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魔女「果ても無き世界の果てならば」

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Part8
448 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:02:38 ID:TsjRKeIE
 よし、気づいていないな。
 視界は既にほぼ無いに等しい。
 僕の狙いは一つ。
 頭上だ――。
少女「ん?」
魔法使い「~~~」
 水蒸気を頭上で凍らせて、ただ落とすだけ。
 魔力は凍らせた時点で解く。
魔法使い「林檎が木から落ちるのは魔法ではないからね」
少女「……やるね」
 氷の塊が少女の上に落ちた。

449 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:03:16 ID:TsjRKeIE
魔法使い「これぐらいじゃ、ダメかな」
少女「危うく本の栞になるところだったよ」
 彼女は間一髪の所で氷塊を避けていた。
 どうも思考の端に引っかかる違和感。
 ものは試し、だね。
魔法使い「~」
 地面に向け爆発の魔法を放つ。
 爆発の際に大小様々な土塊などが飛び散る。 それを避ける少女。
 違和感は徐々に膨らんでゆく。

450 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:03:49 ID:TsjRKeIE
少女「一体君は何が狙いなんだい? 私を砂だらけにした所でどうしようもないだろう」
魔法使い「~」
 次は土塊を地面から創造して攻撃する。
少女「だから無駄だと言ってる」
 魔法は、少女の前でただの土に戻される。
 ――違和感は確信に変わっていく。
魔法使い「君、魔法が使えないんじゃないか?」
少女「……ふふん」

451 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:04:48 ID:TsjRKeIE
少女「根拠は?」
魔法使い「君自身は、一度も魔法を使ってない」
 魔力を介した攻撃はすべて無効化する癖に、視界を塞がれても魔法を使わずに対応していた。
 更に言えば、だ。
魔法使い「君自体の魔力に干渉された時、酷く弱々しかった。 下級魔法が発動する程の量すらないほどに」
少女「なる程、流石だね。 確かに私自身の魔力量は今や、一般人の三分の一も無いだろう」
 少女が笑う。 満たされているように。
魔法使い「なぜ?」
少女「愛故に、かな? 場所を移そうか」

452 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:05:27 ID:TsjRKeIE
 少女の私室に通される。
 品の良い調度品に囲まれた私室はどうにも居心地が悪い。
少女「僧侶、君も勇者が好きなんだね?」
僧侶「……はい」
少女「即答しないんだね」
 暫くの沈黙。 
少女「私は彼の事を愛している」
 沈黙を破ったのは少女だった。


453 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:06:09 ID:TsjRKeIE
 少女「あぁ、こんな気持ちは初めてだ。 もしかしたら昔々彼と私の魂は一つだったのかもしれない」
 胸に手を当てて微笑む少女。 こんな顔も出来るんだ。
 優しく笑みを浮かべたその表情は幸せそうに満たされているようでもあり、それでいて切なそうでもある。
少女「彼がいない私は不完全だとさえ思う」
 恋愛経験のない僕でも解る。
 少女のこの表情は人を本当に愛している時の顔だ。

454 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/02(火) 00:06:53 ID:TsjRKeIE
少女「こんなにも、こんなにも勇者が愛おしい。 細胞の一つ一つが、私が私である為に必要な全てが、彼を愛おしいと叫んでいる」
 少女の声は最初、淡々としていたものだったが、徐々に感情の籠もった震え声に変わる。
少女「彼と居ると春の優しい木漏れ日に包まれるようであり、彼の一挙一動は真夏の太陽のように私の心を焦がす。 彼と一時でも離れれば、秋の夕暮れのような寂しさでどうにかなりそうになり、真冬の雪のようにしんしんと想いだけが積もっていく」
少女「勇者は、私にとって世界と同義なんだ」
 少女の独白のようなものが終わると、また私室は静寂に包まれた。
魔法使い「それと、君の魔力が少ない理由が繋がらないんだけど」
僧侶「私には分かりました。 勇者の呪い、ですね」
 僧侶が俯きながら話す。
少女「聖職者にはわかってしまうんだね。 その通りだ」

