353 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/25(火) 13:37:35.06 ID:ZtWqhq/Mo
勇者「ところで」
堕女神「……はい」
勇者「……昨日は、よく眠れた?」
堕女神「……ええ、すっきりと」
勇者「それは良かった。……庭を一回りしたら食堂へ行くよ。勝手を言ってすまない」
堕女神「いえ。どうぞ、ごゆっくり」
彼女が立ち去ると、勇者は着替えを始める。
クローゼットから取り出した金色の糸で縁どりされた青い絹のシャツは、空を写し取って煮詰めたように青く、存在感を放っていた。
ベルベット地のやや暗く沈んだ色合いのズボンと合わせて、最後に、履き慣れたシンプルなブーツに足を通す。
部屋を出ると、朝の澄んだ空気が、未だ城内だというのに肺腑に沁みた。
見渡せば、廊下の彼方に三人のメイド達が見えた。
山のようにシーツを抱えて、洗濯場へと運ぶ最中のようだ。
スカートの裾から伸びる尾は、絨毯につかないようにギリギリで鉤のように丸められている。
メイド達のいる方向へと歩いて行き、階段を下り、庭園へと続く扉を開けた。
その瞬間に、湿った緑の香りと、夜通しの雨で洗われた風の匂いが、爽やかに胸の中へと飛び込んできた。

354 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/25(火) 13:39:36.67 ID:ZtWqhq/Mo
すぅっと大きく息を吸い込み、ゆっくりと、深く吐く。
それだけで細胞が一気に目覚め、すっきりとした気分になった。
使用人達が働いている庭へ、踏み出す。
靴底が敷き詰められた石畳にぶつかり、やや湿った感触とともに、靴音が庭園に響いた。
彼女らの仕事を妨げないように庭を歩き続けると、何人かは主の存在に気付き、会釈をして手を休めた。
その度に勇者は軽く手を挙げ、気にせずに続けるように、と勧めた。
作業着をまとった淫魔の園丁達が、植木に鋏を入れる。
メイド達が、テラスの手すりを拭い、テーブルも同様に掃除していた。
庭を歩きたいと思ったのは、朝食までの時間つぶしと、新鮮な空気を吸いたいと思ったのと、もう一つの理由がある。
それは――――彼女らの働く姿を、間近で見たいと思ったから。
人間など遥かに及ばないはずの力と、人間とは明らかに違う姿をした彼女ら。
なのに、今この空間では、額に汗を浮かべながら、働いていた。
堕女神の語った回想を、思い出す。
そして「七日間」に聞いたサキュバスAの話をも、同時に。
堕女神によれば―――否、彼女を最初に受け入れた淫魔によれば、人間と淫魔は、根源を同じくする。
人間は、人間として神々の祝福の許に生き、その結果破滅を招き、そして再び新たな人間が生まれた。
淫魔は、生み出されてすぐに悦楽に走った結果、楽園を追放された「人間」の女だった。
奇妙な事に、人間から離れたはずの淫魔達は、人間へ限りなく近いのだ。
人間のように働き、食べ、眠り……時が来れば、人間の精を求めて人界へ降りて、子を宿す事さえある。
そこに、勇者は……言い知れぬ想いを浮かべずには、いられなかった。

355 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/25(火) 13:40:29.76 ID:ZtWqhq/Mo
サキュバスB「陛下? どうしたんですか、こんな所で」
庭園中央の噴水へと近づいたころ、サキュバスBと鉢合わせた。
背負った籠は中ほどまで小枝や葉がつまり、手にはゴミを挟んで取るための道具が握られていた。
メイドの衣装の裾は、土と草の緑が染み付き、靴にも泥が跳ねている。
勇者「いい天気だからさ。朝の散歩だよ」
サキュバスB「なるほどー。……晴れてよかったですねー」
勇者「……それにしても、精が出るな」
サキュバスB「えへへ。慣れてくると、お仕事も楽しくって」
勇者「あぁ、サマになってる。えらいな、『お手伝い』して」
サキュバスB「『お手伝い』じゃないですっ! もう!」
勇者「それはそうと……雷、凄かったな」
サキュバスB「……そ、そうですね」
勇者「……いや、もうやめる」
サキュバスB「え?」
勇者「からかってると楽しくてキリが無いから」

356 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/25(火) 13:41:06.61 ID:ZtWqhq/Mo
サキュバスB「か、からかってたんですか?」
勇者「つい」
サキュバスB「……遊びだったんですね!」
勇者「いや、変な言い方しないでくれるかな」
サキュバスB「あ、そうだ……陛下。噴水の所のお花、咲いてましたよ」
勇者「咲いたのか」
サキュバスB「はい。ぜひご覧になってください。綺麗ですよー」
勇者「うん、ありがとう、行ってみる。それじゃ、頑張ってお手伝いしろよ」
サキュバスB「ですから、『お手伝い』じゃないですってばっ!」
ぷりぷりと怒りながら仕事に戻る彼女とすれ違い、その後ろ姿を見送った。
背負った籠の重みでよたよたと歩く小さな姿は可愛らしく丸まり、見ていて落ち着かない所もある。
彼女には、無意識に嗜虐を煽るような節がある。
それと同時に、庇護欲をそそるような幼さも、同時に掻き立てる。
そういった性質もまた、淫魔としては天性に属するのだろうと考えていると、噴水に辿り着いた。
――――満開の白い花が、勇者を出迎えた。

357 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/25(火) 13:41:32.53 ID:ZtWqhq/Mo
噴水を取り囲んでいた蕾は、その全てが咲き誇っていた。
いや、もはや花畑の中心に噴水がある、と言った方がよいだろう。
その花には、見覚えがあった。
かつて勇者である前に村に広がっていた、花畑と同じものだった。
花弁の色も形も違わない。
茎も葉も、違わない。
寸分違わず、人間界で見たものと――――同じ、だった。
奇妙な感覚だった。
建国から数十万年経つ、魔界の中の「淫魔の国」に。
少年の頃の記憶に残る、小さな農村に咲き誇っていた花が咲いていた。
あの七日間で、何故気付かなかったのだろう。
故郷に咲いていた花が、ここにも咲いている事に。
しばらく目を奪われていると、背後から、一人のメイドに声をかけられた。
朝食の準備が済んだらしく、大食堂へと呼んでいた。
名残惜しくもあるが、懐かしい白い花から目を離し、城内へと戻る。
この世界と昔日の記憶を結ぶ花は、運命じみた偶然、あるいは偶然に化けた運命か。
その真実は―――誰にも、分からない。

358 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/25(火) 13:42:09.49 ID:ZtWqhq/Mo
朝食の支度を終えて、彼女は大食堂で勇者を待つ。
大テーブルの最上の座に、一筋の皺もない、真っ白いナプキンが彼の席を示していた。
その傍らに、落ち着かない様子で彼女は立っていた。
心までも映し込みそうなほどに磨き抜かれた銀食器の配置に、何度も手を入れる。
真っ直ぐに並んでいる食器が、傾いているような錯覚を覚えて―――何度も、何度も。
そわそわとした仕草を続けているうちに、ようやく、その座につくべき男が姿を見せる。
彼は扉を開け、まっすぐに、自らの席へと向かってきた。
彼女が椅子を引けば、勇者はゆっくりと深く腰掛ける。
すぐに朝食が運ばれ、いつものように、パンを一口齧ってから食べ始める。
堕女神は、傍らに立ち、じっと、眺めていた。
ただ飢えを満たすためだけにではなく、一口一口を噛み締める食べ方は、見ていても心地よかったのだ。
スープを掬う仕草も、パンを千切る仕草も、魚の切り身を口に運ぶ仕草も。
先代の女王ほど洗練されてはいなくとも、気品では負けていない。
彼が食べ終え、少し間を置いてから、目の前で白磁のカップに茶を注ぐ。
レモンをくぐらせてある紅茶は、その香りを更に際立たせる。
飲み終え、今日の予定について二言三言交わして、いつものように、彼は食堂を後にする。
――――いつもの事が、今日は、ことさらに……何故か、寂しくも感じた。


359 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/25(火) 13:43:22.80 ID:ZtWqhq/Mo
朝食後、書庫で、勇者は調べ物をしながら堕女神による報告を聞いていた。
堕女神「―――国境付近で使節団と別れたとの事です。無事に、彼女らは我が国の領内を抜けました」
勇者「よかった。また何かあったら、それこそ……」
堕女神「…面目が、立ちませんね」
勇者「いや。……顔向けできないと思った」
堕女神「?」
勇者「この国とあっちの国、二人の先代女王にさ」
堕女神「…………」
勇者「他に何か変わった事は?」
堕女神「陛下の支持率が急上昇しました。……城下の花屋から、立派な『花』が献上品として届きましたよ」
勇者「……参考までに聞いておくけど、どんな?」
堕女神「……全高およそ4m、蔓の長さは10mまで自在に伸び、『何でも溶かすかもしれない液』を生成でき、主食は虫と小型の動物」
勇者「どう考えてもモンスターじゃないか!」
堕女神「そうおっしゃると思いまして、気持ちだけ受け取っておきました」
勇者「ありがとう。本っ当にありがとう。……と、済まないが……ちょっと外すよ」

360 : ◆1UOAiS.xYWtC :2012/12/25(火) 13:44:05.04 ID:ZtWqhq/Mo
勇者が用足しに出てから、彼女はその間にもと手元の数十枚の紙束に目を落とす。
各砦からの定期報告、領内各地で起こった事件など、様々な事柄が書き連ねられていた。
普段は朝の十数分で全て目を通し、理解できていたはずの事が――――頭に、入らない。
100年間の積み重ねが、たった六日の「思い出」に重ね塗られてしまっていた。
城下で起こった事件の報告を見ても、憂慮など生まれなかった。
彼と共に城下町を歩いた記憶ばかりが思い出される。
書店で飲んだ、あの苦い飲み物の事、鍛冶屋を営む四本腕の女魔族と勇者が、笑いながら雑談を交わしていた事、
市場を回っていると燻製の試食を勧められた事。
隣国の衛兵の助けに応じて、共に駆け、隣国の淫魔達を助け出した事。
――――城門の前へ戻ると、開門を命じた門番の声が浮き立ち、その目が輝いていた事。
――――城門をくぐり、隣女王を載せた馬車が城下町へと戻ると。
――――まるで祝祭の花火のように、城下に住まう淫魔達が歓声を挙げ、凱旋する"王"を迎えた事。
つくった料理を美味そうに食べる、彼の笑顔。
最初の二日、自分はその笑顔を知らずにいた事。
「人間」とどう接すれば良いのか分からずにいて、冷たくしてしまった良心の呵責。
神位を失った彼女の話を聞き、彼自身もまた、悲劇に終わりかけた半生を語り聞かせてくれた事。
心は、とうに奪われていた。
昨夜に、仕事など残ってはいなかった。
ただ、怯えた。
――――自分などが、彼と同じ夜を過ごして良いものなのか。

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