462 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:11:23 ID:8vKuy7T6
僧侶「高次元の呪いの解呪にはそれ相応の代償を払わなくてはなりません。 世界を灼き尽くす程の怨恨を込めた魔王からの呪い。 解呪に払う代償は筆舌にし難いものでありましょう」
 僧侶は肩を震わせながら言った。
 燭台の火が微かに揺らめいて小さな音を立てる。
僧侶「ただ、そんな呪いですら解呪できた貴女が羨ましくて仕方がないのです」
魔法使い「……」
少女「解呪、か。 出来たら良かったんだけどね」
 少女はじっと自分の手のひらを見つめる。
少女「僕の持てる全てを捧げても彼の呪いを緩和する程度が精一杯だったよ」
 少女は、自嘲気味に笑みを浮かべたまま遠くを見つめた。

463 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:12:26 ID:8vKuy7T6
僧侶「……」
 重苦しい空気の中、夜の色が深みを増していく。
 息苦しさを覚える程の無音が、どれほど続いただろうか。
僧侶「私は、神に仕える身です。 信仰を生涯の伴侶とする事に何の迷いもありませんでした」
 僧侶が口を開く。
僧侶「戦う術は持たずとも、この世界を救う為の力となれるのであれば喜んでこの身を捧げる覚悟で勇者の旅の供となったのです」
魔法使い「僧侶?」
僧侶「今でもその気持ちは変わりません――でも」

464 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:13:16 ID:8vKuy7T6
僧侶「夢みてしまったのです。魔王を倒したその先、平和となった世界で私と共に在ってくれないか、と」
 僧侶はそこまで言うと部屋から出て行ってしまった。
 早朝。
 僧侶の姿は無かった。
魔法使い「勇者、心当たりは?」
勇者「俺だって知りたいさ」
戦士「探しに行かなくてはな、勇者」
 戦士の目は厳しさと優しさが同居している不思議な眼差しだった。
 父親みたいだ。

465 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:13:47 ID:8vKuy7T6
少女「私……か…」
 珍しくうなだれるような態度の少女。
魔法使い「その通りだね」
 励ましたりはしないけど。
魔法使い「ただ、事実をねじ曲げてまで相手を気遣った所で蟠りが無くなる訳じゃないし」
少女「……」
魔法使い「僧侶は僕にとっては、たいせ……あー、アレだ、一応仲間だしね。 この機会で何とかするのはちょうど良いんじゃないかな」
少女「すまないな」
魔法使い「気にしなくて良いさ、ほんのお礼だ」
 少女だって悪い奴じゃあない訳だし。

466 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:14:54 ID:8vKuy7T6
魔法使い「~~」
 指先に魔力の塊を作り上げると、勇者の後頭部目掛けて飛ばす。
勇者「ぬぁっ!?」
 顔面から転ぶ勇者。
 は、この鈍感。 お前がハッキリしてりゃ、こうならなかったんだ。
勇者「なにするんだよ!?」
魔法使い「手が滑った」
 勇者は割と怒っている。
 怒りたいのはこっちだ。

467 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:17:02 ID:8vKuy7T6
戦士「む」
 戦士が勇者の後ろで高く右手を振り上げた。
勇者「んな訳あるっ、ん痛ってぇ」
 鈍い音が響く。
 振りかぶられた戦士の拳が、勇者のボリュームのある勇者の蒼髪に包まれた頭に振り下ろされた。
勇者「っ~~!? いきなり拳骨するとかどーいうつもりだよ!?」
戦士「それくらいで済んだと思ってるとこの後辛いぞ?」
 この戦士はどこまで気づいているんだろうか?
 相変わらず良く分かんない奴だ。

468 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/09(火) 23:17:49 ID:8vKuy7T6
少女「……マズいな」
勇者「?」
魔法使い「なにが?」
戦士「確かにまずいかもな、急いで僧侶を捜すぞ」
勇者「どーいうことだ!?」
少女「私の結界内に、なんだか良くないものが紛れ込んだみたいだ」
 次から次って、あーもう!
 僧侶の所の神様が僧侶を泣かせたから怒ってるんじゃないか?

475 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/13(土) 00:20:13 ID:ukNA6732
―――――――――――――――――――――――――
少年「なんだか大変そうだね」
 好きな人が居るって幸せな事だとばかり思ってたんですが。
 安楽椅子に揺られている魔女を見てそんな事を考えます。
魔女「あぁ、少しばかり大変だったね。 古今東西、色恋沙汰は苦労するのが世の常だ」
 魔女にもそんな時があったんでしょうか?

476 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/13(土) 00:22:09 ID:ukNA6732
少年「好きな人に好きだと伝えるのってそんなに大変かなぁ?」
 魔女は前髪を指でいじりながら少し考え込んでいます。
 やっぱり魔女が何かを考えている姿は様になりますね。
魔女「好き、の種類によるんじゃあないかな?」
少年「僕は魔女が好きだよ?」
 えぇ、僕にとって魔女イコール世界の全てと言っても過言でないくらいに。
魔女「……っ」
 なにやら魔女が今度は山高帽子を深く被り直していました。
 いったいどーしたんでしょうね?

477 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/13(土) 00:22:22 ID:ukNA6732
魔女「人の好意は受け取る方も大変だね。 直球なら尚更だ」
 魔女は寂しそうに笑いました。
 濃い蜂蜜色をした癖っ毛が、塔の窓から差し込む西日に照らされて優しい色をしています。
魔女「相手の事を想えばこそ、伝えないという形にもなるんだろうね。 今ならば分かるよ」
 僕には分かりません。
 人間って難しいですね。 僕も、難しいんですかね?
魔女「難しいさ、普通よりよっぽどね」
 人の心の声に応答しないでよね、恥ずかしいじゃないか。
少年「それより、その後は?」
魔女「そう急かさないでくれないかな?」
だって、気になるし。

498 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/23(火) 20:08:10 ID:qoY72bTQ
――――――――――――――――――――――――
少女「私の結界に進入するなんて普通の魔物じゃ考えられないね」
 少女の表情は険しい。
魔法使い「君は魔法を仕えないんじゃないの?」
少女「儀式系の大掛かりな物は、一度発動させておけば維持するのには対して魔力は使わないからね」
 ただ、と少女が言葉を続けた。
少女「ただの人間では魔力の操作が難しいから出来ないだけさ」
 試しに、と術式と理論を聞いてみて後悔する。
 こんなもの常にしていたら、他に何もできやしない。

499 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/23(火) 20:09:16 ID:qoY72bTQ
魔法使い「やっぱり規格外だね」
少女「何事も慣れ、さ」
 こんなものに順応するにはやっぱり人間辞めなきゃ無理だろう。
戦士「さて、手分けして現状解決を図るか」
魔法使い「戦力を考えれば、少女以外で魔物の討伐に向かうのが良策かと思うんだけど」
少女「魔物を関知できる私と戦士で討伐、勇者は僧侶の探索、魔法使いは勇者の補助だ」
 ……。

500 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/23(火) 20:09:33 ID:qoY72bTQ
魔法使い「いいのかい?」
少女「さぁね、後で後悔するかもしれない」
 少女は既に歩き出していた戦士を小走りで追いかける。
 そして、ある程度進んだところで振り返り言葉を付け足す。
少女「今後悔したままだと夜もおちおち寝れやしないからね」
魔法使い「なかなか男前だね」
少女「こんな美少女に使う言葉じゃあないな。 そっちは頼んだよ」
 さて、鈍感な勇者を連れて迷える仔羊を保護しに行こうかね。


501 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/23(火) 20:11:12 ID:qoY72bTQ
 鬱蒼と茂る木々の中を勇者と歩く。
勇者「……僧侶」
 勇者は険しい顔をして道を切り開く。
 いくら鈍感な彼でも気づいたのだろうか?
勇者「なぁ、魔法使い」
魔法使い「ん?」
 勇者は真剣な顔をして僕に問いを投げかけてきた。
 彼は言った。
勇者「僧侶が何故居なくなったか、心当たりはないか? ほら、お前がその、胸を強く叩きすぎ……」
 僕は手に持っている杖を思い切り振り抜いた。

502 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/23(火) 20:12:05 ID:qoY72bTQ
 手加減は一切無しだ。
 霊樹を切り出した大杖は勇者の側頭部を的確に捉えると小気味良い音を立てた。
 空っぽの頭だからね。 良い音が鳴るはずだ。
魔法使い「殴った理由は僕の口からは説明しないよ? 僧侶を見つけたら僧侶にでも聞けば良い」
 このうすらトンカチのとーへんぼくめ。

503 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/23(火) 20:12:56 ID:qoY72bTQ
勇者「理由か……むぅ、わからん、けど」
 勇者は頭をさすりながら立ち上がる。
 おかしな事を言ったら、今度は魔力を込めた一撃をお見舞いしてやる。
勇者「僧侶は頭の良い奴だし、性格だって聖女さんみたいに優しい奴だ、たぶん俺が悪いんだろうから、謝らにゃならんよな」
 分かってるんだか分かってないんだか。

504 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/23(火) 20:13:46 ID:qoY72bTQ
 僧侶の魂の波長を探る。
 そう遠くないところに居るみたいだ。
 ぼんやりと方角まで感知できる。 
 ただ、急いだ方がよいかもしれない。
 進む先には、確かに感じ取れる程の障気が渦巻いていた。
 歩みを進める毎に肌に粘着質の不快な感覚が纏わりつく。
 感知能力があがったからこその弊害だ。
勇者「僧侶ー!!」
 その点、前を歩くこの朴念仁はそんな物を気にも止めていないようだ。
 元気に森林伐採を行いながら道を突き進んでいる。
 こんな所まで鈍感らしい。

505 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/23(火) 20:14:49 ID:qoY72bTQ
魔法使い「近いね」
 このペースで行けば、そうかからないうちに、僧侶を見つけることができるだろう。
 障気の発生源も近い所を鑑みれば、先に戦士と少女が僧侶を見つけているかもしれない。
 そんな事を考えているうちに森の開けた場所にでた。

506 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/23(火) 20:15:33 ID:qoY72bTQ
勇者「僧……侶?」
 あぁ、なんて事だ。
勇者「大丈夫なのか!?」
 駆け寄る勇者。
僧侶「来ちゃ、駄目…で…す」
 涙を流している僧侶。
 駄目だ――。
 そう叫ぼうとした時には既に、鮮血が舞っていた。
 目の前の光景を信じたくはなかった。
 目を伏せその場でしゃがみこみ、悪い夢であると言い聞かせたい程に。

513 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/26(金) 13:19:53 ID:TQdsyaNI
戦士「遅かった……か」
勇者「戦……士?」
魔法使い「あ……あぁ、なんで」
 僧侶と勇者の間に戦士が立ちふさがっている。
 再開を邪魔している無粋な行為。 なら良かったのに。
 彼の鍛え上げられた頑強な岩山のような肉体には、今にも折れてしまいそうなか細い指先が突き刺さっている。
 目を疑った。
 いっそ僕の二つの瞳が壊れてしまっていたならば。
 そう思って、何度瞳を懲らそうとも、映し出す光景は変わらない。

514 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/04/26(金) 13:21:36 ID:TQdsyaNI
 あの僧侶が、戦士の腹部に手刀を突き立てている光景。
戦士「ぐはっ!!」
 戦士の巨体が宙を舞う。
 僧侶はまるで、幼子が戯れにぬいぐるみを放るように、無造作に戦士を投げ捨てた。
魔法使い「あぁ……うぁ」
 嗚咽にも近い、言葉にならない悲鳴が吐息と共に漏れる。
 嫌だよ……。 こんなの見たくないよぉ……。
僧侶「うぁぁあああぁぁぁあああッッ!!」
 僧侶が金切り声をあげる。
 悲しみや怒りが入り交じった慟哭。
 耳を塞ぎたい。  聞きたくない。
 僧侶のこんな声は嫌だ。
 痛いよ、心が張り裂けそうだよ。

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